出典:アバクロンビー&フィッチ社
アバクロと言えば薄暗い店内に大音響の音楽が鳴り響くクラブ調の店舗、真冬であろうと上半身裸の筋肉質な男性が香水をスプレーしながら入店客を出迎える演出、そしてロゴだけでありがたがられたアメリカンカジュアルブランドだった。これを作り上げたマイク・ジェフリーズ前CEOはセクハラなどのスキャンダルにより2014年に退任し、数年間のCEO空白を経て当時サブブランド当時サブブランド、ホリスターのブランドプレジデントだったフラン・ホロヴィッツ氏が2017年にCEOに 就任した。
ホロヴィッツ氏は20~30代前半の若いプロフェッショナルをコアターゲットとしてブランドの抜本的な再生を行った。白や自然木を基調にした明るく開放的な店舗デザイン、ミニマリストなデザイン、オフィスに着ていけるプレッピーだがシンプルなスタイリングを提案、ロゴは全面的に縮小した。一方のホリスター・ブランドはティーンエイジャーにフォーカスし、よりカジュアルなアソートメントにした。店舗体験を極端に重視した前CEO時代と大きく戦略を転換し、不採算店舗を大量閉店する一方でEコマース事業拡大を戦略的に強化した。その結果、世界19か国の店舗数は2010年1,096店から2024年には830店以下に、米国店舗数は現在239店だが、EC比率は33%から54%に伸長した[1] 。そして今アバクロは、今後の成長を見据えた新たな取り組みに着手している。
出典:アバクロンビー&フィッチ社アニュアルレポート
【アバクロンビー&フィッチ、ソーホー旗艦店開業】
今年6月、マンハッタン・ソーホーに「Heritage Meets Modern(伝統とモダン)」コンセプトの新旗艦店(3層、930㎡)を開業した。トラディショナルな雰囲気を醸し出すダークな木材の什器や大理石の壁、モザイクの床などの内装にモダンな家具、ヴィンテージのタイプライターや雑貨が飾られ、重厚な雰囲気ではあるが若い世代が快適にラウンジチェアでくつろげる空間だ。店内の要所要所には創業134年の歴史を振り返り1890年代以降のルーツだったスポーツ、トラベル、発見をテーマに1911年のサラナックスーツや1960年代Willis & Geiger限定デザインのレインボウポンドジャケットの展示がある。階段の踊り場の天窓からはソーホーらしい建物が見え、2階にはホテルバーをイメージしたコーナーもある。
まさにコンセプトをそのまま感じさせる店舗空間で、旗艦店らしい豪華さも感じさせ、ソーホーを訪問する機会がある人にはぜひおすすめしたい店舗の1つだ。
1階レディス売場の中央 出典:平山撮影
天窓がある踊り場には同社の歴史を物語る製品を陳列 出典:平山撮影
【ターゲットxホリスターコレクション】
6月28日にホリスターとターゲットは「ザ・ホリスター・コレクション・アット・ターゲット」を発売、ラウンジウェアを中心とした衣料品、ベッドリネンの60アイテムを両社ウェブサイト、ホリスターの一部の店舗、ターゲットのほぼ全店で販売する。ターゲットはデザイナーとの期間限定コラボ・コレクションを長年継続しているが、同コレクションは今秋、ホリデー商戦、2027年春まで数シーズン継続する予定だ。米国小売市場で重要な新学期商戦に大学入寮用のベッドリネンや生活用品を得意とするターゲットで販売することは、ホリスターのコア顧客の人生で親から独立する重要なイベントに直接アクセスすることを意味し、ホロヴィッツCEOは「私達の顧客の大きなマイルストーンである大学入寮準備に参加できることを本当に喜んでいる」とコメントしている。
価格帯はベッドリネンが34.95ドル~64.95ドルとターゲットの類似商品の2倍近い設定だが、実際にターゲットの店頭で商品を見ると、やはりデザインのファッション性が高く、目を引く。価格が高いと言ってもデパートのブランド品よりは低い価格設定であり、基本的にはトラッド系のストライプ、チェック、小さな花柄などなので一般家庭のベッドリネンとしても使いやすい。ターゲットのウェブサイトを見ると売れ行きは上々のようで、抱きかかえてカバーに手を入れられるポケット付きのデザインの枕29.95ドルは1か月で4000点以上、ホリスターのロゴであるカモメ柄を小さく品よくあしらったベッドシーツセット34.95ドルは3000点以上、フードが付いていてすっぽりとガウンのように羽織れるブランケット39.95ドルも3000点以上売れている。
スタディバディピロー(中央、ネイビーカラー)29.95ドル
シーガル柄シーツセット 34.95ドル
フード付きブランケット 39.95ドル
出典:全てターゲットのウェブサイトよりスクリーンショット
前述のように全社業績は再び成長モードに入っているが、ブランド別にみるとホリスターは直近の第2四半期で売上前年比2%増だが既存比3%減、とまだ強化が必要な状況だ。この戦略として、従来直営販路のみだった同社が新販路開拓に乗り出したことは業界で注目されている。
[1]The Street, ‘Popular mall retailer continues comeback after closing stores’, 2025年12月4日
処方サービス付きニキビキット 出典:キューロロジー社
公的健康保険制度が無く医療費が高い米国では、比較的緊急性が低いケースが多い皮膚科医療は初診料だけで150ドル以上かかる(注:保険が出ても30ドル~75ドルは自己負担)。皮膚がんの疑いでもない限り、なかなか顔のシミやいぼだけでは受診できないが、一方でニキビを始めルックスに影響する皮膚の症状は、多くの人にとって生活の質に影響する悩みでもある。また人口10万人に対して皮膚科医が4人未満という皮膚科医不足地域は全米で17%存在する。
これらのニーズを解決するため、皮膚や老化現象の領域で医薬部外品化粧品を購入する際オンラインでテキストと画像をもとに皮膚科医に症状を診断してもらい、適切な製品を選んでもらうテレメディケーションビジネスが成長している。
その先駆的ブランド、ミューズリー(Musely)は、皮膚のシミ、皺、赤ら顔、関節痛や睡眠障害などの老化現象、閉経時の症状、髪の毛のトラブルの6領域でサービスを提供する。顧客は解消したい症状を選び、塗薬、飲み薬などのタイプを選んでチェックアウトに進み、そこで症状の説明と写真をアップロードすると皮膚科医がその症状にもっとも効果が出る製品を処方してくれる。基本的にはサブスクリプションモデルで製品は1か月分32ドル以上、2か月ごとに購入する。初回のみ前述の皮膚科医診療代として20ドルがかかるが、2か月間は無料で何度でも製品で症状が変わらないなどを皮膚科医に相談できる。
同社は2021年の開業以降130万人の患者に製品を販売し、今年5月にゼネラルカタリストのカスタマーバリューファンドから3億6000万ドルを獲得し、7月にはニュースウィークの「アメリカのベストオンラインプラットフォーム2026」ヘルスケア部門で1位に選ばれた。
同様のビジネスモデルのキューロロジー(Curology)はニキビケアに特化し、この製品を最初の1か月分は送料と手数料5.45ドルのみで受け取り、その後は60日毎に配送される。製品価格は1か月あたり29.95ドルからだ。解約や内容変更も可能で、医師の処方が不要な化粧品も販売している。
同社は販路拡大に向けて、オンラインで処方してもらえる60日分の薬用ニキビケア製品、クレンザー、モイスチャライザーのセット「処方サービス付きニキビキット」(冒頭写真)を7月から期間限定でウォルマート約1,000店舗とオンラインで販売開始した。キットにはオンライン処方にアクセスできるデジタルコードがあり、後から処方薬用化粧品が送られてくる仕組みだ。全部で98ドル相当だが24.97ドルで購入できるのでかなりお買い得だ。
ファッション系や生活消費財のD2Cブランドとターゲットやウォルマートのようなマスマーケットのチェーンストアとのタイアップは新販路開拓として一般的になってきているが、テレメディケーションの領域でチェーンストア販売は初めてで、パーソナライゼーションが重要な若い世代がどう反応を示すか興味深い。
出典:スーラテーブル社セカンドサービングズのウェブサイトより
高級キッチン用品専門店のスーラテーブルが8月25日からピア・トゥ・ピアの中古品再販マーケットプレース「セカンドサービングズ」を開始した。再販価格は50~70%オフで、セラーは売上を現金で受け取る場合販売価格の70%、スーラテーブルのクレジットの場合は100%受け取ることができる。
キッチン用品は一般的な中古品再販サイトでも販売されているが、一度使用すると衣類などより傷みが激しいので、ギフトなどで手に入れた未使用品が市場に出てくることが多い。また、アウトレットストアで安くブランド品を購入し、そのまま再販するケースも多い。業界最大手のウィリアムズソノマは中古品再販は行っておらず、業界でオープンボックスと呼ぶ、新品・未使用だがパッケージの箱が開封された商品、ほとんどは返品商品か倉庫に眠っていた古い在庫をウェブサイト上の1カテゴリーとして販売している。
早速開業したてのサイトを覗いてみた。まだあまり商品点数は多くないが、調理器具ならフランスの鋳鉄鍋、ルクルーゼとかベルギー王室御用達フライパン、デメイエレなどが格安で出ている。実際に使用した商品でも写真を見る限り新品のようだ。しかし現時点では8割以上がオープンボックスで、未使用だから安心して買えるものの、プレスリリースやウェブサイトに書かれているように「良い調理器具はいつまでも使えるから、環境保全のためにも長く使う」といったサステナビリティの精神より、返品や過剰在庫の処理の香りがする。サイトの利用規定には「時々オープンボックスも販売する」と書かれている。
売る時の簡単さも強調されているので、早速試してみた。我が家で10年以上毎日のように使い古しているルクルーゼの鍋、自分では大切に使っているつもりでもエナメルの一部が剥げたり、クリーム色だった鍋底は黒っぽくなっている品の販売登録をしてみた。写真を2枚以上提出し、そのうち1枚はロゴが入っている底の画像も必ず入れなければいけない。販売できるアイテムやブランドは限定されていて、その範囲でアイテム名を選ばなければならなかったので、結果的にルクルーゼの違うサイズ、違う色のダッチオーブンを選ぶことになってしまった。それでも問題なく登録ができた。利用規定を読むと、受け取った商品は返品不可で品質は保証しない。ただし、ダメージや商品情報と乖離があった場合には3日以内にスーラテーブルに写真付きでクレームし、6日以内に返送すれば返金される。また、万が一セラーが規定通りに6営業日以内に出荷されない場合は、全額返金となる。
まだ開業したばかりだし、業界では初めての試みなのでテストモードという印象を持ちながら、何か買いたいものがないか消費者目線で探したところ、フランスの有名ブランド、ストウブのフレンチオーブン鍋を発見、なんとオープンボックスで元値399.95ドルが120ドルだ。念のため定価販売のスーラテーブルのサイトを見ると、全く同じ商品が希望小売価格571ドル、それを労働感謝祭セール229.96ドルで販売している。これは再販サイトで買うしかない。恐らく値上げ前の古い在庫品をホリデー商戦前の在庫処分で放出したのだろう。
消費者目線からは「時々チェックしてみよう」という気持ちになったが、業界人目線からは、はたして本当の中古品をどこまで品質を管理できるのか、衣料品ほどファッション性は無く回転が低い領域なのでどこまで供給や需要が多いのか、筆者はたまたま業務上この新サイトを知ったが広く消費者に認知されるには競合企業のように自社サイトの1カテゴリーとして扱った方がブランディング上軽投資で済むのではないか、などを考えた。ちなみに現時点ではまだ米国限定サイトなので、残念ながら日本からの購入は不可だ。
ニューメレイタ-社によるウォルマート顧客調査は、オムニチャネル時代の消費行動を映し出しており、小売業界で幅広く参考になる内容だ。
【来店客数動向】
同社消費財売上高の75%は店内購入だが、過去1年間に来店回数は1億1,800万回減少の一方でwalmart.comは約2億5,000万回訪問が増えている。来店客数調査企業Placer.aiのデータによると2026年度第1四半期のウォルマート売上高既存比は4.1%増にも関わらず、来店客数はほぼ横ばいだ。つまりEC売上の拡大が売上成長を支えている。特に6月の来店客数は、初夏のセール「ウォルマートディールズ」開催にも関わらず最も低かった。
オンラインにシフトする顧客属性を見ると、高額所得者とZ世代が貢献している。過去1年間に高額所得者はオンライン売上を約64億ドル、27%増加させ、Z世代も48%増加させた。
【平均客単価】
EC顧客の平均客単価は65ドル、来店客の40ドルよりはるかに高いが、購入頻度は来店客より低く、その結果年間平均購入額はEC客が1,600ドルに対し、店舗客は1,900ドルだ。
【世代別購入額】
ニューメレイター社のデータでは、ベビーブーマー世代の店内購入額は同社消費財売上の38%を占めるが、購入額自体は2.2%減少した。EC購入額では0.7ポイント増加したが、同世代のアマゾンでの購入は1.0ポイント、コストコ0.4ポイント増加している。特にミドルクラスと低所得者層でウォルマートでの購入が減少しており、店内購入はそれぞれ5.9%、14.3%減少している。
これらから考察できるのは、①どの世代でもオムニチャネル購入が当たり前になっている、②基本的には店舗への来店頻度は下がり、その分ECで購入している、③来店頻度は下がってもECより客単価が高い傾向があり、せっかく来店したのだからついでに目についた商品を買う傾向がある、④コア顧客だったベビーブーマーは低・中所得層を中心に減少、ということだ。
業績好調が続くウォルマートだが、このデータは同社が顧客の世代交代や購買行動の変化にきちんと対応している、という証でもある。
【在米リテールストラテジスト 平山幸江】