【谷 正友 編】第6回:「明るい不登校」という選択肢 ~ICTが拓く、誰一人取り残されない学びの保障~
元自治体キーマンが描く、ICT活用の過去・現在・未来シリーズ
2026-05-14
日本のICT活用の進化を決定づけるのは地方自治体だ。国家レベルの施策を実際に運用し、国民へのサービスとして昇華させるのは各自治体の役目でもある。そんな自治体において、ICT活用の進化が著しいケースがいくつかある。そしてその共通項として必ず浮上するのが、特筆すべき人材、いわゆる「キーマン」の存在だ。ここでは各自治体においてキーマンとして活躍し、大事業を達成させてきた人物にそれぞれが思い描くICT活用について語ってもらっている。彼らの考えや軌跡をみることによって、同じ自治体はもちろん、企業、組織にも大きなヒントが得られるはずなので、ぜひ熟読していただきたい。
取材:中山 一弘
一般社団法人 教育ICT政策支援機構 代表理事
- プロフィール
大手SIer、奈良市役所、奈良市教育委員会を経て、2022年一般社団法人教育ICT政策支援機構を設立、代表理事。全国各地の教育DX推進や県域共同調達、データ利活用、ダッシュボードに関するコーディネータを務める。現在、文部科学省学校DX戦略アドバイザー、総務省地域情報化アドバイザー、富山市教育DX政策監、JDiCE 日本デジタル・シティズンシップ教育研究会理事を務める。
学校の変わらない実情と不登校の増加
現在、不登校の児童生徒が増加していることが社会問題化していますが、ICTによって何ができるのでしょう?
正直なところ不登校が増えた原因はあまりにも多様で、一口に言うのは難しいところがあります。ただ、乱暴な言い方になるかもしれませんが、その原因のひとつに考えられるのが、子どもたちが触れる情報の量というのが、90年代の終わりくらいから飛躍的に増えていることがあると思います。
例えば生まれたときからインターネットは身近にあるというのは当たり前になっています。一方、私たちが子どもだった頃のことを考えてみれば、例えば自転車に乗れるようになったとしても「校区の外に出てはいけない」などのとても狭い世界観で暮らしていました。しかしいまの子どもたちはインターネットによって、世界中のどことでもつながりを持つことができます。
それ自体は悪いことではないと思っているのですが、いまも学校自体は私たちが子どもの頃とあまり変わっていないような気がします。象徴的なのは、すでに明治維新から150年以上が経過しているのですが、昔の教室の様子の絵を見ても、いまとさほど変わらないような風景がそこにあります。
これほどに世の中が変化しているのに、学校の姿は旧態依然としていて、それに対して「いやだ」といっている子どもたちが増えているのかもしれない、という可能性もあるのではないかと感じることもあります。
ただ、それだけで学校に行かないのかといえば、もちろんそんなことではないと思います。しかし学校によってはいまの多様性というものをお構いなしに、「学校に来て当たり前」「ちょっと嫌なことがあっても我慢しないと大人になって困るよ」「大人になったらもっと理不尽なこともあるし大変だから歯を食いしばっても頑張るべきだ」といったことをいうところもあります。
こうした対応をしていることについて納得感があるかというと疑問ですし、こういうことも不登校が増えていることの大きな要因のひとつではないかと思います。
もちろん別の切り口で、「コロナ禍以降は学校に行かなくてもなんとかなるということが広まったし、保護者にもそういうことを言う人が増えたからだ」という意見もあります。これも間違いではないとは思いますが、果たして不登校がそれほどネガティブなことかというと、そこまでではないとも感じています。実は学校こそがもっと変わっていくべきだと思いますし、もっと過ごしやすい場所であるべきだと思います。
日本の学校制度では、公立の学校であれば一般的には住んでいる場所によって行くところが決まっていて、学校側はどんなご家庭のどんな子どもたちも平等に受け入れる必要があります。
ところが最近のニュースで、子どもに対して意地悪な暴言を浴びせた先生が懲戒処分になったというものがありました。どういう処分だろうと思ったら「戒告」ということで、これは処分とも言えないような軽いレベルのものです。休職でも懲戒免職でもなく戒告だけなので、普通に勤務していることになります。そんな軽い処分でいいのかと思ったくらいですが、こういうところも変わっていかないと、どんな子どもも受け入れられる学校を実現するのは難しいと思います。
「明るい不登校」とは
「誰一人取り残さない」というのは大きなテーマになっているのだと思いますが、谷さんがおっしゃる「明るい不登校」というのはどういう意味なのでしょうか。
これは私が言っているというよりは、コロナ禍で外出が制限されたりしている時期に知り合った人たちが立ち上げたピアサポートグループの名称として使っていて、私はその活動を応援する形で関わっています。
※ピアサポートグループ「明るい不登校(https://akaruifutoko.hp.peraichi.com/)」
どういう活動をしているのかというと、保護者の状態が少しずつ整っていくことで明るく過ごせるようにもなり、その空気が子どもにも伝わって、子どもも安心して自分のペースで落ち着いていく。そうした関係について語り合っています。非常に大きなテーマを扱っていますが、究極的なことをいえば「子どもの自殺をなくしたい」ということに尽きます。
子どもの自殺をなくすためには、子どもたちの自己決定権をもっと尊重してあげる必要があると思います。その自己決定のための材料をオープンマインドで提供していくことが求められています。
子どもにとっていちばん近しい存在である保護者の状態は、子どもにも影響します。難しい顔や悲しい空気が続くと、その重さは自然と子どもにも伝わっていきます。だからといって無理に明るく振る舞うことが大切なのではなく、保護者の状態が少しずつ整っていく中で、結果として明るく過ごせるようになることもあります。その空気が子どもにも伝わり、子どもも安心して自分のペースで心を開いていく。そうした関係を大切にしたいと考えています。 そんな世界観を目指すのが「明るい不登校」なのだと考えています。
「明るい不登校」の取り組みにはICTも不可欠だということですが、具体的にはどのような場面で活用されているのでしょうか。
「明るい不登校」は、そもそもICTがあったからこそ始まった活動だといえます。コロナ禍のときにグループがスタートして、いまは延べ何万人もが参加するような活動になっていますが、どういうことをしているのかというと、例えば「Clubhouse(クラブハウス)」というスマホのアプリを使って、毎朝8時から主要メンバーの7~8人くらいをスピーカーとして、いろいろな話題や悩み相談などについて語り合っています。
私もときどきスピーカーとして参加していますが、いわゆる“界隈”の話題についてラジオ番組のようにやっている感じです。こういうメディアのような活動自体、ICTがなければ実現できないことです。いまや誰でも持っているといえるほどのツールになったスマホさえあれば、たくさんの人たちと同時につながって同じ悩みや心配を分かち合うことができます。
苦しい状況にあっても、誰に何を相談したらいいのか分からない暗闇のなかにある人にとって、一筋の光になるようなことが実現できるというのは、すごいことだと思います。
すでに5年間くらいやっていて1900回以上も続けていることになりますが、ライブとアーカイブを含めると毎回60~80人くらいの方が参加してくれていますし、それ以上の多くの方々が聴いてくれています。過去の記録を見ると、海外でも数百人が聴いてくれているようなこともわかります。
これ自体がすべてICTの恩恵ですし、まさにインクルーシブそのものだと思います。場所を選ばず家事をしながらでも通勤中でも、自由に聴くことができるのは大きなメリットです。
商業的なメディアは別としても、「明るい不登校」は活動のなかで他に類を見ない大規模な草の根メディアがICTによって実現できたということだと思います。
時々アンケートを取ることがありますが、『「明るい不登校」を聴くようになってから子どもの状況に変化がありましたか?』というようなことを尋ねると、ほとんどの家庭でポジティブな変化があったという結果がありました。
いままで会話もできなかったのに子どもの方からちょっと話してくれたり、部屋から出てくることがなかったのに一緒にお出かけできるようになったり、といったように変化があったという方もたくさんいらっしゃいます。もちろん、学校に行けるようになったという事例もありました。
不登校支援サービスは他にもたくさんありますが、「明るい不登校」は完全無料で利用できます。ICTの恩恵というと、割と効率化や生産性を軸に例えられがちですが、「明るい不登校」での活動は“心を救う”ことができるということに対する象徴的なものではないかと思っています。
ICTと子どもたち
ICTによってこれまで困っていた人が救われるというのは、非常に印象的なお話しだと思います。とはいえ、ICTの教え方や与え方などについて悩む保護者も多いと思いますが、そのあたりはどうお考えでしょうか。
例えば子どもにスマホを与えた後に、「それに夢中になりすぎてしまったので与えなければよかった」と後悔する保護者の方のお話しなどはよく聞きます。ただ、単にそこで諦めてしまうのではなく、「一緒に遊びたいからちょっと教えてくれない?」というようなことを言えば、子どもの表情は変わってくると思います。
スマホは単なるゲーム機ではなく、コミュニケーションの手段として友達と連絡を取るのにも使うし、情報を得るために使っているかもしれません。つまりスマホを取り上げた瞬間、子どもは孤独になってしまう可能性があります。信頼しているお父さんやお母さんがスマホを取り上げようとすれば、子どもによっては何をよりどころにしてどうしていけばいいんだろうと悩んでしまうこともあるのです。
ただそうは言っても、スマホを渡しっぱなしにして自由にさせていては、このまま自分の方を振り向いてくれなくなるのではないか、という恐怖を感じることもあるでしょう。だからこそ怖がるだけではなく、大人から「教えて?一緒にやろう」と言えればよいのだと思います。
ICTを子どもに渡したらどうなるかだけではなく、大人が子どもの見ているITやバーチャルの世界にどう向き合うかの問題なのです。言い換えれば、子どもにとってICTやスマホはあって当たり前のものなので、問題は大人の側の意識にあるともいえます。
子どもたちが見ている世界や社会や景色に目線を合わせてみたときに、「自分たちが知らない世界が広がっているのか」ということに大人の側が気づいてあげられれば、子どもたちの状況も変わっていくのではないかと思います。
つまり、居場所のようなものを作ってあげれば、そのなかで子どもたちは自然に順応したり表現したりするようになっていくと思います。そういうことができるのも、ぬくもりのあるICTの使い方だと思います。
GIGAスクール構想によって、学校で子どもたちにひとり1台の環境が実現して、自由に使える学校では休み時間に友達同士でゲームを作るなど、自由な発想で楽しむことができています。むしろそれを先生の側が許容して後押しできるかどうか、といったところが問われているような気がします。
いまの子どもたちは、1台ずつ持っている端末のおかげで、過去に比べればよっぽど生産的な活用をしているということです。子どもたちの社会には、大人の社会にあるような打算や偏見がありません。クラスにハンディキャップを持つ友達がいても、自分たちの仲間としてフラットな視点で一緒に活動しています。ICTによって、さらに一緒に活動できる範囲も広がるかもしれません。ICTを通して子どもたちが見ている世界観を大事にしてあげれば、世の中も変わっていくような気がしています。
本日はありがとうございました。次回もよろしくお願いします。
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