【谷 正友 編】第5回:校務DXとデータ利活用 ~ダッシュボードが見せる「新しい学校のカタチ」~
元自治体キーマンが描く、ICT活用の過去・現在・未来シリーズ
2026-04-27
日本のICT活用の進化を決定づけるのは地方自治体だ。国家レベルの施策を実際に運用し、国民へのサービスとして昇華させるのは各自治体の役目でもある。そんな自治体において、ICT活用の進化が著しいケースがいくつかある。そしてその共通項として必ず浮上するのが、特筆すべき人材、いわゆる「キーマン」の存在だ。ここでは各自治体においてキーマンとして活躍し、大事業を達成させてきた人物にそれぞれが思い描くICT活用について語ってもらっている。彼らの考えや軌跡をみることによって、同じ自治体はもちろん、企業、組織にも大きなヒントが得られるはずなので、ぜひ熟読していただきたい。
取材:中山 一弘
一般社団法人 教育ICT政策支援機構 代表理事
- プロフィール
大手SIer、奈良市役所、奈良市教育委員会を経て、2022年一般社団法人教育ICT政策支援機構を設立、代表理事。全国各地の教育DX推進や県域共同調達、データ利活用、ダッシュボードに関するコーディネータを務める。現在、文部科学省学校DX戦略アドバイザー、総務省地域情報化アドバイザー、富山市教育DX政策監、JDiCE 日本デジタル・シティズンシップ教育研究会理事を務める。
教育現場でのDX化の取り組みと課題
前回はネットワーク分離からゼロトラストへの流れについて、教育現場の特性なども併せてお話しいただきました。環境の整備はできてきたものの、やはり現場の先生方の仕事は大変だと聞きます。校務DXなどということも言われていますが、このあたりについてはどうお考えでしょうか。
「校務DX」ということを文科省も言っているわけですが、最初にこれがどういう意味を持つ言葉なのかを考えるとよいと思います。働き方改革が叫ばれるなかで学校の先生方の仕事のやりにくさであるとか、まだまだ紙文化が根強いなど、これをどう改善していくのか考える必要はあるでしょう。
世間ではデジタル技術も上手に使っていきましょうということで、デジタルトランスフォーメーションすなわちDXが推進されている流れがあって、学校現場は後追いをするだけではなく、一足飛びにきちんとDX化を進めようとしています。そのための基盤としてネットワーク統合などの環境整備があって、校務系と学習系に分かれていたものを一本化することで、デジタルの使いにくさをなくそうとしていることは、前回お話しした通りです。
これを実現するために、現在は文科省もKPI(重要業績評価指標)を定めたり、学校現場ではFAXを使うことをやめたり、保護者や子どもからの欠席の連絡はデジタルを使うといった取り組みが進んでいます。
一方で、現場の先生方からは「デジタル化したら余計に忙しくなった」といった意見も出ています。よくある話なのですが、いままでアナログな作業は何十年もの積み重ねがあって完成されたプロセスがあります。言ってみれば目をつぶっていてもできてしまうようなものなのです。
ところが新しくデジタル化された手順は、まだ数年の経験しかなく、プロセスとしては荒削りな部分も目立ちます。使う道具にしても、パソコンでは使えるけどスマホではできないなど、ちょっとした面倒なことが発生しがちです。また、デジタル化を進めながら、一部はアナログの手順を残しているところがあり、結果的に二度手間のようになっているケースもあります。つまりちょっとした至らなさがあるばかりに、「なんだか窮屈だ」というイメージになっているところがあるのです。
文科省は校務DXに関するチェックリストという集計を公表していますが、そこで点数が高かった自治体や学校の業務負担が減ってみんなが幸せになったかというと、必ずしもそうではないのかもしれません。このような状況では、デジタル化にメリットを感じない先生方が出てきかねません。
昨年あたりにはデジタル庁を中心として文科省や総務省、経産省なども連名で「教育DXロードマップ」というものを発表しています。そこには「12のやめることリスト」というものがあるのですが、私が講演などでこの話をすると、多くの先生方が暗い顔になります。
先生方はとても真面目で、これまで何十年もやってきた仕事のやり方を捨てて、デジタル化へ移行しようとしても、いままでのやり方もしてしまう。仕事を楽にしてくれるはずのデジタル化が、追加の仕事になってしまっているのではないかということです。
ならばアナログな従来のやり方をすべてやめてしまえばよいのではないかということになりますが、そうすると困る人やできない人が出てきてしまうという意見が出てきます。そういうときに私は言うのですが、「そういう人へのサポートは必要だけれども、そのために全員がアナログでも仕事をする体制は必要ないのでは」ということです。
例えば保護者の方で、アナログでないと対応できないという方も当然いらっしゃいます。そういうときは、どういうことができないのかを考えます。いまの小学校や中学校の保護者の方の場合、おじいちゃんおばあちゃんが面倒をみている家庭もありますが、それでも年代的にパソコンやスマホにまったく触れたことがないという方は少ないと思います。
とはいえ、やったことがないことや、初めてのことに抵抗を持つ方はいらっしゃいますし、スマホを持っていてもLINEしかやったことがありません、という方もたくさんいらっしゃるでしょう。連絡ツールをLINEにするという程度であれば、やったことのある方が多いので問題なく受け入れてもらえることもあります。他の手法で、ログインIDやパスワードを使って最初に登録しなければいけないサービスなどをこれから新規で入れるとなると、やはり嫌がられることが多いはずです。
そういう場合には、「1回の手間を惜しまずにきちんとフォローアップしましょう」ということを、私はお伝えしたいと思っています。かなり対象人数は少なくて済むと思いますので、それさえできれば99%はデジタル化にすんなりと対応してもらえると考えます。このような、「割り切りと優しさ」をセットにしていくようなやり方ならば、保護者も含めたDX化というのは一気に進む可能性があると思います。
データの利活用の本当の意味
デジタル化が進んでいけば、いろいろなデータもそこで蓄積されていくことになると思います。教育現場には様々なデータがあると思いますが、その利活用はどのようにしていけばよいのでしょうか。
本来はきちんと目的のために必要なデータを揃えて、不足したデータをどうやって補うかといった議論を持って進めるのですが、試行錯誤の段階においては、集まってきたデータを単純に組み合わせて表にしてみるなど、トライアル的に使ってみるやり方も大事だと思います。ハードルが低い状態で始められるので、細かく目標や達成度を設定するよりも、よほど簡単にデジタル化が進むはずです。こういう仕掛けでやっていけば、文科省が言っているダッシュボード化などに対する労力も減らして進めることができます。
先生方や保護者のみなさんが「デジタル嫌いモード」にならないような仕掛けを考えて、なるべく手間がかからないように移行していけるような工夫をしていくことが必要だと思います。
実際にいま教室で使っているデジタルドリルなども同じことですが、紙のドリルを保護者に買ってもらっているといった理由で移行しづらいこともあります。こうしたようにいままでの仕事の流れで、なんとなく発注してしまっているために紙のままだという例もたくさんあります。
これではクラスによってデジタルドリルをやるクラスとやらないクラスが出てきたりして、データの比較ができず、使いにくくなってしまいます。そうならないために、簡単に使える方法ややり方を工夫して定着させていくことが重要です。
経験の多い先生方ほど教科領域単元の達成度などについて、デジタルデータでの比較をあまりやらないようなこともあります。確かに経験によって、いちいちデータを見なくても子どもたちのことはよく分かるという面はあります。ただ、データ化することによって、これまで比較しにくかったことや把握しにくかったことが可視化されるという側面もあります。
これまでの「記憶と思い出」で仕事をするのではなく、「記録と根拠」に基づいて仕事をするためにデータを使いませんかということを、私は最近先生方と会ったときにもお伝えすることが増えています。
これは学習だけではなく、生活指導などにも応用できることです。例えば先生方それぞれの経験値や、対象となる児童生徒と「合う・合わない」というのは人間なので当然出てきますが、可視化できるデータがあれば、他の先生でも客観的な判断ができます。これによって子どもたちひとりひとりの学びや学校生活で何か困ったときの動き方も変わってくると思います。
こうした小さな経験の積み上げこそが、データの利活用そのものではないかと考えています。データの利活用自体は実はとても地味なことですが、先生方が「記憶と思い出」で仕事をせざるを得ない結果追い込まれていくような状況から、そういう重荷を下ろして説明責任を果たせるようになり、自信を持って仕事に取り組むことができるチャンスにもなると思います。
「ダッシュボードを買ってくればなんかいろいろ解決してくれるらしい」というのは幻想であって、特に学校の場合は真面目な人が多いのでそれにとらわれてしまいがちです。しかし実はそうではなくて、組織運営や日々の授業の持ち方、人間関係の持ち方、さらには会議の運営の仕方などがストレスになってしまうようなことを、データの利活用で改善していけばよいのだと思います。校務DXというのは、先生も子どもたちも保護者も、みんなが明るく笑顔でいるためにこそ使うべきものなのです。
ダッシュボードがもたらすもの
先ほどのお話でも出てきましたが、文科省なども「ダッシュボード」について盛んに触れるようになっていると思います。きちんと活用するには何が必要なのでしょう。
例えばコロナ禍のときに私は奈良市教育委員会に勤務していましたが、奈良市内には約60校がありました。教育委員会のなかで教育長がいるわけですが、通常であれば「全校が平常に運営されている」と“信じて”仕事をしているわけです。
ところがコロナ禍で感染が拡大していくと、「今日は何人欠席しているのか」を調べようと思っても即座に把握することができません。そうなると手分けして全校に電話して個別に確認し、休んだ人数を集計するような実態になっていました。もちろん、現在でもそうしたところもあると思います。
しかし、例えば基本的なダッシュボードが整備されて、各学校の現状がきちんと情報共有できていれば、病欠の人数やそれぞれの症状も、教育委員会に居ながら瞬時に把握することができます。アナログであれば都度確認しなければ分からないことが、デジタル化されていればダッシュボードを見るだけで基本的な情報が手に取るようにわかるのです。
データの利活用というのは、校務DXをしっかり確実に進めることで勝手にデータが集まってくる環境をまず作り、そのデータを必要な人のところにきちんと届けられることが大事だと思います。そのための基本的なインフラとして整備されることが大切で、決して魔法の箱が存在するわけではないということです。
先生方のコミュニケーションや子どもたちへの対応などに寄与するものであって、何かを予測したり先回りして何かをするための情報をキャッチするような仕掛けではないと、私は考えています。
本日はありがとうございました!次回もよろしくお願いします。
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