皆さんは、HPがPOSを提供しているという話を聞いてどう感じるでしょうか。HPでPOS製品を長年担当している私自身、担当する前は『HPとPOSのイメージがうまく重ならない!』と正直思いました。そんなHPですが、現在は世界で一番POS製品を出荷するハードウェアベンダーになっているのです(*1)。この事実、皆さんには驚きでしょうか。本稿ではそんなHPのPOSの話を、少し詳しく皆さんにご紹介したいと思います。
HPが店舗サーバーを提供していた米国のとあるスーパーマーケットチェーンのお客様が、HPにある相談を持ちかけたのが始まりでした。その時、そのチェーンでは2社のPOSターミナルを利用していましたが、当時のPOSシステムは制約の多いクローズドなシステムで、既にオープンシステムが浸透しユーザー側がコストコントロールをある程度行えるようになっていたサーバーなどの他のシステム領域とは、大きく様相を異にしていました。
『---------もっとオープンで自由度の高いPOSを、HPなら提供できるはず---------』
その要望は、2003年7月にrp5000というモジュラー型の製品に結実します。オープンなPCのアーキテクチャーを採用しながら、POS領域に求められる長期供給、長時間連続稼働が可能な耐久性、多様な周辺機器を接続可能な拡張性などの特徴を製品に組み込みました。その後も、HPのPOSは多くのユーザーに支えられながら製品ラインアップを拡充し(図1)、現在はモジュラー型に加え、All-in-One型、モバイル型の3タイプのPOS製品を幅広く提供しています。(図2)
今では存在が当たり前になったPOS(Point-Of-Saleの略称)ですが、そもそもPOSとは何なのでしょう。今のコロナ禍という環境の中で、POSは少しずつ変化を遂げつつあるように見えますが、変化の中でも手戻りなく前に進むためには、物事の本質を正しく理解しながら分解と再構築を進めることが重要です。ここであらためてPOSについて振り返りたいと思います。
POSが生まれる進化の前段階には、機械式のキャッシュレジスターが電化し、Electric Cash Register(ECR)になるという大きな変化がありました。当時のキャッシュレジスターの利用目的は、主に計算を正しく行うことと、現金を正しく管理することでした。しかし、当時の店舗の決済の仕組みは非常に労働集約的で、常に正確な業務を心がけていながらも発生する、値札の付け間違いや、レジ担当の店員さんの金額の打ち間違い、受け渡し金額の間違いにより、現金過不足が発生しやすいのが悩みのたねでした。
そこで1980年代に登場するのが、バーコードスキャニングによる正確で迅速なトランザクション処理です。POSは平たくいうと、従来のECRにバーコードスキャナーを搭載し、それまで手打ちをしていた商品登録をバーコードスキャニングで行うようにしたシステムとも言えます(*2)。バーコードの登場が、店員さんを値札付け作業、金額打ち込み作業から解放しました。さらに今日では、決済手段の電子マネー化が進んだほか、現金決済の場合でも「自動釣銭機」という日本独特の周辺機器の普及により、店員さんの業務負荷はかなり軽減されるようになりました。さらに、販売データを詳細に取得、分析ができるようになったことにより、システムの存在意義は計算や現金管理を越えて、商品管理や顧客管理を可能にし、さらには需要予測や自動補充発注までが可能になるなど、小売業、サービス業の運営全体の高度化に大きな役割を果たしました。
また、少し捉え方を変えると、POSは店員さんを「現金管理」の重責から解放し、その業務の中心を「顧客サービス」へと向かわせる一つのきっかけとなったとも言えます。そしてここから、小売業、サービス業の中で「より良いサービスとは何か」についての競争が始まることになるのです。
*1:IHL社 2020年調査資料、およびRBR社2020年調査資料より。
*2:飲食業向けのシステムではバーコードスキャナーが搭載されず、あらかじめ商品名と金額がセットされたプリセットキーを利用して商品登録を行うものもあります。その場合でもこれ以降に利用されるシステムは小売業のものと同様にPOSと呼ばれています。