2021.07.26

HP PageWide Web Pressインクジェットデジタル輪転機徹底解説 【製品&テクノロジー編】

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株式会社日本HP デジタルプレス事業本部
HP PageWide Web Press カテゴリーマネージャー
田口 兼多

 HPは、約半世紀に及ぶインクジェット技術の研究開発の歴史を持ち、1984年に世界で初めてサーマルインクジェットプリンターを商品化した会社だ。2009年に、産業用インクジェットデジタル輪転機であるHP Inkjet Web Pressを発売して以来、世界中の各分野で多くの実績を積んできた。近年、出版分野を中心に、商業分野においても導入が進むインクジェットデジタル輪転機だが、なぜ今市場で導入が増えていて、どのような分野に適しているのか?他のデジタル印刷機とはどう違うのか?――様々な疑問に答えるべく、日本HP田口氏が、市場の動向からHP独自のインクジェットテクノロジーまでを広く解説する。

HP デジタル印刷機
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飛躍的に増え続けるインクジェット印刷の需要

 グローバルの市場予測によると、デジタル印刷市場は全体的に成長していると田口氏はいう。その中でも特に大きく成長しているのがインクジェットの分野である。インクジェットは、トランザクション(請求明細など)や書籍の分野で既に活用が進んでおり、今後は、DM、カタログ、販促などの商業印刷や、段ボール製造の分野でも成長が見込まれている。HP PageWide Web Pressインクジェットデジタル輪転機の年間印刷ボリュームは市場の成長を大幅に上回る勢いで、2016年から2020年にかけて実に200%の成長を遂げた。

 市場全体を見てもインクジェット方式における印刷ボリュームはかなり上向きのカーブを描いている。インクジェットによる印刷量が飛躍的に増え続けている理由はどこにあるのだろうか。

 近年、急速に変化する消費動向に対応するため、的確なマーケティング活動が重要視されている。さらに大量生産・大量消費からの脱却という新しい社会の価値観が生まれた。こういった時代の潮流に即しているのがデジタル印刷であり、その中でも生産力・コスト効率に長けているのがインクジェットだと田口氏はいう。

 「小ロット、可変印刷、パーソナライズ、在庫レスというデジタル印刷の特徴は昨今の市場のニーズに合致しています。中でも生産力が必要な分野においてはインクジェット印刷機が頭一つ抜けています。特に、請求明細などトランザクション系の通知物やDMは、マーケティングの要素を掛け合わせ、印刷する内容をカスタマイズ・パーソナライズしながら高速に処理することが求められるので、こうした背景がインクジェットの追い風となっているのでしょう」

 書籍の印刷においてもインクジェットが注目されている。出版社にとって返本は利益を圧迫する深刻な問題だ。これまで、印刷された書籍は倉庫に保管し、一定期間を過ぎた売れ残りは断裁し廃棄されていた。デジタル印刷であれば、初版部数の最適化、少部数の重版対応、在庫の最小化、廃棄コストの削減、需要急増への臨機応変な対応が可能となり、出版物の多様性を保ちながら効率的に低リスクの生産ができる。

 北米の調査では、デジタル印刷機とオフセットをハイブリッドで使い分けている出版社は60%にも及ぶという結果がある。書籍に関して言えば、世界中のインクジェット方式で生産されたもののうち実に半数以上がHP PageWide Web Pressインクジェットデジタル輪転機が使用されているという。日本国内においても、複数の大手出版社がHP PageWide Web Pressを導入し、既にデジタルインクジェットで印刷された書籍が店頭に並んでいる。

 商業印刷の分野では、海外の旅行企画会社が、子ども向けのアクティビティを、年齢や性別、関心に応じてHP PageWide Web Pressで刷り分けたパンフレットが好評を博している。同様に、スーパーマーケットで配布するクーポンや、アパレル、保険、自動車など様々な分野のカタログや小冊子でパーソナライズ化が広がっている。

 デジタルインクジェットの利用は、国内ではモノクロ印刷が多いイメージだが、実際にはカラーも多く使われていると田口氏はいう。学術書・学習参考書や、DMやマーケティングと統合した請求明細書(トランスプロモ)など、カラーインクジェットが使用される領域は年々増加している。

 日本では、株式会社ウイル・コーポレーションが、HP PageWide Web Pressインクジェットデジタル輪転機を導入し、多くの冊子やパンフレット等を印刷して生産量を伸ばしている。生徒の学力に応じて学習塾のコースを案内するなど、ターゲットに適したコンテンツで訴求するのが強みだ。コロナ禍で、各種イベントの中止により集客のチラシや広告出稿は減少したものの、デジタル印刷の受注増加、生産効率の改善、内製化率の向上などが利益増に貢献しているという。

HPインクジェットテクノロジー概説

 HPは、乾式・湿式電子写真、ピエゾ、サーマルインクジェットと幅広い印刷方式にてプリンター製品を展開しているが、産業用インクジェットデジタル輪転機には、コストメリットと印刷スピードの観点からサーマルインクジェット方式を採用している。

 「サーマル方式の場合、ヘッド内部に可動部がなく、瞬間的に温度を高めることでインキを気泡化して飛ばします。動くパーツがないので、ノズル穴を高密度化して製造することができます。インクジェット方式の最大の難点はノズルの目詰まりによってストリーク線が入ってしまうことですが、HPのサーマル方式はプリントノズルの冗長化設計が施されており、1ピクセルに対して最大8つの高密度ノズルを持ち、目詰まりの問題を回避しやすいという利点があります。一方で、ピエゾ方式は電圧をかけてピエゾ素子を歪ませインキを押し出すという方式です。可動部があるのでノズルの高密度化は不可能です。メンテナンス性の違いもあり、ピエゾ方式はプリントヘッドの交換頻度が低いという利点がありますが、ベンダーのエンジニアを呼んで交換しないといけません。HPのサーマル方式ではオペレーターが簡単に交換できるので、数分で生産を再開できるというメリットがあります」

 HPの開発コンセプトの特徴は、技術の「垂直統合」にあると田口氏は解説する。

 「他社製のパーツや技術を組み合わせる水平分業型でインクジェットデジタル輪転機を提供するケースが多い中、HPはプレス本体、プリントヘッド、インキ、ソフトウェアなど主要な技術を垂直統合し、自社で設計・開発しています。このように総合的に自社開発を行うメーカーは非常に珍しく、サードパーティの開発状況に依存することなく、自社で開発ロードマップを描くことができます」

 HP PageWide Web Pressのポートフォリオは、用紙対応幅22インチ(558mm)から、26インチ(660mm)、30インチ(765mm)、42インチ(1068mm)、110インチ(2800mm)までの幅広い製品群があり、印刷スピードは最大で305メートル/分(生産性モード)と超高速だ。プリントヘッドは、プラットフォーム全体でモジュール化されており拡張性が高い。そればかりか、プリントヘッドは産業用以外のプリンターとも共通化されている為、開発コストを抑えられ、結果として消耗品を低価格で提供できている。

 HPの開発には、品質・生産性・多様性・経済性という重要な4本の柱がある。

 品質面では、オフセット同等の品質を実現するため、HDNA(高精細ノズルアーキテクチャ)高品質モードで、大ノズルと小ノズルを使い分けることで美しいグレースケールを実現している。また、2020年に発表したBrilliant Inkによって、広い色域による鮮やかな色彩や、グロス感の高い光沢など、より高度な印刷再現が可能になった。

 生産性では、HDK印刷モードを搭載し、黒のみ大小ノズルを使用することで、高速度でありながら高品質を実現している(※T200シリーズ限定)。オプションとして、機械を止めずに自動で用紙の入れ替えができる自動スプライサーを全てのモデルに繋げられるのも特徴だ。インクは200リットルのバレルで提供しているので交換頻度が低く、中間タンクがあるため交換の際も印刷を継続できる。また、これまでは、加工機で詰まりなどのトラブルが発生すると、キャリブレーションから再スタートしなければならなかったが、60秒内であれば一時停止ができる機能を提供するなど、ダウンタイムを極力削減する工夫が随所に見られる。

 用紙の多様性にも力を入れており、インクジェット専用紙だけではなく、従来のオフセットコート紙、オフセット上質紙も使うことができるのが特徴だ。これまで、使用する用紙に合わせてインクの定着プロセスを使い分けていたが、HP PageWide T250 HDでは、Brilliant Inkと絵柄部分に塗布するOptimizerだけで、プライマーを使用することなく従来のオフセット印刷用紙を使用できるようになった。インクジェット専用紙ではOptimizerをOFFにすることができるので、コスト低減にもつながる。

 経済性も重要だ。HP PageWide Web Pressは、HP Indigoデジタル印刷機と同様、フィールドで機器のアップグレードができるのが大きなメリットだ。発売当初の2009年に導入されたHP PageWide Web Pressの第1号機は、アップグレードを行いながら、12年経過した現在もなお最新機種と同等の機能を備えて稼働しているというから驚きだ。ハードウェアの初期投資は比較的大きいが、新機能を取り入れながら長期的に使用できることを考えれば、結果としてTCOを低く抑えることができる。デジタル印刷の技術進歩は非常に速く、導入した印刷機がすぐに陳腐化してしまうリスクをはらんでいるが、アップグレードによってユーザーの投資を保護できるのは垂直統合をしているHPならではの強みだ。

インクジェット方式と電子写真方式は共存へ

 元々、HPには、湿式電子写真方式(液体トナー)を採用したHP Indigoデジタル印刷機がある。B2サイズ対応のものもあり、高い生産力を誇る優れた印刷機だ。同社のインクジェットデジタル輪転機とはどのようなすみわけがされているのか、それぞれの特徴を活かした使い分けを聞いた。

 「HP Indigoデジタル印刷機は、デジタルオフセットと言われるだけあって、オフセットを凌駕する写真品質が特徴です。使用できる原反も幅広く、色々な用紙を同時に扱えます。こうした特徴を活かし、インクジェットではまだ置き換えられない、より高品質・高付加価値な印刷分野での活躍が目立ちます。表現力や紙にこだわり、お客様の心を動かす美しい印刷物には、7色のインキや特色が使えるIndigoがぴったりです。電子写真方式のデジタル印刷機は、投資規模がインクジェットデジタル輪転機に比較すると小さく取り回しも良いので、今後も活躍の場は広がるでしょう。一方、インクジェットデジタル輪転機は、巻出し機にセットした用紙を使い続け、とにかく高速に量産できるのが特徴です。HP PageWide Web Pressも十分に高品質なのですが、やはりIndigoと比較してしまうと色の表現力に差がでます。ロール機の方が扱いやすいもの、情報媒体としての品質が維持できれば十分だという生産性重視のものは、インクジェットにシフトしていく傾向にあります」

 価格体系も異なる。HP Indigoデジタル印刷機はクリックチャージ方式(出力枚数に応じて料金を課金する)なのに対して、HP PageWide Web Pressインクジェットデジタル輪転機は、インクをドラム缶で購入するため、印刷カバレッジ(ページ当たりのインキ消費量)が低ければそれだけコストは安く上がる。印刷の生産現場では、コストや生産性が常に重視されるが、ボリューム生産ではコスト的にインクジェットに軍配が上がる。HPは、市場でインクジェットが求められる理由をそこに見出し、生産性と経済性の向上に特に注力してきたという。では、それぞれ異なる特性を備えたデジタル印刷機の共存は可能だろうか。

 「実は、HP PageWide Web Pressインクジェットデジタル輪転機をお使いの7割ものお客様がHP Indigoデジタル印刷機も保有してうまく併用されているんです。たとえば請求明細であれば、必要以上の印刷品質を追求しても仕方がないので生産性を優先します。要件ごとに印刷機を判断する場合には、カタログや書籍などで、画質にこだわる表紙はIndigo、中身はPageWide Web Pressと刷り分けるケースもあります。IndigoとPageWide Web Pressを両方お持ちいただき、うまく使い分けて頂くと、デジタル印刷のメリットを最大限享受できると思います」

 最後に、これからインクジェットデジタル輪転機を導入する企業へのアドバイスを聞いた。

 「インクジェットデジタル輪転機に投資すると、それを十分に稼働させるためには、それなりの量の印刷ジョブが必要になりますが、初めから単一のアプリケーションで稼働量を確保するのは難しいのも事実です。そんな時、HP PageWide Web Pressは、インクジェット専用紙はもとより、オフセット上質紙、コート紙、厚紙、薄紙など様々な用紙、アプリケーションに対応できるので、これは事業開始の際のひとつの助けになると思います。また、ビジネスを成功させるには、契約ベースで継続的に流せるジョブの獲得や、Webを活用した営業活動の効率化の仕組みなども重要です」と田口氏は語る。

 インクジェット市場は、今後も需要拡大が期待される有力な分野だ。消費者のニーズの変化や嗜好の多様化により、製品のライフサイクルは短縮化し、世の中の印刷物は、小ロット・多品種・バリアブル対応へとシフトが進みつつある。製版・刷版工程を不要とするデジタル印刷技術がもたらすメリットは大きい。中でもそういった現代の印刷ニーズに応えながら、よりボリュームの多い印刷物をスピーディかつ低コストに生産できるのがHP PageWide Web Pressインクジェットデジタル輪転機である。長い歴史の中で培った世界に誇れる技術を軸に、ユーザーの投資を保護するHPのインクジェットデジタル輪転機は、変わりゆく市場の需要に柔軟に対応しながら、デジタル印刷機の更なる普及を加速させるだろう。

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