2020.02.15

日本HPデジタルプレス事業戦略
「成長」と「付加価値」の二軸で国内デジタル印刷事業を推進

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2020年、新型コロナウイルスが世界で猛威を振るい、前例のない脅威が世の中を一変させた。2021年の幕が明け、今なお感染拡大の大きな影響下にある1月20日、日本HPによる事業説明会がオンラインで開催された。本記事では、日本HPデジタルプレス事業本部 本部長の岡戸伸樹氏によるデジタルプレスの事業説明にクローズアップし紹介する。社会経済や企業活動に大きな変化をもたらした2020年を振り返り、印刷業界の需要の変動をどう見ているのか、そして2021年に日本HPのデジタルプレス事業はどう舵を切るのか、明らかにされた日本HPの事業方針と戦略を概説する。

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岡戸氏は、まずコロナ禍におけるデジタル印刷市場の状況について考察を示した。HPは、コロナ禍でのデジタル印刷の需要は増加傾向にあると見ている。コロナ禍でもたらされた急激な変化がデジタル印刷の需要を押し上げているとして、社会・個人・企業の3つの切り口から具体例を挙げた。

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「社会においては、安心・安全の確保のため、フェイスシールドや不織布のマスクの印刷需要が発生した」と岡戸氏はいう。実際に、コロナ禍ではHP印刷機のユーザーが医療現場で不足する防護具をいち早く製造し届けるといった取り組みを多く耳にした。「個人においては、外出自粛や在宅ワークによって増加した自分時間、そして社会的距離をとることによる孤独解消や、親族や友人とのつながりを示すため、パーソナライズされたフォトブックなどの印刷が増加傾向にある」という。長引く都道府県間の移動制限が、たとえば離れて暮らす祖父母に孫の成長を見せたい、といったニーズを増加させているのは想像にたやすい。また、「企業においては、事業の再開によるニューノーマル対応に必要な印刷物や、これまで大ロットで印刷していたものを、需要変動に都度対応して小ロット化したり、即納対応に応じたりといったデジタル印刷の需要増が見られる」と解説した。

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HP Indigoデジタル印刷機を活用した物語の主人公になれるパーソナライズ絵本。子供たちに特別な読書体験を提供する。

岡戸氏は、これらを裏付けるいくつかの具体的な数字を挙げた。HPにおける2020年のラベル&パッケージのグローバルの印刷量は前年比で2桁成長を遂げているという。また、インクジェットデジタル輪転機であるHP PageWide Web Pressの全世界での印刷量は、巣ごもり需要による書籍販売の増加なども一因となり、HPの見立てより早く5000億ページに到達、市場の成長率の約2倍で推移していると示した。クラウドベースの印刷向けオペレーティングシステムであるHP PrintOSX内に展開される「マーケットプレイス」では、HPやソリューションパートナー企業のアプリケーションを提供・販売しているが、このマーケットプレイスでの2020年のアプリケーションの売り上げは前年比で約2倍になったという。コロナ禍で経済が停滞し、印刷業界への影響も大きい中、HPが示すデジタル印刷の需要増は希望の兆しともいえるだろう。

こうした市場背景を受け、日本HPの事業戦略は「成長」と「付加価値」の2つのキーワードを軸とする。「顧客起点の印刷DX(デジタルトランスフォーメーション)を加速させ、アナログtoデジタルを推進することによる成長がまず1つ。もう1つは、環境や持続可能な社会への貢献、真贋判定などのセキュリティ対応など、新しい付加価値を印刷物に付与することによって、印刷自体の価値を向上させたい」と岡戸氏は説明する。

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では、具体的にどうやっていくのか。第一の戦略としては、成長をキーワードとした次世代新製品導入による、アナログtoデジタルの加速である。HPは、2020年コロナ禍においても同社史上最多の10製品を新たにリリースした。岡戸氏はここで、その新製品の中から特に注目度の高い3機種を紹介した。「商業印刷・フォト・出版向けのHP Indigo 15Kデジタル印刷機は、高精細1600dpi RIPを搭載し、印刷品質の向上を実現。第5世代となるHP Indigo 100Kデジタル印刷機は、従来比1.3倍の速度を実現しオフセットに匹敵するスピードを誇る。ラベル&パッケージ向け製品であるHP Indigo V12デジタル印刷機は2022年出荷予定の第6世代モデルで、従来比4倍のスピードである毎分最大120mを実現し、1600dpiのRPIを搭載。印刷品質およびスピードの両方を実現し、まさにHPのイノベーションを象徴する製品」だと岡戸氏は語る。

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「新製品の導入実績も堅調に進んでおり、アメリカのシャッターフライ社では、フォト関連商品の製造に、最新のHP Indigo100K/15Kデジタル印刷機を含むHP Indigoデジタル印刷機60台超の契約に至った。また、軟包装パッケージを手掛けるアメリカのePac社では、HP Indigo 25Kデジタル印刷機を26台導入。同社は、増加する軟包装パッケージ需要に応えるとともに、生分解性プラスチックを活用して環境負荷を低減し、印刷に新たな付加価値を与える投資をしている」という。日本でも新製品の導入が始まっており、2021年はさらなる加速を目指す。

第二の戦略は、デジタル印刷を活用したビジネスの創造である。岡戸氏はTime to Market(市場投入までの時間)を大幅に短縮してビジネスチャンスを獲得したKADOKAWAの事例を挙げた。2019年にノーベル化学賞を受賞した吉野彰さんが、化学を志す原点となった本として『ロウソクの科学(著者:ファラデー)』を紹介すると、書店に問い合わせが急増したという。「通常であれば、出荷までに10営業日ほどかかるところ、デジタル印刷機を活用して納期を1/5に短縮し、わずか2営業日で製造。累計10.8万部(2019年11月時点)の増版に成功した。需要の変動に柔軟に対応してビジネスチャンスを獲得した事例」だと紹介した。急増する需要に即座に対応できていなければ逃していた機会は多かったかもしれない。

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岡戸氏は、印刷物にセキュリティという付加価値を加えたもう一つの事例として、Amazonが提供する「Transparencyプログラム」を紹介した。「偽造品の撲滅を目的としたこの取り組みで使われるラベルは、ラベルコンバーターであるサトーとトッパンインフォメディアがHP Indigoデジタル印刷機を使用して印刷している。Transparencyラベルには1枚1枚異なる可変コードが印刷されており、Amazonが出荷時にコードをスキャンし、正規品のみが購入者に届けられる仕組みだ。消費者は、アプリでコードをスキャンすると真贋の確認ができる。昨今、コロナ禍でオンライン販売が急増しているが、バリアブル印刷によって消費者の安心とブランド保護を同時に実現し、新たな付加価値を加えている」と述べた。

第三の戦略は、社内DXによるデジタル印刷の訴求である。HPは、コロナ禍でいち早くあらゆる活動をオンラインに切り替え、安全な形で顧客との接点を強化してきた。2020年4月に、デジタル印刷機新製品発表会を日本HP初となるオンラインでライブ配信したことは記憶に新しいが、日本HPが運営するHP Tech & Device TVでは、昨年30番組ものオンラインライブ配信を行い延べ2000人以上が参加したという。HPデジタル印刷機ユーザー向けに、最新テクノロジーの活用方法を紹介する「HPカレッジ」では、14セッションに延べ600人が参加した。HPデジタル印刷機ユーザー会である「Dscoop」のイベントもオンラインで実施し、全世界で50セッションを開催、延べ4000人を超えるユーザーが登録したという。直接顔を合わせる活動ももちろん大切だが、時間や地域の制約なく多くの人に参加してもらえるという「オンラインだからこそ」のメリットもあるだろう。日本HPは、市場にデジタル印刷の情報を届けるその手法のDXを推し進め、顧客接点創出の強化を続ける。

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いま、私たちは変化の渦中にいる。新型コロナウイルスの出現は人々の生活様式を一変させ、世の中のデジタル化を促進する契機となった。DXの流れは今後も加速し、ニューノーマルに適応するための変化を私たちに迫るだろう。印刷業界は厳しい最中にあるが、HPの示しによるとデジタル印刷の需要は増えている。これを危機的状況の中の新たな機会として捉え、デジタル印刷ならではの体験価値創造につなげることはできないだろうか。2021年、「成長」と「付加価値」を柱にHPが掲げた事業戦略は、印刷業界のDXを推進し、業界のビジネス成長を支える大きな力になるだろう。最先端のデジタル印刷テクノロジーが見せてくれる新たな世界に大いに期待したい。

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