2022.08.31
MISとはManagement Information Systemの略称で、「経営情報システム」を指します。顧客や財務情報などさまざまなデータを分析し、企業の意思決定をサポートするシステムです。印刷会社がDXを推進する上でMISの導入は欠かせません。本稿では、印刷業界におけるMISの役割、DXの課題、印刷会社が導入するメリットについてわかりやすく解説します。
MIS(Management Information System)は「経営情報システム」を表し、「エムアイエス」または「ミス」と読みます。ここでは、MISの概要を詳しく解説します。
MISは、企業経営に関する情報を集め総合的な分析を可能にし、意思決定をサポートするための情報システムです。MISの構築形態として、企業内で構築するオンプレミス型や、インターネットを介して利用するクラウドサービス型などがあります。
MISで収集するデータは、受発注、顧客、財務、人事、工場の機械稼働情報、在庫、マーケティング、サプライチェーン情報、原材料など多岐にわたります。MISを導入すると、点在する社内データを一元管理でき、分析レポートを作成することで企業戦略の立案に活用できるのがメリットです。
出典:Why MIS is important for businesses?
経営判断に必要な情報は幅広く、クラウドサービスの発展とともに次のような専門分野のシステムが開発されました。
これらのシステムから発生する情報を統合し、ビジネスインテリジェンス(BI)として可視化。企業がデータに基づいた意思決定ができるようにデータを変換する、といったことが行われています。
印刷業界においてMISがどのように使われているか解説します。
印刷業界におけるMISとは、印刷管理に必要な業務全体を可視化するシステムです。受注、作業指示、売掛や買掛、在庫、原価など、印刷工程における部門ごとの業務情報を一元管理します。
印刷会社では紙を使った本社工場間のやり取りが多い傾向にあり、ワークフロー全体が見えづらく業務改革を行いにくいのが課題のひとつです。MISを導入すると業務全体が見渡せ、業務効率化や原価管理を実施しやすくなります。
印刷業界も価格競争が厳しく、適切な印刷価格で受注体制を構築するには原価管理や業務効率化が欠かせません。リアルタイムで原価を把握して利益を出すには、MISの導入が重要だといえるでしょう。
MISにはJDFの読み込みや分析、書き出しができる機能が搭載されています。JDFとはJob Definition Formatの略で、印刷工程で情報を共有するための作業指示書です。JDFは、プリプレス・プレス・ポストプレスの工程統合管理のための国際標準化団体「CIP4」により、印刷業界の標準フォーマットとして発行されました。
JDFはメーカーが異なるソフトウェアや機器でも利用できるのが特徴で、次のような項目が含まれます。
たとえば社内でJDFを利用する場合、営業担当者が印刷部数、ページ数、色数、判型といった受注情報をMISに入力します。MISを介して生産工程の最後までこれらの情報を共有できます。
MISとJDFは社外関係者とも利用可能です。具体的には、印刷用紙を仕入れるために、資材課の担当者が紙卸商にMISからデジタルデータを送信するだけで、発注作業が完了します。従来はFAXや電話で注文していた点を考えると、効率的なサプライチェーンマネジメントと言えるでしょう。
以上のように印刷工程でMISを使うと、ペーパーレス化が実現できるだけでなく、発注指示のミス削減にもつながります。結果的に、印刷物のロス削減に貢献するでしょう。
出典:MIS|賢者の印刷用語集
今日、データとデジタル技術を用いてビジネスモデルを変革し、新たな価値を生み出すDX(デジタルトランスフォメーション)が注目されています。国内産業の競争力強化に向け経済産業省もDXを推進しており、印刷業界も例外ではありません。デジタル化された社会に適応するために新しい付加価値を創造し、ビジネスモデルを変革していくことが求められているのです。
ここでは、業務のデジタル化から生まれる意思決定の質を向上させるために、印刷業界がどのような課題を乗り越える必要があるか解説します。
MISが導入されている印刷会社でも、全ワークフローにおいて紙伝票でのやり取りが多く見られます。その理由は、MISの入力情報だけでは現場に対して十分に指示ができないからです。
特に製造現場では、MISで伝えきれないノウハウを紙で補い、アナログな手段で連絡を取らざるを得ない状況にあります。また、印刷機や加工機がデジタル化されておらず、MISのデータを受信できないケースも少なくありません。紙伝票での連絡が発生すると重要なノウハウを社内共有できず、後に探し出すために手間や時間がかかる、というデメリットがあります。
したがって、進捗や収支を把握する管理部門ではデジタル化がある程度進んでいても、現場では紙に依存し業務のデジタル化が進んでいないのが実情です。
紙を使った発注や指示が増えると、印刷工程が見えにくく業務が属人化しやすくなります。属人化が起こると担当者しか業務内容を把握できず、管理が行き届かなくなるというデメリットがあります。
デジタル化に向けて情報をシステムに入力するよう営業担当者に依頼しても、紙媒体で運用してきた習慣を変えるのが難しく、抵抗を示す人も少なくありません。紙媒体ではマネジメント側から業務を可視化することができず、属人化をますます加速させてしまう事態となります。
上記のように紙媒体での指示や伝達が増えると、印刷プロセスを自動化できません。非効率的な作業で負担が増加し、生産性が向上しないという事態に陥ります。
自動化できないもうひとつの原因として、MISが連携できない外部システムがあるという点も挙げられます。メーカーごとの仕様が異なり、別メーカーのシステムと直接つなげられないケースも少なくないのです。
他業種と比べて、印刷業界は長期的なビジネス契約が少なく、短期的な受注が多いのが特徴です。そのため、顧客側の需要変動による影響をストレートに受けやすく、生産計画を立てにくい業種だといえます。
生産計画に見通しが立たなければ、生産性向上を目指したデジタル化のための設備投資の検討も難しくなります。この点も、印刷業界においてデジタル化が遅れている原因のひとつだといえるでしょう。
印刷業界におけるMIS導入によるメリットを3点解説します。
MISを導入すると、紙の帳票を見直す必要がなくなり印刷工程を可視化できるようになります。進捗状況だけでなく、修正や作業ミスによって生じた損版や損紙もリアルタイムで確認可能です。
従来は、印刷工程でどのくらい無駄が発生しているか把握できないケースが多くありました。しかし、MISを使って全ワークフローを可視化すれば、改善策を講じやすくなります。
さらに、MISとCRMを連携させれば営業部門が入力した顧客情報が共有され、得意先の興味やニーズ、発注履歴などを可視化できます。このように、MISを使うと内部工程だけでなく、外部の状況も把握できるという恩恵を受けられるでしょう。
情報のデジタル化が実現すれば、印刷業務の効率化につながります。たとえば、類似案件を受注した場合、過去の案件がデータ保存されていれば検索の手間が省かれるでしょう。
紙伝票で保存している場合、ファイリングや検索に時間がかかるだけでなく、保管場所も必要です。すべてのデータがデジタル化されていれば、物理的な保管スペースは必要なく、紛失リスクも紙保存と比べて低減できます。もちろん災害時に資産がなくなるということも起こりにくくなります。履歴を確認すれば正しい情報をすぐに抽出でき、業務効率化が進むでしょう。
MISと印刷機や加工機を連携できれば、印刷ジョブの自動化が実現します。印刷の製品仕様をMISに入力するだけで手順計画や日程計画まで自動生成されるようにすると、一人当たりの生産性も向上します。
自動化により業務の標準化が実現されミスが減ると、コスト削減にもつながるのがメリットです。また、現場作業の属人化も予防でき、他メンバーでも作業できるようになります。若手人材の起用などにもつながるでしょう。
印刷業界にはデジタル化が欠かせません。MIS導入は、印刷業務をデジタル化する足掛かりとなるでしょう。しかし、既存のMISではほかの機器と連携がうまくできず、課題が残るのも実情です。
そこで印刷業務のデジタル化に役立つ仕組みづくりとして、HP PrintOSの導入が効果的です。PrintOSはウェブおよびモバイルアプリを備えた印刷用オペレーティングシステムで、印刷量や稼働状況、インキ消費量や予実管理も実行できます。このような仕組みを整備し、印刷工程を可視化することが、印刷業界におけるDXの第一歩となるのです。