2035年の印刷業界はこう変わる!
デジタル印刷が主役になる理由とは?
デジタル印刷は「小ロット・短納期」のためだけの技術ではなく、2035年に向けて印刷業界の重要な柱となりつつある。現在、環境対応、スマートファクトリー化、パーソナライズ需要の拡大といった課題に対して、進化したデジタル印刷がその解決策として注目されている。従来はオフセット印刷を補完する存在であったデジタル印刷が、業界の持続的成長を支える主軸へと変貌を遂げている。
Smithersの調査*によれば、2025年現在、世界の印刷市場におけるデジタル印刷の売上比率は約15%であるが、年平均成長率は6%以上を記録しており、2035年には世界の印刷市場の約4分の1を占めると予測されている。こうした成長は今後さらに加速し、デジタル印刷が印刷業界の中心に据えられる時代が到来すると予想される。業界変革に適応し、持続可能な成長を実現するためには、印刷会社が長期的な視点を持ち、将来を見据えた戦略を構築することが求められている。
*出典:Smithers/The Future of Digital Printing to 2035
1. 印刷業界の潮流:デジタルシフトと持続可能性
現在、印刷業界は需要構造の大変革期を迎えており、デジタルシフトの動きが一層顕著となっている。雑誌・新聞の発行部数減少に代表されるように、大量一括印刷の市場が縮小する一方で、製品パッケージやDM(ダイレクトメール)などを中心に短納期・多品種対応のニーズが増大している。特にパッケージ印刷分野は、世界的な人口動態の変化や消費者嗜好の多様化を背景に、今後も堅調な成長が見込まれる。こうした新たな市場機会を確実に捉えるためには、デジタル印刷の活用が欠かせない。
同時に、環境持続性への要求も産業全体で高まっている。大量生産・大量廃棄の従来モデルは見直しを迫られ、必要なものを必要な分だけ作る生産体制への転換が進んでいる。デジタル印刷は版を使用しないため、製版プロセスでの薬品や廃液を削減でき、在庫ロスや余剰廃棄の最小化にもつながる。これにより環境負荷低減とコスト削減の両立が可能である。
さらに、スマートファクトリー化と人材不足への対応も業界の重要テーマである。先進国を中心に少子高齢化による労働力人口の減少や、熟練オペレーターの高齢化が深刻化する中、生産プロセスのデジタル自動化は競争力維持のカギとなっている。デジタル印刷機は高度なプロセス自動化機能を備え、オペレーターの負担を軽減する。熟練職人の経験と勘に頼りがちな従来印刷に対し、データに基づく安定品質を実現できる点でもデジタル印刷は優位だ。将来的にはAIによる印刷機の自己最適化や無人運転ラインも現実味を帯びており、2035年には人手に頼らない自律型の印刷工場が登場している可能性すらある。
消費者行動の変化
テクノロジーの進化
環境負荷低減と
コスト削減の両立
以上のように、市場ニーズと技術トレンドの双方から、印刷業界はデジタルシフトを加速せざるを得ない状況となっている。ではデジタル印刷には具体的にどのようなメリットがあり、印刷会社はそれをどう活かせるのか。次章で詳しく見ていこう。
2. デジタル印刷の優位性:持続成長の鍵
デジタル印刷技術は、従来のアナログ印刷では難しかった多くの利点をもたらす。印刷企業が持続的成長する上で鍵となるデジタル印刷ならではのメリットを以下に整理する。
小ロット多品種生産への適性
デジタル印刷は版を作成する必要がなく、迅速な印刷内容の切替えが可能である。これにより、多数の異なる印刷ジョブを効率よく処理でき、在庫リスクを抑えつつ需要に応じた生産が可能である。結果として短納期対応力が高まる。
パーソナライズ印刷・バリアブル印刷
デジタル印刷では一枚ごとに内容を変える可変データ印刷が容易である。DM(ダイレクトメール)や販促チラシにおいて、顧客一人ひとりに最適化された内容を印刷できるため反応率が向上し、マーケティング効果を高めることができる。また製品パッケージでも、地域限定デザインや記念版など少量多品種の展開が可能となり、ブランド価値向上につながる。
高品質・高付加価値な印刷表現
近年のデジタル印刷機は画質・色再現性において著しい進歩を遂げている。特にHP Indigoが採用する液体トナー方式はオフセット印刷に匹敵する品質である。また、特殊インキやコーティング工程と組み合わせることで、高付加価値加工も再現可能である。これにより、印刷物の付加価値を高めることができる。
在庫削減とコスト最適化
必要な部数を必要な時に印刷できるため、余剰在庫の発生を抑制できる。タイムリーな生産が可能であり、その結果、保管コストや廃棄ロスの削減につながる。常に最新情報で印刷物を作れるため内容変更にも柔軟で、無駄のない効率的なサプライチェーン構築に寄与する。
サプライチェーンの柔軟性
デジタル印刷はデータさえあれば即座に別デザインでの生産を開始できる。市場の変化に即応した印刷展開が可能である。例えばキャンペーン内容の急変更があっても即日で新デザインの販促物を提供できれば、顧客企業からの信頼にも直結する。このようにフレキシブルな生産体制は、従来にはない競争力となる。
以上のように、デジタル印刷は生産効率・マーケティング効果・品質・コストのあらゆる面で大きな利点を持つ。これらのメリットこそが、印刷企業が持続的に成長するための鍵となっており、昨今の業界動向が示す通りデジタル印刷への取り組み如何が今後の競争力を左右すると言っても過言ではない。
3. デジタル印刷をリードする技術
数あるデジタル印刷技術の中でも、HP Indigoデジタル印刷機はその卓越した性能と信頼性で業界をリードしている。HP Indigoシリーズが持つ主な強みを紹介する。
- オフセット品質の再現性: HP Indigoデジタル印刷機は液体トナー(エレクトロインキ)方式を採用し、極めて微細な網点と滑らかな階調表現を実現している。特に写真画像の精緻な再現やベタ面の均一な再現においても、オフセット印刷に匹敵するクオリティを発揮する。印刷プロフェッショナルからも「HP Indigoでの印刷物は一見してオフセットと区別がつかない」と評価されるほどであり、高い画質が要求される商業印刷やパッケージ印刷でも安心して適用できる。
- 幅広い素材対応力: HP Indigoデジタル印刷機は紙だけでなく、合成紙、蒸着紙、厚紙など多様な印刷基材に対応可能なモデルを展開している。例えばラベル・パッケージ向けのHP Indigoデジタル印刷機では、フィルムやアルミ蒸着紙への直接印刷も可能であり、耐久性の高いラベルや軟包装材のデジタル印刷を実現する。この多様な基材適性により、印刷会社は一台のHP Indigoデジタル印刷機で非常に広範囲な製品サービスを提供できる。商業印刷から包装分野までシームレスにカバーできる点は、HP Indigoならではの強みである。
- 生産性と安定稼働: HP Indigoデジタル印刷機は長時間連続稼働に耐える設計であり、毎分数十メートルの印刷や毎時数千枚のシート印刷が可能である。自動キャリブレーション機能や内蔵センサーによる品質監視機構を備え、安定した品質で印刷し続けることができる。クラウドプラットフォーム「HP PrintOS」を通じてネットワーク経由で監視・操作し、生産ジョブのスケジューリング最適化や予防保全メンテナンスを行うことも可能だ。これにより稼働停止リスクを低減しつつ生産効率を最大化できるため、少量多品種ジョブでも高いOEE(総合設備効率)を実現できる。
- 特殊色・加工対応: HP Indigoデジタル印刷機はCMYKのプロセスカラーに加え、特色インキも対応する。白やシルバーインキを用いた下地印刷、特色を加えた7色印刷による広色域再現など、付加価値の高い表現力を提供する。例えば高級ブランドのパッケージでは鮮やかなブランドカラーやメタリック表現が要求されるが、HP Indigoであれば少部数からこれを実現できる。可変データ印刷と組み合わせて一つひとつデザインの異なる印刷物を制作することも可能である。
以上のように、HP Indigoはデジタル印刷のメリットを最大限に引き出す機能とサービスを備えている。高画質・高生産性と多用途性により、印刷会社が直面する課題を解決し、新たなビジネスチャンスの創出を支援する。
4. デジタル印刷ビジネスの成功のための戦略
デジタル印刷技術の普及は、印刷会社に大きな変革の機会をもたらしているが、それを導入するだけで競争力が向上するわけではない。印刷会社が持続的な成長を達成するためには、デジタル印刷の強みを生かした明確な経営戦略が必要である。特に重要となる2つの戦略、「1. 自動化による小ロット多品種の効率生産」と「2. 高付加価値サービスによる収益性の確保」について考察する。
1. 自動化による小ロット多品種の効率生産
デジタル印刷の効果を最大化するために、周辺工程のデジタル化・自動化が不可欠である。受注から出荷までのプロセスをシームレスにつなぎ、人手作業や待ち時間を極限まで削減することが求められる。例えば、Web受注システムとHP PrintOSを直接連携させることで、オンラインで受け付けた注文データを即座に印刷キューに投入し、自動で印刷を開始できるようになる。このため、人間の判断や手動オペレーションを省略し、小ロットジョブを高速に処理する生産体制が実現し、結果、次々と異種の印刷を連続処理できることで1件あたり少量でも収益を出せるようになり、総合設備効率(OEE)の向上に寄与する。
印刷後の仕上げ加工についても、自動搬送装置やデジタル仕上げ機と接続することで、人手介在なしの一貫生産ラインを構築できる。近年は印刷物を搬送するAGV/AMRや、後工程装置へのバーコード連携による自動セッティングなど、スマート工場化を支える技術が実用段階に入っている。これらを活用すれば、受注から出荷まで人の手を最小限にした生産が現実となり、1件当たりのロットが小さくても利益を確保できる効率的な多品種生産が可能となる。
要するに、デジタル印刷導入の恩恵を最大化するには「印刷以外の工程も含めてデジタル技術で整備する」ことが重要だ。HP Indigoは前述のHP PrintOSや各種API連携により、他システムとの統合を前提に設計されている。これを活用して社内のMIS(経営情報システム)や受注システム、在庫管理システムとHP Indigoを接続すれば、工場全体の自動化・最適化が進み、市場の要求する短納期・多品種生産を競争力ある形で実現できるのである。
2. 高付加価値サービスによる収益性の確保
デジタル印刷を成長戦略の柱とするには、単に効率を追求するだけでなく高付加価値分野で収益を確保する発想が重要だ。小ロット対応はコスト削減には寄与しても、提供価値そのものを高めるわけではない。競合他社との差別化と利益率向上を図るため、デジタル印刷で可能となる新しいサービスや付加価値創出に取り組む必要がある。
- 可変データ印刷 一つの方向性が可変データ印刷の積極展開である。データを駆使し、エンドユーザーごとに内容の異なる印刷物を提供するサービスは、顧客企業にとってマーケティング効果が高く評価される。例えば、購入履歴に基づき一人ひとりに合わせた商品カタログを送付する、名前入りのDMやクーポンを発行するといった施策は、画一的な大量印刷物よりも顧客の心に響きやすい。印刷会社にとっては、こうした高精度マーケティング支援サービスを提供できれば単なる印刷物納入業者からビジネスパートナーへと格上げされ、価格競争に陥りにくい安定した取引につながる。
- 特殊印刷 付加価値の高い特殊印刷分野への参入も有望である。HP Indigoはセキュリティ印刷や特殊色印刷にも対応しており、近年では不可視インクや極小文字印刷など多層的なセキュリティ対策を実現する「HP Indigo Secure」ソリューションも提供している。KURZ社のScribos技術との連携により、偽造防止要素をワンパスで印刷物に組み込むことが可能となり、例えば宝飾品や高級時計の証明書、医薬品パッケージなどにおいて高度な偽造防止印刷が実現できる。これにより、印刷会社は単なる印刷物の提供者にとどまらず、ブランド保護や高付加価値サービスの提供において中核的な役割を担うことが可能となる。さらに、こうした分野では品質や信頼性に加え、迅速な供給体制と柔軟な対応力が求められるため、先進的なデジタル印刷設備の導入自体が大きな競争力となるだろう。
- 総合的なサービスの提供 総合的なサービスの提供も競争優位性を高めるうえで非常に有効な戦略となる。デジタル印刷を軸に、企画提案やデザイン、後加工、物流まで含めたワンストップサービスを構築すれば、顧客企業にとって発注の手間が大幅に軽減される。例えばDM発送代行や店舗販促物のキッティング作業まで含めた包括サービスを提供すれば、印刷物の効果検証や次回提案まで踏み込んだコンサル型の関係を築くことも可能だ。これは従来の大量生産型ビジネスでは難しかったアプローチであり、デジタル印刷の柔軟性とITとの親和性があってこそ成立する新しいビジネスモデルと言える。
このように、デジタル印刷導入によって得られる技術的メリットを踏まえつつ、それを高付加価値サービスの創出につなげることが肝要である。デジタル印刷はアイデア次第で新たな価値を生み出せるプラットフォームであり、その可能性を最大限に引き出す戦略が求められている。
HP Indigo
最も幅広い
メディア対応
| コート紙 非コート紙 |
合成紙 | 粘着紙 | 厚紙薄紙 |
| カラー用紙 黒紙 |
蒸着紙* | キャンバス | 熱転写 |
3,300を超える
認証メディア
うち75%はサステナブルなメディア
75-600ミクロンのメディア
* Supporting non-conductive metalized substrates
おわりに:未来へ備え今打つべき一手
急速に変化する印刷業界において、デジタル印刷への対応こそが未来への成長戦略の中核だと確信している。重要なのは、この流れを脅威ではなく機会と捉え前向きに技術革新とビジネスモデル変革に取り組むことである。2035年、印刷物の価値が一層問われる時代において勝ち続けている印刷会社は、間違いなくデジタル技術を巧みに取り入れ、市場ニーズへの対応力で他社を凌駕しているだろう。技術革新は日々進展している。ぜひ、最先端ソリューションを活用しながら、自社の競争優位性と持続可能な成長基盤の構築に着手し、2035年においても日本の印刷業界が輝き続けることを心より願っている。
- 永嶋 ゆり
- 株式会社 日本HP
- インダストリアルセールス本部 マーケティング部
- シニアスペシャリスト
2011年に日本ヒューレット・パッカード(現:日本HP)に入社以来、デジタル印刷機のマーケティングを中心に、印刷業界の多岐にわたる分野で豊富な経験を積んでまいりました。
グローバル市場の動向を的確に捉える分析力と、営業・マーケティング・市場開拓の実務経験を融合させ、業界内外への情報発信を通じて、顧客企業の成長支援および印刷産業の価値向上に尽力しています。