2021.08.16

印刷会社の既成概念を壊す中本本店
ブランディング×「体験」を起点にした創造的問題解決ラボ”インサツビト”とは?

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 株式会社中本本店は、2019年に創業100周年を迎えた老舗の印刷会社だ。広島県中心部に本社を構え、企画からデザイン、印刷までの制作すべてを手掛けている。長年オフセット枚葉機をメインに使い、カタログやDM、チラシなどの商業印刷物を中心に請け負ってきた。近年は、デザインやブランディング、デジタルコンテンツの制作など、印刷以外の仕事も多く、2018年に「LIGHTS LAB(ライツ・ラボ)」という新しいクリエイティブ部門を社内に創設した。

 その中本本店が、今年5月に新しいタイプのクリエイター向けサービス「インサツビト」を開始した。クリエイターが印刷のプロと対話できる場を提供し、印刷表現の悩みを解決しながら、クリエイターのアイデアをカタチにするサービスだ。印刷物の制作には、インキや紙、印刷機の特性、印刷データなど幅広い知識が必要となる。印刷の発注窓口となる営業だけでは限界があった相談内容を、印刷技能士やオペレーターなど、同社の歴戦のプロたちが印刷コンシェルジュとなってクリエイターの相談に乗る。全国的にも稀なこの付加価値型プリントサービスの神髄を探るため、インサツビトのメンバー4人に話を聞いた。

左から、竹内氏、河村氏、村上氏、木本氏

ゲスト紹介

村上 天康 氏:主にプリプレスで外部データの製版処理から面付け・CTP出力までの仕事に携わり、旧Indigo(HP Indigo 5600デジタル印刷機)の製造担当。今後は、HP Indigo 7Kデジタル印刷機で、プリプレス・DFEなどのプロフェッショナルを目指す。

木本 晃司 氏:オフセットの印刷オペレーターとして、印刷現場で知識と技術を積み、HP Indigo 7Kデジタル印刷機の製造担当へ。今後は、トータルに提案できるプリントコーディネーターを目指す。

竹内 直人 氏:印刷会社所属のグラフィックデザイナーとして紙・印刷・加工に最も近い現場でキャリアを積む。クリエイターとの繋がりを大切にしたネットワークづくり、インサツビトのブランディング、広報活動を担当。

河村 実佳 氏:入社5年目、営業担当。今後は、営業での経験を活かしながら、Indigo 7Kデジタル印刷機を使いこなし、機械も回せる営業を目指す。

HP デジタル印刷機
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―― 中本本店の事業や最近の事例について教えてください。

河村氏: 「中本本店は、地域に根差した印刷会社で、広島県内からの発注が多く、行政、教育機関、一般企業を始め、クライアントの業界は多岐にわたります。最近の事例のひとつに、JR広島駅南口の仮囲いのデザイン制作があります。広島駅は、2020年6月から約5年間、工事のために無機質な壁面で覆われることになりましたが、それを「魅せる仮囲い」として装飾し、さまざまなテーマで広島のストーリーを発信しています。第一弾は「広島の歴史」、第二弾は「広島の酒」ということで、企画・制作を弊社のライツ・ラボが手掛け、広島の玄関を彩っています。

JR広島駅の仮囲い

 また、地域の学校とも密に関わっています。広島市内の中学高校一貫校に対して、オープンスクールに来られる生徒や保護者に学校を知ってもらうためのツールとしてすごろくを企画・提案し、制作しました。楽しく遊びながら学校のことを知ってもらう為に、中高6年間の学校生活や行事を再現しながら、ゲームとして楽しんでもらえるような仕掛けを施したもので、大変好評でした」

すごろく

竹内氏: 「最近では、このようにソフト面の充実を図っています。時代の変化に合わせて、印刷だけの仕事から、徐々に守備範囲を広げてきました。ゼロ段階から企画し、商品開発、ブランディング、デザイン、印刷、納品までを一気通貫してできるのが弊社の強みです。印刷会社の枠から飛び出し、クリエイティブプロダクションの領域で仕事を拡大しています」

 実際、お客様には『中本本店は印刷会社じゃないよね』と言われることも多いという。それが中本本店の強みであり、それをさらに拡大させていく試みがインサツビトなのだろう。

―― インサツビトについて教えてください。

河村氏: 「インサツビトは、今年の5月25日より開始した新しい印刷サービスです。印刷のプロがクリエイターの相談に乗り、HP Indigo 7Kデジタル印刷機という最新鋭の機械で、アイデアをカタチにします。さまざまな用紙に出会い、印刷機にかけ、その場で見て、触れて、色調整をしながらアイデアをブラッシュアップすることができます。豊富なインキや特殊紙を揃えており、思いついたらすぐに1枚からテスト印刷ができるのは、デジタル印刷ならではです」

竹内氏: 「高い印刷技術を提供するだけでは、他社との差別化はできません。中本本店の強みをクリエイティブにフォーカスして調べていくと、デザイナーやクリエイターの方々は、意外と印刷やインキのことを知らないということに気づいたんです。そういった方々は、アイデアを印刷物として表現する上で、悩みや困りごとをうまく解決できないでいました。そんな時、クリエイターと腕の立つ印刷のプロが、職人同士で対話したら面白いのではないかと考え、相談窓口を作ることにしました。「人」がいて、「機械」があり、その人たちが集まれる「場」ができたら、どこにもない三位一体のサービスが生まれ、新しいクリエイティブを共に創れる。そこに自社の強みを発揮できる機会があると考えました」

―― サービスを開始して1ヶ月半ほどですが、どのような活動をされていますか?

竹内氏: 「たとえば、『黒い紙に白インキのみで制作したいが、どんな種類の紙がありますか?』というような具体的な相談を色々とお受けしています。サービス開始時は緊急事態宣言が発令されており、大々的に人を呼ぶことができないでいたのですが、そんな中、6月30日にオンラインでインサツビトのオープンハウスを実施しました。デザイン学校の先生が教室で生徒と視聴してくれたり、後日資料請求の問い合わせがあったり、まずまずの手ごたえでした」

木本氏: 「オープンハウスに参加されて、そのまま会員登録をされた方も複数いました。フリーのクリエイターや学生さん、付き合いのある企業など50名を超える参加者があり、1時間半という長時間にも関わらず、途中離脱者がほぼいないという好結果でした。これから第2回、第3回と続けて、どんどん会員登録を増やしていきたいです」

 オープンハウスでお披露目されたインサツビトのラボは、クリエイターと印刷コンシェルジュが対話をするための交流スペースであると同時に、印刷機を稼働させるデモルームであり、制作物や印刷サンプルを展示するギャラリーでもある。白・黒・グレーを基調とした落ち着いたスペースに、温もりのある暖色の吊り下げライトや木目を活かしたインテリアが置かれ、一見おしゃれなカフェのようにも見える。その広いスペースには、存在感のあるHP社最新鋭の印刷機である「HP Indigo 7Kデジタル印刷機」が堂々と鎮座し、新しいことが始まる期待に胸がわくわくするようなスペースとなっている。

インサツビトの内装

河村氏: 「インサツビトは、まず無料の会員登録をした上で印刷相談、テストプリント、本番印刷などのサービスをご利用いただきます。毎月新しい紙に刷るなどさまざまな試みを実施し、会員さんには優先的にスペシャルコンテンツやメルマガを配信したり、月に1度のペースでセミナーを実施したりする予定です」

 たとえばテストプリントでは、クリエイターが思い描いたアイデアを、数種類の紙で印刷して仕上がりを比べることができる。現在利用可能な用紙は20種類あり、今後対応する用紙をどんどん増やしていく予定だという。フィジカルな場でアイデアをぶつけ合う場ではあるが、遠方の人とはオンラインで相談を実施し、実際の質感や色味の確認のために印刷物を配送するなど柔軟に対応する。ゆくゆくは、クリエイター同士のネットワークを作る交流の場としても発展させたいとしている。

 インサツビトでの印刷技術を支える要となるのが、「HP Indigo 7Kデジタル印刷機」である。本機について少し深掘りしていきたい。

―― インサツビトで、HP Indigo 7Kデジタル印刷機を採用された理由は?

村上氏: 「インサツビトはクリエイターに寄り添い、相談や印刷をしながら進めることが柱となっています。クリエイターがモノを創る上で重要な条件のひとつは、やはり印刷品質です。色々な印刷機を見ましたが、HP Indigo 7Kデジタル印刷機はデジタルオフセットと言われるだけあって、オフセット同等の品質で表現できるのが決め手でした。粉体トナーとは違い、液体トナーならではの高い色の再現性など、デジタル印刷機とオフセット印刷機の良い部分を融合した新しいコンセプトの印刷機だと感じました」

 一般のデジタル印刷機は、粉体トナーに熱を加えて紙に転写するため、紙の質感が変わったり反ったりする課題があるが、HP Indigo 7Kデジタル印刷機は、オフセット印刷機と同様、感光体版胴に粒子径の小さい液体トナーを付着させ、ブランケットに一旦転写することで印刷するため、紙にかかるストレスを軽減でき、紙の風合いを活かした印刷が可能だ。紙になじみやすく、微妙な陰影もつぶれない。エッジもシャープなので小さな文字も読みやすく高画質な印刷が可能だという。

竹内氏: 「特殊紙の風合いを活かす技術と特殊インキによる印刷表現は秀逸です。HP Indigo 7Kデジタル印刷機は、インキや特殊紙など多種多様な対応ができる汎用性の高さが魅力で、オフセットでは刷りにくい特殊な用紙でも刷ることができます。特殊紙にシルバーインキを使って特別感を出したり、透明インキを何層にも重ねて隆起感を出したり、UVライトを当てると光る蛍光インキで特殊効果を出すなど、クリエイターの感性を刺激し、新しい発想を引き出します。ビビッドインキでRGBの色域を再現できるのもいいですね。クリエイターは色々な発想をするので、Indigo 7Kを使いこなせばデザインの幅が広がり、クリエイティブの連鎖が生まれると思います」 

村上氏: 「PODなど他のデジタル印刷機では箔押しなどの後加工ができないことが多く、これまでは加工に応じて数カ所に依頼しなければ成立しなかった制作物も1台で完結するというのも大きな魅力です」

竹内氏: 「厚紙も、弊社の機種は550ミクロンまで対応しているので、パッケージやPOPとしても提案できます。広島県内ですと、お土産や期間限定品などで、ロット数を少なく同シリーズで多品種展開をしたいといったご要望が多くあります。ブランディングやデザインサービスと組み合わせたデジタル印刷によるパッケージ印刷はまさにこのような需要にフィットします」

 印刷仕上がりの比較など、オフセットで使ったことのない紙は実際に刷ってみないとわからないものだが、デジタル印刷は1部ずつ印刷して比較ができる。これまでは値段が高く断念していた紙でも、少ないボリュームでトライできるため、紙の風合いやデザイン性を追求するクリエイティブワークには最適だ。このように、色々な用紙に刷れるメリットを最大限活かし、紙をセレクトする楽しさをクリエイターに実感してもらいたいという。HP Indigo 7Kデジタル印刷機を採用した理由は、「クリエイターのアイデアの具現化を支援する力がある」という点に尽きるのかもしれない。

 品質、多品種、小ロットは重要な要素である一方で、使い勝手や業務効率の向上など、運用上のポイントも忘れてはならない。

木本氏: 「長年オフセットに携わってきましたが、HP Indigo 7Kデジタル印刷機にはカルチャーショックを受けました。色の出し方、トラブルの対処ひとつにしてもオフセットとは全く違います。オフセットでは、用紙をセットし刷版をかけ、あらゆる準備にかかる印刷開始までの時間は約15分、長ければ1時間を要したところ、Indigo 7Kでは一気に短縮されたのが驚きでした」

 印刷のプロとクリエイターが出会うことで、化学反応を起こしたいとするインサツビトは、HP Indigo 7Kデジタル印刷機の特性を活かし、どのような活動に発展していくのだろうか。

竹内氏: 「たとえば、地域情報発信の担い手として面白いフリーペーパーが色々と出ていますが、デジタル印刷ならではの強みを生かして、フリーペーパーの印刷から置く場の提供まで発展的に関われないかなど、さまざまなアイデアを持ち寄って社内で議論しています。また、未来のクリエイターである学生たちの支援もしていきたい。デジタルクリエイターが増加する中、物理的な成果物として印刷物の活用を促進できれば、新しいビジネスが広がるかもしれない。クリエイティブは、単にモノを創るだけではなく、イノベーションを起こして世の中を変える力があると思います」

 中本本店は、最新のテクノロジーを取り入れながら、自身がクリエイティブプロダクションとなり、未来を創造することを目指している。 Indigo導入企業を凌駕する中本本店のクリエイティブ&プリントプロダクションは、従来のオフセット印刷機では実現できない色域表現の広さ、用紙の多様性、出力スピードの速さをリアルタイムで提供することで、クリエイターの創造性を豊かにし、彼らの既成概念を突破させる。これまで、ロット数や価格などであきらめざるを得なかった創作や、どこに相談して良いかわからずに消えた案件もインサツビトならきっと力になってくれるはずだ。

―― 最後に、インサツビトと中本本店の未来をどのように描いているか教えてください。

河村氏: 「私はまだ入社5年目ですが、常に色々なチャレンジができていると感じます。中本本店自体も新しい部署やサービスが生まれ、変わり続けているので、今後も常に新しいことができる場所でありたいです。それが、クリエイターやその先のお客様の期待に応えることにつながると思います」

木本氏: 「インサツビトをブランディングして全国に認知を広めていくのがひとつの目標です。これから先も、色々なプロジェクトを立ち上げて、ひとつずつ成功させ、拡大して行きたいです。広島では、多少は名前が通っている中本本店ですが、今後は県外、東京圏まで名前が知られるくらい発展させていきたいです」

竹内氏: 「やはり人と人との繋がりが大切なので、愛される会社でありたいですね。色々なことに挑戦する中で、何か面白いことをやっているな、と人が集まってくるような、そして、何かあったらインサツビトに相談しようとお客様から思ってもらえるような会社となって、日本全国に名を轟かせたいです」

村上氏: 「中本本店は、会社としてチャレンジしたい人は率先して支援する会社です。インサツビトが立ち上がったのもそういう経緯がありますから、社風を活かしながらクリエイターや色々な人と多くのチャレンジをしていきたいです」

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 印刷会社という枠を飛び越えてクリエイターと向き合い、新しい可能性を模索し続けるインサツビト。曇りなき瞳で新しい挑戦に臨むインサツビトの力は、クリエイターのコミュニティに豊かな体験や感動をもたらすだろう。対話や体感で受ける刺激は、ひらめきとなって新しい創造を生み、世の中に旋風を巻き起こすかもしれない。まさにクリエイティブの力は無限大である。この新しいサービスが、これから先、デジタル印刷を活用したいというクリエイターをどんどん生み出していくことを大いに期待したい。デジタル印刷が産み出すフィジカルな世界に魅了されたクリエイターが世の中に羽ばたけば、それが、物理的な世界とデジタルの世界を融合してクリエイションできる能力へとつながっていく。まだ歩み始めたばかりだが、いずれ、ここ広島のインサツビトが、デジタル印刷を操るクリエイターの聖地として語られる日を楽しみに見守りたい。

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