2023.03.17

HP Indigo デジタル印刷機 RGB Printコンテスト2022を通じて見る
RGB印刷の展望

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日本HPは、2022年秋に「HP Indigoデジタル印刷機 RGB Printコンテスト2022」を開催し、印刷業界最大規模の国際展示会「IGAS(International Graphic Arts Show)」において受賞作品の展示および授賞式を行った。初開催となる本コンテストは、デジタル印刷を手掛ける4社との協賛で、一般のクリエイターを対象に広く作品を募集。約1ヶ月という短い期間にも関わらず、イラストレーターや同人誌作家などから160点以上もの応募が集まった。本記事では、印刷機メーカーであるHPがクリエイターに直接リーチする狙い、RGB Print受賞作品選出のポイント、協賛各社のRGB印刷への取り組みなど、本コンテストを通してRGB印刷に対するアプローチと今後の展望を明らかにしていく。

1. 印刷の概念を覆す!RGB Printコンテスト開催

印刷で使用される「色材の三原色(CMYK)」は、タブレットやモニター等の電子デバイスで使われる「光の三原色(RGB)」よりも再現できる色の領域が狭い。そのため、画面上では鮮やかに見えていた色が、印刷の仕上がりではくすんで見えてしまうことがあり、CMYKではクリエイターが本来意図した色調を再現しきれないという課題があった。それは、色を光で表現できない以上、印刷表現の限界だと考えられていた。

HPは、CMYKの4色に、HP Indigoエレクトロインキである「ビビッドピンク」と「ビビッドグリーン」を二次色として加えることで色域を広げ、通常では再現不可能なカラーを実現、RGB世界の表現を可能にした。6色印刷によって、より高明度かつ高彩度なピンク、グリーンを表現できるため、特に漫画やイラストなど、鮮やかなカラーが好まれ、小ロット印刷が求められる同人誌業界などで熱い注目を集めている。

今回開催された「HP Indigoデジタル印刷機 RGB Printコンテスト2022」は、HPのRGB印刷技術を多くのクリエイターに知ってもらうこと、そしてRGB印刷品質を活かしたデータ作りをクリエイター自身に体感してもらうことが狙いだ。

本コンテストは、漫画やアニメの同人誌印刷および関連グッズ印刷で多くの実績を誇る株式会社栄光、プリントオン株式会社、大阪印刷株式会社、株式会社クリエイトの4社が協賛。受賞作品の選考は日本HPを含む5社で行い、デザイン、アイデア、ビビッドピンク・ビビッドグリーンの有効活用といった評価基準から、各社が30点満点で項目別に採点した。5社の合計点の最も高い作品が「最優秀賞」、続く2点が「優秀賞」、それ以外の作品から、協賛各社の点数が最も高い4作品が「協賛社賞」に輝き、豪華賞品を獲得。賞にもれた作品についても、先着200作品は無料でRGB印刷して届けるという嬉しい特典が提供された。日本HPは、受賞作品をCMYKの4色とCMYK+ビビッドピンク・ビビッドグリーンの6色の2パターンで印刷し、IGAS会場に展示した。ビビッドピンク・ビビッドグリーンの有無による印刷の違いを実際に見て比較体験できるという試みである。

IGAS2022日本HPブースでRGBコンテスト受賞作品を展示した様子

2. こだわり抜いたアート表現を正確に再現

今回、5社総合で最高得点を獲得した最優秀賞は、透明感のある中、濁りのない鮮やかなピンクと幻想的な美しいグリーンのグラデーションが印象的な作品で、6色印刷の良さが存分に発揮されている。

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最優秀賞 松ぼっくり 氏

最優秀賞に輝いた松ぼっくり氏は、「作品は、印刷を考えてくすみがかったイラストを制作しがちなのですが、今回は液晶映えするようなピンクとグリーンを使って制作しました。印刷された作品を見て、液晶で見たままの思い通りの色が再現されていることに感動しました」と受賞の喜びを語った。

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優秀賞 ナナメ 氏

優秀賞を受賞したナナメ氏の作品は、生命力溢れる生き生きとした鮮明な色使いに圧倒される。「印刷用に描く絵はCMYKが前提になるので、地味になることを想定してポップさやビビッドさを抑えてしまうことが多かったのですが、今回は自分の好きなように描くことができました」と、制約を気にせず描けたことを語った。

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優秀賞 新岡愛梨 氏

同じく優秀賞の新岡愛梨氏の作品は、何といっても艶のある肌の質感とスキントーンの美しさが際立っている。「印刷された作品は、ピンクやグリーンがとても綺麗に出ていて、今後もそういった色使いを意識しながら絵を描いていきたい」とコメントした。

通常、CMYKの色域からはみ出すような発色の良い色ほど、印刷した時のギャップは大きいものだ。色合いによっては画面と印刷で大きく印象が変わってしまうため、これまでは、CMYKで再現できる色域内に抑えようとする意識が働いていたのだろう。RGB印刷によって、CMYKの限界が取り払われ、制約なく自由に描けることは、クリエイターの創造力をより拡げる大きな原動力となろう。

今回、協賛社のうち株式会社栄光、株式会社クリエイト、大阪印刷株式会社の3社から話を聞くことができた。協賛社賞では、同じ評価基準でありながら、各社重視するポイントが異なるのが興味深い。

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栄光は、画面再現に近い表現で、CMYKと比較してピンクとグリーンの差が際立つ作品に着目し、高得点をつけている。一方、クリエイトは青と黄色に着目した。同社は、2022年7月にHP Indigoデジタル印刷機を導入し、CMYKとRGBの違いをテストする中で、ピンクとグリーン以外にも影響が出ることに気づいた。通常青い色は暗く沈みがちだが、RGBで印刷した青は明るく鮮明に表現できる。また、黄色もCMYKよりも鮮やかな色合いを再現できることから、青や黄色をうまく表現した作品に高得点をつけた。賞にはもれたものの、深みのある黒が映える作品もCMYKとは異なる趣があり、社内の評価が高かったという。大阪印刷は、作品の主体となるキャラクターの肌に、CMYKの4色では絶対に出せない色を使って独特の世界観を表現した作品を選出。HP Indigoデジタル印刷機ならではの色合いだと高く評価した。

3. RGBがデジタルネイティブのスタンダードに

広島県に本社を構える株式会社栄光は、1987年から同人誌事業を手掛け、全国のお客様から広く利用されている。同社の企画開発部部長 吉村昭二氏は、RGBの強みについて次のように話した。「作家さんが求めるのは肌色の美しさです。しかしながら、肌色のピンク加減はCMYKでは表現に限界があります。これまでは、蛍光ピンクという特色を使うことで対応してきましたが、少々『わざとらしい』色味になる場合が多いです。それに対してHP Indigoデジタル印刷機の高色域なビビッドピンクはナチュラルで、お客様から非常に高い評価をいただいています。オンデマンド印刷で蛍光ピンクも提供していますが、HP Indigoデジタル印刷機の6色印刷は、明らかにピンク色の映え方が異なります

株式会社栄光 企画開発部 部長 吉村昭二 氏

近年、若手を中心としたクリエイターは、タブレットやPCで作画し、デジタルで入稿する方法が主流だ。一般的に、印刷用の入稿データはCMYKに変換する必要があるが、RGB印刷の場合、データはRGB形式のまま入稿でき、そのまま印刷機にかけることができる。これは、HPのRIPテクノロジーがCMYK+ビビッドピンク・ビビッドグリーンの分版を自動で生成する機能を持つからだ。それ故に、RGB印刷技術は、単に蛍光ピンクなどの特色を加える手法とは一線を画すソリューションだといえる。

「やはり6色分版が簡単にできる点は大きな利点ですね。今はタブレットやスマホなどのデバイスを使われるお客様が多いですから、RGBのまま入稿でき、画面どおりのイメージを紙で再現できることは重要です。とりわけ、デジタルネイティブにとっては、今後RGBがスタンダードになっていくのではないでしょうか」と吉村氏はいう。

オフセット印刷で多色自動分版ソリューションを使用する事例は少なく、デジタル印刷機でも特色ユニットと対応インクがないと実現できないため、HP Indigoデジタル印刷機はこの分野で大きくリードしているといえる。吉村氏は、「元々、CMYKでもHP Indigoデジタル印刷機の品質の高さは際立っています。RGB印刷でさらに高品位な印刷が可能になりますから、オフセット品質が小ロットで手に入るという点を訴求し、色々な分野でチャレンジしていきたいです。特に、当社はクリアファイルなどの透明な素材を使った同人誌のグッズや名刺などの商品展開に力を入れていますので、RGB印刷の強みを活かし、その分野でさらに積極的に拡大していきたいと考えています」と今後の展望について力強く語った。

4. アマチュア作家のRGB文化がプロの世界に波及

大阪印刷株式会社は、同人誌印刷とグッズ製作を手掛ける「おたクラブ」を運営、2023年1月に5台目となるHP Indigoデジタル印刷機を追加導入し、フル稼働させている。同社本部の喜多侑里氏は、「作家さんたちは、印刷物にはCMYKの限界があると諦めていましたが、HP Indigoデジタル印刷機の高色域印刷では、これまで諦めていた色を出せるようになったと喜ばれています」とお客様の評価について語った。

「CMYKでの印刷はどうしても色がくすみがちです。特にオンデマンド機の粉体トナーは、粉を熱で溶かしている分、膜が張るようなベタっとした印象になってしまいますが、HP Indigoデジタル印刷機は、ビビッドピンク・ビビッドグリーンを使用することで、逆に浮かび上がるような立体感溢れる仕上がりになります。作家さんが特に大切にされるのは肌の色ですが、黄みがかったり赤みがかかったりせずに、キレイな肌色になるのがRGB印刷の特徴ですね。また、オンデマンド機では、青が黒っぽくなったり赤みがかったりすることも多いのですが、HP Indigoデジタル印刷機では、ビビッドグリーンが青色をうまく補ってくれるので、画面再現に近い青を表現できていると感じます。

大阪印刷株式会社 喜多侑里 氏

オフセット印刷はロットの大きさから、どうしても「プロのためのもの」というハードルがありました。その点、デジタル印刷機は小ロット・多品種印刷に対応できるので、一般の作家さんが気軽に注文しやすいのも大きなメリットです。また、色々な紙に刷れるので、お客様の様々なご希望を叶えられることも嬉しいポイントです。当社は小部数を印刷されるお客様が多いのですが、近年では、プロのイラストレーターが制作される本や、企業の商品を印刷する際にRGB印刷を依頼されるケースも出てきています。今後は、プロの方の大ロット注文もどんどん受けられるようにしていきたいと考えています」と喜多氏は話した。

多くの場合、どのような分野でもプロのやり方が一般に広がっていくものだが、デジタル印刷機のRGB印刷は、アマチュアの同人誌が火付け役となり、その作品がプロの目に留まることでより広い世界に波及していく、というユニークな展開も期待できる。

5. RGBの世界を紙袋にも

株式会社クリエイトは、同人誌向けのバッグやグッズに特化した「同人用紙袋印刷.jp」を運営する。WEB事業部事業開発室室長の宮本毬代氏は、「デジタルによる無版印刷のスピード感と、高色域印刷のこだわりがうまくマッチしたのがHP Indigoデジタル印刷機だと思います。オンデマンド機では小さな紙袋にとどまっていましたが、HP IndigoではB2サイズを2枚貼り合わせた大きな紙袋を、6色RGB印刷で、かつ小部数に対応できるため、これまでリーチできていなかった潜在ターゲットにも訴求できると思います」と語る。

左から)株式会社クリエイトWEB事業部 事業開発室室長 宮本毬代 氏
Web事業部部長 高野陽子 氏

プロの出版物であれば、大ロットでオフセット印刷が主流だが、同人誌用紙袋では50部、100部など小ロットを求めるユーザーが多い。また、自費で制作するだけに、愛着を持ってこだわり抜いた作品をフルカラーで全面印刷したいという人も多いのだという。オフセット以上の再現を小ロットで展開できる紙袋ソリューションは、製品差別化により、競争優位性を確立している。

「紙袋は歩いてくれる宣伝袋です。街中でも展示会の会場でもとにかく目立ちます。明るい色合いで目をひけば、知らず知らずのうちに宣伝してもらえます。それだけに色や品質に妥協はしたくありません。また、紙袋は、当初の目的を果たした後も再利用してもらいたいという想いがあります。使ってすぐに捨てられるものではなく、自慢したくなるような価値の高い紙袋を作っていきたいです」と宮本氏は言葉を継いだ。

クリエイトのWeb事業部 部長の高野陽子氏は、「同人誌は、ひと足先にRGB印刷によって鮮やかな表現を実現できていましたが、紙袋だけはCMYKというギャップがありました。これでようやく同人誌に追いついたという思いです。今回コンテストの協賛という良い機会を頂いたので、お客様に満足度の高い価値を届けられるよう、CMYKとRGB印刷の違いをしっかりと理解して、その特性に適した提案ができるよう、サービスに反映していきたいと思います」と今後の意気込みを語った。

同人誌の市場規模は、今や800億円規模ともいわれ、代表的な祭典でもあるコミックマーケット(コミケ)は、同人誌愛好家のみならず、コスプレイヤーや有名人も参加するなど盛り上がりを見せる分野だ。2019年には4日間で75万人を動員したコミケは、新型コロナウイルス感染症の拡大によりイベントの中止を余儀なくされたものの、2021年末に2年ぶりに復活、2022年末も12月30日から2日間にわたり、入場制限を設けながら18万人を動員した。近年では、日本発祥の文化として海外各地においてもイベントが開催されるなど国際化が進んでいる。オフラインイベントのガイドラインが緩和し、制約が取り払われた後は、表現の場として、これまで以上の盛り上がりが期待される。

IGAS2022 表彰式の様子。多くの方が表彰式に参加下さり、同コンテストへの注目の高さがうかがえる

6. 最大7版でRGB再現印刷を実現する「Color UP!」も

RGB印刷の対象は同人誌業界だけではない。鮮やかなピンクやグリーンは、特に漫画やイラストで好まれる色彩ではあるが、写真集など実世界のアート表現においてもCMYKの色域を超えた深い色表現が求められるケースが多い。その分野では、RGBを再現するもう一つのHPの技術として「Color Up!(カラーアップ)」が注目されている。これは、物理的に特色を使用するのではなく、RIPの機能により、CMYKのみを使用して、自動で追加の別版を生成して彩度を上げる技術だ。最大CMYK+CMYの7版での印刷が可能で、特色を使用しなくてもトップ濃度を上げることができ、深い色合いを表現できる。CMYKと比較して135%のワイドガモットを再現できるため、従来のCMYKでは再現が困難だった色彩を表現でき、トーンジャンプのない美しいグラデーションに定評がある。印刷物の特性や色合い、雰囲気、こだわるポイントによって、6色印刷または「Color Up!」によるRGB印刷技術の使い分けができれば、満足度の高いサービスに繋がるだろう。

なお、日本HPはデジタル印刷機を販売した後も、お客様が新たなビジネスで利益をあげられるように、お客様に伴走しながら施策を考え、ビジネス開発をサポートしている。最先端の印刷機を導入しても、活かしきれるだろうかと迷われている方には朗報だ。

RGBデータを物理世界に蘇らせるHP Indigoデジタル印刷機。クリエイターのこだわりを余すところなく表現する――印刷の世界ではこれまで叶わなかったことだが、その高いハードルを越えたのがHPのRGB印刷技術だ。それは、印刷業界におけるCMYKの常識を変える契機となるかもしれない。「RGB印刷の体験を一人でも多くのクリエイターに届けたい」、このコンテストにはそういったHPの想いが込められている。デザインやコンセプトに合わせて紙の質感や風合いを選び、思い描いたままの色を紙に載せていく、そんな「デジタルで創り出した世界」を「物理世界」で表現する楽しさや喜びは、きっとクリエイターにとって忘れがたい体験となるはずだ。最先端の技術によって、印刷の価値はまだまだ高めることができる。HPは、これから先もクリエイターの感性に寄り添う価値開発のため邁進を続けていく。この世界、この業界がもっと輝けるために。

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