2020.04.01

印刷業界大変革時代に挑む デジタルとフィジカルのミックス営業手法

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印刷業界は、これまで高度な印刷技術とその強い営業力をもって発展してきた。しかし、1991年バブル経済の崩壊とともにそれまでの右肩上がりが止まり数年間横ばいに転じたあと、1997年からマイナス成長が20年以上にわたって続いている。

出版や商業印刷分野に訪れたデジタル化の潮流により、印刷業界に浸透していた“足で稼ぐ営業スタイル”は、小ロット化のニーズとともにその効率の悪さが課題となり、抜本的な改革が求められている。厳しい戦いが続く印刷会社は、これからどのような営業を進めていけばいいのか。

今回は、会社経営の方針をアナログからデジタルへ大きく舵を切り、業績を伸ばしている株式会社フジプラス、デジタルイノベーショングループ・セールス部長の江藤直軌氏と、株式会社小松総合印刷営業部の塩原実氏に、この20年の市場の変化を振り返りながらどのような営業改革を進めてきたのか、お話を伺った。

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2000年からの20年間。お客様に起きている変化とは?

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株式会社フジプラス デジタルイノベーショングループ セールス部長 江藤直軌氏

商業印刷の土台を支えた大量印刷

大正12年(1923年)、大阪市にて創業した株式会社フジプラス。経営はけっして順風満帆というわけではなかった。昭和42年には経営難から一度は倒産寸前までいったが、再建を託され社長に就任した井戸幹雄氏(現、株式会社フジプラス会長)は、大きな変革を遂行した。

課題が山積されるなか、井戸氏が特に力を入れ着手したのが「技術の遅れを取り戻すこと」。昭和40年代、活版印刷からオフセット印刷へ移行する印刷会社が多いなか、井戸氏は当時としては最先端となるオフセット輪転機の導入を決断。生産力を3倍にまで増強し、現在の商業印刷のベースを確立していったのだ。

当時の彼らの想定通り、大量印刷が求められる時代が到来。先行投資で大きなアドバンテージを持ったフジプラスは、チラシやパンフレット、カタログなど大型案件を受注しながら着実に業績を伸ばしていった。

しかし2000年前後から、さまざまなシーンでデジタル化が進み、印刷業界を取り巻く環境は大きく変わっていった。インターネットの普及とともに、人々の情報収集のツールは新聞や雑誌などからインターネットへと移り、印刷物そのものの需要が激減していったのだ。

「この20年間で、昭和の時代に会社を支えてくれたチラシ印刷の仕事は、ほとんどなくなりました。とくに私たちは新聞の折り込みチラシの印刷を主事業にしていたので、新聞の印刷部数が減っていくのと比例して、私たちの仕事も目に見えるように減っていったのです」と、江藤氏は振り返る。

印刷会社が抱える課題と求められる変化

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(出典:一般社団法人 日本印刷産業連合会「印刷市場の動向」より)

縮小していく市場では価格競争が進み、中小規模の印刷会社は、大手印刷会社や、海外に拠点を置き、安価で大量印刷に対応できる会社に太刀打ちできなくなっていった。一時期は5台あったオフセット輪転機をフル稼働しても追いつかないほどの印刷物を刷っていたが、今では2台に減らしても稼働しないときもあるという。

印刷の需要そのものが減っていったと同時に、印刷業界にとって大きな課題となったのが、お客様の変化だ。1980年代に迎えたバブル景気の時代には、売り上げのトップラインを上げることが多くの企業向け営業職に課せられた時代。89年の流行語「24時間戦えますか」に代表されるように動けば売上げになり、売り上げをあげれば利益がついてくる時代。フジプラスの当時の営業方針は、そんな中でターゲットは絞られても、1社1社の企業と太いパイプをつくり、親交を深め、大量印刷を受注することが求められたという。

「野球で言えばつねにホームランをねらいにいくような営業スタイル。打率は決して高くはないけれど、一発決めれば会社に貢献できました。だから営業は、いかに人脈を獲得できるか。お客様のもとへ足繁く通って信頼を獲得し、深めていくことが営業の本質だと考えられていました。

しかし、今度は2008年のリーマンショック以降、本格的に世の中の景気が悪くなると、そうした大型の受注は激減し、さらに追い討ちをかけるように印刷業界を襲ったデジタル化の波で紙の印刷物が激減。市場は大量印刷を求めなくなり、数ではなく、少ないコストと工数の中でより成果が求められるようになりました。」(フジプラス・江藤氏)

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社会のデジタル化はペーパーレスをさらに加速させ、時代は大量印刷から多種小ロットへ。停滞する経済の中で多くの企業が売上を伸ばすよりも利益を重視する経営へ変わらざるを得ず、そんな世界の中でアナログ印刷はどうしたって向いていない。

「営業が印刷物を受注して単に刷るだけのビジネスだけでは、これからはもう成り立たない。会社が生き残っていくためには経営体質、戦略、営業スタイル、そのすべてを見直さなければならない状況でした。」(フジプラス・江藤氏)

アナログ印刷だけでは未来はない。

課題は明白だった。“アナログ印刷の終焉”は、危機感ではなく、そう遠くない将来に迎える現実である。その現実に直視し、変革に着手するかどうか。フジプラスだけではなく、この20年の間に多くの印刷会社が決断を迫られ続けているのである。

地方から全国展開へ。デジタルシフトを推進する印刷会社の選択

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株式会社小松総合印刷 営業部 塩原実氏

昭和23年、長野県伊那市に創業。地元の商店街のチラシや、折り込みチラシなど、地域社会に根づいた営業で少しずつ売り上げを伸ばして行った小松総合印刷は、多くの印刷会社が変革を求められるなかで思い切った決断をした印刷会社のひとつだ。

2007年、工場の移転をきっかけに、本格的なデジタルシフトへ向けて事業の見直しに着手。その決断の推進力を担ったのが、オフセット輪転機を売却し、インクジェット搭載のインラインUV印刷機を設置、そしてその後HP Indigoの導入へとつながっていく。このインフラの維新に伴い、主力商品をチラシ印刷から圧着DM(ダイレクトメール)へ転換。さらに圧着DMの技術に、個人情報も合わせて印刷するデータドリブンのマーケティング施策を取り入れ、営業方針も大きく変えていったのだ。

「ただ圧着DMをつくっても、それが会社の強みにはなりません。印刷機があれば実現できる商品なので、その中で差別化を図るために私たちは“個人情報”に注目し、ものをつくるだけでなく、一緒に個人情報も合わせて印刷してさらに投かんまで行う、一貫したサービスを確立しました。それが他にはあまりないサービスとして評価され、長野の地元企業だけでなく、全国の企業に営業するようになりました。」(小松総合印刷・塩原氏)

アナログ印刷は、チラシやカタログなど、大量印刷には威力を発揮するが、応用の幅は狭く、商品はある程度限定されてしまうことがデメリットと言われている。それに対してデジタル印刷は、これまでの印刷物の枠にとらわれない、新しい印刷のカタチを創出することができる。さらにアナログでは不可能だった可変印刷にも対応できることは、それまでの印刷に付加価値をつける、大きな変革となった。小松総合印刷が見出した、印刷物のパーソナライズに加えて圧着DMにフォーカスしそれに付帯するサービスを一気に請け負うという選択肢は、“大量印刷から多種小ロットへ”と変わって行った市場ニーズにマッチしたのだ。

これまでの営業スタイルでは、現代の印刷業界は生きていけない

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インターネットが普及した環境の変化は、営業スタイルも大きく変えることになった。足で稼ぎ、かつて会社を支えたという“ホームラン”のような大量印刷は、これからはあまり期待はできない。また、可変印刷やパーソナライズの小ロットは1件あたりの受注金額が少なく、どうしても効率面で割りが合わない。

では、どうすればよいのか。

「もちろん1社1社の顧客と長く、太くお付き合いさせていただくことは大事ですが、これからは新しい顧客の獲得の仕方がこれまでの営業のポイントになってくると考えています。そのためには、タッチポイントとしてインターネットからの問い合わせを増やすことや、展示会やセミナーなどでこちらから積極的に新しい接点をつくることに注力しました。」(フジプラス・江藤氏)

新規顧客の拡大のためには商圏の拡張も重要なテーマとなった。大量印刷から多種小ロットへ市場のニーズが変化していったことで、1顧客の数字は小さくなる。その結果、地元だけの商圏だけでは売り上げを確保できなくなってきたからだ。

対象は県内だけでなく、全国に向けて営業していく必要がある。こうした商圏の拡張は、フジプラスも小松総合印刷も積極的に行ってきた営業戦略だという。インターネットを顧客接点に加えることで商圏の概念も壊し、また営業効率の改善も同時に実現したのである。

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こうした変革の中で、顧客との会話にも変化が生まれてきたという。

「こちらからも新しい付加価値をつけた提案をするなかで、たとえば、『どういう売り方をすれば効果が得られるのか?』『どうしたら消費者に響くのか?』など、価格や納期の話だけではなく、全体的なプロモーションを中心とするマーケティング課題について話す機会が増えていきました。

言い換えれば、さまざまな業界で市場停滞が起こると同時にデジタル化が進んでいくなかで、お客様のマーケティングの意識、リテラシーも確実に上がってきていることが言えます。そうしたお客様とプロモーション全体の話をするためには、私たち自身ももっと取得する情報を増やし、知識を上げていかないといけないと思っています。そのニーズに対して、デジタルを使って、どんなソリューションを提供できるかを考え続けていくことが、これからの課題だと思っています。」(小松総合印刷・塩原氏)

物を売るだけでなく、プロダクトをプロデュースするコンサルティングに近い領域が求められる。顧客が困っていることに対して、どう答えていくか。これからの印刷会社の営業は、プランナーあるいはマーケティングサプライヤーへの変身が求められているのだ。

どのような営業変革を行なっているのか?

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では、今度は個人の変革に加え、どうやってそれを浸透させていくか。両社とも課題となったのは、組織改変だったという。

「デジタルの案件対応を推進しはじめてからソリューショングループを発足しましたが、当時は営業本部のいち組織として設置しました。営業をサポートする、という立ち位置です。しかし、今は営業本部から独立した部署としてデジタルイノベーショングループを発足し、本格的なデジタルトランスフォーメーションの実装を視野に入れたデジタルシフトへの推進を担っています。そのためには印刷の現場だけでなく、会社全体が既成概念にとらわれず、変革を進めていくことが必要です。ただアナログからデジタルへ“変換”するだけでなく、構造そのものを“変革”する覚悟が必要だと考えたのです。」(フジプラス・江藤氏)

「より顧客それぞれにあった営業をするためには、WEBを活用した営業活動が必要です。もう少し具体的に説明すると、私たちの場合、MAを活用した営業活動にシフトしています。データドリブンで顧客の情報をデータベース化し、スコアリングをしていきながらパーソナライズ商材を立案、提案できるように意識と体制を変えてきました。」(小松総合印刷・塩原実氏)

MA導入の最大のメリットは、たとえばDMを出して終わりではなく、DMからトラッキングして顧客の要求を見える化し(スコアリング)、PDCAを回していきながら次の提案に生かせる情報をデータ化できることにある。そうしてデータの蓄積と継続的な顧客へのサポートは、今後ますます求められるようになるだろう。

これからの営業には、“ものづくり”や“印刷物”の提供に加え、さまざまな“体験”を時間軸に沿って提供できるような提案力が求められる。そうしたデジタルマーケティングを駆使した営業が、印刷業界全体に普及・拡大すれば、デジタル印刷のコンテンツ価値そのものも上がってくるはずだ。

デジタル変革しても、変わらないもの

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最後に、デジタルへの変革が実行されていくなか、変わらないものについて伺った。

「営業の本質そのものは、変わらないと思っています。それが何かというと、コミュニケーションです。

DMでスコアリングをしながら顧客の見える化を進めても、メールそのものを読まない人もまだまだ多いのが現状です。そうした方々には、必要に応じてアナログ的に連絡してコンタクトをとって営業するというコミュニケーションをとるしかありません。それにMAなどを活用してどんなにファーストコンタクトは合理化されても、商談を進めていくうえで最終的に大事になってくるのは、やはりコミュニケーション力です。信頼は、知見や提案力だけでは、獲得できないからです。」(フジプラス・江藤)

「これからは個別最適化した新しい付加価値のある提案をするためにも、お客様のニーズをヒアリングから的確に導き出すことが重要です。その細かいニーズは、やはり人対人でのコミュニケーションからでしか聞き出せないのではと思っています。この高いコミュニケーション力は昔も今、変わらないものだと思っています。」(小松総合印刷・塩原氏)

どんなにデジタルトランスフォーメーションが進んでも、最終的には、営業のシーンではやはりコミュニケーション力を中心とする人間力は必要である。またデジタル化が進めば進むほどその比重は増していくものと思われる。相手の状況を察し気持ちに寄り添う姿勢とスキルは、営業にとっていつの時代にも必要なものなのだ。いや、このことは営業だけではなくすべてのビジネスパーソンに求められているのかもしれない。

【本記事は ワンマーケティング が制作しました】

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