パーソナルシステムズのデザイン部門におけるグローバル責任者として、全世界で発売される法人・個人向け製品のデザイン開発を統括。「HP EliteBookシリーズ」や「HP ProBookシリーズ」では、ドイツのレッドドットデザイン賞やイギリスのI.D.デザイン賞を受賞。また、プレミアムモデル「HP Spectreシリーズ」や「HP ENVYシリーズ」も日本のグッドデザイン賞を受賞と、手掛けた製品が世界の名だたるデザインアワードを獲得する。
ノートPCのデザインに初めて “美しさ” の概念をもたらし、世界的に話題となった初代「HP Spectre x360」が登場したのは、2015年のこと。以降もHPは次々とスタイリッシュなモデルをリリース。ノートPCのデザインに革新をもたらし、業界をリードし続けている。そんな、HPのデザイン的な進化を推進するステイシー・ウルフに、その哲学や理念、そして目指すべき理想のデザインについて聞いた。
私たちデザインチームは、目指すべきゴールに導いてくれる “North Star（北極星）” を共有しています。それは、お客様の今顕在化しているニーズであり、今はまだ顕在化していないニーズでもあります。ここまでパソコンが普及し、選択肢が豊富な現在、メーカーからの一方通行で何かを与えるのではなく、お客様が何を望んでいるのか、そのニーズこそがもっとも重要なのです。私たちはそのゴールへたどり着くまでの道のりを見つけ、そこから外れないよう細心の注意を払いながらも、工夫を凝らし変化を恐れず、大胆な歩みを続けています。
私が現職に就いた8年前、当時のCEOから「HP製品のデザインを向上させてほしい」という要望がありました。CEOから示されたのは「世界をリードするデザイン」で「一貫性があり」、そして、「なによりクールであること」という要素でした。そこで私たちが掲げたのが、「PHI（ファイ）」というデザイン哲学です。これは、世界をリードする革新的（Progressive）で、調和のとれた（Harmonious）、そして、なによりクールで象徴的（Iconic）な存在となる製品を生み出すそうという、HPのデザインの根幹にある3原則を明文化したもので、3つの単語の頭文字から名付けられました。また、PHIは哲学であるとともに、デザインの方向性を決める過程におけるフィルターの機能としての役割をも果たしています。
「PHI」というデザイン哲学の制定に加え、デザインチームを私のもとに一元化した組織改革により、チーム全体でゴールへと向かう環境が整いました。デザインチームには、多種多様なメンバーがいますが、共通しているのはまったく新しい製品やエクスペリエンスをつくりだし、イノベーションを起こしたいという熱意です。こういうタイプの人しかチームにはいらない、と限定して考えるのではなく、ファッションデザインや自動車のデザイン、材料科学、エンジニア、はてはヒューマンファクターの博士号を取得した人もいます。また、グローバルな市場を相手にデザインをしていくので、言語や文化などの背景も異なるメンバーも意識的に採用しています。メンバー一人ひとりが様々なスキルや技術を持ちよることで、オーケストラのように「デザイン」という音楽を奏でています。
デザインチームはイノベーションを起こそうとするにあたって、お客様のニーズを把握し、インサイトを理解するというステップを非常に大事にしています。そのために「Insights to Innovation（イノベーションのための洞察）」と呼ばれる徹底した調査を行っています。たとえば、お客様から「PCが重い」という問題が提示された場合、「より軽量なPCを開発しなければならない」という気づきがインサイトであり、素材や仕様の変更で軽量化を図ることがイノベーションです。我々は常にインサイトを探し求め、差別化を図るためにイノベーションを起こしています。「Insights to Innovation」とは、あらゆる製品開発の出発点となるものです。また我々は、つねにお客様とエモーショナルなつながりを持とうと意図してデザインしています。お客様には、自分自身を際立たせるような、ほかとは違う独自性があるものを所有したいという欲求があり、その欲求に訴えかけるデザインを創出することで、特別感を抱いていただきたいのです。
人は美しいものを見るとエモーショナルな感情、いわば “ときめき” が生まれます。次いで、実際に体験するための行動を起こします。それはより製品に近づいて、例えば新製品「HP Spectre x360 13」の、ジュエリーのように美しくカットされたサイドのデザインなど細部の意匠を眺めたり、「HP ENVY x360 Wood Edition」のタッチパッドとパームレストに用いたウォールナットの、天然ならではの温もりある質感を確かめたり。または、プレミアムシリーズのすべてのノートPCに搭載されている、デンマークの高級オーディオブランド「Bang & Olufsen」のオーディオシステムが奏でる厚みのあるサウンドに耳を傾けてもらってもいい。さらには、昨年発売した外装にレザーを採用した「HP Spectre Folio 13」ならば、上質なレザーの豊かな香りはもちろん、使い続けることで増す豊かな質感も楽しんでいただけます。そうした、お客様とPCとのインタラクション（相互作用）により五感へと訴えかけることで、「これは自分のためのPCだ！」と気づいていただきたいと考えています。
我々が製品開発の際に使う「Defy」という言葉があります。これは不可能と思えることを実現するための「挑戦」を意味します。Spectreでいえばそれは「いかにしてコンパクトなボディを実現するか」であり、2.2mmの極小カメラモジュールユニットの開発により劇的なサイズダウンを実現しました。また、ENVYのDefyは天然の木材を使用することです。木はタッチパッドにも使用されているため、湿度の変化や指の油分量にも左右されず常に正確な動作が求められます。そのため、電気の伝達を敏感に感知するセンサーを開発するにいたったのです。単に新しい技術ということではなく意味のある課題解決を行い、つねに「お客様にエモーショナルなつながりを感じてもらえる製品となっているのか」と自問自答し、製品化を進めているのです。しかし、もしお客様が機能やテクノロジーだけを理由に製品を購入されたなら、それは我々の失敗にほかなりません。なぜならそれは、我々の製品がお客様の欲求を満たすことが出来ず、エモーショナルなつながりを持つことが出来なかったということですから。
もちろん、精密な部品で構成されるノートPCでは、新たな技術を開発するため失敗も多く起こります。でもそんな時、私はHP創業者のひとり、デイブ・パッカードの「失敗しなかったということは、真剣に挑戦しなかったことと同じことだ」という言葉を思い出し、自らを奮い立たせているのです。
印象的にカットされたエッジの処理やコーナーに配置されたコネクターなどが同シリーズを特徴づけるアイデンティティとして確立している。また、本製品は同シリーズの中でも、従来の16:9から新たに3:2の比率に変更された13.5インチディスプレイが、使い勝手のよさとコンパクトさ、エレガントさを両立させるよいバランスを実現させている。
印象的にカットされたエッジの処理やコーナーに配置されたコネクターなどが同シリーズを特徴づけるアイデンティティとして確立している。また、本製品は同シリーズの中でも、15インチの大型ディスプレイを14インチ相当のボディに搭載するなど、従来モデルからの小型化を実現し、高い性能とコンパクトさ、エレガントさを両立させている。
直線を基調として機能的にレイアウトされた美しい構成、細部まで神経の行き届いたCMF、オーディオやグラフィック性能を高めつつスマートフォンやタブレットとのシームレスな連携を実現する等、死角の無い素晴らしいデスクトップPCである。在宅でのリモートワークの機会が飛躍的に増加した昨今、業務に耐えうるスペックとプライベート空間に置きたくなる美しさを併せ持つ、このような製品を多くのユーザーが待ち望んでいるだろう。
卓上に設置することを想定したクリエーター向けの高性能タワー型デスクトップという位置づけで、前面パネルの吸気口に意匠上のアクセントともなるフィンを配置し、その一部は光学ドライブの蓋となるようにまとめている。大型モニタの隣に並べて作業する際、本体が視覚的に邪魔にならないよう配慮されており、この製品が想定しているユーザー層に対して適切な設計になっている。
その時々における高性能な部品を搭載したいというゲーマーのリクエストに応えるため、通常動作時にはサイドパネルを透明にすることにより搭載した部品を積極的に見せつつ、部品交換時には作業しやすいようにするためのアクセス性も確保している。フロントパネルに搭載した、ファンの形状に合わせた円環形のLEDも、よいアクセントになっている。
パームレストの木目とアルミの削り出しボディが印象的な、高級感ある仕上がりのノートPCである。木目部分は本物の木材を使用しているので、汗などで滑りにくく、触った際の自然素材の温もりは心の安らぎを感じる。アルミフレームサイド面の内側へのテーパーは、本体を開きやすくすると同時に他のテーパーとぶつかることによって斜めのラインを生み出し、そこでカットされたトップカバーを開いた際に、本体をリフトアップして使いやすい角度を得る機能へとつながっている。一つの造形テーマが複数の機能と見事に結実している。
究極の軽量化にチャレンジした2 in 1ラップトップPCである。従来、軽量化のためにプレスし、酸化防止塗装したマグネシウムを使うことは珍しくないが、この製品ではこれまで実現が困難だったマグネシウムの切削加工に挑戦、職人技を示す薄いマイクロアーク酸化コーティングが施され、超軽量と耐久性を兼ね備えている。5Gに対応した通信仕様も一歩先を行くモバイル端末である。
キーボード上部に5.98インチのタッチ対応フルHDディスプレイが搭載されている点が目を引いた。デザイン的にも目新しいが、メインディスプレイでゲームをしつつ、サブディスプレイでゲームを攻略するための動画を再生したり、ゲームSNSでチャットを確認できるといった利便性を提供している点を評価した。また、ゲームをしながらCPUやGPUの状況を確認できるなど、ゲーマーのニーズをしっかりと捉えたサブディスプレイである点が良くできていると感じた。
構成要素を全て幾何形体の平面でまとめた、建築的造形が魅力的なオールインワンPCである。高音質を得るために必要なスピーカーの体積を三角屋根のような造形で確保し、端子類と放熱用のスリット、スタンドのアーム等があたかもその三角屋根を中心に設計されたかのように配置され、コンポジションとしての完成度も高く美しい。
モバイルゲーマーが必要とするすべての機材を持ち運ぶために開発されたバッグシリーズである。必要なコンパートメント、保護するクッション機能、それぞれに個別アクセスできる開閉部などを非常にコンパクトな耐水性のバッグにまとめている。スタイリッシュなその仕上がりはトラベルバッグとしても使うことができ、ゲームを愛するユーザー達の日々のスタイルに主張を添加する。
右利き、左利き両方に平等にゲーミング時の快適な操作性を提供するゲーミング用マウスである。摩擦を減らしてゲーム操作のスピードを上げるためのレストパーツは、マグネットにより左右どちらにも付け替え可能で、不要な場合は取り外して使用することも可能としている。マウスパッドからのワイヤレス充電によりケーブルからも解放され、快適な操作性とスピードを利き手を選ばず提供している。
同社のSpectreラップトップPCシリーズのデザインアイデンティティーを反映し、スクロールホイールの加工＆テクスチャがシリーズPCとの親和性と高品質なプレミアム感を演出してくれる。ノイズレスでシンプルにまとめられた外観形状は、重さ質感ともに手馴染みが良く、無意識かつ違和感のない操作満足を提供してくれる美しいプロダクトとして評価された。最大4台のデバイスとペアリング可能、フル充電で最大11週間使用可能と、機能としても充分な要素を満たしているミニマルなデザインである。
3Dプリンタはユーザーインターフェイスが複雑なものが多く、誰でも使いやすくデザインされたものが少なかった。本製品は、モデルの取り出しや、マテリアル、インク交換など、日々の操作のひとつひとつが緻密にデザインされており、従来品に比べ、圧倒的に直感的で使いやすい。レーザープリンタのような分かりやすいインターフェイスとオフィスに馴染む佇まいは、普及期に入った3Dプリンタの未来を垣間見せてくれる。
本格的なVRゴーグルはどうしても複雑な造形と調整を必要としていたが、この製品は非常に単純化された造形と簡単な調節機構により、特殊なプロダクトというハイエンドVRゴーグルのイメージを親しみやすいものとすることに成功している。通常、ゴーグルを掛けた際になんとも奇妙な存在になってしまうユーザーのルックスを、前後に施されたソフトファブリックがややカジュアルに和らげている。
