2021.09.15

軟包装業界のDXを推進する国内パートナーソリューション
三菱ケミカル、凸版印刷、ハイブリッドソフトウェア、各社のデジタル印刷への取り組みを聞いた

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 HPは、さまざまな分野においてデジタル印刷の活用推進と市場拡大に奔走してきた。しかし、DXはデジタル印刷機さえあれば完成するというものではない。高い技術力を持つソリューションパートナーとの協調により、初めて実現するイノベーションがある。軟包装業界のDX化を推し進めるため、さまざまな課題を乗り越え、市場に新しい風を呼び込む3社のソリューションを紹介する。

三菱ケミカル株式会社
環境対応素材とデジタル印刷で実現するエコな軟包装
~生分解性樹脂 BioPBS™~

 現代社会において、もはやプラスチックなしの生活は考えられない。丈夫で安価なプラスチックは便利である反面、自然界に放置されれば「永遠のごみ」となってしまう。その問題解決の糸口となるのが、土や海水などの自然界にいる微生物によって分解され、やがて消滅する生分解性(微生物などの作用により二酸化炭素と水に分解される性質)のプラスチックである。

三菱ケミカル株式会社は2017年に三菱化学、三菱樹脂、三菱レイヨンを統合し、総合化学メーカーとして幅広い素材・材料の開発を手掛けている。HPとは統合前からデジタル印刷の各分野で協力関係にあったが、2019年より新たに軟包装分野での協業を開始した。

 同社のHP Indigoデジタル印刷機向けソリューションには、生分解性樹脂を使った素材開発を始めとする「印刷向けソリューション」と、耐水性・耐熱性・耐溶剤性を向上させる「後加工用ソリューション」がある。今回は前者の代表格である「BioPBS™」を紹介したい。

 BioPBS™ は、さとうきびやコーンなどを原料とした植物由来の生分解可能な樹脂である。国際的な生分解の認証ラベルを取得しており、その活用の用途は多岐にわたる。その優れたBioPBS™ を活用した生分解性フィルムを、HP Indigoデジタル印刷機での印刷に適したフィルム原反として提供すべく、現在開発を進めている。

 同社に、デジタル印刷向けの生分解性フィルム(BioPBS™ )を開発する理由を聞いた。

 「パッケージにおける今後の成長分野を考えた時に、デジタル印刷は外せないと考えており、材料メーカーとしてそこに貢献したいという想いが強くありました。そして、デジタル印刷を長年リードしているHPと協業すれば、軟包装市場で新しいマーケットを創造できると確信しました。印刷用素材の開発は、HP Indigoデジタル印刷機の仕組みを理解しなければできませんから、HPとの良好で密なパートナーシップが礎となっています。また、コンバーター様の要望をよく聞き、現場目線で議論を重ねながら一歩一歩進んできました。汎用性を備え、いかに多くのコンバーター様に使ってもらえるかが鍵だと考えたからです」

 実はこのBioPBS™ は生分解性樹脂として、農業用のマルチフィルム、コーヒーのカプセルなど、以前から印刷用途以外では活用が進んでいる。印刷分野では、ようやく軟包装への対応が始まったところだ。紙やセロファンをBioPBS™ と組み合わせて使用したり、内容物が湿気や酸素に弱い場合にはバリア性を付与したりするという。しかし、自然に還るために分解させるのと、モノとして長持ちさせるという点は、相反する特性なだけに、気になるのはフィルムの劣化である。

 生分解性フィルムは汎用フィルムと比べて在庫寿命が有限なので、大量に印刷してストックするには向かない。その点、デジタル印刷は多品種小ロット印刷も得意とするので、材料の特性と合致する。特に、HP Indigoデジタル印刷機で使用されるエレクトロインキは、国際的な生分解認証ラベルを取得しているので、環境対応という点でもうってつけな組み合わせだ。フィルムは、オフィスのようなクリーンな環境であれば通常2年程は見た目や手触りも変わらず、安定して保管できるという。但し、湿度や土埃がかかるなどバクテリアの発生条件によって保管可能期間は大きく変わる。土の中に埋めてしまえば、数週間から数か月程度で跡形もなくなるというのが生分解性フィルムの特徴だ。

 三菱ケミカルは、自社の営業活動や展示会で利用する販促用のポリバッグの印刷をHP Indigoデジタル印刷に切り替えたという。それまでは、BioPBS™ を用いたフィルムにグラビア印刷機で印刷していたが、デジタル印刷を活用することにより、事業部毎に異なるデザインを、必要な時に必要な分だけ印刷できるようになった。では、コンバーターがHP Indigoデジタル印刷機向けのBioPBS™を用いたフィルム原反を購入したい場合はどのように入手できるのか。

 素材の提供において、より迅速にお客様の要望に応えるため、三菱ケミカルはレンゴーグループと協業することで販売のサプライチェーンを構築している。レンゴーグループの日本マタイ株式会社がHP Indigoデジタル印刷機に適した処方でフィルム原反の製造を行い、販売も担う。

レンゴー株式会社は、高バイオマス度かつ、生分解性のある包装材料として、「REBIOS®(レビオス)」ブランドを展開している。セロファンや紙にBioPBS™ や、BioPBS™をベースとした生分解性樹脂コンパウンドFORZEAS™を組み合わせたラインアップを展開しており、日本だけでなく今後はアジアやグローバルにも販売網を拡大する予定だ。

 HP Indigoデジタル印刷機と生分解性フィルムの掛け合わせは、今後の軟包装市場そして世の中をどのように変えるだろうか。このソリューションが環境問題の被害を食い止める救世主となるか、その期待は日々高まっている。

  • (問い合わせ先)
  • 三菱ケミカル株式会社
  • サスティナブルポリマーズセクター ポリエステルユニット 市場開発セクション
  • 淡路 悠紀
  • 電話:050-3183-5752
  • メール:awaji.yuki.ma@m-chemical.co.jp

 次に、凸版印刷のソリューションを紹介する。

凸版印刷株式会社
業界初!レトルト、ボイル、電子レンジ対応デジタル印刷 ~強密着接着剤TOPMER~

 近年、コロナ禍の影響で、賞味期限の長いレトルト食品等の需要が大きく伸びている。これまで、デジタル印刷によるレトルトパウチの対応は、耐熱性や耐水性、インキ密着性などの課題があり、その対応領域は軽包装や外装に留まっていた。この概念を覆したのが凸版印刷株式会社である。

 凸版印刷は、デジタル印刷による小ロット・多品種・バリアブルの特性を活用した付加価値の高い軟包装パッケージの製造に取り組み、HPと技術的な協力体制を構築している。同社は、需要の大きなレトルト・ボイルの分野で適用できる技術を確立することで、軟包装におけるデジタル印刷の新しい市場が拓けると考え、強密着接着剤「TOPMER™(トップマー)」を開発した。日本の包装規準をクリアした初のレトルト対応のデジタル印刷ソリューションの誕生である。

 レトルト食品の製造は、専用の機械を使用して、包装資材に120℃程度の高温をかけて加熱殺菌をする。当初は、コート剤での対応も検討したが、印刷物のデザインに制約があるなど課題が残り、試行錯誤の結果、汎用のラミネーション機械で加工できる独自処方の接着剤の開発に舵を切った。TOPMER™ は、130℃×30分のレトルト殺菌に対応し、耐熱性・耐水性の向上により、液体やペーストなど従来対応できなかった用途にもデジタル印刷の活用を可能にしている。

 デジタル印刷の強みの一つは多品種小ロット印刷に適していることだ。フードロスの削減やサステナビリティへの取り組みが企業命題となっている現在、商品のパッケージにも環境問題を解決に導く役割と責任がある。必要なものを必要な分だけ作り、余剰在庫を作らないことは、廃棄物の削減につながる。さらに、初期の版代がかからないため、様々なデザインの展開や柔軟な変更が可能となり、パッケージに対する自由度が高まるという。見栄えの良いオリジナルパッケージは、商品の認知拡大やブランド力の向上につながるだろう。

 既製の袋にラベルを貼って対応するケースも多く見られるが、既製袋、ラベル印刷費、それを貼る人件費を考えると、デジタル印刷による軟包装の製造は、トータルコストの削減や人的ミスの防止につながると同社は指摘する。

 本製品は、既に食品業界を始めとする国内市場に提供を開始しており、想像以上の引合いや問い合わせが来ているという。特に、中小企業やベンチャー企業からの問い合わせが多く、デジタル印刷という選択肢は、これまでグラビア印刷の版代、最低発注量、納期などが障壁となっていたお客様への解決策となっている。

 凸版印刷は、軟包装パッケージをオンラインで発注できるweb to print(https://www.toppan.co.jp/biz/easy-order-pack/)の仕組みを構築しており、ウェブ上で素材やサイズなどを選択し、デザインデータを入稿すれば、手軽に希望通りのパッケージを製造できる。グラビア印刷の場合と比較して、最低発注量は1000枚からと大幅に下がり(グラビア印刷比で1割を切る)、スタートアップのブランドでの活用やテストマーケティングなどの用途にも格段に利用しやすく、嬉しいニュースだろう。

 TOPMER™ を利用したデジタル印刷のレトルトパッケージ事例を紹介する。1つ目は、かごしま有機生産組合のベビーフードのパッケージである。従来はラベル貼りで対応していた商品8種類をデジタル印刷機で対応した。従来のラベル貼りパッケージでは、既製品袋・ラベル・ラベル貼りでそれぞれコストがかかっていたため、コスト面で比較してもメリットが創出でき、パッケージの仕上がりにも満足いただけた事例だという。

 もう1つの事例は、株式会社フレンバシーのレトルト食品向けパッケージである。こちらは、凸版印刷が展開する軟包装パッケージのWeb受注システム「EASY ORDER PACK」での受注事例だ。新商品2点を発表するにあたり、小ロット・オリジナル印刷に対応できるデジタル印刷が採用された。

 現在、デジタル印刷の活用は、主に多品種小ロット、バリアブル、短納期の領域が主だが、凸版印刷は、より一層デジタル印刷機による生産量を増やせるような技術開発に力を注ぎ、今後は付加価値の高い軟包装ソリューションをグローバルにも展開していきたいとしている。

 TOPMER™ の登場は、軟包装業界に新しい価値を創造した。レトルトパウチへの対応が実現した今、デジタル印刷の活用範囲は大きな広がりを見せるに違いない。

「第45回木下賞(※1)新規創出部門」受賞

凸版印刷株式会社は、デジタルプリントによるレトルト殺菌対応パウチが製造できる強密着接着剤「TOPMER™(トップマー)」を使用したレトルト殺菌対応パウチの開発で、公益社団法人日本包装技術協会が主催する「第45回木下賞(※1)新規創出部門」を受賞しました。

※1 木下賞
公益社団法人日本包装技術協会(JPI)が主催し、JPI第2代会長である故木下又三郎氏の包装界に対する功績を記念して設定された表彰制度です。本賞は、包装技術の研究・開発に顕著な業績をあげたものや、包装の合理化・改善・向上に顕著な業績をあげたものに与えられます。

詳細は凸版印刷株式会社のホームページをご覧ください。
リンク:https://www.toppan.co.jp/news/2021/09/newsrelease210903_1.html

  • (問い合わせ先)
  • 凸版印刷株式会社
  • 九州事業部 企画販促本部 販売促進部 生活系販促チーム
  • 南 浩紀
  • Tel:092-722-2132
  • E-Mail:hiroki.minami@toppan.co.jp

 最後にパッケージ向けのデジタル印刷プリフライトソリューションを紹介する。

HYBRID Software 社
DTPを専門としない顧客窓口担当者が手軽に使えるプリフライトツール ~PACKZalyzer(パックザライザー)~

 入稿された印刷データに不備があると、印刷作業に進めないばかりか、場合によっては印刷物が意図しない結果となってしまう。特に、お客様からデータを受け取る営業担当者や、Web to Printの入稿窓口担当者がデータの不備に気づかず、そのまま印刷に回してしまうと、印刷現場に不要な混乱を招き、修正のためのやりとりが発生してしまう。そこで、専門的な知識がなくても印刷前段階の入稿データのチェックが手軽にできる、ラベル・パッケージ向けのプリフライトツールを紹介したい。

 HYBRID Software 社は、HPの長年のビジネスパートナーとして、共にデジタル印刷の普及に取り組んできた。ラベル・パッケージに特化したソフトウェア開発を手掛ける同社の主力製品には、PACKZ(パックズ)というハイエンドの編集ソフトがある。そのPACKZの、入稿データを確認するプリフライト機能に特化したエントリークラスのソリューションが、今回紹介する「PACKZalyzer(パックザライザー)」である。「PACKZ」に解析を意味する「Analyzer」を掛け合わせた名のこのツールは、HP PrintOS上で提供されている。

 HP PrintOSは、HPのデジタル印刷機を一気通貫で管理できるクラウドベースのプラットフォームだ。HPデジタル印刷機導入企業は誰でもアクセスでき、クラウド上には様々なアプリケーションが提供されている。PACKZalyzerは、PrintOS用のアプリケーションとして開発され、月額250ドルから使用できるサブスクリプションサービスだ。圧倒的に低コストで始められ、いつでも解約できるので、企業規模を問わずあらゆる企業がメリットを享受できる。Webベースのアプリケーションのため、PCへ専用ソフトをダウンロードする必要がなく、また専門的なIT知識がなくてもすぐに使えるのも特徴だ。ブラウザの言語設定で日本語表示に変更できるため、日本のユーザーも抵抗なく使えるだろう。ハイエンドなツールは、小規模企業にとってコストも高くオーバースペックなことが多い中、厳選された機能を安価に利用できるのは嬉しいポイントだ。

 PACKZalyzerの検証項目は以下の通りだ。PDFファイルを読み込むと以下の情報を解析し、その結果をブラウザ上でビジュアル表示することで容易に問題点を把握できる。

  • ・デザインファイルに含まれるインキ情報
  • ・バーコード情報
  • ・デザインの物理的な大きさ
  • ・埋め込まれた画像の解像度
  • ・その他、ファイルが持つ技術情報

 具体的には、

  • ・200dpiを下回る低解像度画像のハイライト表示
  • ・PDFにフォントのサブセットを含まない非埋め込みフォントのハイライト表示
  • ・後工程で問題を起こす可能性のあるRGB、LABオブジェクトの警告
  • ・PDFファイル内で使用されているテクニカル/非テクニカルインキの表示

 などが可能だ。

 さらに、解析後は以下の修正・加工を施すことができる。

  • ・RIP処理とプリプレス工程のファイルハンドリングを軽くするため、極端に高い画像解像度を自動的に下げる
  • ・グレーで定義されたPDFオブジェクトをCMYKのBlackに変換
  • ・12ポイント未満の小さいスミ文字をオーバープリントとして定義
  • ・抜き型などの後加工タイプとして定義されている特色インキや、ニス版を自動的にオーバープリントとして定義

 エントリークラスとはいえ、データ入稿窓口でチェックするには十分な機能を備えている。このツールの最大のポイントは、DTPを専門としない、データ入稿窓口担当者が手軽に使えるという点にある。そもそもDTP専門部門やデジタル印刷オペレーターは、より機能の多いプリフライトツールを既に使用しているケースが多く、PACKZalyzerは、決してそれを置き換えるものではない。作業の多い印刷現場でのデータ確認は負担が大きいものだ。お客様との窓口担当者が、事前に印刷適正をチェックし、問題箇所を自動認識できれば、印刷現場の負担を大きく軽減できる。

 PACKZalyzerは、PrintOSにアクセスできる環境があれば、どこからでも使用できる。自宅や外出先からでもアクセスできるので、システムを使う為だけに出社する必要はない。昨今はテレワークを推進するためにPACKZalyzerを導入する企業もあり、結果として営業や窓口担当者の出社を制限できているという。

 最後に、今回のインタビューで、PACKZalyzerの開発担当者から日本のパッケージコンバーターに向けてメッセージをもらったので紹介したい。

 「テクノロジーを正しく活用することのメリットは計り知れません。人と人、人とコンピューターの間にミスは避けられませんが、コンピューター同士の会話では極限までミスを避けられます。テクノロジーの活用が明日のビジネスを明るくします。PACKZalyzerは、コスト、仕組みともにとても手軽に始められるソリューションです。ぜひ日本の皆様も使ってみてください。お客様に寄り添い、ご意見に耳を傾けることで、より良い製品にしていきたいと思います。より専門的な上位機能が必要な方は、HYBRID Software社のPACKZなどをご紹介しますので、お問い合わせください」

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 今、日本は国を挙げてDXを推進しているが、軟包装市場においてDXに取り組んでいるのは何もHPだけではない。印刷に使用される素材・材料から、ソフトウェア、後加工など、多くのソリューションパートナーが軟包装市場のDXに向けて動いている。何かが欠ければ、デジタル化の良い面は活かしきれない。HPは、各分野で強みを持つ企業と強固なパートナーシップを築き、デジタル印刷の価値を最大化させるエコシステムを提供しようとしている。今後、世の中の要望に迅速に応えられるか否かは、企業価値に大きく影響するだろう。印刷業に携わる各社が顧客ニーズや市場変化スピードに対する感度を高め、こういったソリューションと各社の印刷技術を組み合わせることが、軟包装業界に新しい可能性と成長をもたらす契機となるはずだ。

HP デジタル印刷機
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