【藪上 憲二 編】第9回:システム共同化 ガバメントクラウドは何のため?

元自治体キーマンが描く、ICT活用の過去・現在・未来シリーズ

2026-10-20

藪上 憲二氏
藪上 憲二氏

日本のICT活用の進化を決定づけるのは地方自治体だ。国家レベルの施策を実際に運用し、国民へのサービスとして昇華させるのは各自治体の役目でもある。そんな自治体において、ICT活用の進化が著しいケースがいくつかある。そしてその共通項として必ず浮上するのが、特筆すべき人材、いわゆる「キーマン」の存在だ。ここでは各自治体においてキーマンとして活躍し、大事業を達成させてきた人物にそれぞれが思い描くICT活用について語ってもらっている。彼らの考えや軌跡をみることによって、同じ自治体はもちろん、企業、組織にも大きなヒントが得られるはずなので、ぜひ熟読していただきたい。

取材:中山 一弘

藪上 憲二

一般社団法人 日本管理者支援機構
代表理事

藪上 憲二
  • 1979年生まれ、大学卒業後、準大手建設会社入社後、姫路市非常勤職員、気象庁職員、IT企業役員を経て2005年姫路市入職。4年間生活保護ケースワーカとして勤務後、IT部門のシステム管理課(現:デジタル戦略室)へ異動。端末、ネットワーク、セキュリティそれぞれの調達・運用の他、情報系仮想基盤やネットワーク分離の調達・運用も主担当として9年間携わる。その後、教育委員会事務局のIT部門である教育研修課へ異動し、教育委員会におけるGIGAスクール構想に関することを含むIT整備全般を主担当として4年間携わった後退職。(一社)日本管理者支援機構を設立し、自治体や教育委員会の支援に奔走中。保有資格に高度情報技術者(ST、SM、PM、SA、NW、SC)など。

今回のテーマになっているシステム共同化というのは、「ガバメントクラウド」のことを指していると伺っています。これについて、簡単なところからお話しいただけますでしょうか。

藪上

前回はクラウド利用とそのコストや、自治体ごとの事情の違いなどについてお話ししたかと思います。

そういった流れがあったうえで、自治体の情シス担当者も経験値などがそれぞれで大きく異なっているので、ベンダーのお勧めどおりになってしまうようなこともありました。ガバメントクラウドというのは、もともとそれらの問題を解決していくために、システムを共同調達し、高止まりしがちなコストを抑えるために、共通の基盤を全体で利用していこうというコンセプトで始まったものだといえます。政府共通のクラウドサービスとして、セキュアな環境を維持しつつコスト面でも運用しやすいものを目指しています。

参考:ガバメントクラウド(デジタル庁)

これ自体はとてもいい理念だと思っているのですが、当初の予定より遅れている状況にはなっています。理由はいくつもあるのですが、端的にいうと「理念と実態がかけ離れてしまった」という側面もあると思います。

以前、自治体の情報システム担当者などが集まって、研修を受ける機会というのがありました。それはガバメントクラウドが登場する前のことだったのですが、そこでも出てきた話として「自治体が内側から変わるのは難しいので、外圧のようなものがないと難しいこともある」というものがありました。また自治体によっては首長が頻繁に交代することもありますし、情報システムに関する理解がない場合もかなり多くあります。

韓国の事例では、かなり昔の話にはなりますが、通貨危機という外圧もあり、国主導で実行していったということがあったので、うまくいった例として挙げられると思います。日本の場合も検討はされたようですが、地方自治の観点からうまくいかなかったようなところがあると思います。

その結果、ちょっと中途半端となってしまった印象があります、結局のところ「デジタル庁が言ってくるからとりあえずやらざるをえなかった」というような自治体が大半かと思います。

理念は素晴らしかったが、各自治体の実態に合わせたものではなかったということですかね。

藪上

理念先行のため机上の空論といえるようなところもあって、地方の実情に合わせようとすると、最終的に国の思った通りにはいかないこともあります。そういうときに、国が最終的に何というかといえば、「自治体の裁量に任せます」ということになってきます。「地方自治」の観点から、仕方がない部分もあるかとは思うものの、最後の最後まで国が責任を持つというところまで至っていないので、これも「補助金あるある」なのですが「初期費用は出すけどランニングコストまでは面倒見られません」というところもあります。結果として、小さい自治体ほどランニングコストの負担が大きくなってしまったという問題もありました。

国の側でも担当者は変わっていきますし、責任の所在もあいまいという状況があります。デジタル庁が作られたのは良かったのですが、そこから先がうまく形にならなかったような印象があります。政治主導でリーダーシップを発揮しつつやってもらえればまた違ったと思いますが、結局のところ「なんちゃって共同化」のような中途半端な状態になってしまいました。

基本的な法律は国のものなので、当然どこの自治体でも同じですが、それぞれの条例や規則、要綱などに差異があります。この差異を解消しないまま、共同化ということだけを進めてしまったので、あくまでも共同化されたのはインフラ部分だけということになりました。その上で動いているアプリケーションについては、それぞれの自治体で違うカスタマイズが入っているので、実質的にガバメントクラウドはベースを提供しただけの状態になっているということです。

この差異を吸収することができていれば、非効率な部分を解消することもやりやすかったのだと思います。

また、運用管理についても各自治体に専門職がいるわけではないので、それぞれのベンダーに丸投げという状態も多くみられました。

日々の運用管理はクラウド側でやってくれるとしても、そもそも初期設定やカスタマイズなどは一般職員には難しいと思います。そこも含めてクラウドの場合はベンダー任せという状況になってしまうため、コストについても相手の言い値になってしまって交渉の余地がなくなっている場合が非常に多いと思われます。

またスケジュールにも追われてしまって、実際の担当者の負担が余計に大きくなったりして、「オンプレミスの環境を続けていく方が楽だし安かった」と思ってしまう場合もよくあると聞きます。

ガバメントクラウドは全国一斉に移行していくので、現場でいままでオンプレミスだったものを、クラウドのシステムに合わせて移行する作業などでSEが人手不足にもなっています。現状では、そこにもしわ寄せが生じている、という話を聞きます。

まさに「公共事業あるある」のような側面も感じてしまいますが、藪上さんはガバメントクラウドの導入で本当にやるべきだったことは何だとお考えでしょうか。

藪上

本来であればこのタイミングで、可能な限り個別の自治体の業務は切り捨ててしまって、戸籍などのシステムに関しては国が一元管理するなどの改革をしてもよかったと思います。
どの自治体に住んでいても日本人であることに変わりはないので、まずそれを1つのシステムに統一してしまい、各自治体にはそこに住んでいる住民のデータだけを扱える権限を与えるようにすればスマートなシステムにできたはずです。
そういうところに関しては、後出しではありますが今後は実装しようという動きもあるようです。

成功事例として韓国がありましたが、これは通貨危機がきっかけになったと伺いました。そういう「国家的な危機」のように、みんなが共通で問題解決を考えるチャンスがあったのだと思います。日本でもコロナ禍のときなどには、同じような危機感が共有されていたように思いますが、どうしてうまくまとめることができなかったのでしょうか。

藪上

簡単に言えば、「政治的なリーダーシップ不足」に尽きると思います。

どれだけ自治体の首長が頑張っても、日本全体のシステムなどを変えていくことはできません。ある県が県内の市町村に対して、共同調達などを呼びかけてまとめていくことはできますが、都道府県の上のレベルではどうにもできません。

結局、国が補助金を出したり地方交付税を配ったりしているので、そこでリーダーシップを取ってくれないと困るという状況は変わりません。状況にもよりますが、トップダウンで大なたを振るうということもときには必要なのだと思います。

自治体職員の側では、国が「こうしなさい」と言ってくれば従わなければなりません。いまやらなければ予算が出ないと言われれば、やるしかないということになります。

ガバメントクラウドの構想自体は素晴らしいものなので、やり方でもう少し工夫できることがあるのではないかと思っています。

自治体は独立した存在なので、何から何まで国が口を出すことは法的にもできません。しかし、自治事務と法定受託事務は分けて考える必要があると思います。

自治事務については各自治体に任せるとして、法律で定められている法定受託事務だけでも、国に任せられるようなシステムを作ってもいいと思います。

そうすれば少なくとも法定受託事務に関しては、各自治体が個別最適化のような手間をかける必要がなくなります。

またあまり言われないことなのですが、自治体業務の生産性を低下させる要因のひとつとして、「外字」の問題があると思っています。外字は20万字くらいあると言われていますが、点が入る、入らないといった違いについても、異なるシステム間で共通化されていなかったりします。

この外字のための同定作業や、外字に対応していないシステムに入れるためにどうするか、といったことを延々とやってきています。さらに行政側では標準の外字ファイルを導入していても、教育委員会ではまったく別のファイルを使い続けていたといった問題もありました。これも同定作業が行われていないからなのですが、それをやるとなればコストが発生するために、放置されたままになって非効率になっているところもあります。

こういうことがいろいろとあるのですが、どこかのタイミングで全体を通してやるしかありません。自治体の場合は5年か10年ごとくらいに見直しのタイミングがあるのですが、みんなが一斉にやろうということにはなかなかなりません。それこそ、通貨危機レベルのようなことが起きないと、そこまでいかないのかもしれません。

とはいえガバメントクラウドがうまくいけば、本来であれば市民課でも税務課でもそれぞれの担当権限を持つIDでログインすれば、業務に必要な情報を扱うことができるようになります。そうすれば個別にITシステムを導入する必要はありませんし、保守のための人員も少なくすることができます。人手が少ない環境でも、従来の事務作業を滞らせないようにできるという点で、今後の発展に期待したいと思っています。それくらいインパクトのあるシステムなので、様々な問題を乗り越えて進めて欲しいと思います。

なんだかんだ言いながら、いまはまだ国にも余力があるのだと思います。災害の増加や社会的な問題が大きくならないうちに、現状を認識しながらガバメントクラウドについても考えていくべきだと思います。

国産の「さくらのクラウド」などはデータセンターを北海道に置いて、冬の間は冷却のために外気を導入し、夏の間は貯めておいた雪を使うなど、冷却に多くの電力を消費するデータセンターの実情に合わせ、冷却に自然の力を利用して電力の消費を抑え、コストを削減するとともに地球温暖化を防止するという意味でも素晴らしい取り組みであると思います。

参考:さくらのクラウド

外国のクラウドサービスに頼りっきりにするのではなく、こういう国産のサービスの発展にも期待しています。

せっかくのシステムを有効活用できないのは、「もったいない」の一言に尽きます。いつか、ガバメントクラウドがあってよかったと思える日が来てほしいと思います。そのためには、政府に強力なリーダーシップを発揮してもらうとともに、各自治体でもプロジェクトをけん引するキーマンの力を借りながら、取り組みを進めていく必要があるでしょう。自治体が集積している情報は、ある意味で国の宝に等しいものです。十分に活用できる仕組みを整えてほしいと思います。本日はありがとうございました。

連載
  1. 第1回:自治体ICTを動かすキーマンの原点
  2. 第2回:ICTのための予算獲得には「理屈」が必要な訳とは?
  3. 第3回:IT部門は“何でも屋“?自治体におけるIT部門の位置付けを考える
  4. 第4回:他力本願も大いにあり!自治体のIT人材育成を考える
  5. 第5回:なぜ自治体にはIT部門がいくつもあるのか?部門の「壁」の実態を探る
  6. 第6回:マイナンバーの導入と共にあったネットワーク分離とその功罪
  7. 第7回:コロナ禍を通じて一気に進んだ「GIGAスクール構想」と教育ITインフラの大幅な進化、そしてゼロトラストネットワークへ
  8. 第8回:日本の自治体インフラはパブリッククラウド一辺倒で大丈夫!?本当に費用対効果の比較をしているのか!?
  9. 第9回:システム共同化 ガバメントクラウドは何のため?

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