【藪上 憲二 編】第5回:なぜ自治体にはIT部門がいくつもあるのか?部門の「壁」の実態を探る
元自治体キーマンが描く、ICT活用の過去・現在・未来シリーズ
2026-04-27
日本のICT活用の進化を決定づけるのは地方自治体だ。国家レベルの施策を実際に運用し、国民へのサービスとして昇華させるのは各自治体の役目でもある。そんな自治体において、ICT活用の進化が著しいケースがいくつかある。そしてその共通項として必ず浮上するのが、特筆すべき人材、いわゆる「キーマン」の存在だ。ここでは各自治体においてキーマンとして活躍し、大事業を達成させてきた人物にそれぞれが思い描くICT活用について語ってもらっている。彼らの考えや軌跡をみることによって、同じ自治体はもちろん、企業、組織にも大きなヒントが得られるはずなので、ぜひ熟読していただきたい。
取材:中山 一弘
一般社団法人 日本管理者支援機構
代表理事
- 1979年生まれ、大学卒業後、準大手建設会社入社後、姫路市非常勤職員、気象庁職員、IT企業役員を経て2005年姫路市入職。4年間生活保護ケースワーカとして勤務後、IT部門のシステム管理課(現:デジタル戦略室)へ異動。端末、ネットワーク、セキュリティそれぞれの調達・運用の他、情報系仮想基盤やネットワーク分離の調達・運用も主担当として9年間携わる。その後、教育委員会事務局のIT部門である教育研修課へ異動し、教育委員会におけるGIGAスクール構想に関することを含むIT整備全般を主担当として4年間携わった後退職。(一社)日本管理者支援機構を設立し、自治体や教育委員会の支援に奔走中。保有資格に高度情報技術者(ST、SM、PM、SA、NW、SC)など。
首長部局と教育委員会部局の関係
自治体の場合には、ひとくちにIT部門の予算といっても、部署によって異なる建て付けになっていることもあると聞きます。まずそのあたりを整理したいのですが、実際の運用ではどのようになっていることが多いのでしょうか。
分かりやすい例えとして首長部局と教育委員会部局の関係についてお話していきましょう。同じ自治体のなかでも、首長部局の場合はいわゆる総務費にあたるもので、そちらの予算を使用することになります。一方の教育委員会ですが、こちらは教育費に関する予算を執行しているので、そもそも使える予算枠が全然違うということになります。
もともと教育委員会の場合は、任命権者からして異なります。あくまでも予算を執行する場合には市長の名前でやりますが、任命権者は教育委員会になるのです。
つまり市長から任命されるわけではないので、私もそうでしたが教育委員会には出向する形になっています。そして逆に市役所などに戻る場合には、出向を解かれて元の職員に戻るということになります。
その意味では、同じ自治体のなかでも縦割りというか、かなり組織的な断絶があるということもいえます。実は教育委員会だけではなく、消防に関する部局なども同じような側面があります。
例えば消防の場合には独自の「指令システム」などがありますが、こうしたITインフラに関しても首長部局のIT部門の手が届かないようなところにあるという認識だったりします。結局、任命権者が違うなどの理由で予算の壁があるために、ITに関する相互の連携が取りにくいような環境だということもいえます。
そもそもの話として、いわゆる本庁のITシステム部門については、市役所全体のなかでの最適化を考えながら進めていくようになっています。しかし、教育委員会はそういう目線ではなくて、主たるやり取りの相手は各学校などになっていくために、あくまでもそのなかでのITシステムなどを考えているということになるのです。
先ほどの消防部局もそうですが、役所全体のシステムを考えているわけではない、といったことも特徴としてあげられると思います。
本来であれば、本庁側のITシステム部門が全体の面倒をみることができればよいのでしょうが、どこの自治体でも概ねこのような体制になっていると思います。
兵庫県内の自治体をみても、本庁側でそういったところを巻き取ってあげられているのは、知る限りでは数団体しかないのが実情だと思います。
ただ、最近の話でいえばGIGAスクール構想が実行に移されたということもあって、IT関連の経験者を急ぎ、教育委員会に配置することでなんとかしのいだというところもあるようです。
また後の回でお話しすることになるとは思いますが、ネットワーク分離などの考え方に関しても、総務省と文科省では感覚が異なるようなところもあって、セキュリティポリシーをうまく統一できていないようなところもあります。
教育委員会では教育職と行政職のタッグが決め手
そういった違いがあるということは、外部からはなかなか分からないことだと思います。教育委員会のなかでも、一般にはあまり知られていないような仕組みなどもあるのでしょうか。
教育委員会のなかにも、教育職と行政職という2つの立場の職員がいます。教育職の場合は、一般的に県職員で学校の先生だった人が、いったん退職して市の教育委員会に採用されるという形を取ります。そこから現場に戻る場合には、再び県職員になって学校現場などに行くことになります。
それに対して行政職の方は、市役所などの職員が出向する形になっているので、異なる出自の職員や仕事が混在していることになるのです。
行政職の場合にはLGWANを使うようなこともあり総務省のセキュリティポリシーに従いますが、教育職の場合は文科省側のセキュリティポリシーに従うといったように混在してややこしいことになりがちです。
一般行政職という視点でいうと、市全体の職員数と比較すれば教育委員会にいる職員数というのは少ないものになります。通常は全体からみると10%もいない程度だと思います。そして教育職には先生方がいらっしゃいますが、最近ではIT関係に詳しい方も増えています。ただ、自治体全体の予算に関しては、当然ですがよく知らないということも多いものです。
逆に行政職の場合はIT関連の知識があっても、教育現場のことを知らないということもよくあります。
つまり、ITシステムなどをうまく構築していくためには、行政職である程度詳しい人間と、教育職である程度詳しい人間がタッグを組んでいく必要があるのです。そういう意味では、二重の難しさもあると感じています。特にネットワークの最適化をしようとする場合など、結局は市で全体の調達をしていたりするので、そのあたりも教育委員会とかみ合っていないと難しいところもあります。
兵庫県の例でいえば、姫路市などは規模も大きいのでいいのですが、小さな自治体の場合には教育委員会に行政職しかいなくて、現場のことがわかる教育職がいなかったりすることもあります。そうなってしまうと、少ない前例や業者の勧めるままになってしまうようなこともあるので、なかなかIT関連のことも進まなくなってしまいがちです。
私が姫路市役所にいた頃の話をすると、私が教育委員会に異動になった時に、ある指導主事の先生(学校現場から教育委員会に出向すると、指導主事と呼ばれます)がITの知識も豊富で、現場にいたときは事例になるなど、デジタル教育にも非常に前向きな方でした。市の予算のことは私がよく理解していますし、学校現場のことはその先生がよく知っています。その方と知り合ってからは、まさに二人三脚でデジタル化を推し進めることができました。
そうした実例からもわかるように、必要になってくるのは人材交流だと思います。わたしは運がよかったですが、多くの自治体の担当者にとって必ずしもそのような出会いがあるわけではないと思います。
少ない担当者だけでは、どうしてもITに詳しい人を集めるようなことはできません。GIGAスクール構想によって学校側のリテラシーの底上げにはなっていますが、それだけでは今のところ不十分です。自治体や学校現場など、内部での人事交流はもちろんですが、お互いに自由に意見を言い合えるような関係も大切です。外部からの人材登用ということもあるでしょう。
最近のトレンドとしては、本庁の側からある程度ITに詳しい人間を、教育委員会に送り出す流れも一般的になってきています。そのほか、指導主事として教育委員会に来てもらう際に、あらかじめ目星をつけておいて一本釣りするようなことも進めているような事例もあります。これは他の自治体でも、多かれ少なかれ見聞きするようなことでもあります。
もちろん教育委員会の側からも、本庁の人事部局に「ITに詳しい人を1人でもいいから送り込んでくれ」というようなことを、双方の思いが合体して力を発揮してもらうようなこともあるので、ぜひどこの自治体にもこのような意識を持ってもらえたらと思います。
予算がなくては改革ができない
特にIT関連の話になってくると、市の統一見解や計画などに従わないと、予算の獲得も難しくなりそうですよね。
結局のところ市全体の予算の問題がありますし、少ない予算でやりくりしようとして、個別の学校単位で進めていくのも難しいことがあります。特に公教育では平等性が求められるので、どこかの学校だけ飛び抜けてIT環境を整備することもやりづらいのです。
本来であればどこか頑張っている学校に重点的に予算を付けて、先進事例のような形を作ってから横に展開していければよいのですが、そうなると他校や父兄などから不満が出てくることもあります。そのあたりにも気を配りながらなので、なかなか大変なところもあるのです。IT化を進めるにしても、ある程度はその現場にいる人のやる気などに左右される部分もあるので、そういう場合にやる気をつぶさないようにする配慮も求められてきます。
予算を獲得する場合、実は担当者の熱意ややる気も大きく影響することがあります。例えば電子黒板を導入したいというときや、これだけのスペックのパソコンが必要だと財政当局に説明する際に、論理的な説明ができると同時に、熱意を持っていればそれだけ説得しやすくなります。ただ、先生だけでは熱意先行で、論理が不足している場合も多々ありますので、しっかりと行政職が理論面で武装することも重要となります。
各学校に配備するとなればそれなりに予算規模も大きくなるので、実はこれも重要なポイントのひとつなのです。ここでも現場で必要性を実感している教育職と、それを本庁側につなげる行政職の熱い思いのようなものがうまく合わされば、より効果的になってきます。
この企画のテーマにもなっていますが、自治体にも教育現場にもそれぞれ熱意があるキーマン的な人がいると、物事の進み方が大きく変わってきます。そういったやる気のある人材をどのように配置するか、やる気を削がないようにするにはどうすればよいか考えなくてはいけません。
昔からよくいわれることですが、役所にはどうしてもセクショナリズムのようなものがあって、部局の垣根を越えるのはなかなか難しいこともあります。もしかすると、情報インフラなどについてはすべて本庁側で面倒を見る体制を作って、先生は本当に教育現場だけのことをやるというように、あくまでもインフラに関してはプロが関与しますというようにした方がよいのかもしれません。
実際に最近ではそういう自治体もあるようなので、規模にもよりますが注目したいやり方だと思っています。適材適所ということで、お互いに歩み寄りながら整備していくようにすれば教育環境も良くなっていくと思います。
本日はありがとうございました。次回もよろしくお願いします。
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