2022.01.14

デジタル印刷テクノロジー最前線
セキュリティ印刷市場を開拓するHP Indigo Secure

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写真左)株式会社日本HP デジタルプレス事業本部 ソリューションアーキテクト 森真木
写真右)株式会社日本HP デジタルプレス事業本部 ビジネス開発部 小澤恵輔

 偽造品の流通や印刷物の不正利用による被害は拡大を続け、対策の必要性は年々高まっている。HPが2021年に発表した「HP Indigo Secure(セキュア)」は、偽造品の撲滅を目的としたセキュリティ印刷・ブランド保護印刷のソリューションだ。セキュリティ印刷を専門としない印刷事業者が、新たにセキュリティ印刷市場に参入することは可能なのだろうか?セキュリティ印刷の市場性、デジタル印刷によるメリットと想定されるビジネスモデルなど、新たな市場のビジネスチャンスを探りつつ、印刷機のみならず、インキ、用紙、ソフトウェアと多角的に高度なセキュリティ機能を提供するHP Indigo Secureソリューションの全貌を明らかにする。

セキュリティ印刷市場を知る

―― まずは、セキュリティ印刷の市場性について教えてください。

小澤:「セキュリティ印刷は、偽造品の製造や流通を防ぐため、印刷技術でコピープロテクションを施したり、ラベルやパッケージにトラック&トレースのキーを付与したりすることで、真贋判定や個体の追跡を可能にするものです。大きく分けると、「政府・機関向け」と「製品のブランド保護を目的としたブランド向け」の2つに分類できます。政府・機関向けは、紙幣やパスポートの印刷など厳格な管理体制の下で高度な偽造防止技術を施すものです。一方、ブランド保護は、化粧品、パーソナルケア、栄養補助食品、自動車や農薬など、幅広い業界を対象に偽造品を防ぐことを目的としています。

 近年ECが飛躍的に発展し、例年8%前後で推移していたEC成長率は2020年のコロナ禍で20.1%の伸びを見せました。偽造技術の高度化に伴いECサイトで偽造品を見極めるのは難しく、違法品の流通が後を絶ちません。こうした背景がセキュリティ印刷の需要を押し上げており、今後より一層ブランド保護の分野で多くの市場機会を見出せると思います。

 グローバルな視点で見ると、セキュリティ印刷の市場は約半分がアジア地域に集中しています。日本においては、他のアジア諸国に比べると法整備も厳しく、国内で流通する偽造品は比較的少ないですが、自動車のパーツや電化製品など、海外で作られて世界中で販売されるものを中心に5兆円もの模倣品被害があると言われています。輸出品はもちろん、輸入した製品が正規品であることを確認し管理したいという需要も多く、日本でもセキュリティ印刷市場の将来性は大きいと考えられます」

―― 現在市場で使われているセキュリティ印刷の技術について教えてください。

小澤:「セキュリティ印刷技術には大きく分けて3つのレベルがあります。まずは、目で見てわかるセキュリティマーク、例えばホログラムなど角度によって生じる変化で真贋判定ができるもので、これらを「オバート」と呼びます。次に、真贋判定のために簡易的な機器を使用するものを「コバート」と呼び、UVライトを照射することによって見えるインビジブルインキや、ルーペを用いて判読できるマイクロテキストなどがこれに当たります。最後に、最も高いセキュリティレベルを提供するのが、専門分析が必要な「フォレンジック」と呼ばれるものです。これは、紙幣や納税印紙など高度なセキュリティを要する一部のものに限られますが、偽造するのが非常に困難な最高レベルのセキュリティ印刷技術です。

 セキュリティ印刷は、複数の要素を組み込むことでセキュリティ性を高め、偽造そのものをより困難にします。例えば、ナンバリングなどの可変情報とQRコードやマイクロテキストを併用するといった形です。要素を1つ加えるだけでも効果がありますから、印刷で1つ安心感をプラスできると考えて頂ければと思います。

 セキュリティというと専門的で難しいイメージが先行しがちですが、製品のブランド保護は、オバートやコバート技術の組み合わせで十分対応できますし、商業印刷においても付加価値の1つとして始められます。もちろんHP Indigoデジタル印刷機は、フォレンジックを含めた3つ全てのセキュリティレベルに対応できるので、政府機関が求める高度なセキュリティ印刷も可能です」

―― セキュリティ印刷が活躍するケースとしては、どのようなものがありますか。

小澤:「セキュリティ印刷技術を使ってできることは、偽造防止および真贋判定、トラック&トレース、顧客エンゲージメントがあると思っており、それは印刷にどのような情報を持たせるかによって変わってきます。例えば、特定のチャネルでしか販売していない商品の不正流通ルートを明らかにするために、正規販売店ごとに固有のコードをインビジブルインキで印刷し、非正規のECサイトで販売されている商品から流通経路を調べて是正するという取り組みも可能です。

 食の安全性への意識が高いヨーロッパでは、商品ラベルにコードを印刷し、スーパーに陳列している食肉がどの農場で飼育され、どこに出荷され、どのような加工処理がされたのかという情報を消費者に提供することで安心を与え顧客エンゲージメントを高めています。同時に、販売責任者は必要に応じて流通経路を遡って個体の識別確認ができるのもメリットです。このように、顧客エンゲージメントやトラック&トレースで流通管理ができるという切り口を魅力に感じるブランドオーナーも多いのではないでしょうか」

―― セキュリティ印刷のサービスモデルや単価設定はどのように考えたらよいでしょうか?

小澤:「セキュリティ印刷をサービスとして提供する際、価格の考え方は2つあると思います。1つは原価から算出する方法。例えば、トラック&トレースのソフトウェアには1コード当たりの単価が設定されているものもあるので、既存の印刷に相当の単価を乗せるという方法です。

 もう1つは提供価値から算出する方法です。例えば、年間100万個の製品を販売し、5000万円の偽造品被害があったとします。全ての製品にセキュリティ印刷を施すことで、5000万円の被害がなくなると考えれば、被害想定額を製品数で割ったものをベースに単価を算出できます。被害の防止はもちろん、顧客エンゲージメントや流通管理なども提供価値としてメリットを感じてもらえると思います。

 また、高度な偽造防止までは必要ないというお客様へは、セキュリティの側面もあるプラスアルファの技術として提案することも可能です。バリアブルデザインのパッケージは販売促進の場で活用されていますが、可変デザイン自体、偽造しづらいという点でセキュリティ要素を併せ持っています。また、インビジブルインキやマイクロテキストは、隠しメッセージとしてパッケージに入れ、ルーペなどで読み取ってもらうという遊び心のあるプロモーションとしてもご提案いただけると思います」

HP Indigo Secureソリューションの全貌解説

―― まずはHP Indigo Secureを発表した背景について教えてください。

森:「今申し上げた通り、より高度な偽造防止ソリューションの需要が世界的に増えており、その課題に立ち向かうためには様々なテクノロジーがありますが、印刷技術も大きく貢献することができると考えています。HPは全社をあげてセキュリティに対する取り組みを強化しており、HP Indigoデジタル印刷においても、これまでに培ってきたテクノロジーの基盤を活かして、偽造品に対抗する新たな印刷のテクノロジーの開発に大きな投資をしています」

HP Indigo Secureソリューション:インキ
~偽造防止・真贋判定に活躍するセキュリティインキ

森:「まずはHP Indigoのセキュリティインキについてご説明します。HP Indigoデジタル印刷機向けのインビジブルイエロー/ブルー/レッドは、いずれもUVライトを当てた時にだけ表示される絵柄を印刷できるインキです。インビジブルレッドの耐光性は比較的短命なのですが、インビジブルイエローとブルーは約3年と長期間持つので、より長い期間セキュリティ性を保つ必要がある場合にはイエローとブルーがおすすめです。ライトの照射だけで簡単に真贋判定ができることはもちろん、可変情報を入れることでより偽造が難しくなるので、スポーツ観戦や観劇チケットなどの印刷などにも適しています。

 他社製のインキでは、VerifyMe社のRainbowSecure™ というIRインキ(赤外線インキ)とBsecure社のGoSureというタガントインキがあります。いずれも独自開発のセキュリティインキでHP Indigoデジタル印刷機に搭載して使用します。この2つについては、それぞれのインキを読み取るための専用の照射装置を使用するため、よりセキュリティ性が高く、偽造調査や真贋判定の担当者が使用することを想定しています。

 また、HPは新たにデジタルカラーシフトインキという、角度によって見える色が異なるインキを、HP Indigo 6Kセキュアデジタル印刷機専用に開発しています」

HP Indigo Secureソリューション:用紙
~HP Indigo認証セキュリティ用紙でひとつ上の安心を

森:「次に、HP Indigo認証紙であるRFID用紙をご紹介します。RFIDは、電波の送受信により非接触でICタグのデータを読み取る自動認識技術の一つですが、この用紙は原紙の間にアンテナを挟んでおり、用途に応じてアンテナの種類や原紙を選べます。アンテナの配置には様々なパターンがあり、仕上がりのサイズも用途に適したものを選択できます。RFID用紙は、名刺やチケット、商品タグやポストカードなど広い分野で活用されています。

 蛍光繊維が練りこまれ、UVライトを当てると繊維が浮かび上がるHP Indigo認証紙もあり、セキュリティ機能を持つ認証紙は、世界中のHP Indigoパートナーによって今後より一層増えていく予定です」

HP Indigo Secureソリューション:ソフトウェア
~高度なセキュリティデータを生成するHP SmartStream Designer

森:HP SmartStream Designerは、セキュリティ印刷に使用できるあらゆるデータを生成するためのアプリケーションで、Adobe® Illustrator®またはAdobe InDesign®のプラグインとして動作します。画像やテキスト、デザインなどをベースに高度なカスタムジョブを作成します。例えば、マイクロQRコードの生成や、コピーすると文字の細線が潰れてしまうセキュリティフォントなども用意されています。小さいパッケージやラベルにはマイクロQRコードを使用すればデザイン性を損なうこともありません。

 商品のパッケージに独自の異なるデザインが施されていれば当然偽造も難しくなります。HP Smart Streamモザイクは、1つの基本デザインをベースに何万ものユニークなデザインを自動生成できるので、デザイン性とセキュリティ性を併せ持つことが可能です。モザイク機能で複雑なギロシェと呼ばれるパターン(彩文)を利用したデザインを生成すれば、コピープロテクトとして封印ラベルや金券などに活用できます。モザイクを利用すれば、2つと同じもののない彩文を印刷できる上、1ピクセル幅の曲線で作られた複雑なカラーパターンは、線が細く隣接しているため、画像の再現が困難でコピーしても線が潰れてしまいます。

 HP Smart Streamコラージュは、より楽しいデザインを作ることができます。モザイクは1つのシードファイルを部分的に拡大、縮小、回転することで可変デザインを生成しますが、コラージュは、決められた背景に複数のオブジェクトをランダムに配置することで、デザイン性を保ちながら2つと同じもののない印刷を実現します。ショップの棚に全て違う絵柄のパッケージが並んでいれば壮観です。調査でもユニークなパッケージはお客様の足を止め、購買確率を高めることがわかっており、多くの製品の中で際立つことはプロモーションとしても有効であると同時に、可変デザインにQRコードやナンバリングを入れることで、トラック&トレースや顧客エンゲージメントにもつなげることができます。

 HP Smart Stream Designerは、HAIYAA(ハイヤー)社が提供するソフトとの連携によりセキュリティデザイン生成機能を強化できます。例えば、シート状のレンチキュラーレンズで見ることによって、文字や絵柄が浮き出る印刷物や、サンドイッチプリンティング(透明のフィルムの片面にCMYKで印刷してから白を重ね、再度CMYKで印刷することで裏表両面印刷のように見せるHP独自の印刷技術)によるオレオラベルの自動生成、ランダムに色を変えるカラフルなQRコードの生成など、様々なことができます」

HP Indigo Secureソリューション:ハードウェア
~セキュリティ印刷のためのHP Indigo 6Kセキュアデジタル印刷機

森:「最後にHP Indigo 6Kセキュアデジタル印刷機をご紹介します。狭幅のHP Indigo 6K デジタル印刷機がベースとなっており、セキュリティ印刷ソフトにおける世界的企業であるJura(ユラ)社とパートナーシップを組むことでより高度なセキュリティ印刷に対応しています。

 本機は、セキュリティ印刷事業者向けの印刷機として販売され、様々なセキュリティインキが使用できること、オペレーターも認証がないと操作ができないこと、印刷枚数も厳しく管理されることを特徴としており、厳重な管理が必要な印刷物にも適しています。

 セキュリティ印刷は、様々なテクノロジーを使って複雑な可変印刷をする為、データの処理能力が重要になりますが、それをサポートするのがHP PrintOS Production Proという高速RIP機です。さらに、Composer Serverは、HP Smart Stream Designerで作成された複雑な可変データを処理するために設計され、印刷機のスピードを落とすことなく処理できるので併せてご利用頂くとHP Indigo Secureの性能を最大限発揮できると思います」

―― HP Indigo Secureの優位性を教えてください。

森:「HP Indigoデジタル印刷機の湿式電子写真方式(LEP)は、他の印刷機では真似できない独自技術であり、オフセット印刷と遜色のない高品質な印刷が可能です。微細な細線表現により、偽造防止効果のあるセキュリティ印刷ができるので、印刷品質は重要なポイントです。

 また、セキュリティの分野では見当を重視しますが、HP Indigoデジタル印刷機は、使用する各色すべてをブランケットに蓄積し、印刷素材にワンショットで転写する技術により、極めて高精度なカラー見当合わせが可能です。他のデジタル印刷機では使用できない幅広いインキのラインアップがあるので、偽造が難しいのも魅力のひとつです。

 さらに、従来のセキュリティ印刷は、オフセットや凹版印刷をはじめ、複数の印刷機や多くの工程を必要としますが、HP Indigoデジタル印刷機は、バリアブルデータ、シリアル化、マルチレイヤーのセキュリティ機能などをワンパスで付加できるので、効率的に展開できるという優位性も持ち合わせています」

 セキュリティ印刷ビジネスは、その特性上オープンになりづらく、日本ではまだ活用が進んでいないイメージだが、先般HP Indigo Secureのウェビナーを開催したところ、その反響の大きさに驚かされたという。

 偽造品は、ブランドが築いてきたこれまでの企業努力を踏みにじることに他ならない。ブランドオーナーが得られるはずの収益は減少し、購入者に損害を与え、ブランド力の低下にもつながる。それを防ぎ、安心感を提供する第一歩がセキュリティ印刷である。ただ、ブランドオーナーへのアプローチはそれだけではない。既存の印刷サービスにプラスの価値をつけると考え、他社との差別化としてセキュリティ印刷を位置づければ、セキュリティ性を併せ持つプロモーションとしての提案もできるのだ。

 セキュリティ印刷が今後、サービスとしてどのような発展を遂げるかは未知の世界ともいえる。しかし、成熟していない市場は裏を返せば競合も少なく誰にでもチャンスがあることを意味する。それを見逃すことなく一歩踏み出せば、HPはその先のビジネスを一緒に考え共に歩む力強いパートナーとなるだろう。

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