【中窪 悟 編】第6回:働き方を変え、地方の暮らしを豊かにするゼロトラストの実践

元自治体キーマンが描く、ICT活用の過去・現在・未来シリーズ

2026-05-14

中窪 悟氏
中窪 悟氏

日本のICT活用の進化を決定づけるのは地方自治体だ。国家レベルの施策を実際に運用し、国民へのサービスとして昇華させるのは各自治体の役目でもある。そんな自治体において、ICT活用の進化が著しいケースがいくつかある。そしてその共通項として必ず浮上するのが、特筆すべき人材、いわゆる「キーマン」の存在だ。ここでは各自治体においてキーマンとして活躍し、大事業を達成させてきた人物にそれぞれが思い描くICT活用について語ってもらっている。彼らの考えや軌跡をみることによって、同じ自治体はもちろん、企業、組織にも大きなヒントが得られるはずなので、ぜひ熟読していただきたい。

取材:中山 一弘

中窪 悟

中窪商店(ITコンサル) 店主
一般社団法人コード・フォー・ジャパン Govtech チーム
総務省 地域情報化アドバイザー
総務省 地方公共団体の経営・財務マネジメント強化事業アドバイザー

中窪 悟
  • 自治体職員として30年間勤務。うち15年をいわゆる情シス担当として自治体の情報通信インフラからネットワーク及びシステム全般の構築・運用に従事する。
    Googleのソリューションを全面的に導入し、自治体で初めてフルクラウドによるゼロトラストな環境を構築。2025年4月より現職。

ゼロトラストの概念などについて前回は伺いましたが、今回はそれを受けて次の段階として、ゼロトラストやクラウド化が働き方などにどのような影響をもたらすかについてもお話をしていただきたいと思います。

中窪

ゼロトラストによって具体化されることの中でも影響が大きいのは働き方に関わるところだと思っています。都市部とそれ以外では受け取り方に違いがあるかもしれませんが、ゼロトラストの実現によって、働き方が変化することは当たり前になってくると思います。

ゼロトラストの概念を把握するような段階からは、なるべく早く脱却して実践していくことが必要となります。IDベースの話もあくまでも手段や施策なのであって、目的は働き方を変えつつ地方の暮らしを豊かにするために、行政は何ができるのかを考えることが主目的です。

地方自治体などでは特に顕著になってきていますが、人口減少などに伴ってその地域で受けられるサービスも減ってきています。地方の場合であれば、タクシーが減っていることかもしれないし、街のクリーニング屋さんが少なくなったことかもしれません。

どのような職業でも人手がなくなっている現状があるので、そのような状況におかれながら現状を維持していくのかを考えなくてはなりません。人手が減っている以上、これまでのように各人が専門店を営むことはもう難しい面もあるかもしれません。そうなると複数の役割を同時に担っていけるような仕組みも必要になってきます。

例えば自治体が提供しているサービスでは、何かの手続きをするためにその都度役所まで来てもらうのがこれまでのやり方でしたが、そうした「場所に縛られる」やり方ではない方法も探さなければなりません。

何かの用事で出かけた先で、ついでに役所の用も済ませることができたら便利です。地方の場合は合併なども繰り返しているため、物理的に役所まで距離があったり時間がかかったりすることも珍しくないので、その点でも場所の縛りからの解放には大きなメリットがあります。

都市部にお住まいの方には分かりにくいかもしれませんが、電車もバスもないけれども役所まで何十キロもあるような環境というのは、地方では珍しいものではないのです。こういう課題は、多くの自治体でも認識されているものです。

柔軟な働き方や場所の制約をなくす基盤づくりは、今後ますます必要になってくるものでしょう。そうした場合に発想を転換していくツールとして、ゼロトラストのようなものがもっと一般的になってくるとよいのだと思います。

肝付町でお仕事をされていたときには、そういう目的にも取り組んでこられたのでしょうか。

中窪

私が肝付町で働いていたときには、クラウドベースやゼロトラストのようなものを導入してみて、自分たちの仕事を実際にどう変えられるのかを検証してみようということで、若手を中心に実際にやってみたことがありました。

「働き方を作るプロジェクト」というようなものだったのですが、いろいろなことを検討しました。そのなかで最終的にやってみたのが、自分たちがコンビニのイートインスペースで働いてみて、住民サービスにつなげることができるかというものでした。

これに関して我々は、若手が中心となって地域のコンビニを運営する会社さんと相談し、「こういう取り組みをしていて、こんな事業を計画しているのですがご協力いただけませんか」というプレゼンも行ったうえで、ご理解いただいてコンビニのイートインスペースで仕事をしていました。

ここでは、こういった地元の企業さんなども地域の資源と考えることができます。そうした地域にあるものと、行政が手を組んでなにかの課題解決に取り組むことができたのが、まずよかったという印象がありました。

中窪

このときご協力いただいたのは大手コンビニ企業でしたが、そちらの社内で Google Workspace を使っていらっしゃいました。そのため、我々とも Google Workspace の機能を使ってオンライン会議や資料のやり取りなどもスムーズに行うことができました。最終的には対面でのプレゼンも行いましたが、それに至るまでにコミュニケーションもすべてクラウド上で密接に取ることができたのも大きな収穫でした。

これは今後、地域の資源(リソース)が減っていくなかで、行政側の取り組み方としても大切な気づきをもたらしてくれたと思います。

いまコンビニというところには、行政サービスのいろいろなことを受け持つような機能もあります。特に役所まで遠い地方などの場合には、行政の窓口のような位置づけになっている場合もあって、住民の方にももっと利用していただきたいということもありました。

特にご高齢の方の場合など、大変な思いをしながら役所の窓口まで来て税金を納付してくださったりすることも多いものです。しかし、現在であればコンビニで支払うこともできますし、種類にもよりますが各種の証明書などを発行することも可能です。そのことを周知していければ、コンビニは役所の最前線にもなり得る場所です。

ただし、まだまだ普及していないことは確かなので、そういう機能を持つところとしてコンビニを利用していただくために、自分たち役所の人間がそこで仕事をしていれば、住民の方の問い合わせに応えることもできますし、お手伝いをすることもできます。

それによって役所の窓口までわざわざ行くことも減らせるし、住民サービスの向上にもつながるのではないかと考えてプロジェクトとして取り組んだものになります。

その取り組みが実現したのも、ゼロトラストを実現し、働き方改革を進めていたからということですね。

中窪

ゼロトラストはその環境を作るために必要なものでしたが、やはり目的はその技術を使ってどのように住民サービスを提供するのか、そして品質を向上させていくかというところにあると考えています。

我々がコンビニで仕事をしているということも、大手コンビニ企業が宣伝までしてくれていたので、けっこう興味を持って来てくれる方もいらっしゃいました。その結果、想定以上の方と直接話し合う機会を得ることもできました。

中には「役所というのは別に行きたい場所ではないので、地域で行きやすい場所でそのサービスが受けられればいい」という声も多くありました。行政の人間としても、役所で待っているだけではなくて、地域の行きやすい場所に行政サービスがあることが大切だということも実感しました。

この取り組みでは、我々が想定していなかった面白い結果もありました。例えばコンビニに役所の人間がいると、役所で手続きしているときには出ないような、課題が生まれることもありました。

小さい町でしたので顔見知りも多く、我々がコンビニで仕事をしていると気軽に話しかけてくれて、「そういえばこういうことがあったのだけど、こういうのはどうすればいいのか?」というような相談に発展することもありました。また、わざわざ役所に行ったり電話したりするほどではないけれども、誰か職員がいたら聞いてみたいようなことまで、気軽に尋ねてくれるようなこともありました。

これは役所の窓口ではなかなかできないことなので、その点でもこういう取り組みにはメリットがあると感じました。

例えばあるときに、トラクターの納税について質問されたことがありましたが、私は違う部署なのでよく分かりませんでした。そこで、「いま税の担当につなぎますからこれで話してみてください」ということで、Google meet を使ってオンライン経由で話してもらったこともありました。

こういうことも気軽にできるので、住民の方とのコミュニケーションやサービスの向上という点でも、効果のあった取り組みになったと思います。

中窪

特に地方などの場合には、役所から飛び出して地域のなかで活動していくことが、これからはますます大切になってくると思います。住民の方々との接点を作っていくという意味でも、関わる機会を増やして密につながっていく必要があります。これがないと、人口減少のなかでは行政サービスも成り立たなくなってくるのではないでしょうか。

先ほどまではコンビニを活用した例でしたが、病院でも子ども食堂でも地域のお祭りでも、様々な場所が想定できると思います。それにはクラウド化とゼロトラストの環境を整備しておく必要があります。

その取り組みでは、「出張所」ではない場所でも端末を持っていくだけで仕事ができることを証明することができました。肝付町の場合は、こういった取り組みを若手主体でやることができたのも、大きな成果だと思っています。地域の方々が協力してくれれば、つながりを広げていくことも可能です。

時代的にも、行政だけですべてなんとかするのは難しくなっています。今回の取り組みでは、大手コンビニ企業も大きな手応えを感じてくださっていたようですが、彼らにとってビジネスのヒントが得られるようにすることも今後につなげていくためには必要です。

地方などの場合には、コンビニが1軒もないような町もあって、特に高齢者などでは買い物難民になってしまうこともよくあります。そのため最近では、自治体がコンビニを誘致するような活動をすることもあるくらいです。

ただそこで問題になってくるのが、そのコンビニで働く人を十分に確保できるかということです。都市部のように外国人材に頼るのも難しいですし、物流はなんとかなっても常に店員さんの数を充足しておくのは大変です。そういうときに、今回の事例のように行政の職員が働いていればいいのではないか、というような考え方も出てくるかもしれません。

高齢者の買い物難民の場合、しっかり栄養を摂らなければいけないのに、買い物に行けないためにそれができないこともあります。クラウド化とゼロトラストにより、職員がどこにいても仕事ができる環境をつくることで、社会が抱えている福祉の問題解決にもつながるかもしれないのです。これは一例ですが、クラウド化とゼロトラストにより、職員が場所から解放されることによって得られる課題解決の可能性をますます広げていくことができるのではないかと考えています。

本日はありがとうございました。次回もお願いします。

連載
  1. 第1回:肝付町を変えた光回線と行政DXの起点
  2. 第2回:オンプレミスからクラウドへの変革はなぜ必要だったのか?
  3. 第3回:すべては必然だった!クラウドが促進した“場所”からの解放
  4. 第4回:ICTの考え方を根本から見直す!構造の転換が自治体DXを促進する
  5. 第5回:ゼロトラストの先に見据える自治体セキュリティの未来
  6. 第6回:働き方を変え、地方の暮らしを豊かにするゼロトラストの実践

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