コンピューターとパーソナル ~「私の拡張」としてのマルチデバイス

2026-06-16

Illustration: Generated by Gemini / Created by Syohei Yamada
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高性能なデスクトップパソコンから軽量なノートPC、そしてスマートフォンやタブレット…、複数のスマート環境を使い分けることは現代の自己最適化そのものであるといえる。こうして適材適所でデバイスを使い分けるとき、道具への愛着とはなんなのか、ペンやノートと同様に、使い慣れたいつもの「あれ」の存在感は今も健在なのかと考えてしまう。今回は、クラウド時代の個人とAI、そしてスマートデバイスの関係を、少し掘り下げて考えてみたい。

フリーランスライター:山田 祥平

今、読者の方々が手元で日常的に使っているパソコンは、使い始めて何年目になるだろうか。一般的に、ノートパソコンの多くは、一度も屋外に持ち出されることなくそのライフサイクルを終えるらしい。総務省の「情報通信白書」での企業のテレワーク導入率※1などを参照しての肌感にすぎないが、パーソル総合研究所調べの正社員ベースのテレワーク実施率※2とあわせてみても近い推測になっているんじゃないだろうか。

もちろん、使われる現場によっても状況が異なるのは当然だ。たとえば一般的な法人利用で外回りの営業やハイブリッドワークが中心の現場でも、6~8割程度で持ち出しが行われていると推測される。それでも2~4割は持ち出されることなくライフサイクルを終えるのだ。

個人所有のパソコンの場合は、家の中で移動させるだけというパターンがきわめて多い。プライベートでパソコンを使うことはほぼないということなんだろうか。つまり、コンパクトな据え置きのノートとして大画面ノートパソコンを使っているようで、外へ持ち出す割合は2割を上回ることはなさそうだ。まさに、あると邪魔だがないと困る存在だ。大画面といってもたかだか15.6インチ程度だが、それはそれでパソコンとしての役割は果たしているともいえる。

とはいえ、社内、宅内の移動を含めれば、完全なモバイルではないにせよ、自分のデスクから会議室、リビングから書斎などを含めれば8割以上のノートパソコンが移動して使われていると推測される。また、都市部ではカフェやコワーキングスペースでの利用が急増し、一部の層にとって、パソコンの持ち出しはすでに日常となりつつある。もはや、パブリックスペースでパソコンを使っている光景を見ても驚くことはない。

20年位前だっただろうか、これからは一人数台のパソコン的なデバイスを使い分ける時代だと宣言し、その方向性を個人的に模索していた頃があった。でも、そのトレンドはあっさりとスマホに奪われてしまった。2010年頃を節目の年と考えれば心当たりがあるんじゃないだろうか。東日本大震災以前と以後で、これらのデバイスとの関わり方に変化はなかったろうか。また、その10年ちょっとあと、コロナ禍に見舞われ、パソコンやスマホの存在感に変化はなかっただろうか。このふたつの出来事は人間とパソコンの関係に大きな影響を与えたからだ。

パソコンに比べればスマホは明らかにコンパクトで軽量だ。携行の負担はほぼない。なんならプライベートと業務など、用途に応じた2台持ちもされるようになった。携行の負担が軽いことから、より利便性を優先するようになったことがわかる。

重くて携行がたいへんだったノートパソコンは自宅に置いたままにして、外でのパソコン利用には軽量のモバイルノートパソコンを使ってほしいという願いは、スマホのおかげでちょっと修正が必要になったが、スマホも立派なコンピューターだと考えればいい。概ね、世の中はそういう方向に進んだといってもよさそうだ。むしろスマホとパソコンは競合ではなく協調の時代に入っている。ノートパソコンをデスクトップパソコンとして使うというのは、作業エリアが狭くて効率が悪いようにも思えるのだが、今は、大画面ディスプレイを外付けしてデスクトップの広さを簡単に拡張できる。USB-Cの浸透で、充電も含めて一本のケーブルを接続するだけなので、時代が理にかなったスタイルでの運用を可能にするモバイルノートを完成させたといえそうだ。

※1:我が国の企業のテレワークの導入状況|総務省 令和7年版 情報通信白書

※2:第十回・テレワークに関する調査|パーソル総合研究所(2025年8月27日)

スマホのように四六時中、身にまとうようにして携行するデバイスは、自分自身を拡張するデバイスだといってもいい。ほぼ毎日持ち運んで使うモバイルノートパソコンも同様だ。それが自分にとって使いやすいものかどうかは重要なテーマだし、愛着をもって使えるかどうかは本来なら最優先されなければならない要素だ。本来なら…。

そうはいっても、勤務先からあてがわれる業務用のパソコンが、自分の好みのフォームファクターであるとは限らないし、モバイルとは名ばかりで、大きく重いパソコンを携行させられる理不尽な運用を余儀なくされている可能性もある。

将来は自分で持ち込んだパソコンを仕事に使うBYODが新しい当たり前になると予想された過去もあったが、多くのユーザーにとってBYODの負担は小さくない。コストはもちろん、マルウェアやランサムウェア感染などなど、何かがあったときのためのケアを丸ごと自分で抱えるのは難しいからだ。だからこそ、与える側にすべてを委ね、その環境をそのまま受け入れる方がラクだと考える。与える側、つまり、組織としても、貸与対象の全員が同じ環境にいたほうが、トラブルの発生時などにも対応が容易だ。トラブルの原因も特定しやすい。何なら、同僚等のユーザー同士の間で問題を解決できるかもしれず、その場合は管理者側の負担が発生することもない。

だから、会社のパソコンは会社のパソコンとして、自分の拡張どころか、相棒としてもそれほどの親近感を覚えないという方も少なくないだろう。だが、たとえ組織からの貸与品のパソコンでも、オンデバイスAIが自分色に染まることで相棒化するというパラダイムシフトが起こる。ハードウェアの所有権よりも、コンテキスト(文脈)の占有権が重要になるのだ。AIを使う働き方のスタイルが浸透し、エンドユーザーは仕事の現場でもAIを日常的に使うようになる。

もっとも、貸与パソコンでのAI利用は組織によっては明確に禁じられている可能性もある。機密が外部に漏洩するのを懸念しての制限だ。だが、これからオンデバイスAIが浸透すると、目の前のパソコンの内部でAIの処理を行うのか、クラウドサービスのAIを頼るのかを、エンドユーザーや管理者が選択できるようになる。あるいはAIエージェントが企業機密に関する相談にはローカルAIしか使わせないようにナビゲートするようになる可能性もある。最新の情報が優先される場合でなければ、そのほうが安心でもある。

このようなAIの使われ方が日常になっていくと、これまでとはちょっと違った親近感をパソコンに感じるようになるだろう。同じような環境の他人のパソコンを操作したときに違和感を感じるようになるかもしれない。パソコンのかな漢字変換がもっと拙かった時代に、異なる学習をした日本語入力システムが、自分の使い慣れた環境とは異なる変換結果を出すことに困惑したようなイメージだ。

AIはユーザーとのインタラクションを知識として蓄えるし、複数の異なるセッションのやりとりもメモリーとして記憶し、将来のセッションに備える。今はAIモデルをまたいでメモリーを移行することもできるようになっている。このことは、自分自身を理解し、親近感を感じる対象としてユーザーがパソコンを位置付けるようになる理由としては決して小さくない。そして、世の中は確実にそういう方向に進む。

直近の2026年5月、Googleはオペレーティングシステムからインテリジェンスシステムへと進化するスマート環境について発表した。GoogleのAIといえばGeminiが広く知られているが、それがGemini Intelligenceとして機能するようになり、デバイスがユーザーの意図をくみ取って複数のアプリをまたぐ複雑なタスクを自動的に実行できるようになるとのアナウンスだ。この2026年夏以降の展開が気になるところだ。

Googleとしては、当然、マルチデバイス対応を考えているわけだが、オンデバイスAI運用を考えると、メモリーの近距離共有など、業務用パソコンと業務用スマホの間でインターネットを介さないP2P型同期などのソリューションを整備する必要がある。もちろん暗号化同期が求められる。オンデバイスローカルの概念をどこまで徹底するか、そして、それを各組織がどこまで許容するのかも議論しなければなるまい。

また、AIが回答の精度を高めるために、外部の信頼できる情報源を自動的に検索・参照する仕組み(RAG:検索拡張生成)、つまり、AIにとっての持ち込み可能データ、つまりカンペという外部から内部への一方通行の情報入手技術をうまく処理し、つじつまを合わせる必要がある。オンデバイスAIだけでは賄えない最新情報の問題に対処するためにも、最新情報はRAGによって外部から補完される仕組みが不可欠になる。

いずれにしてもパソコンの立場は今よりもずっとそのエンドユーザーに近いものになっていく。そうすれば、かつてのペンやノートと同様に、使い慣れたいつものあれという感覚で、道具としてのパソコンをとらえられるようになるんじゃないか。そして、そうなれば、AIが自分自身の手足として頼もしく感じられるようになるのはまちがいない。そしてその方がいいに決まっている、たぶん。

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