2021.3.22
神上コーポレーション(株)代表取締役 鈴木崇司
昨今のものづくりで、CAD(computer-aided design)を使った設計業務はもう一般的ですね。特に3D-CADの普及により、設計だけでなく製造におけるCAM(Computer-aided Manufacturing)や事前検証解析時のCAE(computer-aided engineering)との連携を促(うなが)し、高度詳細開発とデジタル製造を支え、短時間にプロジェクトを推進するためには必須のツールとなっていることは周知の事実で、かつ自明の理だと思います。
私がこの仕事を始めた時は、ちょうど3D-CADが普及する転換期のような時期でしたので、CADデータの活用をマジマジと体験しながら成長してきました。今では設計だけではなく、資料作成も構造検討もすべてCADを利用して進めるため、なくてはならないツールです。
CADデータでは、製品化する部品全てをモデル化&アセンブリし、あたかもデジタル内にその製品そのものを再現化することで、様々な検証を行い、実際のものづくりフェイズに至る前に確度の高い設計を実現していきます。そのためCADデータが持つ情報量は膨大なものとなっており、ノウハウの塊(かたまり)といっても過言ではないのです。
2020年から今日に至るまで人類を襲うコロナショックは、様々な変化を私たちにもたらしました。その一つがテレワークの推進となります。ありとあらゆる業種がテレワークへの転換・検討を余儀なくされています。もちろん、CADユーザーである設計者や開発者もその対象としてテレワーク業務推進を求められており、私もその中の一人です。CADデータについては勿論(もちろん)デジタルデータですから、テレワークとの相性はいいはずです。私の周りでも昨年2020年緊急事態宣言下では、事務所のデスクトップPCを大変な思いをしながら、自宅に何とかかんとか持ち運んで作業を続け、業務を進めた方々の話を伺っています。では今、どうなのかというと・・・・苦労して持ち帰ったPCは事務所に戻ってしまっているそうです。元々、緊急事態下による特例で行った作業だったため、宣言が解除された途端、終わってしまったようです。
つまり製造業界におけるCAD業務のテレワーク化については、今現在順調に切り替わっているとは言い難く、時流に取り残されている現状があります。私の周りでも「結局前と変わってないなぁ」といった声をよく聞きます。
機密情報であるCADデータは、社外に持ち出させたくないというセキュリティーの問題はじめ、たとえリモートアクセスしたとしても、微細かつ膨大なCADデータは拡大縮小や回転といった作業の際、マウスの動きに描画が全く追従せず、イライラしてしまうことから「リモートアクセスでの業務は現実的ではない」というタイムラグの問題があります。さらに、情報量の多さから、複数人が遠隔で同じデータを見ていても、どこを指しているのかを伝えることが困難であるといったコミュニケーションやコラボレーションの問題が挙げられるようです。つまり「オフィスにいる時と同等の生産性を再現することが難しい」というのが、CADユーザーが抱えるテレワークジレンマです。
【CADユーザーのテレワークジレンマ】
「あんな大変な思いをして持ち運ぶなんてもう嫌だぁ!」ということなのではないでしょうか!?
では!もしワークステーションの前にいるかのように快適にCADデータを扱うことができたうえ、高いセキュリティーでテレワークを実現でき、しかも無償のソリューションがあるとしたらいかがでしょうか? ここではハード/ソフト両観点から、上記の解決手段を提案させて頂きます。ぜひワクワクしながらご覧下さい。
ハード面の課題は、必要なスペックを有するものを用意しようと考えた時に「大きさ」、「重さ」、「使い勝手の良さ」がハードルになりますね。重くて大きいのはホント嫌です。特にテレワークを実現するためには、場所を問わず、フレキシブルに業務を進めることが求められますので、持ち運びやすさや設置の応用性を高める必要があります。今日はその解決手段として日本HPの「HP Z2 Mini G5」を紹介します。
HP Z2 Miniの特徴として、まずはコンパクトなサイズであることが挙げられます。その大きさは約20センチ角、厚さ約6センチと手の平に載る非常にコンパクトな筐体(きょうたい)サイズのため、デスクの場所を取りません。また下図(別途オプションが必要)のようにモニター背面に設置することで、さらにデスクを広々と利用することが可能です。設計業務で「デスク上には自分のメモが欲しい」、「連絡をとるためにスマートフォンは手元に置いておきたい」など作業スペースはとても大事です。また昨今ディスプレイのマルチ化はデジタル作業を行う上でトレンド的な作業環境となっています。その実現の上でもコンパクトボディは非に魅力的!!!自分仕様に、デスク上を思う存分カスタマイズできます。
次にコンパクトボディながら、NVIDIA Quadro T2000も選択可能なので3D CAD業務や製造性検証など幅広い業務を強力にサポートしてくれるでしょう。近日中にRTX3000グラフィックスモデルも提供開始されるとのことで、シミュレーションなどさらに高度な業務も快適になることが期待されます。
また、写真のようにHP Z2 Mini G5は複数台をサーバーラックに集積できるラックマウントオプションも提供されているとのことで、サーバー化が実現でき、オフィス仕様のグレードアップも可能になります。オフィスのサーバー構築が必要な皆様においても、このワークステーション HP Z2 Mini G5は検討アイテムの一つになり得るということです。勿論この“コンパクト&パワフルなワークステーション”といった特徴もサーバー構築の一助になり得ることは言うまでもないですね。複数台を並列につないで構築する作業は、意外と手間と体力を浪費するものです。
さらに重量は約2キロと持ち運びに十分な軽さで、テレワーク環境を構築したり、環境更新する際も、作業環境をスペックダウンせず、迅速に構築することができます。ディスプレイはマルチ接続で複数画面を見ながら業務する方も増えてきています。私なんかは作業画面、参考画面、コミュニケーション画面と3画面接続で業務しています。テレワークですから仕事のしやすさ効率を求めることも大事な使命です。このHP Z2 Mini G5はDisplay Portを3ポート、HDMIを1ポート搭載し、なんと無線LANにも対応しているとのこと。複数画面での効率の良い作業やLANケーブル不要など、デスクトップの拡張性とモバイルの快適さを両立しているといえるのではないでしょうか。
勿論、皆さんの中には勤務先の都合で「どうしてもデータを家に持ち帰ることができない」といった事情をお持ちの方もいらっしゃると思います。そんなユーザーのために 「デバイス・データを持ち出さずに、ワークステーションの“パフォーマンス”だけを持ち出す」というコンセプトソリューションで開発されたのが「HP ZCentral Remote Boost」です。自宅にあるタブレット・ノートPCからオフィスにあるハイスペックのワークステーションに、テザリングやwifiでアクセスし、ワークステーション画面のピクセルデータを自宅のデバイスに転送するという仕組みで、企業によってハードの持ち運びに制約もある場合に活用できるソリューションとなります。
Windowsでは標準でRDP(Remote Desktop Protocol)という無償のリモートデスクトップツールがありますが、HP ZCentral Remote Boostは何が違うのでしょう?ここでは、画面のピクセルデータを送受信することから、ワークステーションをSender、自宅のデバイスをReceiverと呼びます。HP ZCentral Remote Boostでは、SenderからReceiverへ送られるデータは1/170に圧縮され、レシーバーで高速にデコードされます。つまりアプリケーションデータを転送しているのではなく、ピクセルデータのみにし、かつ暗号化されたデータが送信されるので、万が一途中でデータを傍受されても情報漏洩(ろうえい)のリスクが全くありません。この仕組みはNASAと共同開発されたもので「月面探査の画像をいかに高速・高品質に地球に届けるか」というミッションを目的に作られているため、低速回線でも低遅延でデータを送ることが可能となるそうです。つまり光回線なんてない宇宙空間からのデータ転送でも、より速く画像確認をすることができる技術ってことですね。ということは地球上なら快適にサクサク動くってことが皆さんにもお分かりいただけると思います。
【参考動画】
未曾有(みぞう)の大変革期を迎えている今日、テレワークへのシフトとその環境作りは各企業の最重要テーマで、必須改革でもあります。その中でソフト・ハードの両面で、それぞれの状況にあった改善を促し、多様な対応を選択する必要があります。
ワークステーションの設置と移動の簡易性向上を実施し、自分達の企業スタイルに沿ったリモート機能を選択し、いつでも、どこでも、そして誰もが最良な環境で最適な手法を選択し、最高の結果を求めて業務を推進していくことこそ、最良のものづくりへの道と繋(つな)がっていくと考えます。
【本記事は ものづくりドットコム が制作しました】