【藪上 憲二 編】第7回:コロナ禍を通じて一気に進んだ「GIGAスクール構想」と教育ITインフラの大幅な進化、そしてゼロトラストネットワークへ
元自治体キーマンが描く、ICT活用の過去・現在・未来シリーズ
2026-08-03
日本のICT活用の進化を決定づけるのは地方自治体だ。国家レベルの施策を実際に運用し、国民へのサービスとして昇華させるのは各自治体の役目でもある。そんな自治体において、ICT活用の進化が著しいケースがいくつかある。そしてその共通項として必ず浮上するのが、特筆すべき人材、いわゆる「キーマン」の存在だ。ここでは各自治体においてキーマンとして活躍し、大事業を達成させてきた人物にそれぞれが思い描くICT活用について語ってもらっている。彼らの考えや軌跡をみることによって、同じ自治体はもちろん、企業、組織にも大きなヒントが得られるはずなので、ぜひ熟読していただきたい。
取材:中山 一弘
一般社団法人 日本管理者支援機構
代表理事
- 1979年生まれ、大学卒業後、準大手建設会社入社後、姫路市非常勤職員、気象庁職員、IT企業役員を経て2005年姫路市入職。4年間生活保護ケースワーカとして勤務後、IT部門のシステム管理課(現:デジタル戦略室)へ異動。端末、ネットワーク、セキュリティそれぞれの調達・運用の他、情報系仮想基盤やネットワーク分離の調達・運用も主担当として9年間携わる。その後、教育委員会事務局のIT部門である教育研修課へ異動し、教育委員会におけるGIGAスクール構想に関することを含むIT整備全般を主担当として4年間携わった後退職。(一社)日本管理者支援機構を設立し、自治体や教育委員会の支援に奔走中。保有資格に高度情報技術者(ST、SM、PM、SA、NW、SC)など。
コロナ禍以前までの学校のICT
実際の学校のICT化の現在地点はどうなっているのでしょう?私が知るところでは、コロナ禍に始まったGIGAスクール構想が、教育現場のICT化に大きく影響したように思います。
私が本庁のデジタル部門から教育委員会に出向したときはまだコロナ禍前でしたので、学校現場への各種IT機器の導入についてもこれからというような時期でした。その時点でもデジタル活用ということは言われていたのですが、当然のようにひとり1台の端末にはなっていませんでしたし、当時で言えば電子黒板などもそれほど普及はしていない状況で、姫路市では中学校こそ既に導入されていましたが、小学校はまだの状況、無線LAN環境も普及していなくて、それらについてもこれからというような状況でした。
一部タブレットPCを取り入れるなどしていましたが、補助金なども含めて国の強い後押しがないと、財政当局の査定では予算がなかなかつかないため、学校現場のデジタル化は進まないと感じましたね。よく言われるのですが、デジタル化に関しては「自治体は10年遅れていて、学校現場はさらにそこから10年遅れている」というような状況でした。つまり民間と比較すれば20年遅れているということです。
当時在籍していた姫路市では先進的なところを目指そうという目標があって、様々な調達も行っていました。私が最初に取り組んだのは、まずは職員室のWi-Fi導入による先生方の働き方改革でした。有線LANが先生方を職員室の机に縛り付けている(他にも異動時の席替えでよくループさせる)ことから、まずは無線化を目指した格好です。無線化の予算があったわけではありませんが、端末の更新に合わせ、調達を工夫して無線LANをうまく組み込んで導入することができました。
といっても、実際に動けたのはごく一部の自治体であって、全国的にはこのような動きはまだ見られなかった頃の話です。その状況を打破するために、補助金を入れながら複数年かけてひとり1台の端末を実現していこうという動きが出始めました。
コロナ禍で一気に進んだGIGAスクール
このときのひとり1台端末の実現は当初5年計画を考えていましたが、コロナ禍が発生したことによって、この状況は急激に変化することになります。複数年度かけていくはずのことが、急に「いますぐ調達しなければ」ということになったのです。
私たちの場合は、職員室を無線化した翌年、コロナ禍の前年度に、当時導入していた Windows タブレット端末の更新時において、多少議論はありましたが、Windows 端末から Chromebook に替えてを3300台調達したという実績がありましたが、このとき多くの自治体では端末のOSをどうするのか急いで検討しなければなりませんでした。Chromebook か iPad か Windows か、どこの団体でも難しい議論になったと思います。
姫路市では Chromebook を導入した実績があったので、もうこれで行こうという決断はすぐにできたので、割と早く調達までこぎ着けることができました。
ちょうどその時期のことですが、ネットワークに関する部分、とりわけ無線化についての補助金は対象外と言われていましたが、GIGAスクール構想が実際に始まったことでネットワークが必須となりました。実は私たちは先行していたことで、その補助金を活用し損ねた部分もあるのですが、過渡期にはこういったすれ違いも起こり得るというのも教訓となりました。
さらにネットワーク環境を導入すれば、すぐにリモート授業がうまくいくかといえばそんなことはありません。当時、全国の教育現場では大変混乱したと思いますし、結局整備しても使われないというような自治体もあったのも事実です。
姫路市の場合は、他団体と比較すればけっこううまくやれていた方だとは思いますが、活用していくにはやはり時間がかかりました。実際の現場を見ても、学校や先生方の姿勢によって、活用度に大きな差が出ていたと思います。
急激なインフラの変化もあるでしょうし、それをどう活用するかで差が出てくれば、現場での戸惑いも大きかったのではないでしょうか。
もちろん戸惑いはありましたし、小学校と中学校でも温度差がかなりあったと思います。どちらかというと、小学校の方が一気に進んでいった感じがありました。中学校の方は、やはり一斉授業というイメージが強くて、それを実現するだけのネットワーク環境もすぐには整いませんでしたし、生徒が一斉につなぐと動かなくなったりするなどの問題も頻発したようでした。
コロナ禍でGIGAスクール構想の第1期は急激に全国的に広がることになりました。いやが応でも使わなければいけなくなったのが正直なところだとは思います。第1期は本当にバタバタの中で始まって、落ち着いてきたらもう第2期ということで、体感としてはかなり近い時期に継続していったことになると思います。とはいえ、GIGAスクール第1期と第2期については、フェーズとしては大きく異なっていたと考えています。
第1期はとにかく導入して使い始めるという基礎を構築する期間で、第2期になると「どう使っていくか」が中心になってきたと思います。その意味では第2期になって、ようやく本来のGIGAスクール構想の目的に近づいてきたのではないでしょうか。
文科省としてはもっと早く進めたかったのかもしれませんが、例えばデジタル教科書にしても第2期で全面的に移行するのは難しいと思っており、現にそのようになっている状況です。おそらく第3期があれば、そこでやっと一般化できるような状況だと思います。第1期と現在の第2期を振り返れば、コロナ禍という特殊な状況もあったことで、本当に駆け抜けたというようなイメージがあります。
ゼロトラストへの流れと働き方改革
コロナ禍を経験したことでネットワーク環境のセキュリティもゼロトラストへ大きく舵を切ったということになるかと思います。現場の先生方などに関しては、このあたりの意識の変化はどのようなものだったのでしょうか。
実際に現場の先生方がどう思っているかといえば、ゼロトラストかどうかなどの意識はあまりないかもしれません。ゼロトラストが必要になってくるというのも、結局のところGIGAスクールがパブリッククラウドを前提にしていて、概ね Microsoft 365 を使うのか Google Workspace を使うのかというどちらかになっている実情があるからです。パブリッククラウドですから、インターネット接続が前提となるので、ゼロトラストの考え方になるのも当然だと思います。
現場からセキュリティに関する要望があるからということではなく、国の方針としてゼロトラストのネットワーク環境にしていかなければならない、ということで進められていることだと思います。
教育委員会の立場とすれば、国がセキュリティポリシーをそう定めているのであれば、それに従ってゼロトラストの環境を構築しなければなりません。各自治体は更新のタイミングにあわせて、順次ゼロトラストの環境に近づけていくことになります。
以前、三層分離が推奨されていた時期もあったのですが、結果として校務系・外部接続系・学習系の3つに分けて構築してしまったところは、またゼロトラストの環境に変えることになって、労力が無駄になったようなことを感じることもあったかもしれません。
ゼロトラストが推奨されだしてから2~3年経ったところですが、一度に全体を変更するのはなかなか難しい話です。例えばファイルの取り扱いひとつ取ってみても、クラウドに変えた場合、安全性を保ちながらの運用では、管理が追いつかないという問題も起こりがちです。
とはいえゼロトラストの方向へシフトしていくことは間違いありませんから、教育委員会としては、現場にどう説明していけばよいのか、あるいは働き方改革を進めたとして自宅での作業などをどうするのかなど、セキュリティを意識した運用についてもすり合わせていく必要があります。
現場の先生方はそのあたりを意識していないということでしたが、GIGAスクール第1期から第2期で、働き方などで目立った変化はあったのでしょうか。
大きなところでいうと、児童・生徒に対する連絡が基本的にデジタルツールで行われるようになったということがあります。
例えば欠席の連絡を端末を使って行うことで、電話対応が必要なくなったというようなことがあります。また、連絡帳がこれまでは紙でしたが、デジタル化によってすぐ配布できるようにしたなどということもありました。さらにひとり1台の端末が行き渡ったことで、テストの結果もデジタル化して返すなど、紙ベースの仕事が減ってきたということもあると思います。
デジタル化による先生方の負担軽減はもちろんですが、それ以外にも中学校では部活動の地域化なども含めて、制度面での改革もされているところです。また自宅で作業することの是非はありますが、先生も Chromebook を使うことで自宅でも Google Workspace 上で教材の作成ができるなど、いつまでも学校に残っていなくてもよくなってきたということもあるでしょう。
国も多額の補助金を出して進めてきたために、最近では会計監査も着目点が変わってきました。従来は不正がないかとか、手続き的なところを重点的に見ている印象でしたが、現在では「ちゃんと目標が達成されているか」というところも厳しくチェックするようになっています。
これからGIGAスクール第3期に進むことになれば、その中心はフルデジタル教科書の環境に近づくと思っています。もちろん、小学校の1~2年生などでは紙と鉛筆を使って、文字を書くことを教えていく必要があるということもあります。それでも3年生以上になってくれば、教科書はかなりの部分でデジタル化されて紙のものが不要になる環境が近づくと思います。そうなると、ランドセルの中身が重すぎる点についても解消されてくることが期待されます。
さらに第3期になれば、各自治体が使っている校務支援システムなどが県域レベルで共通化されたりして、データの可視化などもしやすくなってくると思います。そうすれば県内で転校するような場合でも、児童・生徒のフォローがよりやりやすくなります。
いったん進歩が始まれば、「次はこういうことがしたい」というニーズも新たに生まれてきます。最近よく言われているのが、児童・生徒の心の健康状態の把握に端末を役立てたいというようなことです。昔はそんな概念はなかったので、やはり子どもたちに寄り添うという意味でも、行政サービスや学校現場での対応が拡充されていくのだと思います。
先生方の働き方改革で余裕が生まれたからこそ、こういったところに目を向けていくことができるようになったのではないでしょうか。先生に関しては昔のように「先生が何かを教える」のではなくて、「児童・生徒にいかに自分で学ばせていくか」という能力が求められるようになってくるのだと思います。
本日はありがとうございました。
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