2020.09.30

このままでよい?
これからのブランドオーナーと代理店、印刷会社の関係について考える

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新型コロナウイルスの感染拡大から経済活動を再活性化させようと多くのビジネスパーソンが動き出している今、ブランドオーナーやその施策を預かるマーケティング代理店は、昨今のビジネスの変化をどのように受け止めているのか?また、業界のデジタルトランスフォーメーションが急速に加速する中、印刷会社は顧客の変化やブランドの変化を捉え、対応できているのだろうか?2020年9月17日、Tech & Device TV Powered by HPは、ネスレ日本株式会社および株式会社オプトからゲストスピーカーを招き、オンラインライブ番組「ブランドオーナーから見た今後付き合うべき印刷会社とは?」を配信した。ここで議論された内容をもとに、印刷会社が今後どのような形でブランドオーナーやマーケティング代理店と関わっていくべきかを深く考えてみる。

コロナ禍によるビジネスへの影響とこれからの見通し

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全世界、しかも幅広い世代に人気のチョコレート菓子「キットカット」は、言わずと知れたネスレのロングセラー商品だ。海外からの旅行者によるインバウンド需要や国内出張のお土産として購入される機会も多く、ご当地キットカットを代表とするラインアップはコロナ禍で大きな打撃を受けた。その反面、在宅勤務や外出自粛で家にいる時間が長くなり、日常でキットカットを食べるシーンが増え「巣ごもり需要」はぐんぐん伸びているという。環境や生活様式の変化によって商品の需要動向は大きく変わるが、コロナ禍において潜在的なニーズの喚起に成功し、マイナス需要だけでなくプラスを発生させているケースだ。

ネスレ日本(株)の竹内氏は、商品の売れ行きで人々の行動様式やライフスタイルの変化を感じるという。節約を意識する顧客層によって手頃な価格の商品が売れる一方で、買い物の頻度を減らすために大袋の商品も売れるという二極化が起き、ラインアップの両端に位置する商品の需要増が鮮明に顕在化したのだ。日用品におけるEコマースも新しい生活様式として完全に市民権を得た。不安定で不確実な世の中は人々のお金の使い方を変え、さらに買い物の仕方や視点をも変えている。

人々が不要不急の外出を控えることによって減少したビジネスも多い中、「コロナ禍で大事なものは頻度が減っても重みが増す」とデジタルマーケティングエージェンシーである(株)オプトの鈴木氏は語る。また、緊急事態宣言で外出ができなくなり、世の中のデジタル化は一気に進みつつあるという。国を挙げてのデジタル化推進の潮流もあり、企業は言い訳のできない状況に直面しているが、残念ながら経済の落ち込みに影響を受けて二の足を踏んでいる企業も多いのが現状のようだ。

人々のライフスタイルや考え方が環境に合わせて細分化されるにつれ、竹内氏は、ただ単に商品を作って売ることに限界を感じるという。「今後はいかにサービスと商品を一体化できるか、お客様とブランドとの接点をどのように作るかが大切」だと語る。それには、商品起点ではなく、顧客起点で市場のニーズを捉える必要があると考える。

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鈴木氏も、「”as a service” がこれからの時代のキーワード」だと指摘する。物理的な接触機会は減るが、その分重みは増し、体験価値がより重要になる中、デジタルとフィジカルをうまく融合させそれらをサービス化させていくことが企業の成否を握ると考える。企業の目的は物を売ることではなく、顧客の用事解決にコミットするところであり、この実践が “as a service” だという。

モデレーターを務める甲斐氏は、製造業のサービス業への変革は日本全体の課題だと述べている。モノを作るのをやめろというのではなく、顧客起点で顧客満足を第一義的に考え、その一部にものづくりを位置づけることだというが、そのアプローチは一気にサービスから入るのではなく、まずは製品の付帯サービスをうまく取り込みながら、その過程の中で何が優れた体験価値なのかを見極めていくことが重要なのだろう。

消費者に寄り添う商品パッケージやサービスとは

生活様式や購買行動の変化がもたらす影響を議論する中で、今後の商品パッケージについて興味深い考察が交わされている。 竹内氏は、「世界中で最も優れたパッケージはバナナである」という説を例に挙げ、外の皮で中身を守り、見た目にも鮮かで、熟し具合もわかり、食べる時にはむきやすいというバナナのパッケージとしての機能や役割をわかりやすく解説し、その上で、これからのパッケージは、シンプルかつ直観的に中身がわかること、購入前後のネガティブなギャップをなくすことが大切だと語る。売る為に商品の良さを誇張するのではなく、見たまま誤解なくお客様に伝わる嘘のないパッケージに本当の良さを見出す。

また、キットカットは「チョコラボ」というパーソナライズド商品も展開する。結婚や出産の記念写真、ペットの写真などをメッセージと共に自由にパッケージにデザインできるサービスだ。パッケージによって、お客様に食べる喜びのみならず、作る喜び、贈る喜び、飾る喜びをもたらし「体験価値」を高める役割を担っている。

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パッケージはモノを売る為、選んでもらうために重要な役割を果たす。例えば、「缶つま」という商品は紙のスリーブに製品情報が印刷されている。選びやすく、食卓に乗せる時はスリーブを外せば無地の器となり余計な情報が入らない。このような商品は顧客の用事解決を実現していると鈴木氏はいう。さらにレンジで温められればよりパッケージとしての価値が高まるだろう。また、レジ袋が有料化する中、コンビニで6缶パックのビールを購入する際、おつまみを買って一緒に持ち運べるようなパッケージ拡張機能があれば消費者のニーズにマッチするのでは、と自身のアイデアも紹介している。

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環境問題も大きなテーマだ。ネスレは、グローバルで2025年までに包材を100%リサイクル・リユース可能なものにするとコミットし、既に主力製品であるキットカットの外装をプラスチックから紙に変更する取り組みを開始している。身近な商品だからこそ、ただ包装をプラスチックから紙へ変えるだけでなく、紙の外袋を折ってお守りにしたり、季節の塗り絵を楽しんだり、紙の包装の良さを存分に楽しんでもらい、その結果として環境問題への気づきを促すきっかけとなればいい、と竹内氏はいう。

「紙のパッケージは今後増えていくか?コストアップで実際には進まないのでは?」という疑問も出る。実際、プラスチックから紙に変えることで、設備投資や包材のコストは上昇することも多いのだという。しかし、ネスレはトップシェアのリーディングブランドとして、社会的な責任を果たすことに重きを置き、紙に変える決断に至った。キットカットが先陣を切ったことにより、他社にも広がることを期待しているという。すでに成熟化されている市場のこれからは、こうしてビジョンをしっかりもつ企業がカテゴリ全体をリードしながら変化していくのであろう。

環境問題はもはや待ったなしのマスト事項だ。企業は、短期的なプロフィット&ロスだけを見るのではなく、企業活動として何に貢献するべきかを見極め、より中長期的な経営判断をしていくことが要求されていくことだろう。

これからのブランドオーナーとサプライヤーの関係

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次に、企業のマーケティングや商品企画を担当するブランドオーナー、その間に入ってデザインや戦略を一緒に考えるエージェンシー(マーケティング代理店)、そして印刷物などを提供するサプライヤーの関係のあり方を紐解き、印刷業界で働く人への期待を掘り下げていく。

番組内で「今のブランドオーナーやエージェンシーとの関係性に満足しているか?」と問いかけると、「満足している」と答えた視聴者はわずか4%。圧倒的多数が何らかの課題を抱え、改善したいと考えていることが浮き彫りとなった。今、変わらなければならない時が来ている。

甲斐氏は、これからの3者の関係を3つのパターンに整理する。ブランドオーナーに対して、エージェンシーがあらゆる窓口となるOne Stop Solution型、ブランドオーナーを中心に、エージェンシーやサプライヤーがプロジェクトを組んで支援するProject Type型、生活者を軸とし、ブランドオーナーを中心にマーケティングサービスをチームで支えるEnd User Oriented型だ。

現実問題としては、印刷会社がブランドオーナーと話す機会が少ないという声がある。サプライヤーはプロジェクトが進んだ段階で依頼を受けるケースが多いので、まずは、企画の初期段階や仮説検証からチームとして一緒にできるような関係性を作ることが最初の一歩だ。

生活者は突然、そしてどんどん変化する。ブランドオーナーは全ての変化を捉えられるわけではないので、チームそれぞれの得意分野を活かしながらその変化を捉え解決していく形がこれからのスタイルなのかもしれない。その際、生活者のことをどれだけ理解しているかがブランドオーナーに良い影響を与えるだろう。

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ブランドオーナーやエージェンシーは、印刷会社が何をできるのか把握できていないケースも多い。つまり、サプライヤーはどんなことができるのかを積極的に提示することが有効だ。「エージェンシーは広告を出すことが売上につながるが、ブランドオーナーの立場では、それは手段にしかすぎない。生活者のために何ができるのか、本来の目的を踏まえた上で専門性を活かすチームユニットを作っていくべき」と鈴木氏は指摘する。

ブランドオーナーの立場である竹内氏は、「チームで仕事をする際、個々がどのようなマインドセットやモチベーションを持っているかが大切になる。お互いの立場を理解し、何を共有するか、きちんと整理をすべき」と考える。サプライヤーには、自社でできることに限定するのではなく、課題解決のための良い方法や新しいソリューションがあれば、広い視野で積極的に情報発信してほしいという。「関係性を変えるには、お互いにオープンな状態になり、互いにメリットを感じていくこと。会社対会社だけではなく、個人対個人で本音で対峙していくこと。アイデアや提案はいつもウェルカムです」と語る。

デジタルとフィジカルの融合で何ができるのか、どうしたらお客様にワクワクを届けられるのか、会社の枠組みを越えてアイデアをぶつけ合えたらもっと良い関係が築けるかもしれない。お客様に喜ばれる体験価値を共に届けるチームとして、今後印刷会社の変化にかかる期待は大きい。

まとめ - 令和に起こすべき変革に向けて

印刷会社はものづくりのプロとしてこの産業をつくりあげてきた。日本の経済発展へと大きく貢献してきたことは間違いない。ところが、平成の中盤あたりからそれまでのニーズが明らかになくなり別のニーズへと生まれ変わりはじめた。全体を見渡すとこの変化への対応ができていないことが業界の発展を妨げていることはすでに明らかになっているが、なぜだろう?なぜ変化に対応できないのだろう?

その理由を今はまだ個人レベルにおいて危機的な状況を実感できていないから?というひとつの仮説を立ててみた。危機は突然やってくるものである。今から行くよ、とは言ってくれない。ここ10年で我々は東日本大震災と新型コロナウイルスという大きな危機を体験した。このことは危機への対策が個人レベルで必要であることを我々に教えてくれている。ここから今学ばなければならない。

新しい国家はデジタル庁を新設し、全国の小中学校では1人1台のパソコンが来年中に配布される。このことでビジネスパーソンの明日がすぐに変わるわけではないが、少し先に変化が必ず訪れる大きなきかっけになることは間違いない。ビジネスパーソンひとりひとりがこの危機をどれだけ自分事化できるかに令和の経済発展はかかっている。デジタルの特長のひとつはボーダーを簡単に壊せることだ。これを今回のテーマに当てはめて自分事化することができると印刷会社の変革はよい方向へと実現していくのではないだろうか。

これまでのブランドオーナーやマーケティングエージェンシーとの関係にボーダーがあったとするならば、必ずデジタルという言葉と力がそれを壊してくれるはずだ。デジタルの話を切り出してみる。服装を変えてみる。ミーティングのやり方を変えてみる。自分のこれまでのキャリアの話をしてみる。なんでもよい。新しい関係性構築への第1歩として、自分事化された危機感をもとに、全員が勇気をもって自分の行動をひとつ変えることができれば、すべてが変革に向けて動き出すはずである。

記:株式会社日本HP 経営企画本部 甲斐 博一