ロゴを刷新し、内装デザインやサービスもレベルアップしたレバノン店 出典:The Tennessean, ‘Sam’s Club arrives in Lebanon with new look’, Andrew Nelles氏撮影。2026年7月29日
7月30日、テネシー州レバノンに約15,800㎡(17万sq.ft.)の最新フォーマット店が開業した。ロゴ、店内デザインだけでなく、サービス系を充実させた店で、長引くインフレ下で絶好調のコストコに対抗し市場シェアを奪う目的で設計された店舗だ。
同フォーマットは年内にカリフォルニア州北部に2店、テキサス州ヒューストン郊外に1店出店予定で、テキサス州ではこれ以外に2店用地を確保している。7月時点でコストコは全米652店、サムズクラブは601店と店舗数で迫っており、コストコは高品質で知られるPB「カークランド」の強みを持つが、サムズクラブも複数あったPBを「メンバーズマーク」に統一し強化中だ。サムズクラブには自動在庫管理ロボットや前述の決済システムなど最先端技術を活用して会員に便利で快適な店内経験を提供できるという強みがあり、今後の動きが注目される。
出典:The Tennesean, ‘Sam’s Club arrives in Lebanon with new look’, Andrew Nelles氏撮影。2026年7月29日
出典:ベストバイ社広報ページ
長引くインフレによる大型消費市場の冷え込み、メモリーチップ価格高騰による家電製品の値上げ、と逆風の中、最大手のベストバイはさまざまな戦略を打ち出している。当レポートでもご紹介したが、昨年11月に家具専門店イケアのインショップを導入し、部屋の模様替えの際のリアルな消費行動に寄り添ったサービスを提供しているが、今年6月から今度はメタ社と提携し「メタ・ラボ@ベストバイ」を全米50店舗に導入した。
メタ・ラボは84㎡(900sq.ft.)のインショップで、AIグラスとVRヘッドセット全製品を展示し、体験することができる。具体的にはメタ社従業員から製品特性や使い方について細かく説明を受けながら、メタ・クエスト3、メタ・レイバン・スマートグラスでゲームやショー、ワークアウト等を体験できる。またスマートグラスを使ってメタAIに質問し日常生活上の利便性を体験できる。ベストバイの調査では、顧客の50%はスマートグラスは購入する前に体験してみたいと回答しており、今回の導入に踏み切った。インショップ内はUV照明で光の設定を自由に変えることができ、スマートミラーによって異なるデザインのフレームのヴァーチャル体験ができ、デザインを比較できる。
出典:ベストバイ社アニュアルレポート
ベストバイは2022年度をピークに業績が年々低下し、2019年からCEOを務めるコーリー・バリー氏は今年11月に退任を予定、同社でさまざまな事業部門トップを歴任してきたジェイソン・ボンフィグ氏が後継者となる。同社初の女性CEOとしてコロナ禍を始め厳しい経済環境下でかじ取りをしてきたバリー氏への評価は高いが、財務畑の同氏から事業部経験者のボンフィグ氏に交代することでより具体的に数字を構築する経営に転換を図る狙いだ。足元の業績を見ると3年間続いた売上減ののち2025年度は対前年0.39%増とプラスに転じ、今年第1四半期も2%増、ようやく明るさの見えてきた中での交代はバリー氏にとっては残念かもしれないが、ボンフィグ氏はバリー路線の継続を明示した上で小型店戦略の拡大に言及している。小型店戦略はスーパーマーケット業界を始め小売業界の今後の成長戦略の主流になっているが同時に、小型店でないと入り込めない大都市圏商圏での壮絶な戦いへの参入も意味する。ボンフィグ氏は「小型店導入でも、従来のフルサイズの大型店戦略を変えるわけではない」とコメントしているが、大都市商圏→小型店→EC事業強化、というのが戦略の流れになるので、今後はかつてアマゾンやオンライン家電店に奪われた市場シェアを奪い返しにいくのか、新たな戦略に注目が集まっている。
(上)バッキーズ、テキサス州メリッサ店 出典:平山撮影 (下)ドリーズ・テネシアン・トラベルストップ 出典:同社、ウェブサイトページ
7,000㎡前後の店舗に約100台の給油機と100のトイレを持つ、世界最大のコンビニエンスストア(同社の呼称では「トラベルセンター」)のバッキーズ(Buc-ee’s)が今猛スピードで出店攻勢をかけている。同社は創業者のニックネームにちなんでビーバーのキャラクターを持ち、飲料、スナック菓子、衣料品や雑貨など幅広い品揃えのビーバー絵柄のPBを展開し、コンビニエンスストア業界のディズニーランド的存在として、地元客や旅行客がわざわざ立ち寄る存在になっている。同社は店内キッチンを持ち、客の目の前でBBQの焼きあがった肉をチョッピングするパフォーマンスも人気の1つだ。また、求人広告を入口に置いているが、時給もサラリーも破格に高額で、トイレ掃除が時給20ドル、店舗マネジャーに昇格すれば最大22万5000ドルだ(テキサス州内店2025年5月時点)。
このように人をあっと言わせる要素満載の店舗で2018年以降テキサス州外にも出店し現在中西部、南部13州56か所で営業、今後5年間で15拠点拡大を発表した。筆者も何度か視察したが、ビーバーのイラストの可愛さや店内の従業員が醸し出す市場のような活気で、確かに楽しい。8月4日には地元テキサスの名門A&M大学とコラボし、大学のロゴTシャツの背中にバッキーズのビーバーの柄入りTシャツを販売、話題となっている。
しかしこのビーバーのキャラクターや名称を巡って同社は数多くの訴訟を起こしている。対象となったのは地元の中小コンビニエンスストアが多く、ウィキペディアによると2014年以降10件近くにのぼり、直近ではオハイオ州ビーバークリークにある個人経営のミニマートが使用しているビーバーの絵がバッキーズの盗作だというものだ。これには地元の反感が高く「地名にビーバーが入っていればビーバーのイラストを使うのは当然のこと」「零細企業を訴訟でつぶしにかかっている」として不買運動に発展している。
また、トラベルセンターという新たなコンセプトへの競合も出てきている。テネシー州でシンガーソングライターかつ女優のドリー・パートン氏は今年6月にドリーズ・テネシアン・トラベル・ストップ(Dolly’s Tennessean Travel Stop)をテネシー州コーナーズヴィルに開業した。店舗面積は2,300㎡(25,000sq.ft.)だが敷地面積は72,850㎡(18エーカー)に及ぶ。
物販や本格的なBBQレストラン、カフェ、給油サービス以外にエンターテイメント施設を持ち、メインステージやイベントスペース、ラウンジがあり、地元歌手やバンド、はてまたカラオケショーまで楽しむことができる。まだ1店舗しかないが明らかにアンチ・バッキーズを狙っており、バッキーズが地元企業を訴訟したりトラックを排除するためトラック用給油機も設置していない点をついて「テネシー式の心温まるおもてなしで、トラック運転手も大歓迎」を標ぼうしている。エンターテイメントスペースも旅行客のおもてなしだけでなく、地元住民への憩いの場の提供、という立ち位置だ。
いずれにしても、既存のコンビニを超えた新たな業態フォーマットが今後どこまで成長するのか注目されている。
メーシーズ、ニューヨーク旗艦店3階のPB「インク」の表舞台(上写真)と裏側のセールコーナー(下写真) 出典:平山撮影
過去にメーシーズ百貨店で買い物をしたことがある方は、日本の百貨店とは違って30%オフとか40%オフといった大幅な値引きサインがあちこちの棚什器やラックに掲げてあるのをご覧になって驚かれたかもしれない。日本の百貨店では今でも委託販売が主流なのに対し、米国の百貨店業は化粧品やラグジュアリーブランドのインショップを除き、多くが商品買取で利益率も高いが在庫リスクも高いという事業構造なので、定期的な在庫処分目的のセールは必要不可欠だ。
メーシーズはより庶民的な販促型百貨店なのでセールを戦略的に活用し、頻繁に実施することで顧客の愛顧をがっちりと掴んできたが、TJマックスやバーリントンといったオフプライスチェーンの成長で苦戦を余儀なくされてきた。結果的に売場では休みなく何かのセールを行い、定価販売の時期が無いかのように見えていた時期が長かった。しかし2024年にCEOが交代し、不採算店舗を大幅に閉店し採算性の高い店舗のみに集中する「リイマジン125戦略」を開始して以降、店の見え方はガラリと変わってきている。
春夏商品の在庫処分のサマーセール期間中の8月初頭、筆者は主要百貨店のセール売場を見て歩いた。その中でメーシーズの変化には目をひくものがあった。まず、1つのブランドの売場を2つのゾーンに分け、主動線通路に面したゾーンは、今すぐまたは初秋のスタイリングのステージを作ってファッションスタイルを提案し定価販売に徹している(冒頭上の写真)。その裏に回ると同ブランドのセールのゾーンになるが(その下の写真)、やはり商品を整然と陳列し、過去のように顧客が手に取ったあと商品が無造作に台什器の上に拡がっていたり、ラックの下に落ちているということはなくなり、従業員が頻繁に整えている。
そしてセールのサインは以前の赤背景に白文字で値引き率を強調するデザインではなく、写真のように白背景に品よく「新たな値引き」などのような表現で値引き率のフォントは小さい。実際のところ、近くにいかないとこのラック全部が50%引きだとはわからない。しかし、そもそもEメールやSNSでサマーセールだとわかって来店しているのだから、これで問題ない。むしろ余計なサインが目立たなくなったので、売場を見渡した時それぞれの商品のデザインやコーディネーションが目に入るようになった。
もう1つの戦略は2015年から開始した館内アウトレット「バックステージ」および各売場ごとに1か所ある「ラストコール」の在庫処分スペースだ。百貨店業界では伝統的に在庫処分のアウトレット店は定価販売の百貨店から離れた場所で独立した店舗として経営してきた。しかしメーシーズはそれを敢えて百貨店内に売場を作り、バーゲンハンターと百貨店のコア顧客の両方をターゲットにした。これは理屈ではなるほどと思っても、実際に運営するのは混乱を招きやすく、定価販売事業のブランドイメージや魅力を下げるリスクもあるため難しい。メーシーズはいろいろ試行錯誤を重ねてきたが、ようやく答えを見つけたようだ。
バックステージはニューヨーク旗艦店では8階の半分を占め、他店舗も独立した空間に仕立てている。このためバーゲンハンターは最初からここを目指していくし、コア顧客もついでに立ち寄って衝動買いをすることもあるだろう。店舗の規模によってはバックステージはなく、ラストコールのみで対応している。従来は肝心の定価販売の売場自体が半ばセール会場化していたので、1つの店舗内での業態区分が明確ではなかった。しかし24年以降の経営改革でもとの売場のあるべき姿を明確にしたため、顧客は迷いなく「最新ファッションを探すならレディースファッション売場、値引き率は低くてもいいからまだ鮮度の高いアイテムを探すならその裏、バーゲン狙いならバックステージまたはラストコール」という行動を取ることができる。
メーシーズは店舗数を過去5年間で約80店削減し、現在さらに80店削減中で当然ながら売上高はマイナスが続いていたが、下図表のように直近ではようやく売上成長率がプラスに転じている。米国では百貨店終焉論を説くコンサルタントも多かったが、総論ではなく「いかにやるか」がどれほど重要かを改めて感じる。
出典:メーシーズ社広報資料
【在米リテールストラテジスト 平山幸江】