【中窪 悟 編】第8回:デジタルディバイドの深化と新たな課題 ~「使える」のその先へ~
元自治体キーマンが描く、ICT活用の過去・現在・未来シリーズ
2026-08-13
日本のICT活用の進化を決定づけるのは地方自治体だ。国家レベルの施策を実際に運用し、国民へのサービスとして昇華させるのは各自治体の役目でもある。そんな自治体において、ICT活用の進化が著しいケースがいくつかある。そしてその共通項として必ず浮上するのが、特筆すべき人材、いわゆる「キーマン」の存在だ。ここでは各自治体においてキーマンとして活躍し、大事業を達成させてきた人物にそれぞれが思い描くICT活用について語ってもらっている。彼らの考えや軌跡をみることによって、同じ自治体はもちろん、企業、組織にも大きなヒントが得られるはずなので、ぜひ熟読していただきたい。
取材:中山 一弘
中窪商店(ITコンサル) 店主
一般社団法人コード・フォー・ジャパン Govtech チーム
総務省 地域情報化アドバイザー
総務省 地方公共団体の経営・財務マネジメント強化事業アドバイザー
- 自治体職員として30年間勤務。うち15年をいわゆる情シス担当として自治体の情報通信インフラからネットワーク及びシステム全般の構築・運用に従事する。
Googleのソリューションを全面的に導入し、自治体で初めてフルクラウドによるゼロトラストな環境を構築。2025年4月より現職。
デジタルディバイドの現状
前回はレガシーシステムと生成AIの共存戦略や、段階的移行などについてお話しいただきました。それともつながることなのですが、そういった移行などは早くやらないと自治体間の格差がどんどん大きくなってしまうような気がします。これについては、中窪さんはどのようにお考えでしょうか。
やはりいまやらなければいけないことだと思いますし、いまちょうどやれるタイミングでもあると思います。
現状では「いま取り組んでいます」という自治体もあれば、「うちはまだいいかな」と様子を見ている自治体もありますが、この段階では生成AIを使いたいという要望はいずれにせよ出てきている状況だと思います。
様々な生成AIがありますが、政府系のLGWAN ASPで提供されている生成AIもあって、それを使っている自治体がほとんどだと思います。実際の調査結果を見ても、生成AIを利用していると回答した自治体の6割~7割くらいは、LGWAN ASPで提供されている生成AIを利用しているようです。
Gemini や Claude を活用しているようなところもありますが、そういう生成AIを積極的に使えるようにしているところは環境として他とは差ができはじめていると思います。「積極的に使っていいよ」という自治体と、「とりあえず使える環境はあります」という自治体では差が広がっていくかもしれません。
積極的に取り組んでいる自治体はやはりモチベーションが違いますので、基幹システムにまで生成AIでアクセスできるようなところもあります。そこまで思い切った考え方で安全に生成AIが運用できるのであれば、業務効率化や生産性向上、職員の使い方の差が大きく開いても仕方のないことです。
それについては自治体の首長などの経営層が、必要性を理解しているかどうかや、それについて職員に積極的に伝えているかどうかというような違いもあるのだと思います。
ただ、積極的に生成AI利用を進めているような職場でも、使う職員と使わない職員がはっきりわかるようになってきているところもあります。これは世代間の差ということもありますが、導入から時間が経ってみると若手の職員がどんどん使い始めていくので、特に管理職級以上の50代を中心としたボリュームゾーンの職員で、ちょっと苦手という人がいるような印象です。
とはいえ若手がどんどん使っている状況になってくれば、それに関する認識も深まってくるので、「やはり使わないとね」というような意識にも変わってきます。そうすることで、徐々に使う方に歩み寄っていくようなことが多いと思います。
私が在職していた肝付町でもそうでしたが、環境整備をして生成AIを使えるようになったときに、やはり同じように使うのか使わないのかで分かれてしまいました。しかし、時間が経過すれば徐々に皆が活用する方に寄ってくるようなことがありました。
誰かが使って便利さが伝わり、業務効率化を実現しているのを見て取れれば、やはり「それならやってみよう」となっていくものだと思います。
住民情報を生成AIで利用することについて、懐疑的な意見ももちろんあります。しかし、自治体が預かっている資産というのは、住民の資産を預かっているということなので、それを有機的に活用して住民の方にもメリットを提供しなければなりません。単純に持っているだけでは意味がないので、銀行のようにそれを社会に投資し、利益を得ながら、結果として住民にも還元していく必要があるはずです。こういった部分について、現状では自治体間で大きな差があるというところです。
やはり生成AI利用に関しても、若い世代から浸透していくものなのですね。
どうしても上の世代の職員になってくると、積極的にいままでの仕事のやり方を変えていく、ということをする人は少なくなってきます。生成AI 自体の精度も日に日に向上してくるし、できることや「作法」のようなものも変わってくるので、そのあたりに対応するには若くないと難しいこともあるでしょう。
そのために首長や経営層がすべきことといえば、やはり環境を整えてあげることだと思います。環境が整ったうえでないと、意識を変えるというのは難しいことです。
情報リテラシーの重要性
自治体間や世代間でのデジタルディバイドといった問題もありますが、情報リテラシーについても深く考えてもらわないといけない状況になっていると思います。そのあたりについては、どうお考えでしょうか。
情報リテラシーについて考えたとき、職員の世代によって前提条件が異なっているような気がしています。
上の世代の場合は、行政を「紙の文化」でずっとやってきたというのが普通です。ところが若手の職員の場合は、生成AIを前提に業務に取り組んでいるという人も増えていると思います。
社会全体の人口ボリュームが下がりつつあるなかで、行政などの組織内での人口ピラミッドも逆三角形になり始めていると思います。
そのなかで、お互いの前提条件が異なるのに、それを理解しないまま話をしてしまうと、それがデジタルディバイドということになってしまい不幸な状況に陥ってしまうかもしれません。
このギャップを埋めるためには、とにかく上の世代も生成AIなどを使っていくしかないと思います。まず使ってみることが大切で、若手の職員が先に使って理解し、それを世代間でナレッジとして共有していくようにしていくのがいいと思います。教え合えるようになれば、共通の理解も進むでしょうし、バックグラウンドが違うというのも理解できると思います。
そうすることで、「何を聞けばいいのか」「何を伝えればいいのか」も分かってくるようになると思いますので、その前提となる環境を首長や経営層が整えておくということです。
それによって情報リテラシーが深まっていくでしょうし、最終的には倫理的に使っていくことにもなると思います。
生成AIの発展のスピード感が速すぎるため、戸惑う場面も多いとは思います。毎日違う環境や違う場所で仕事をしろと言われているようなもので、なかなかなじめないという人がいるのも当たり前のことです。とはいえ人間はどんな環境にも慣れていくものなので、これについても解決していけることだと思っています。
全体的には人口減の社会のなかで急激に進化する状況にも対応するために、世代を問わずポジティブに捉えていくことが大切だと思います。
確実にデジタルを進めるための歩み
お話を伺っていると、デジタル化を進めることで市民も職員も楽ができるはずなのに、なぜか苦労が先に立つように見えるのも問題ですよね。中窪さんがおっしゃるとおり、DXに対してポジティブなイメージがあまりないというか…
状況変化が激しすぎるのだと思います。みなさんにもわかりやすいように伝えると、出張が良い例かもしれません。月1、2回の出張であれば、ちょっとした気晴らしにもなるし、外の空気を吸いながら仕事ができるうえに、普段顔を合わせられない人との交流で刺激も受けられます。
しかし、それが週2回、3回となると、ホテルを探すのも交通手段を見つけるのも大変です。現地での打ち合わせがあっても、次の移動のために心ここにあらずという状況になるでしょうし、良い仕事にもつながりません。移動や人と会うことだけが目的になってしまい、本来しなくてはならない仕事を進める、あるいは商談をして契約につなげるということさえままならなくなりかねないのです。
デジタル化もそれと同じで、パソコンを使いましょう、Word や Excel を使って資料を作りましょう、というのであれば、楽しみながらできたでしょうし、これまでもなんとか進めてきたというのがこれまでの自治体です。
それが今や、少子高齢化社会を見据えた働き方を実現するためにクラウド化をしなければならず、さらには生成AIも業務に取り入れなくてはならない状況です。パソコンを使って資料を作りましょうという時代とは対応しなくてはならないテクノロジーも情報の質もそれまでとは比較にならないほど高度になっているのが現状なのです。
覚えることが多すぎてついていけない、という感じですかね。どのように対処していけばよいのでしょうか?
新しいテクノロジーが出てきた瞬間ごとに焦っても仕方ありません。それに面白いもので、そんな中でも、人間はいずれその環境に慣れていくことができます。先ほどの出張が連続しているようなケースでも、そのうち旅慣れしてきますし、出発準備の手際が良くなってくると、いずれその仕事も普通にこなせるようになるのが人間です。
私たちの親の世代は高度経済成長期を支えてきたので、仲間や地域と共に一丸となってみんなで幸せになろうという気風があったように思います。私たちの世代はというと昭和から平成、令和と、人口にしても経済にしてもフラットな時代を過ごしてきました。
しかし、一番変化がなかった時代にあっても、デジタルテクノロジーだけ見ればパソコンが普及し、インターネットが全盛を迎え、組織はIT化を推進し始め、いまや生成AIがあらゆる組織の中枢へと進出する中を生きているわけです。そんな中、多少の苦労はあっても、インターネット通販は当たり前に使いますし、家族や友人との会話もSNSが中心です。改めて考えれば激しく変化を続けている世の中ですが、いつの間にか私たちはその環境にすっかり慣れているのです。
今後、高度経済成長期とは正反対の時代がやってきます。働き手が少なくなり、個人の社会的な責任がますます大きくなる中、次の世代の若者たちは結果を出すためにあらゆるテクノロジーを駆使できるようになるはずです。
がんばってデジタルテクノロジーを理解しよう、と焦るよりも、世の中と歩調を合わせて時代に慣れていく。目の前の課題を解決していくうちに、いつの間にかそれができている自分に気がつく日が必ず来ると思います。ですから、ぜひ今を諦めずにその流れに合わせて歩みを止めないように前に進んでいきたいですね。
無理にテクノロジーを詰め込もうとせず、まずは慣れるところから始めるというのは実に分かりやすい、中窪さんらしいエールですね。それならシニア世代でもできそうな気がします。本日はありがとうございました。
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