2020.12.23

HP Indigoデジタル印刷機向けの新ヴァンヌーボ現る!その開発のストーリーを竹尾と大王製紙に聞いた

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 印刷業界で圧倒的な知名度を誇り、デザイナーやクリエイターから根強い支持を受ける高級紙「ヴァンヌーボ」。そのヴァンヌーボから、デジタル印刷のポテンシャルを最大限に引き出す新商品が登場した。待望の「ヴァンヌーボDigital」の記念すべき第一弾となったのは、HP Indigoデジタル印刷機向けの 「ヴァンヌーボLT-FS」。デジタル印刷に必要な機能を備え、ヴァンヌーボならではのラフ感と、オフセット印刷に近いグロス感を実現する。ヴァンヌーボDigitalの開発に踏み切った大王製紙株式会社と、販売を担う株式会社竹尾に、構想から新商品誕生までの道のりや紙への想いを聞いた。豊富な知見を活かしながら新しい可能性を追い求める専門家たちの開発秘話に迫る。

~ゲスト紹介~

 大王製紙株式会社の遠藤明男氏は、新聞・洋紙事業部でファインペーパーの商品開発および商品の提案活動に携わる。株式会社竹尾の営業開発部に所属する鹿村祐二氏は、ユーザーからメーカーまで幅広い営業活動を行う一方で、製品テストやユーザーへの先行PRなども担う。同社の企画部 製品開発チームの鈴木裕也氏は、製紙会社と一緒に商品企画の推進や販促物の展開など、全国展開に向けた販売戦略を行う。日本HPデジタルプレス事業本部の森真木氏は、ソリューションアーキテクトとしてHP Indigo印刷機に対する新しい紙やソリューションの紹介、技術的な側面からのサポートなどを行う。今回は、同社のデジタルプレス事業本部マーケティングの西分美喜氏がインタビュワーとして、ヴァンヌーボの開発秘話に切り込んでいく。

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左から日本HP 西分氏、森氏、竹尾 鹿村氏、鈴木氏、大王製紙 遠藤氏

HP デジタル印刷機
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ヴァンヌーボLT-FS誕生の理由

 西分:今では業界で知らない人はいないほど人気の高い紙ですが、そもそもヴァンヌーボが日本で誕生した背景を教えてください。

 遠藤氏(以下、遠藤):ファインペーパーというのは、色、風合い、柄などさまざまな意匠性を持ち合わせる紙です。従来、印刷用紙というのは、意匠性よりも印刷の再現性が優先されてきました。ところが、紙を扱うデザイナーは、テクスチャーや質感をより重視する傾向がありました。そこで、紙の風合いを持ち合わせながら、高い印刷再現性を備える紙の開発に至ったのが、1994年に発売となったヴァンヌーボ誕生の背景です。最初は2種類からスタートし、時代に合わせてラインアップを強化してきました。

 ヴァンヌーボという名前は、フランス語が語源で、VENT(ヴァン)は「風」、NOUVEAU(ヌーボ)は「新しい」を意味します。

 「印刷用紙の世界に新しい風を吹かせたい」という開発者の思いを込めてつけられました。

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 西分:とても素敵な名前ですね。ヴァンヌーボの販売は竹尾がおこなっているのですよね。

 鹿村氏(以下、鹿村):はい、竹尾が販売代理店を担っています。竹尾はデザイナーとのつながりが強く、そういった方々の意見を商品に反映させるという面で、ファインペーパーの開発の早い段階からパートナーシップを築いていました。このヴァンヌーボも、誕生にあたってデザイナーであり建築家の矢萩喜從郎氏の監修を受けました。

 西分:竹尾と言えば、高級用紙という印象がありますが、なぜそういったデザイナーとのつながりができたのですか?

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 鹿村:歴史を紐解いていくと、3代目の社長、竹尾榮一の時代に、デザイナーの原弘(はらひろむ)氏と一緒にファインペーパーの開発に取り組んだことが礎となっています。デザイナーの意見を取り入れ、創造性を喚起する意匠性の高い紙を作りたいという経営者の意向があり、この時代に50銘柄以上の商品を市場に出して「ファインペーパーの竹尾」と言われる基盤を作り上げました。今では、約300銘柄9000種類ものファインペーパーを取り扱っています。

 遠藤:現在に至っても、竹尾ペーパーショウや見本帖本店をはじめとするショールームでの展示など、デザイナーとのつながりを深める機会を持たれていますよね。

 鈴木氏(以下、鈴木):デザイナーは紙の決定権を持っているので、直接PRするのは効果的なんです。時代の一歩二歩先行く方々にお声掛けして、どういう紙を作るべきか、コンセプトも含めて協調しながら商品開発をしています。

 西分:今回、ヴァンヌーボの新たなラインアップとして、デジタル印刷向けに開発しようと思われた理由を教えてください。

 遠藤:「次世代のヴァンヌーボ」を考えたときに、デジタル印刷に目が留まったんです。目覚ましい進歩を遂げるデジタル印刷に、新しい印刷の可能性を強く感じました。「新しい風を吹かせる」という意味でも、デジタル印刷に対応する紙をいち早く市場に出して、潜在マーケットを引き出したいという想いがありました。

 その中で、最初にHP Indigoデジタル印刷機に対応しようと考えたのは、HPがデジタル印刷の先頭を走り、最も先進的な取り組みをしているという印象があったからです。品質的にもオフセットに近い、ある部分ではオフセットを超えているという点にも注目しました。ヴァンヌーボは、比較的高級な用途で使われる場面が多く、印刷品質への要求も高いため、HP Indigoと相性が良いのではないかという想定と、業界の最先端を走るHPと一緒なら市場の需要を喚起できると考えました。

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 西分:ヴァンヌーボLT-FSはどのような用途で使われることを想定していますか?対象のマーケットなどを教えてください。

 鈴木:現在、印刷業界は移行期にあると言えますが、いきなり全てデジタルに切り替えるのは難しいと思っています。ですが、ヴァンヌーボLT-FSとHP Indigoの組み合わせは、ヴァンヌーボVとオフセットの組み合わせと比較して、印刷品質、色再現性、ヴァンヌーボ独自のグロス感のどれをとっても、遜色のないレベルで実現しています。そのため、オフセット、デジタルを意識せずに、シームレスに品質を保つことができるので、例えば出版物をオフセットで刷った後に、少部数の重版をデジタルで印刷するという際に使っていただくと、オフセットと同等のクオリティを維持できます。

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 遠藤:初版はオフセットで印刷し、その後の重版はデジタル印刷で生産、というケースがあるように、逆のケースも考えられます。絶版本や、部数を抑えたいものをまずはデジタルで印刷して、ヒットしたら大量にオフセットで印刷する。初めに小ロットできっかけづくりをして反響が良ければ増産、という考え方です。

 ヴァンヌーボは、出版の用途が大きな割合を占めていて、書籍のカバーや帯などでよく使われています。帯は本を売る上で訴求効果が高く、テレビなどで取り上げられて話題になるとすぐに差し替えるんです。帯は小ロットなので、そういったものからデジタル印刷を試してみるのもいいと思います。次はカバー、次は写真集、と出版全体に普及していく可能性もあります。

 森:ヴァンヌーボは高級カタログなどのイメージが強かったので出版が多いというのは意外でしたが、小ロットで試せるのはいいですね。お客様からは、「写真アルバムはヴァンヌーボを使いたい」といった声も聞くので、そういった分野も期待できそうです。

 鈴木:デジタル市場はフォトブック関係も多いですね。若手クリエイターは自分の作品を紙で出したいと考える人が多いので、アートブックの市場も期待できると思います。

ヴァンヌーボLT-FSの特徴とは?

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 西分:完成したヴァンヌーボLT-FSについて、大王製紙、竹尾の自己評価と、おすすめポイントを教えてください。

 遠藤:一番のポイントは、インクが乗った時のグロス感ですね。オフセット印刷に近い光沢度で、ヴァンヌーボシリーズ特有のツヤ感が得られます。色合いが非常に鮮やかで奥行きがあり、HP Indigoデジタル印刷機の良さを引き出せていると思います。評価は、100点といいたいところですが、95点というところでしょうか。定着性の点で、完璧な定着を実現するところまで到達したかったのですが、定着時間を大幅に短縮するというところが現時点での精一杯でした。そこがマイナス5点。ですが、弊社基準で見た場合の定着時間は従来の1/4になりました。これまで24時間かかっていたものが6時間まで短縮できたということです。その日のうちに加工に入れるのは、印刷会社様の負担を軽減できる大きなメリットになると思います。いずれにしても、印刷の仕上がりについてはとても満足しています。

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 西分:特徴の一つに、低ダートというものがあると聞いていますが、これは夾雑物(きょうざつぶつ)がないということですか?

 遠藤:紙の原料は自然由来のものですから、どうしても白くしきれない繊維が混ざってしまうものなんです。それが夾雑物として出てしまうことがあるのですが、ヴァンヌーボLT-FSは、隠蔽性の高いコート層により夾雑物を目立たせないようにしました。フォトブックなど、大切な思い出の中に夾雑物が混ざるのは極力避けたいので、この点もポイントになると思います。

 西分:ヴァンヌーボLT-FSは、HP Indigo認証紙として、走行性と消耗品への影響が最高評価の3スター、定着性も2スターという高い評価を得ていますよね。

 森:認証紙としても大変優秀ですね。HPとして自信を持っておすすめできる紙です。これまでヴァンヌーボを使いたいけれど諦めていたお客様に対しても、HP Indigoデジタル印刷機でヴァンヌーボを使えるというのは大きな進展です。

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 西分:開発の中でとりわけ苦労した点を教えてください。

 遠藤:通常の紙の開発だと、さまざまな試験機を置いている弊社の試験室で評価します。印刷用紙においては、簡易印刷機のようなもので印刷して適性を調べます。ところが、HP Indigoデジタル印刷機の場合は、Indigoに実際にかけないと評価ができない。弊社の開発部隊は静岡県にいるのですが、Indigoでの印刷評価はHP Indigoをお持ちの印刷会社様にご協力いただいて、そちらと弊社を何度も行き来して開発したので、相当な苦労があったと思います。新製品の構想自体は4〜5年前から、HP Indigoデジタル印刷機にターゲットを絞ってから商品化までは3年くらいかかっています。

 西分:開発には長い時間がかかっているのですね。商品開発の中で、HP Indigoデジタル印刷機の印象はいかがでしたか?

 遠藤:初期段階に初めてHP Indigoデジタル印刷機から、1枚1枚異なる印刷物が出てくるのを目にした時は、頭ではわかっていても、「これがデジタル印刷か!」と改めて衝撃を受けました。開発を進めていく中で、インキの色のくすみのなさや彩度の高さなど、HP Indigoエレクトロインキの色を再現する能力の高さに驚かされました。

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「TOPPAN FINE DIGITAL PRINT」         写真作品:佐藤倫子

 鹿村:凸版印刷は、ヴァンヌーボLT-FSを使用して、高品質なアート作品集を少部数で提供する高品質デジタルプリントサービス「TOPPAN FINE DIGITAL PRINT(TFDP)」を開始しました。インクジェットの作品制作を長らく手掛けていた小島勉さん(トッパングラフィックコミュニケーションズ)がTFDPのプロジェクトに参加されているので、そのノウハウを活かして、表情豊かな印刷物に仕上げていると思います。アートブック試作の際に、特に赤のインクが伸びやかで、青が独特の発色だと小島さんもおっしゃっていました。製版の人がカラーマネジメントを行うと、デジタル印刷機のポテンシャルがしっかりと発揮されますよね。プリンティングディレクターとして色を見る方は、機械がアナログからデジタルに変わっても把握が早いので、技術継承しながらデジタル化ができると思います。

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写真作品:佐藤倫子

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写真作品:山岸伸

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写真作品:山岸伸

 森:アートブックには、HP一押しの「カラーアップ」という機能を使って頂いているのですが、この写真集を見たときに「ここまでできるのか」と驚きました。階調豊かに奥行きのある深みと美しい光沢が出ているのは、HP Indigoデジタル印刷機の特性を知り尽くしていただいているな、と感じました。

 西分:HP Indigoデジタル印刷機でヴァンヌーボV-FSをお使いの方が、ヴァンヌーボLT-FSに切り替えると、どのようなメリットがありますか?

 遠藤:印刷品質についてはお伝えしたとおりですが、HP Indigoのユーザー様に対しては作業性ですね。ヴァンヌーボLT-FSの特性として、インクの定着性を高めているという点があります。ブランケットからのインキの転写率が高いので、印刷濃度が高い。つまり、ブランケットのダメージが少なく、長く使えるので、消耗品の交換頻度が少なくて済むというメリットがあります。

今後の展開と、印刷業界へのメッセージ

 西分:ヴァンヌーボLT-FSの今後の国内・海外への販売戦略について教えてください。

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 鈴木:印刷発注者の方々に対しては、まずはデジタル印刷をお試しいただくために、デジタルという市場そのものを認知してもらう活動からスタートしたいと考えています。日本国内においては、全国のデザイナーやクリエイターに見ていただくために、サンプルブックを配布します。こういった方々はデジタルへの関心も高いので、デジタル印刷でどういったことができるのか、展示会などでも広めていきたいですね。

 海外では、東アジアを中心として、既に韓国や台湾への展開も始めています。海外のマーケットはデジタル化が進んでいるので、デジタル印刷向けの高品質な紙をアピールできれば、うまくニーズに合致すると思います。HP Indigoデジタル印刷機は、世界で8000台以上稼働しているということで、HPとのパートナーシップも有効に活用し、HP PrintOSxのMedia Locator(HP Indigo認定紙を表示・検索できるデータベース)なども役立てながら情報発信していきたいと思います。

 遠藤:HP Indigoデジタル印刷機の可能性は、まだまだ広がると思うので、これからもっと色々な表現の幅を広げていけたらいいですね。ヴァンヌーボLT-FSであれば、HP Indigoデジタル印刷機の持つ可能性とクリエイターの発想力を結びつけることができると思うので、どうやってそれを引き出すかというところに期待したい。結果としてマーケットが刺激されてヴァンヌーボLT-FSの販売につながっていけば嬉しいです。

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 西分:最後に、この記事を読まれている印刷業界の方々にメッセージをお願い致します。

 遠藤:今、情報はデジタル化され紙の情報は少なくなっています。一方、印刷業界ではデジタル印刷によるパラダイムシフトが起きている中、ただ単に従来の印刷物をオフセットからデジタルに置き換えるということではなく、バリアブル印刷などデジタル印刷の持つ可能性を使って潜在的なマーケットを引き出していって欲しいです。ここには大きな可能性があると思います。これまでの「情報を伝える」という紙の役割は薄まりつつあるかもしれません。しかし、「相手に想いを伝える」「感動を与える」という紙の役割は残っているはずです。デジタル印刷の可能性を組み合わせて、ぜひ新しい市場を創造していただければと思います。

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 鹿村:デジタル印刷の技術レベルは本当に高くなっています。それに応える形で、ヴァンヌーボもオフセットと同等のデジタル向けの商品ができましたので、ぜひ一度体験していただきたいと思います。百聞は一見にしかずです。お客様のご要望を把握し、コンテンツを印刷物として反映するのは印刷会社の皆さまですから、ぜひ実物を見てお試しいただければと思います。 

 森:紙に色をのせることで初めて商品となり、どんな紙を使うかによって生まれる価値が変わります。HP Indigoデジタル印刷機は、色々な種類の用紙に刷れるのが良いところですが、さらに「HP Indigoデジタル印刷機×ヴァンヌーボLT-FS」のコラボレーションを利用して、印刷物に価値を見出していくことができればと思います。今までは「見ては捨てる」という消費型の印刷が主流でしたが、このヴァンヌーボ LT-FSの登場により、紙とインキの融合で、宝物になるような印刷物を生み出す動きを加速させていきたいと思います。

 新しい可能性を追い求め、決して現状に甘んじることなく常に一歩上を目指す――そんな紙の専門家たちの飽くなき挑戦が、紙への想いをカタチにして新しい未来を切り開いていく。豊かな風合いで感性に訴えかける紙、ヴァンヌーボLT-FSと、進化を続けるHP Indigoデジタル印刷機が見せてくれる世界は、きっと印刷発注者や消費者の心を動かすものであるに違いない。印刷を再定義するこの新しい風は、もうすでに吹き始めている。

HP Indigoデジタル印刷機で出力した「ヴァンヌーボLT-FS」のサンプルをご希望の方にお送りいたします(部数に限りあり)。

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