【谷 正友 編】第8回:世界から見た日本のGIGAスクール ~韓国・台湾での登壇で見えた現在地と未来~

元自治体キーマンが描く、ICT活用の過去・現在・未来シリーズ

2026-08-13

校務DXとデータ利活用
校務DXとデータ利活用

日本のICT活用の進化を決定づけるのは地方自治体だ。国家レベルの施策を実際に運用し、国民へのサービスとして昇華させるのは各自治体の役目でもある。そんな自治体において、ICT活用の進化が著しいケースがいくつかある。そしてその共通項として必ず浮上するのが、特筆すべき人材、いわゆる「キーマン」の存在だ。ここでは各自治体においてキーマンとして活躍し、大事業を達成させてきた人物にそれぞれが思い描くICT活用について語ってもらっている。彼らの考えや軌跡をみることによって、同じ自治体はもちろん、企業、組織にも大きなヒントが得られるはずなので、ぜひ熟読していただきたい。

取材:中山 一弘

今回は「世界から見た日本のGIGAスクール」というテーマですが、谷さんはこれまで海外でもいろいろな経験をされてきたのでしょうか。

海外に関しては、ここ数年ですごく出かけるようになってきました。しかし、その前の10年間などは、パスポートを更新したけれどもどこにも行かなかったようなこともあったくらいで、それくらい海外との距離感があったと思います。

GIGAスクール構想が始まったときは、奈良県や奈良市でいろいろと面白い試みもさせてもらったというのはこれまでもご紹介した通りですが、実はその頃に Google さんともつながりができました。

Google さんのような大きなテック企業というのは、年に数回自社イベントを開催していると思いますが、コロナ禍の当時はリアルの会場が使えなかったため、時差にあわせてオンラインでつないでいく世界一周イベントのようなものがありました。

そのイベントにお声がけいただいて、当時のデジタル政策を担当されていた大臣などもオンラインで出席されている場で話をする機会をいただき、日本のGIGAスクールや奈良市でのコロナ禍におけるオンラインでの取り組みなどを紹介することができました。

次の機会は、コロナ禍も収まってきた頃で、Google さんから韓国の教育関係のイベントに来てくださいとご招待されて、お話しすることになりました。

どのようなテーマで講演したのですか?

韓国でどのようなお話をすればよいかご相談したのですが、その時は奈良市や奈良県でやっていたGoogle Workspace や Google の製品やサービスを活用したセキュリティと利便性の両立に関する事例などを中心にしてほしいということになりました。結果的に、これに関してはご好評をいただくことになりました。

当時としては、ゼロトラストでネットワークを統合して、先生方が仕事しやすい環境をシンプルに構築しようというのはまだまだ少ない状況だったので、そういったお話が注目を集めた面もあると思います。訪韓時には韓国の先進的な事例などもたくさん紹介していただきました。ソウル市内の学校を見学させてもらうなど、得るものがたくさんありました。

その時、韓国の関係者たちから、日本のGIGAスクール構想の「1人1台の端末」を地域によらず全国的な取り組みとして実現しているということが、非常にうらやましいと言われました。韓国もICTに関しては積極的で先進的な国なのですが、それでも1人1台の端末は実現できていませんでした。現状では3人に1台くらいあればいい方だいう状況だったのです。

もっとも韓国はその後、「AIデジタル教科書」という国家プロジェクトで端末配備と学習のデジタル化を一気に進めようとしました。ところが政権交代を経て、AIデジタル教科書を「教科書」から補助的な「教育資料」へ位置づけ直す法改正が行われるなど、政策は大きく揺れています。デジタルに積極的な韓国でさえ、学びのデジタル化の位置づけをめぐって試行錯誤を続けているのです。

ともあれ十数年ぶりに海外に行ったわけですが、続けて台湾に行く機会がありました。台湾では、日本が目指す1人1台の端末という環境に関して、どのような状況なのか興味があるということで、私にそういう話をしてほしいという依頼をいただき、お声がけいただいたという感じでした。

そこでは日本でGIGAスクール構想が始まったきっかけや、その社会的背景などからお話しして、1人1台の端末を実現することで子どもたちがデジタルにしっかり馴染んでいくことや、それを活用した新たな学びに踏み出しているというようなことをお話ししました。

台湾でのイベント時に来場されていたのは、台湾の他には韓国や中国本土、さらに香港・シンガポール・オーストラリアの方などもいらっしゃったと思います。当時は生成AIもいまほど簡単には扱えなかったので、苦労して英語の資料を作成して対応しました。

台湾での講演はそれぞれ母国語でいいということになっていたので、私は日本語で話してそれを英語や参加者の国の言語に翻訳する多言語の環境で聞いていただきました。

そこでは質問なども出るのですが、台湾スタイルというか巨大なモニターだけがある環境で、机も台もないような場所だったのでちょっと勝手が違って戸惑いました。いまならもっと上手にしゃべれると思うのですが、まだそういうイベントにも慣れていなかったので、心臓がバクバクする中でなんとかこなしたという記憶があります。

そこで質問されたのは、やはり「本当にひとり1台の端末があるのか?」ということが多かったと思います。また1人1台の端末に関して、その効果が本当にあるのかという疑問もありました。

実は台湾は日本より進んでいる部分もあって、教科・領域・単元というものにあわせて系統があります。日本の算数で例えると、ある領域を学んだら別の領域に進み、しばらくしてまた最初の領域に戻って一段レベルの高い内容を学ぶ、というスパイラル型で積み上げていくスタイルです。

台湾ではこのようにすることで、デジタル地図のような形で結果を表していて、子どもたちがどのような領域・単元をしっかり身につけているかというのを見える化しています。教育部が提供する「因材網」と呼ばれる学習プラットフォームがその代表例です。これは画面で見ることができるので、デジタルを上手に使って子どもたち自身が自分の得意なところ、苦手なところや飛ばしてしまったところなどを、カルテのように把握できる仕組みをすでに運用していました。台湾でも1人1台の端末があった方がいい、という議論はされていて、「生生用平板」という政策で、へき地の学校から優先して端末配備を進めている段階でした。ただ、私が訪れた当時は、全国的な1人1台にはまだ至っていない状況でした。

こうして台湾や韓国の状況も知ることができたのですが、私のなかでいちばん驚いたのは「日本だけじゃなくてみんな迷っているなあ」と実感できたことでした。日本はいろいろな場面で「ガラパゴス」と言われることが多いのですが、こういった点に関しては海外でもあまり変わらないのだなと思いました。

韓国や台湾では、学校の現場も見られたということですが、どういった機材や環境が多かったのでしょうか。

先ほどお話ししたように、まだ1人1台の端末にはなっていないので、数人で1台のパソコンなどを使っているところが多いと思います。そういった環境なので、パソコンもデスクトップタイプが中心だったと思います。

GIGAスクール以前の日本のパソコン教室のようなイメージです。ワークステーションまではいきませんが、ちょっと性能のいいモデルが置かれているという感じでした。電子黒板のようなデバイスも配置されていましたが、特定の教室に固定されていて、他の教室では使えない環境でした。

ただ、こういったところに関しては国ごとに進め方の違いもあると思います。特に東南アジアなどに関しては、新しい技術をどんどん取り入れる気風もあるので、変わるとなれば一気に変わってしまう可能性もあると思います。

2年前に台湾へ行った際、香港やオーストラリアのプレゼンテーションでは、すでに生成AIをテーマにしていました。個別最適化や自己調整といった文脈で、生成AIがどのように使われていくのかが発表されていたので、アンテナ的にはそちらの方が進んでいるような気もします。

私はその後、マレーシア・ロンドン・ブラジルで開催された展示会などにも行きましたが、やはり生成AIに関する向き合い方というのは、国柄なのかそれぞれちょっと違うという印象を受けています。日本ではまだ生成AIが珍しがられている部分がありますが、単に厳しいというより、大人の利用とは切り分けて、子どもの利用は別建てで慎重にルールを設計するという発想が徹底しています。EUのAI法は教育分野のAIをハイリスクに分類していますし、UNESCOは教室での生成AI利用に13歳という最低年齢の目安を示しています。子どもと生成AIの関係は大人向けとは別の議論として扱う――これは国際的にはっきりしてきた流れだと思います。

ヨーロッパの展示会なども行かれたということですが、また違った印象はあったのでしょうか。

ロンドンのイベントに行ったときに同行されたマイクロソフト関係のイベントに同行者が登壇したのですが、やはり向こうでも日本では1人1台の端末になっているということは、知識としてはご存じだという方も多いようです。

そのため、例えばその端末をどのように活用しているのか、学校に行きにくい子どもたちがどのように活用しているのかなどに関して、非常に興味を持って話を聞いてくれます。この点に関しては日本が一歩先を行っているということで、どのような実情になっているのかについての関心の高さを感じます。

端末単体の価格はそれほど高価ではありませんが、国全体となればとんでもない予算規模になるので、ちょっと試してみるというわけにはいきません。その点でも、日本での事例は興味がある人が多いようです。その実践者が登壇するということになれば、みなさん集中して聞いてくれるという感じです。

そういった海外での反響などを、日本にいる先生方が聞けば逆に刺激を受けるようなこともありそうですね。

クアラルンプールで開催されたアジアの展示会に行ったとき、日本の先生が実際の事例を紹介しているのを見る機会がありました。その先生と後でお話ししたのですが、やはり外でこういう話をするのも楽しいという感想をお持ちでした。

また、通訳が間に入ることはもちろん、英語で直接お話をすることもあるのですが、いずれにしても普段と異なる言語でやり取りすることになります。そうすると、自然に自分のやってきたことを再整理して、話す内容を考えることになります。

自分のこれまでの行動の再整理と、相手からのフィードバックが得られるので、講演をやってよかったと思えるし、自分自身の成長にも役立つという感想だったようです。さらにその経験を学校に持ち帰り、勤務校の先生方や子どもたちに伝えることもできます。

先生が体験した話題は子どもたちが外に目を向けるきっかけにもなるでしょうし、将来、外国に行ってみようという気持ちを持つようになるかもしれません。いまの枠組みから飛び出し、新たなものを生み出す側になれるきっかけにもなるかもしれません。

国内にずっといたら気づかないことも、仮に旅行でもいいから外国に行ってみればわかることもあるかもしれないと思います。大学生くらいになれば自分で行けるようになると思うので、プライスレスな価値を求めてぜひ世界を体験してもらいたいと思います。

本日はありがとうございました。

連載
  1. 第1回:奈良発GIGA先行と県域共同調達の舞台裏
  2. 第2回:奈良市が実践した「1人1台」が成功した理由とは?
  3. 第3回:なぜあの時、奈良県は成功したのか?GIGA端末の共同調達実現への道筋を振り返る
  4. 第4回:ネットワーク分離?ゼロトラスト?ネットワークの在り方で悩む教育現場の現状と対策
  5. 第5回:校務DXとデータ利活用 ~ダッシュボードが見せる「新しい学校のカタチ」~
  6. 第6回:「明るい不登校」という選択肢 ~ICTが拓く、誰一人取り残されない学びの保障~
  7. 第7回:デジタル・シティズンシップ教育への転換 ~「禁止」から「活用」のルールメイキングへ~
  8. 第8回:世界から見た日本のGIGAスクール ~韓国・台湾での登壇で見えた現在地と未来~

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