2020.12.03

製造業よ、変革に進路を取れ!
誇るべき地方中小企業の変革大解剖

第三弾:【対談|大洞広和×小田島春樹】地方からイノベーションを仕掛ける変革者たちの思考

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第三弾:【対談|大洞広和×小田島春樹】地方からイノベーションを仕掛ける変革者たちの思考

 三重県伊勢神宮の観光地で、100年以上続く老舗食堂「ゑびや大食堂」。5代目として事業を継承し、さまざまなテクノロジーを導入して伸び悩んでいた売上げを大きく改善することに成功した有限会社ゑびやの代表取締役 小田島春樹氏は、今、地方からイノベーションを起こすDX(デジタルトランスフォーメーション)の担い手として注目を集める存在だ。その小田島氏を、印刷業界の変革を推進する大洞広和氏が訪ねた。この先行きが不透明な時代に、地方企業はデジタルの力を利用してどのように戦うべきなのか。同族経営という共通項を持つ二人の変革者に、今、地方企業の経営に求められる思考について聞く。

【大洞印刷特集】製造業よ、変革に進路を取れ!誇るべき地方中小企業の変革大解剖

業種に固執せず、サービス業への転換を図る

―― 現在、小田島さんは、伊勢の郷土料理や食材が味わえる「ゑびや大食堂」、三重の食材や伝統工芸品を販売するお土産店「ゑびや商店」、そして飲食店向けクラウドサービスの開発・販売・サポートを事業とする「EBILAB」の3つのサービスを展開されています。「ゑびや」は江戸時代から続く、伊勢の地に根付いた商売。片や「EBILAB」は働く場所を選ばず、最新のAIテクノロジーを駆使したDXのビジネス。対照的なビジネスを見事に融合させながら経営されていますね。業種としては、やはり飲食業になるのでしょうか。

大洞広和氏

小田島春樹(以下、小田島)  ありがとうございます。「EBILAB」は、もともとゑびやで研究開発をしていた部門を分社化して別会社として設立した会社ですが、「ゑびや」も含めて、僕らは飲食業を営んでいる、という意識がありません。そもそも業種にこだわりはないのですが、強いて言えば店舗の実績と「EBILAB」の研究を融合させて観光業というサービスを事業として行っているという感覚です。

 例えば、「ゑびや」は、伊勢というこの場所にこだわって、「おかわりしたくなる、伊勢の國のおもてなし」というコンセプトのもと、さまざまなサービスを展開しています。このコンセプトを実現するためには、飲食、テイクアウトでもいいですし、お土産屋でもいいという発想です。

 一方でサービス業や飲食業は、産業別に見ても賃金がとても低いんですね。一言で言えば、ものすごく生産性が低い。そこを改善するためにどうすればいいのか。そのソリューションをデジタルを活用して考え、仕組み化していくのが「EBILAB」の事業です。

 さらにその取り組みや仕組みを、他のサービス業の方々にも展開することができたら、サービス業で働く人たちはもっとハッピーになるのではないかと思い、ソリューションをパッケージとして販売することも行っています。生産性を上げていく仕組みを「ゑびや大食堂」や「ゑびや商店」で実験しながら、その中で成功したものを展開・提供するというビジネスです。

 ―― 生産性を上げるためにデジタルのテクノロジーを活用している点でいえば、まさに大洞印刷も印刷業にデジタルの力を掛け合わせて新しいビジネスを創出しています。大きな共通点としては、業種に固執せず、さまざまなイノベーションを起こしていること。大洞印刷も本来、印刷会社は製造業に区分されますが、サービス業への転換を推進していますね。

松永 エリック・匡史氏

大洞広和(以下、大洞) まさに先日の経営計画の報告会では、「印刷業をやめます」と発表しました(笑)。

小田島 印刷会社が印刷業をやめる……大胆ですね(笑)。となると、大洞印刷さんは何を目指しているのでしょうか?

大洞 今、私たちは「プリント・サービス・プラットフォーマー」になるという目標を掲げ、事業を展開しています。もう少し分かりやすく言うと、「印刷ができるIT企業になる」というイメージです。私たちの場合は、たまたま印刷機を持っていて、顧客となる会社の課題解決をするために、最終的な成果物として印刷物を提供している会社、ということになります。

小田島 その転換は、やはり印刷業界の需要変化があってのことなのでしょうか。

大洞 そうですね。ちょうど弊社で、父から私たち兄弟が事業継承した2004年は、デジタル化の波に伴い、世の中のあらゆるシーンでペーパーレス化が加速していく時代。伝票などは全て手書きで、しかも丼(どんぶり)勘定。まずは社内の仕組みをデジタル化していこうと、ネットワークを組んで整備していく一方で、印刷の価値そのものが変わりつつある時でした。ペーパーレス化がさらに進むのは間違いない。そうすると、いらない印刷物が出てきます。そのいらない印刷物を商売にしていては、未来はない。とてもシンプルな論理で、この現実を受け入れて次の一手を考えたときに、私たちは変化することを選びました。選ばざるを得なかった、と言った方が正しいかもしれません。

小田島 現状維持は衰退につながるので、選択肢としては変化して前に進むしかない、という判断ですね。

大洞 そうですね。たまたま私が大学で情報管理のIT系ビジネスを学んでいたというバックグラウンドもあって、事業継承のタイミングで思い切って方向転換をしようと、まず初めに取り組んだのがECへの参入です。そこで今後もデジタルに置き換えられないであろう印刷物を作っていこうと、販促に使えるキャラクターグッズやノベルティをはじめ、手に取ってフィジカルに楽しめる印刷物など、付加価値のある印刷物を開拓していきました。

 それと同時に印刷業界は、同じように生産性がとても低いという課題がありました。1900年代は、大量生産して、たくさん配って余ったら捨ててしまう。それでも生産が追い付かないほど仕事はあふれていたのですが、どんどん市場がデジタルに取られていく状況で、もはや量を追うビジネスモデルは成り立たなくなってきています。そこで新しい価値をいかに提供するかをビジネスの核心に置き換えたのが、この10年くらいの流れになります。その結果、これまでは接点のなかったさまざまな新しい業種との連携も増えてきました。

小田島 確かにもはや一つの業界で完結できることは少なくて、業種の垣根はあまりないように感じています。価値を提供することは、言い換えれば良質なサービスを提供することで、この思考は全ての業種に共通するビジネスの根幹になるのではないかと思います。

なぜデータ経営は必要なのか

「パーソナライズ化」がビジネスのキーワードに

大洞 ゑびやにデータ経営を導入したのは、どのようなきっかけがあったのでしょうか?

小田島 私はもともと大手IT企業に勤めていて起業しようと考えていたのですが、この妻の実家であるゑびやを継ぐことになり、伊勢に来ました。当時は伊勢神宮という、とても恵まれた立地条件にもかかわらず、経営は厳しい状態。課題は、明らかに生産性が低いことでした。本当に昔ながらの食堂で、大洞さんの話と同じように帳簿などは全て手書き。数字を分析してPDCAを回して改善していこうという発想はなく、デジタルとは無縁の世界でしたね。

 そこで、再生するにしても、まずはいろいろデータをとっていこうというのが改革、そしてEBILABの始まりです。デザイン的な面、サービスの内容を変えていくというプロダクト軸の変革と、その裏側でデータ軸からの変革を進めていくためです。データ軸の変革では、とにかく無駄を削ぎ落とし、効率的に人を呼び込むためにはどうすればよいのか。AIなどを駆使して徹底的に測定してそのデータを4年間くらい蓄積したところでデータを解析。来客予測の仕組みを開発したり、個々の従業員の働き方などを全て「見える化」して働き方を改善したりしていきながら生産性を高めていき、シンプルに“儲かる商売”へと変えていきました。

大洞 大切なのは、そのデータをいかに活用するか、ですね。

小田島 はい。来店する人たちはどのような人なのか、混雑する時間帯はいつか、どういうメニューが当たり、どのように売れていくのか……そうした要因が分かればいろいろな施策を打つことができます。そしてその予測の精度が上がれば上がるほど、成果は確実に上げられます。シンプルに、より良いもの、より良いサービスを提供することを突き詰めていくためには、データが必要だということです。

 またデータドリブンで事業を進めていくことのメリットとして、人に依存しなくなるということが挙げられます。優秀な人材を育成していくことももちろん重要ですが、一方でその結果や成果を出す仕組みが属人化してしまうと継続性がなく、人が変わるたびに仕組みを見直さなければいけなくなります。高い水準で仕組みが平準化されていれば、経営も安定し、強い組織になる。特に量では勝負できない、中小企業にとっては、このデータに基づいた経営は絶対に必要だと思っています。

大洞 シンプルに、より良いもの、より良いサービスを提供することを突き詰めていく思考は全く同じですね。大切なのは、必要なものを、必要としている人に、必要な時に、必要な分だけ提供すること。大量にばらまいて、その中から絞り込んでいくやり方はもう通用しないでしょう。そうした世の中の動きと、印刷業界としてできることを結び付けて考えていくためにも、EBILABが提供しているようなデータ解析のサービスは、必要不可欠になってくるのだと思います。

地方企業と同族経営の課題と思考

成功するために必要なものとは何か?

―― 最後のテーマとして、両社には地方企業と同族経営という共通項があります。この地方からの発信という点において、課題に感じているようなことはありますか?

小田島 基本的にデメリットになるようなことは僕はないと思っています。特に伊勢は観光地という、地方ならではのコンテンツがあってこれを活用すれば、まず家族を養うだけのビジネスモデルはできます。ここからさらに事業を拡大していこうと考えたときに、人財が必要になってきますが、EBILABについては最初から地元で人を採用することは難しいと考えていたので、地元で採用することはしていません。全国、さらに言えば海外の人たちと仕事をする仕組みをつくっていこうと考えていました。

 おそらく皆さんは、この採用の課題がネガティブなポイントとして想像されると思いますが、そこはテクノロジーでクリアできます。東京でやっていたビジネスモデルを、そのまま伊勢に持ってきて展開することも十分に可能で、それを今実践しているところですね。強いて課題を挙げるとすれば、最新の情報はやはり東京に集まりがちなので、そこに行かないと得られない情報があることくらいですね。

大洞 その点は課題というよりも、どうしたって解決できないことですね。ならば、自分たちが変わらなければいけない部分だと考えています。私の場合、東京はもちろんですが、世界に行けば、また違う情報もあるので、できる限りいろいろな場所に行って情報を集めるようにしています。

小田島 そこから活路を見いだすわけですね。

大洞 はい。最新の情報を仕入れることは、経営には絶対に必要な要素です。あとは、経営者の覚悟だと思います。腹のくくり方次第で、未来は変わる。その覚悟を持つために、経営者としては、知識をインプットし続けて情報武装をしておかないと、地方から変革は起こせないでしょう。先行きが不透明な時代に確信を持てないと前に進みづらい状況ではありますが、大洞印刷ではとにかく情報を集めることで、それを自分たちの自信や確信に変えてやってきました。

小田島 全く同感ですね。最近、コンサルなどを通じて感じているのは、特に地方企業の多くが、金融に対するリテラシーが絶対的に低いという問題です。無借金経営の意味を完全にはき違えていて、総資産額と借り入れの差し引きという判断で事業を推進していくのではなく、そもそも銀行からお金を借りたことがないという企業が多いんですね。僕が入る前のゑびやもそうでした。

 新しい取り組みをしたり、変革を起こすならば、現状の資本を前提に考えると前に進めないでしょう。資本がないところでどうするか。本当に会社に余力がないのか。おそらくそこを適切に判断して投資をするための“目利き力”のようなものが、地方企業には少し足りないのではないかと感じています。

成功するために必要なものとは何か?

―― その“目利き力”を身に付けるには、どうすればよいのでしょうか?

小田島 一つは、資本力の問題ではなく、まさに大洞さんがおっしゃっていた覚悟のようなものだと思います。大きな投資をしたことがないし、投資をするためにお金を借りたこともない。それをやるには、かなりの勇気は必要だと思いますが、本当にマインドの問題だと僕は思いますね。その判断をするためにも、データがやはり重要だということです。

―― 同族経営だからこその課題などはありますか?

小田島 僕の場合、義理の父からの事業継承だったのでそれほど同族経営という意識は強くないのですが、基本的な考え方は変わらないと思います。むしろオーナーシップを持って経営ができるので、サラリーマン社長よりも覚悟は持ちやすいのではないかと思うのですが、どうでしょう?

大洞 そうですね。大洞印刷は完全に同族経営になりますが、確かにサラリーマン社長とは違って、全責任は自分たちにあるのでやりやすい面は多いと思います。

 ただ注意しなければいけないのは、重要な経営判断をする際に“家族を守ろう”という考え方が先にきてしまうケースですね。経営者としては、従業員を守る、あるいはステークホルダーを守ることが大切で、自分たちは最後という発想が健全だと思うのですが、同族経営になると多くは自分たちを守ろうという思考が先に出てしまうために、経営判断を誤ってしまうケースが見受けられます。先ほどの資金調達の話でいえば、銀行で事業計画書や決算書を確認する際に公私混同をしていないか、という点を見るという話も聞きました。

小田島 なるほど。やりやすい面もある一方で、家族はやはり大切なので、事業継承などでもその判断は難しいですね。特に何かを変えようというときは、それまで築き上げてきたものをどこかで否定しながらやっていかざるを得ない。時には、結果として親が築き上げてきたものを否定してしまうこともありますが、それこそ覚悟を持ってぶれずに戦っていくしかないなと思います。

成功するために必要なものとは何か?

―― 事業を継承する上でポイントとなる点はありますか?

大洞 私たちは幸いなことに、事業継承のタイミングでいろいろなことを思い切って変えました。事業継承は、伝統を受け継ぐということもありますが、逆に何かを変えるきっかけやチャンスでもあるといえますよね。

小田島 まさにゑびやもそうでしたね。変革という観点からすると、できれば継ぐ人が比較的、若い時に事業継承をした方がいいと私は考えています。経営者はやはり大変で、事業にコミットできる時間は僕はある程度限られていると思っています。しかし、親の世代が長くやり続けてしまうと、子どもたちもどんどん年をとってやる気も失われていくのではないか。そうすると経営判断として、妥協してしまう可能性も出てきてしまいます。だから経営は気力も体力もピークの時に継承した方がいい、というのが私の考え方です。先ほど大洞さんがおっしゃった通り、公私混同は絶対にしてはいけない一方で、やはり家業として一族で守り続けたいという思いもとても大切なので、事業継承はなるべく早く行った方がよいでしょう。

大洞 同感です。あと事業継承と変革するタイミングとしては、経営状態が比較的、良い時に、できる限り早く行動することですね。大きく舵を切るときは、投資などもある程度、スピード感を持って大胆に決断していく必要がありますが、経営が厳しいときはどうしても保守的な判断にならざるを得ないので、決断力も鈍くなりがちです。そのためにも、やはり覚悟が、経営者には大事なのだと思います。事業を継承していくということは、その繰り返しなのだと思います。

【大洞印刷特集】製造業よ、変革に進路を取れ!誇るべき地方中小企業の変革大解剖

【本記事は JBpress が制作しました】

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