人々の暮らしをより良いものにするために変革を続けるHP。強い循環型経済を構築する(サステナブルインパクト)ため、環境や人材を保護する活動や、テクノロジーを活用した質の高い学習機会を世界中で提供している。
今回取材した、日本HPがサポートするテクノロジーのテーマは、AI・人工知能。囲碁や自動運転など、数年前から学術界にとどまらず、現在ではすでに社会実装の段階に入り多くの企業が導入を検討することが多くなってきたAI。とりわけディープラーニングは、来るべき日本の人口減少時代に向けて大きな期待が寄せられている。
そんな、人工知能とディープラーニングの仕組みを知り、社会に及ぼす影響を考察するワークショップ型特別授業が、東京都豊島区にある立教池袋中学校・高等学校の数理研究部において行われた。来るべき、AIと人が共生する未来を創造する中学生・高校生たちは、何を学び得るのだろうか。
講師の惣道哲也氏は、日本ヒューレット・パッカード株式会社テクノロジーアーキテクト部長。ビッグデータやディープラーニングなど、先端系技術の調査検証を行なっている。
「人工知能とディープラーニング講座」と題された今回の特別授業を手がけたのは、小学生から大学院生までを対象としたコンピュータープログラミングの教育支援を行うNPO法人スーパーサイエンスキッズ。本ワークショップはこれまで、国際基督教大学高等学校(ICUHS)、大妻中学高等学校、東京都立科学技術高等学校、灘高等学校などでも開催されたものだ。
数理研究部は、数学やコンピュータープログラミング、そして社会科学などさまざまな分野の研究を行なう部活動。これまで数々のコンテストで賞を獲得しており、最近も学生対抗バーチャルリアリティコンテストで受賞している。生徒たちは、それぞれPCを持ち寄り、リラックスした表情で講義に臨んだ。
2015年に人間のプロ棋士に勝ったAlphaGoから、さらに進化したAlphaZeroが2018年に登場。チェスや囲碁といったゲームのみならず、実世界の問題を解決するシステムを目指している。
講師の惣道哲也氏はまず、Google傘下のDeepMind社のコンピューター囲碁プログラム「AlphaGo」シリーズを例に、人工知能の進化について話した。
AlphaGoは、人間のプロ棋士と対戦し勝利したことで有名だが、後継バージョンのAlphaGo Zeroでは、それまで活用していた、囲碁の棋譜や定石データを使わない。囲碁のルールだけをもって自己対戦することで強化され、過去のAlphaGOバージョンとの対戦で圧勝するまでになったという。
さらに次のバージョンのAlphaZeroでは、囲碁だけでなく将棋やチェスなども学習し、それぞれトップレベルの他のプログラムに勝利している。
続いて惣道氏は、美容院やレストランの予約を電話で行う音声AI「Google Duplex」や、株式会社 テクノスピーチと名古屋大学が開発した歌声合成技術、NVIDIAの研究グループが発表した、実在しない人物写真の自動生成AIを紹介。
ゲームだけではなく、音声や画像、映像を扱うAIが続々登場していることで、今後数年で社会に与える影響は大きくなるだろうとした。
2018年のGoogle I/Oにてプレゼンされた、美容院やレストランの予約を電話で行うAI「Google Duplex」のデモンストレーション
2017年にNVIDIAの研究グループが発表した、AIアルゴリズム「GANs」を用いた画像の自動生成。実在するセレブっぽい雰囲気の人物写真を作るデモンストレーション
最近の事例をいくつか紹介したあとは、人工知能研究の歴史についての解説。1950~60年代の第一次ブーム、1980年代の第二次ブームを経て、
2013年~現在は第三次AIブーム、機械学習・ディープラーニングの時代にあるとした。
第一次ブームのころのAIは、迷路やパズルを解くなどの簡単なもので、実社会に影響を与えるものではなかった。
第二次ブームでは、人間がAIにルール(知識)を与え、賢くさせ、さまざまな判断ができるようになり実用化が進んだものの、膨大なルールを覚えさせる必要があるという課題が残るものとなった。
第三次AIブームの機械学習とは、膨大なデータをもとにルールを自動発掘するというアプローチ。インターネットの発展によりたくさんのデータを収集できるようになったことや、大量のデータを計算処理できるようになったコンピュータシステムの発展により生まれた新たな流れである。
不動産価格と駅からの所要時間の相関関係を例に「予測」、記事がどのカテゴリについて書かれた内容の仮説を例にした「分類」の説明がされた。
惣道氏は、機械学習について「予測すること(回帰)」「分類すること」であるとシンプルに説明。予測の例として、駅からの距離による不動産の価格の推測、分類の例では、新聞記事のテキストデータ解析による記事のカテゴリ分類を挙げた。
いずれも、サンプルデータの処理結果から傾向をとらえておいて、新しいデータについての予測や分類を、誤差の少ない範囲で導き出すという考え方である。
連立法的式では解けない問題を、より誤差の少ない組み合わせを見つける平均2乗誤差について解説
機械学習の定義を踏まえたあとは、実習。リンゴとミカンの数から重さを予測する問題が出された。「リンゴ1つとミカン3つを測ると190グラム、
リンゴ3個とミカン1個を測ると210グラム。
では、リンゴ2個とミカン4個は何グラムになるか?」という問題なら、連立方程式で解ける。
しかし、実際のリンゴやミカンは重さが不揃いで、たとえばさらに「リンゴ5個とミカン7個を測ると660グラム」の条件を加え、誤差が生じるとして、最も誤差の少ない、おおよその重さを求める問題(線形回帰問題)を提示した。
さまざまな組み合わせについてたくさん計算し、最も誤差の少ないものを見つけていく
連立法的式では解けないので、リンゴ、ミカンに仮の重さを当てはめ、提示された条件での重さとの誤差の2乗を求める計算を何パターンも行う。
リンゴ1つが10グラム、ミカンが1つ10グラム
リンゴ1つが10グラム、ミカンが1つ20グラム
……
リンゴ1つが100グラム、ミカンが1つ100グラム
といった重さをあてはめ、平均2乗誤差という方法で求め、誤差が最小になる組み合わせを見つけるというもの。惣道氏は、演習としてこの問題を生徒たちに解くよう促した。
Excelや手計算で解を求める生徒たち。最も誤差の少ない値を答えたのは中学生だった
計算に電卓を使ってもいいと説明があると、ある生徒から「Excelで計算してもいいですか?」の質問があり、許可されると、皆一斉にExcelで計算を始める。
そして、制限時間内にいちばんすぐれた解を出したのは中学2年生の田村くんだった。
最近はロボットの研究をしています。今日のAIの授業は全体的にむずかしいと思いましたが、以前ニューラルネットワークについて、ネットの動画など参照して勉強したときにわからなかったことが、今回のワークショップでしっかり理解できました。
今はロボットを研究していますので、自動運転や、特定のものだけを持ち上げて運ぶよう機能を持ったロボットを作ってみたいと思います。将来は、就職だけではなく、起業も視野に入れています。いろいろな研究をして、社会の不自由をなくすような活動をしたいです。
人間の神経細胞の構造研究から生まれたニューラルネットワーク。データから特徴見つけることをコンピューターにやらせることで、人間ではできなかった予測や分類をできるようになる
演習で機械学習のシンプルなアプローチを学んだあとは、人間の脳の神経細胞仕組みから着想を得たディープラーニングについての講義。
画像解析において、画像のピクセル単位の数値を入力値として、その画像が何の画像であるかを出力するような処理を作る場合、入力値からすぐ出力値を求めることがなかなか難しかった。
ディープラーニングは、入力値と出力値の間に、隠れ層と呼ばれる、さまざまな重みづけの計算処理(関数のようなもの)を挟んで調整することで特徴を捉え、複雑なものでも精度の高い出力値を得られるというもの。隠れ層は1つではなく、複数あったほうがより精度が高くなるという。
画像を見てそれが何かを判断する際、人間が間違える率は約5%、ディープラーニング以前の手法のコンユーター処理では25%程度とされていた。
産業ロボットにも利用され、自動運転においても必須といわれているディープラーニング
スタンフォード大学の研究者によって開発された画像データベース
ImageNet を使った画像解析コンテストでは、2012年に、隠し層5層のディープラーニング処理で16%と飛躍的な向上を見せた。2014年にはGoogleがこれを発展させ22層の処理にしたところ、6%程度と人間の判断に近づいた。さらに翌年の2015年にはMicrosoft Researchが開発したResNetというシステムが152層の処理で3%と、場合によっては人間の判断を超えた数値をマークした。
ディープラーニングによる画像認識はすでに、キュウリの出荷前のランク別仕分けや、クリニーニング店での商品分類、医療の現場でのレントゲン写真の解析、工場のロボットが行う処理などへ実用化がすすんでいる。
今後普及が期待される車の自動運転もリアルタイムな映像処理のためディープラーニングが必須とされていると惣道氏は話した。
TensorFlow Playgroundでは、いくつかの複雑なデータセットについてニューラルネットワークを手軽に構成して、分類する体験ができるようになっている。
ディープラーニングについて理解を深めたところで、次はニューラルネットワークの仕組みをWebブラザで体験できる「TensorFlow Playground」のハンズオン。
用意されたサンプルデータ群を、複数の隠れ層を自分で組み合わせたニューラルネットワークによって分類するというもの。データ群はオレンジ色と青色で示されており、分類の様子はリアルタイムに色で示される。
実習では、同じデータセットに対して、各人が分類後の誤差の少なさを競った。もし誤差が0になった者が複数いた場合は、学習回数が少ないほうがよりよいネットワークというルール。
的確なネットワークをデザインするのはなかなか難しい様子だったが、操作自体は簡単なので何度も試せる。数分試した結果、誤差がより少ない(13%~15%程度)ネットワークをデザインできた2名が優勝した。
先日、体の動きをとるキネクトというセンサーを使ったブロックくずしゲームを作りました。今まで、AIの詳しい仕組みは知りませんでしたが、今日のワークショップで理解を深められてよかったです。
教育分野のお話がありましたので、僕は個別の教育の可能性について考えました。実は同級生で、学習方法が合わずに学校を辞めた人がいたのですが、もし個人にあわせた教育の提供ができるなら、そういった理由で辞めるようなことは防げると考えました。AIのおかげで人が幸せになる、そんな仕事をやってみたいと思っています。
GoogleColaboratoryにて、手書きの文字を認識するプログラムを解説。コードの内容を説明
ニューラルネットワークの振る舞いをイメージできたあとは、Webブラウザで機械学習のプログラムコードを書いて実行できる
「GoogleColaboratory」を使い、実際に動作する画像認識プログラムの解説。
ニューラルネットワーク学習ではよく知られている「MNIST」という手書き数字画像約6万枚によるデータセットを使う。
書きの文字が書かれた画像を縦28*横28=784の領域にわけ各領域の濃淡をスキャンした結果を、何度も解析して学習データを蓄積し、入力された画像にどの数字が書かれているかを認識して判別するもの。
今回のサンプルプログラムの言語はPython。時間の関係で生徒がコードを書くことはなかったが、これまで学んだ隠れ層や、学習回数の指定など、コード上の解説が行われた。
また惣道氏は、すでに研究された学習データを使って解析することもできるとし、前述のImageNet 2015で首位になったMicrosoftのResNetを呼び出して解析するコードも動作させた。
数理研究部は、1971年、ユークリッド原論を読むことから始まりました。その後、70年代後半からマイコン、80年代は物理や天体の研究、90年代に近くなるとコンピュータープログラミングを行うようになりました。
MacでのHyperCard、AdobeのFlash、そして現在はUnityと、ゲームを研究して作る生徒が多いですね。そして、VRについては5年以上研究して作品を作り、さまざまな賞をいただいています。
私自身は研究テーマについて指図はしません。あくまでも生徒の研究の筋道をつくるサポートをしているだけです。コンテストなどは、もうずいぶん前から、生徒達が自主的に探してきて応募したり、論文を発表したりというのをやってきました。その結果、NVIDIAさんやUnity Technologiesさん、HPさんなど、多くの企業からお声がけいただき、ご支援いただいております。
VRなど、どんどんリッチな表現ができるようになってきても、根底にあるのは数学の基礎です。これはこれまでもこれからも、どの時代も変わりません。それを学んだ上で、その時代にあわせた研究を行っています。今回のAIの授業でも新たな興味を持ち、それぞれの研究に活かしてくれるでしょう。
数理研究部のサイト
https://ikebukuro.rikkyo.ac.jp/club/cultural/math_science/
人工知能の浸透で、これまでの常識だった職業がなくなるなど、大きな社会変革が予想されている
ワークショップの締めくくりは、人工知能がもたらす新しい社会についての考察。
病気の診断もAIに任せたほうがよいかもしれない。自動運転で事故がなくなれば、自動車保険がなくなる。犯罪の予測もできるかもしれない。
教育分野では個別の学習を効率よく行うことができれば塾に通う必要もなくなる。弁護士や税理士なども、AIに取って代わられる可能性がある。
医療分野、教育、法務、交通物流など、社会が大きく変わると予想されている。
惣道氏は、これから変化を迎える社会に対し、今のうちから自分が何をするべきかを考え準備してほしいと締めくくった。
今回ワークショップを行ったNPO法人スーパーサイエンスキッズは、HPの掲げるサステナブルインパクトの考えから支援している団体。「人工知能とディープラーニング講座」は、これからもさまざまな教育機関で展開していく予定としている。
編集部でもこの活動は今後も注目していきたい。
世界中の人々の暮らしをより良いものにする改革を続けているHPは、より強固な循環型経済の構築のため、テクノロジーを活用した質の高い学びの場を提供する一環として、この活動を行っている。その思想やこれまでの実績は下記のサイトにて参照できる。
サステナブルインパクトは、イノベーションや成長を推進し、将来にわたってより強固で健全な会社をつくります。
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2017 サステナルインパクトレポート
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