第4回:身体の可視化と日々のバイタルデータ活用 温「数」知新

山田祥平の戦うスマートライフ

2026-07-27

Illustration: Generated by Gemini / Created by Syohei Yamada
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日常の暮らしにおいて、体中にセンサーをつけてそのデータを吸い上げる。大げさなようだがそれで助かる命もある。今、それが当たり前にもなりつつある。スマートウォッチ外来のような部門を設ける医療機関が増えてきている。そして、スマートウォッチに代表されるさまざまなウェアラブルデバイスの活用を通じ、活動量や睡眠の数値化が、単なる健康管理を超えて「今の自分の立ち位置を知る」ための哲学に繋がっていく。

フリーランスライター:山田 祥平

高校生になったときに腕時計を買ってもらった。当時はそれが普通だった。カットガラスの風防でちょっとおしゃれ、大人になった気分を味わえた。確かな記憶はないのだが、たぶん、身につけているだけで腕の動きによって内部のローターが回り、ぜんまいを自動で巻き上げてくれる仕組みがあって、時の刻みが止まる心配はほとんどなかった。秒針があったので、たまにテレビの時報に合わせないと、少しずつ時間がズレていった。1日に数秒から数十秒のズレは当たり前だったような気がする。

1980年代に入るとソーラー充電機能を搭載したデジタル腕時計も出てきた。文字盤の液晶の上に太陽電池を配置し、電池交換不要を実現したのだ。1990年代の終わり頃、いわゆる平成に入って10年もたつと、タフソーラーモデルのG-SHOCKなどが出てきて、ほとんど電池切れを心配する必要がなくなった。

個人的に腕時計をつけなくなったのはそのころだ。すでに四半世紀前になる。すでにそのころはノートパソコンを日常的に携行し、発表会などのメモやインタビューの記録はキーボードでの文字入力だった。打鍵時に左手の腕時計が邪魔に感じるようになり、外してパソコンを使うようになり、そのまま身につけることがなくなっていった。そのころには携帯電話を四六時中携行するようになっていたので、時刻を知りたいときにはそれを頼ればよかった。

その腕時計を再び身につけるようになったのは2014年からだ。Googleの開発者向けイベント Google I/O で Android Wear(現Wear OS)を搭載したスマートウォッチが発表されたときだ。センサーとして9軸の加速度計、コンパス、ジャイロスコープを内蔵していた。今から考えると、初期のスマートウォッチは行動の記録と通知を目的にしていた。心拍数などのバイタルデータを常時取得できなかったのは、光学式心拍センサーが未成熟で高消費電力だったからだ。また、精度の問題もあった。だが、2015年には光学式心拍センサーを標準搭載し、ヘルスケアデバイスへの方向性を打ち出した Apple Watch が発売されている。そして、この10年、いろんな時計をとっかえひっかえ使ってきた。

スマートウォッチを身につけるようになったころには、すでに日常的にスマートフォンを携行するようになっていた。個人的にポケットに入れたスマホは常にマナーモードの状態だ。雑踏の中、ポケットの中でのスマホバイブにはほぼ気がつけない。ドラマの中のようにはいかないのだ。だから、不意な鳴動を嫌って、常にサイレントモードで着信音もバイブも止めていた。

だが、スマホには電話の着信、各種メッセージの到来を知らせる通知機能がある。黎明期ではあってもそれを腕で知ることができるスマートウォッチはとても便利に感じた。いわば、時計というよりも、スマホ画面の拡張、あるいはセカンドスクリーンといってもよかった。Bluetoothでスマホと有機的な接続を果たす現代型スマートウォッチの元祖といえば、2012年の Pebble がそうだったし、それ以前は、ずっと以前にセイコーのPC連携ウェアラブル腕コン UC-2000(1984年)、さらに遡れば時計単体のスマート化を果たしたセイコーパルサー(1972年)などもあった。当時は腕で計算ができるだけで画期的だったのだ。

手元の記録を振り返ると、スマホのコンパニオンデバイスとしてデビューした最初期のスマートウォッチは、時計として機能する以外に、画面をタップしたり、装着した腕を手前に傾けるとジャイロセンサーが反応して画面が点灯、そこで各種の指示ができた。キー入力に相当することができなかったので、できることは限定されていたが、通知の表示だけでもずいぶん重宝したのを覚えている。10年間つけずにいた腕時計を、再びつけるようになるには十分な動機だった。ことあるたびにブルッと震え、各種の通知がある。最初は新着メールの到着時も通知していたが、それでは丸一日鳴りっぱなしになるのでオフにした。

当時の Google の説明では、人は毎日150回近くスマホの画面を見るとのことだった。でも、スマートウォッチがあれば、その150回のうち、約1/3は腕の表示を見るだけで事足りる。結果として、スマホのバッテリー消費が抑制され、それまで以上に長時間稼働するようになったし、それでいて、人間がスマホから得られる情報は変わらない。最初期のスマートウォッチは丸一日の使用には不安がないが、充電を忘れると翌日のフル活用は難しかった。それは今も変わらない。

Illustration: Generated by Gemini / Created by Syohei Yamada
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スマホの通知はスマホのOSが司っている。だから各種のアプリは通知内容をOSに伝えるだけでいい。アプリをスマートウォッチ対応させることなく、いつも通りに通知をするだけで、その内容がスマートウォッチに伝わる。そのことは時計としてのスマートウォッチの存在意義にも影響を与えていたと思う。

そもそも、丸一日が不安なバッテリー駆動時間ってどうなんだろうというのがある。スマートデバイスであるとしても、それ自体が高度に処理できるものを目指さなければ、バッテリーは持つ。実際、今のスマートウォッチには1~2週間くらいなら充電せずに使えるものがたくさんある。

それでも生体情報の収集用としてスマートウォッチを語るなら、このデバイスはセンサー満載の入力デバイスであり、その利用には多くの電力が消費される。当初はタッチ対応セカンドディスプレイに過ぎなかったスマートウォッチは、今や、スマホと匹敵するくらいに高機能なものになっている。

個人的には毎週一回程度の充電回数が実現されていれば十分に満足できる。常時オンの状態で消灯することなく時刻を表示し続けても1週間は稼働してほしい。そうすれば毎週末の夜に数時間の充電を心がければいい。毎日を強要されるとたぶん忘れることも多くなりそうだ。

バイタル情報を収集するようになり、就寝時もつけっぱなしで稼働しているスマートウォッチは、たった10年で飛躍的な進化を遂げている。もっとも個人的には最初はおもしろがって測定していた運動記録もだんだんめんどうくさくなってしまっている。

大事なことは、ひとつのデバイスが、内蔵したセンサーとスマホ側の専用アプリでデータを独り占めしたら意味がないという点だ。やはり、血圧、体温計、体重、体組成など、デバイスごとに得意なカテゴリがある。これらのデータをまとめるハブが必要だ。

今は、iOS の HealthKit や Android のヘルスコネクトがそのハブとなり、各種のアプリが収集したデータを統合してくれるようになっている。それを Apple Health や Android の Health アプリでまとめて参照することで、自分のバイタル情報をまとめて俯瞰することができる。ぶっちゃけ、データをどんどんためていけばあとでどうにでもなるということだ。解析の手法は後から進化するし、過去の記録を長期的に振り返ることで新たな発見が得られることもある。

そしてバイタルに奇妙な兆候があればそれを通知する。心電図や心拍データを記録することができるスマートウォッチが、その記録をもとに不整脈などの病気を診断、治療することができるようになり、自覚症状のないまま不規則な心拍や心房細動の疑いなどをスマートウォッチに指摘されて受診することが増えてきているという。

もちろん現時点ではスマートウォッチのデータはあくまで早期発見のきっかけであって、そのデータで確定診断が行われることはない。病院の医療機器で再検査が行われるのはいうまでもない。

こうしたスマートウォッチ活用の一連の流れが、この10年間で確立されてきた。毎日のデータに一喜一憂するだけではなく、数年のスパンでデータを眺めて、自分の体に起こった変化を知ることができるのは実に嬉しい。ただ、それをうまく機能させるには、まだまだ複雑怪奇な設定作業が必要だ。特に、複数のスマートデバイスを併用した場合に、データのバッティングをうまく処理できないことが多く、正しいバイタル情報がレポートされない事象が発生することがある。このあたりは早々に解決してほしい。また、各種のデータをパソコンで参照できなくなりつつあるのも気になるところだ。データをクラウドではなく、スマホローカルに置くのはプライバシーの安全を担保するためというのが各社の見解のようだが、そこはなんとかならないものだろうか。バイタルデータの価値は、当日の歩数や睡眠時間を見ることではなく、数年単位の変化を俯瞰することにある。そのためにはスマホの小さな画面よりも、一覧性に優れたパソコン環境で自由に分析できた方が望ましい。健康管理ツールとして成熟していくのであれば、その方向性も忘れないでほしい。

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連載 |コラム「山田祥平の戦うスマートライフ」
  1. 第4回:身体の可視化と日々のバイタルデータ活用 温「数」知新
  2. 第3回:優れた同僚であるAIと戦う、その距離感を考える。
  3. 第2回:コンピューターとパーソナル ~「私の拡張」としてのマルチデバイス
  4. 第1回:翻訳。言葉の壁が消えたあとの「摩擦」を楽しむ

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