2021.08.25
3DCG開発や建築・設計デザイン、機械学習などの高度な業務を可能とする質実剛健なワークステーション機でありながら、わずか216mm×216mm×58mm(W×D×H)というサイズ感を実現した「HP Z2 Mini G5 Workstation」。Xeon、Quadro搭載の小型PCが3DCG開発現場に与えるインパクトについて、flapper3のディレクター・山本太陽氏に話を聞いた。
TEXT_神山大輝/ Daiki Kamiyama(NINE GATES STUDIO)
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
品質向上・開発規模の拡大が続く3DCG開発の現場では、各DCCツールが要求する高いスペックに応じるために大型のワークステーション機がシステムの中心に位置している。その一方では、「打ち合わせを行う客先でも、普段通りにDCCツールを動かしたい」、「リモートワークのためにPC自体をもち運びたい」という需要の高まりに追従するように、ハイエンドノートPCも市場規模を拡大している。こうした中において、わずか216mmの筐体にNVIDIA Quadro GPUを搭載するHP Z2 Mini G5 Workstationは省スペースとハイパフォーマンスを両立するミニワークステーションとして評価が高く、いま大きな注目を集めている。
「普段のメインマシンと比較したとき、正直に言って"ここまでしっかり動くのか!"と、筐体サイズを見たときからの印象が覆った感じがありました」と語るのは、flapper3でディレクターを務める山本氏。flapper3はプリレンダーのハイエンドな映像制作を軸としながら、ライブ系の映像ディレクションや大作ゲームのムービーパートを担当する映像制作会社で、山本氏はライブやイベント系での映像演出を得意とするクリエイターだ。
山本氏はもともと、作業スペースの関係から小型のWindowsマシンをレンダーマシンとして使っていたという。ただし、サイズの関係でGPUが搭載できない機種であったため、あくまでCPUレンダリング専用機としての運用となっていた。「小さい筐体というと、正直に言ってスペック的に不足する場合が多いだろうというイメージはありました。しかし、HP Z2 Mini G5 Workstationは小さいながらも全く問題なく動きます。モバイルワークステーションよりもハイスペックで、デスクトップワークステーションよりもコンパクトで持ち運べる、ミニワークステーションというジャンルは第3の選択肢になり得ますね」(山本氏)。
今回の検証では、山本氏が業務で用いるワークステーション機とHP Z2 Mini G5 Workstationの2台を用いて、各DCCツールでの使用感を確認した。山本氏は以前より自作PCをメインに使っており、現在はCPU Ryzen9 3950X / RTX2080Ti / メモリ128GBと、まさにモンスターマシンと言っていいスペックで作業を行なっている。「一番重要なのはシンプルに"速さ"です。つまり、スペック自体が重要です。ただし、一時期はトラブルが頻発したこともあって、そういう意味では"安定性"がその次に重要だと思っています。自作PCはサポートもなく、パーツの相性問題が発生することもあるので、その点はリスクとして承知した上で使っています」(山本氏)。山本氏自身がPCに明るいこともあり、現時点ではトラブルにも問題なく対応できているが、自作のメリット・デメリットは認識した上で使うべきだと説明した。
■スペック比較
現行機 自作デスクトップ
CPU | Ryzen9 3950X |
GPU | RTX2080Ti |
メモリ | 128GB |
検証機 HP Z2 Mini G5 Workstation
CPU | Xeon プロセッサーW-1270P |
GPU | Quadro RTX3000 6GB |
メモリ | 64GB DDR4 SODIMM (3200MHz / ECC / Unbuffered / 32GB×2) |
3ds Maxでの検証は、LiDARスキャナを用いて撮影した700万ポリゴン程度のプロジェクトデータを開き、問題なく動作するかを検証した。「特に問題なく普通に動いたな、というのがファーストインプレッションです。これならモデリングや軽めのエフェクトも一台で完結できると思います。手前にRedshiftでレンダリングしたオブジェクトが見えていますが、これもフルHD設定で1分11秒程度で絵が出たので、速いなと思いました」(山本氏)。V-rayベンチマークのスコアは山本氏のメインマシンよりもクロック数が低い関係で差が出ているが、「それでもノートPCで作業するよりは完全に速い」という。
▲ 3ds Maxでプロジェクトファイルを展開し、プレビューした画像。一般的なミニPCと比較して、非常に高速かつスムーズな描画できていた
▲ レンダリングされた画像
After Effectsを使用した際も特に問題なく動作し、グラフィックスデザインや2D業務に関してはほぼストレスなく作業できていたという。After Effectsはシングルコア性能が重要な指標になるが、検証機はIntel Xeon W-1250(3.3GHz / 6コア / 12MB / 2666MHz)を搭載しているため、速度面に不安はないとのことだ。
Premiereでは、「4K ProRes RAWをグレーディングした状態でプレイバックする」という検証を行なった。こちらはメインマシンでは引っ掛かりなくプレイバックができるものの、検証機ではわずかにカクつきが見られたという。「4K ProResは極めて重いデータなので、ProRes 422、422HQやフルHDなら問題なくスムーズに行けると思います。いずれにしても、筐体サイズの割には予想以上に動いています」(山本氏)。
また、廃熱などのエアフローについても非常に優れていたという。一般的に、レンダリング中はファンが回ることによる騒音や放熱が問題になることが多いが、本機については山本氏が実際に蓋を開けて中を確認したところ「こういった小型筐体ほどパーツ配置を考えないと収まらないのですが、すごく綺麗な構成になっていると思いました。天板の裏にはアルミも貼ってあって、放熱にも非常に気を遣われているのが分かります」(山本氏)と、非常に効率的な設計になっていたという。このため、作業場所が限られるスタジオでのメインマシンとして運用するだけでなく、ラックマウントをして複数台をレンダリングサーバ群として活用することも可能。コンパクトでありハイスペックだからこそ、多岐に渡るニーズに合致しやすいプロダクトだと言えるだろう。
HPのマシンならではの特徴として、リモートデスクトップソフトである「ZCentral Remote Boost」などのビジネスツールを活用可能な点がある。HPハードウェアであればサードパーティ製の仮想化ソフトウェアを導入することなくすぐに使用を開始することができ、極めて高速な通信によってワークステーションが真横にあるかのようなパフォーマンスを得ることが可能となる。山本氏は今回、MacBookからHP Z2 Mini G5 Workstationにリモートアクセスし動作検証を行なったが、フレーム欠けなどもおきておらず、問題なく使用できていたという。「実は先ほどの検証もすべてZcentral Remote Boostを使って行なったものです。After Effectsのプレビューも30fpsで問題なく動きましたし、"GPUアクセラレーションが効かない"など他のリモートツールが抱える問題も特に起こりませんでした。普通に業務でも使ってみたいですね」(山本氏)。
その他のリモートツールと比較しても最もフレームレートが安定しており、セキュリティ面にも強いのが特徴だという。特に気になったのは「リモートUSB」とのこと。子の端末(SENDER)のUSBポートに繋げた外付けメディアを親の端末(RECEIVER)からも参照でき、そのままデータの転送ができる機能で、遠隔地とのデータのやり取りも別ツールを立ち上げる必要がない。以前に比べてリモートツールが圧倒的に必要になるシーンが増えた現代だからこそ、こういったツールを使いこなして業務を進めることの重要性は上がっていくはずだ。
flapper 3の編集室にはZシリーズが1台導入されており、これは安定性を考えた上での採用だったとのこと。外部のクリエイターにPCを貸し出す際も「安心感・安定性」への裏付けがあるワークステーションを導入することのメリットは大きく、こうした現場でもHPマシンは活躍するだろうとの評価を得た。「Zシリーズ自体には業務用という質実剛健なイメージがあります。ハイスペックなものを探すとゲーミングPCばかりになりますが、光るなどの見た目上の演出は我々には不要です。しっかり使えるハイスペックなワークステーションとして、HPは信頼感があります」(山本氏)。ハイエンドなワークステーションが求められるビジネスシーンで、HPは明確な強みをもつ選択肢となるだろう。
【本記事はCGWORLD.jpに掲載されたものです】
HP Z2 Mini G5 Workstation
パフォーマンスモデル
※カスタマイズ可