2022.05.20

HP Indigoデジタル印刷機におけるサステナビリティへの取り組み

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株式会社 日本HP デジタルプレス事業本部 ソリューションアーキテクト
柴崎 純平

 印刷業界は古くから環境問題と深い関わりがある。従来のオフセット印刷やグラビア印刷はインキに有機溶剤が多く使われ、大量の水を使い有害な廃液を排出するなど、印刷工程の様々な環境負荷が課題とされてきた。SDGsの概念が広く普及し、とりわけ今後の経済を支える若い世代は環境問題への関心が高く、環境に配慮した製造は今後の企業命運を大きく左右するだろう。デジタル印刷は、版が不要で湿し水や現像液・定着液の廃液もない。余分な損紙を出さずに、環境負荷の少ないインキで適時適量印刷ができるので、廃棄物の削減につながるなど総じて「エコな印刷」だといえる。HPは、長年にわたりサステナブルな印刷環境の実現を追求し、サプライ品やコンポーネントの再利用・リサイクルなども積極的に推進している。循環型経済に大きく貢献するHP Indigoデジタル印刷機が、喫緊の課題である環境課題をどのように解決できるのか、その可能性を明らかにする。

今、なぜ印刷のデジタル化が必要なのか?

 今、地球は気候変動や環境汚染による深刻な問題を抱えている。その影響を抑えるため、世界では2015年の「パリ協定」を起点に産業革命前からの気温上昇を2℃より充分低く抑え、1.5℃に抑える努力を追求することが合意された。人間の活動の影響で地球が温暖化していることは疑う余地がないとされ、あらゆる国や産業で取り組みが加速している。

 柴崎氏は、このような背景を踏まえ、なぜ印刷のデジタル化が必要なのかを解説した。

 「今、あらゆる側面で温室効果ガス削減を始めとする環境負荷の低減が求められています。環境省からも、『3R+Renewable』という資源循環の方針が打ち出され、できる限り資源の使用を減らし(Reduce)、再利用(Reuse)とリサイクル(Recycle)を徹底し、バイオマスプラスチックなどの再生可能資源への代替(Renewable)が提唱されています。印刷業界も例外ではなく、大きな構造転換を求められています。

 実際に、印刷の発注者であるブランドオーナーも各社がゴールを設定して、サステナブルなパッケージの開発や、リサイクル対応などを積極的に始めています。大手ナショナルブランドを中心にESG経営を無視した経営はもはやできなくなっているのです。

 環境課題がより大きいといわれる軟包装分野では、グラビア印刷の工程で排出されるVOC(揮発性有機化合物)が健康被害や大気汚染を引き起こす原因となっています。VOCを無害化するために燃焼装置を使用すれば、CO2を大量に発生してしまうという新たな課題が生じ、VOC削減に向けて様々な取り組みや法規制が進められています。これだけ環境問題への早期解決が求められる今、業界全体で環境に優しい印刷を考えなければなりません。

 2点目の理由は、人材不足と労働問題です。現在、日本は前例を見ないほどの人手不足に直面しています。印刷業界は従業員の高齢化が進む中、後継者不足、オペレーターの育成・技術継承の難しさなど、様々な場面で人手不足を実感されているはずです。

 人材不足への対策は、もちろん女性や高齢者、外国人の雇用促進もあるでしょう。しかし、最も重要なのは、人手に頼らず生産性を上げることです。IT化が進み、紙媒体の需要低下に伴い、印刷物の需要が低下したことは明白な事実ですが、ネットプリントの登場により印刷物単価のデフレ化が起こり、低単価にも関わらず、高品質な仕事が求められています。その結果、印刷業界は、労働時間が長いのに給与は低水準を強いられ、労働環境の改善が必要な状況です。先進的なデジタル印刷技術と、それに付随する前後工程におけるテクノロジーの活用によって生産性を向上できれば、印刷現場の人材不足問題の解決の一助となるでしょう。DXが進み、技術が平準化されれば、人材育成も容易になりますし、若い人たちにとっても魅力的な職場を創造することができます。印刷産業は、若い人が希望を持って働きたいと思えるような環境を作っていくことが必要だと思います。

 印刷のデジタル化が求められる3つ目の理由は、顧客の行動の変化です。SNSなどで、自分に合う商品を探し、発信する時代となり、個々の属性や好みに合わせたカスタマイズがより受け入れられ、それに合わせてマーケティング手法も変化しています。大量に生産して画一的にばら撒くのではなく、パーソナライズして差別化をはかることが求められているのです。このような環境問題、労働問題、マーケティングの変化に対して、従来の印刷環境で対応するのは難しいと考えます」

HP Indigoデジタル印刷機のサステナビリティにおける優位性

 では、印刷業界が抱える様々な問題をHP Indigoデジタル印刷機はどのように解決できるのだろうか。ハードウェアの特性はもちろん、デジタル印刷機で生産される印刷物の持続可能な優位性についても紐解いていきたい。

 「まず、ハードウェアの製造プロセスですが、HP Indigoデジタル印刷機の開発・製造拠点であるイスラエルの工場では、920kwの太陽光パネルを設置し、再生可能エネルギーを使用しています。全てのHP Indigoデジタル印刷機は、製造時の温室効果ガス排出量を数値化し、CO2を相殺するカーボンニュートラルを実行しています。また、HP Indigoデジタル印刷機は、有害な重金属などの物質を排除し、使用済みの消耗品やコンポーネントを回収して再利用・再生を行うなど、環境の持続可能性を証明するIntertek Green Leaf認証マークを取得しています。

 HP Indigoエレクトロインキで使用される液体キャリアは、パーソナルケア製品で一般的に使用されるほぼ無臭の高純度な合成イソパラフィン油を使用しており、様々な地域で食品接触材料への使用が許可されています。イメージングオイル内には少量のVOCが含まれていますが、印刷機内のリサイクルシステムで回収して再利用するため、大気中のVOC排出量をごく微量に抑えることに成功しています。また、VOC燃焼装置を使用せずに済むのでCO2を排出することもありません。

 印刷機に対して、原材料の採取、製造、使用、廃棄に至るまでの環境への影響を包括的に評価するのが、ライフサイクル評価(LCA)ですが、例えば軟包装向けの広幅ロール機であるHP Indigo 20000デジタル印刷機は、地球温暖化係数、光化学オゾンの生成、累積エネルギー需要など13項目の評価において、グラビア印刷機やフレキソ印刷機と比べて環境負荷が最も低いことを示しています」

 さらに、HP Indigoデジタル印刷機は、印刷物に対しても、リサイクル性、脱墨性、堆肥化など、多くの観点からサステナブルな印刷環境を実現しているという。特に、環境課題が多いとされる軟包装分野に着目して紹介したい。

リサイクル性

 HP Indigoデジタル印刷機で印刷したパッケージは、プライマーやインクがリサイクルを妨げないため、再生しやすいという特性がある。素材がモノマテリアル(単一素材)の軟包装、紙器、ペットボトル、ラベル、シュリンクスリーブのリサイクル性をサポートし、一定の条件に沿って作られるPEの三方シール袋やスタンドパウチなどは、ドイツの独立試験研究所「Institute cyclos-HTP」により、リサイクル適性の認定を取得している。また、HPは、欧州の軟包装業界において循環型経済を推進するCEFLEX(Circular Economy for Flexible Packaging)の最初のデジタル印刷機プロバイダーとなっている。

脱墨性

 パッケージをリサイクルする上で重要なのが、印刷物の繊維やポリマーからインキを取り除く「脱墨性」である。HP Indigoデジタル印刷機で印刷した軟包装は、コーティングも含めて完全に脱墨できることがスペインのCADEL DEINKING社による脱墨試験で証明されている。これにより、軟包装を回収、脱墨し、リサイクルペレットを生成、再度包装フィルムに成型したのち、別のパウチに再生することが可能だ。

 通常、プラスチックを再生して別の物に作り替える際、どうしても色が混ざってしまうので、透明度の高いパッケージに再生するのは難しい。しかし、HP Indigoデジタル印刷機の印刷物は、きちんとインキが抜けるため、高い透明度を保ち、内部フィルムとしても再利用ができる。

コンポスタビリティ(堆肥化)

 例えば、一般的な紙コップは、内側に防水用のプラスチックをコーティングしているためリサイクルが難しい。ところが、三菱ケミカル株式会社の生分解性樹脂であるBioPBS™ を代わりにコーティングすると、土中の微生物の力で水と二酸化炭素に分解し、堆肥化することができる。このような環境素材の特性を活かせるかどうかは、インクやプライマーに依存するという。HP IndigoエレクトロインキおよびMichelmanプライマーは、堆肥化可能性テストのEU基準に基づいて、インキ色ごとの上限値(パッケージ総重量の1%以内)、かつ全ての合計でパッケージ総重量の5%以内であれば生分解性および堆肥化を妨げないとしてTÜV AUSTRIAに認証されている。

 現在、Jリーグのガンバ大阪のスタジアムでは、HP Indigoデジタル印刷機で印刷された生分解性紙コップが使われ、回収して堆肥にする循環型経済の実証実験が行われている。生分解性プラスチックへの高品質な印刷は、フィルムの伸びによる色ずれが発生しがちなグラビア印刷機では難しく、ワンショットで転写するHP Indigoデジタル印刷機がその実力を発揮する。

 柴崎氏は、このような環境配慮の観点から、HP Indigoデジタル印刷機を活用することによって、印刷環境を向上し、サステナブルな印刷サービスの提供を支えることができると解説した。

生産性向上・自動化技術

 印刷会社やコンバーターは、印刷機をベストコンディションに保ち、常に高い品質を提供することが求められる。オーダー処理を迅速に行い、大量の印刷ジョブを処理し、ソフトウェアを最新の状態に保ち、スタッフの育成を行うなど、こなすべき課題は山積みだ。HPが提供するクラウドベースのシステムであるHP PrintOSXは、オペレーションの最適化、カラー品質管理、生産自動化など、オペレーターや生産管理者それぞれに役立つ機能を搭載し、印刷機のパフォーマンスを最大限に発揮することができるという。

 「HP PrintOSXの『Site Flow』は、ワークフローの自動化を支えるアプリケーションで、人手を介さずに小ロットのジョブを大量に処理できます。Webからオーダーが入ると、プリフライトのチェックを自動化して、ジョブの特性でグループごとにまとめてバッチ処理をするのです。たとえば、同じ原反、同じ納期、同じ色数ごとのグループにまとめ、効率的に印刷処理を行います。印刷物はバーコードで管理され、配送時には一旦バラして送り先ごとにまとめ直します。配送ラベルの生成も可能です。オーダーを受けてから配送までを自動化できるので、管理工数を最小限に保ちながら、一日に数百、数千件という大量の小ロットの印刷ジョブに対応することが可能です。あるイギリスの会社では、HP Site Flowを使用して、1日平均5800件、ピーク時には3万件ものジョブを生産することもあるそうです。

 HP PrintOSXは、若い世代が印刷業界で希望を持って働けることを目指した最先端のテクノロジーです。HP PrintOSX を介せば、海外のナレッジにもアクセスでき、世界がつながります。若い人にどんどん使いこなしてもらい、もっと業界の価値を高めてもらいたいと思います」

 また、「PrintOS OEE」は、業界標準のOEE(生産設備の稼働効率)を用い、HP Indigoデジタル印刷機の性能、稼働率、印刷品質を可視化し、生産性の向上を支援する。目標に対するジョブの進捗など、印刷機ごとの稼働状況や印刷効率を一目で判断できるという。ダウンタイムの原因をドリルダウンして分析し、生産のボトルネックを特定できる。

 故障時のダウンタイムも生産性を大きく左右する要因だ。HPは、新しい保守サービスとして、HP xRServicesを展開している。最先端の複合現実(MR)テクノロジーを駆使し、サポートエンジニアがあたかも現場にいるかのように実機を見ながらリモートでサポートする新しいサービスだ。これにより、より迅速・適切な修理を実現し、ダウンタイムの最小化を目指す。

 もうひとつ注目すべきは最新のHP Indigoデジタル印刷機が搭載する画期的なカラーマッチング技術である。

 「HP Indigoのカラーオートメーション技術『Spot Master』は、人手で行っていた色合わせの作業を自動化する画期的な機能です。数分で特色の色が合う業界最速のカラーマッチングは、革命的だと注目を集めています。色合わせは、どうしても職人技のような側面が残りますが、技術を平準化して誰でも短時間で特色の色合わせができれば生産性を大きくアップできるでしょう。

 また、HP Indigoデジタル印刷機は、印刷業界の抱える人材不足解決にも貢献します。従来の印刷機と違い、重作業も少なくPCでの操作は、製造現場における若手や女性の活用につながります。多言語対応システムや外国語のドキュメントが充実しているので、外国人実習生の受け入れなど労働力不足解消にも役立っています」

顧客課題を解決するための様々なサービス展開

 最後に柴崎氏は、HP Indigoデジタル印刷機を選択する理由として、顧客課題を解決するための様々なサービス展開を挙げた。

 「Eコマースが増えるに従い、商品点数やパーソナライズ化が増えています。消費者のパーソナライゼーションに対する欲求は飛躍的に高まっており、顧客エンゲージメントの強化にもつながります。イギリスではネスレがチョコレート菓子『キットカット』のキャンペーンを実施し、HP Indigoデジタル印刷機で好きな写真とメッセージを印刷した世界で1つのパーソナライズドパッケージを展開して話題になりました。

 HPは、シリアルナンバーやバーコードなどあらゆる可変データを生成できる『HP SmartStream Designer』を軸に、連携するデザイナーツールとして、1つのシードファイルから無限のバリアブルデザインを生成する『HP Mosaic』、基本コンポーネントからバリエーションのデータ生成をする『HP Collage』、動画から静止画を印刷データとして抽出する『HP Frames』などを提供し、目をひくユニークなデザイン作成を容易にします。

 今、小ロット・多品種への対応が求められていますが、HPは、オンライン印刷通販であるWeb to Printの軟包装版である『Web2Pack』というソリューションを展開しています。軟包装をWebで受注して、HP Site Flowと連携して生産に流す仕組みを構築しますが、HPはWeb2Packを実現するために様々なパートナーと提携しており、ご相談いただければ一連のソリューションをご提案可能です」

 高い印刷品質と業界最大のインキラインアップ、小ロット対応、そしてパーソナライズのための可変技術が組み合わさることで、HP Indigoデジタル印刷機は現代に求められる多様性に対応できるのだ。

 今、業界を越えて、気候変動という大きな課題を乗り切るための戦略が求められている。地球の自然環境を元に戻すために、私たちは便利で豊かな暮らしを捨て、経済活動を止めなければならないのだろうか?いや、違う。サステナビリティとは、長期にわたり環境や社会を持続・向上させながら、経済の成長も同時に実現することであるはずだ。サステナブルな製造は決して後退ではなく、テクノロジーの進化によって解決できる課題も多い。ビジネスの成長と地球環境保護を両立させるためには、新しいテクノロジーを取り入れ、持続可能な製造のありかたを不断に見直すことだ。アナログからデジタルへ、大量生産から多品種小ロット印刷へと変わりゆく世の中の需要を受け止め、地球にも人にもストレスのない印刷環境と生産性の向上を実現する。印刷業界に一石を投じることができると信じ、HPは前進を続けている。

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