アルディ、タイムズスクエア店入口 出典:筆者撮影
ニューヨーク、タイムズスクエアの中心部からわずか1ブロックしか離れていない42丁目の8番街と9番街の間に6月19日、アルディが開業した。ラグジュアリーコンドミニアム「ジ・エラリー」の地下2,320㎡に拡がる店舗は同社平均面積1,670㎡より38%広く、天井が高くすっきりとしたデザインで、非常に広々と感じる。初日開店前には500人以上が入店列に並んだ。
【新店舗フォーマットを採用した広々とした空間】
同社は4月にオーストラリアの設計企業ランディニアソシエーツと開発した新店舗フォーマットを発表し、よりモダンで従来のノーフリルとは異なりシンプルながら快適に買い物できる空間だと説明したが、その新デザインが適用されている。ベースはコンクリートのグレーだが、濃紺色を基調にライトブルー、赤、オレンジのアクセントカラーで店内空間をモダンで躍動感あるデザインに仕上げた。サインも大幅に変更し、従来什器に貼ってあった発泡プラスチックボードのポスターのメッセージは、店内デザインの一部として壁面に描かれ、頭上の大型LEDディスプレイに販促や週替わりの訴求商品を投影している。しかし「ノーフリル」のデザインコンセプトは揺らぎなく、統一感がありすっきりした印象を与えている。什器は一般的なスチール什器だが冷凍ケース内でも使える電子棚札を使用している。
アルディの最大の特徴はPB率90%以上によって圧倒的な低価格を提供できることだが、アイテムによって異なるブランド名を使用してきた。しかしこれも現在パッケージデザインを段階的に変更中で、「アルディ・オリジナル」という言葉を追加し旧ブランド名を徐々に減らし、パッケージデザインもすっきりとし始めている。同社のウォルマートを凌ぐ低価格は近年の価格高騰で米国民に広く知られているが、アルディUSA初の大都会ど真ん中の店ということで同店では付加価値の高い商品の陳列比率が高い。具体的にはオーガニック食品、飲料、生ハムや高級チーズなどだ。
【地元アッパーミドル、観光客の両方をターゲットする立地戦略】
この立地はタイムズスクエアと言ってもハドソンヤードから北57丁目あたりまで拡がる新ミッドタウンウェスト地区への入口にあたる場所でもある。周辺のホテル宿泊客が利用することは間違いなく、ヨーロッパからの観光客にとっては馴染み深いアルディの存在はありがたいことだろう。しかし主力顧客としてターゲットしているのはあくまでもこの新ミッドタウンウェストに在住するアッパーミドル層だ。この地域は昔は西に行くほど倉庫や工場もあるニュージャージー港湾への物流拠点であり、逆に東に向かうと繁華街のブロードウェイ、北上すればヘルズキッチンと呼ばれるB級、C級グルメのレストラン街が有名だった。現在はハイライズのコンドミニアム建設で新たな住宅街に変身した訳だが、閑静な住宅地というより若い世代が多い。ちなみに以前皇室におられた眞子さんご夫妻もこの地区に住んでいた。
アルディは2028年までに3,200店体制を目指し、既に2,700店を突破しているが従来の出店地は倉庫など工業地帯に近いブルーカラーの街が多かった。インフレの追い風と知名度拡大で都市部に出てきたのは当然の流れとは言え、面積も広げて高額マンションの地下に入居とはかなりの勝負だ。競合のリドルはアルディよりやや大きめの店舗サイズと店内キッチン付ベーカリーで大都市圏内のミドルからアッパーミドルクラスの住宅地を狙っており、現在ニューヨーク市内に8店、そのうち2店がマンハッタン内だ。今年秋には8番街の26丁目に開業が予定され、面積はほぼアルディ・タイムズスクエアと同規模で同店から徒歩で19分南下した場所になる。
アルディとリドルは既にブルックリンでも徒歩5分圏内で直接対決を行っている。旗艦店で勝負をかけてきたアルディにもしリドルが負けると今後の米国事業運営にも影響が出かねない。リドルはまだ約200店舗しかなく、穿った見方ではあるが今後アルディに都市部の商圏も奪われていけば米国撤退という可能性もゼロとは言えない。アルディUSAの本気度をひしひしと感じながらタイムズスクエア店を後にした。
店内には大型LEDディスプレイが並び、商品を紹介
カラーコントロールが利き、すっきりとしながらモダンな内装
「毎日驚きを/季節の味を発見しよう」など低価格以外の価値も訴求している
グローサリーアウトレット、アイダホ州クナ店、出典:グローサリーアウトレット社フェースブックページより
グローサリーアウトレットは1946年にサンフランシスコで開業し、当初は政府の余剰食品を仕入れて販売していたが、現在は在庫品や廃盤商品を買付け、市場価格の40-70%引きで販売する食品アウトレットだ。店舗は直営店(50店未満)以外は地元の中小企業が運営し、同社から買付した商品を販売、通常企業側は店舗粗利益の50%程度を得ている。
19年にナスダックに上場し1,000店舗体制への成長が期待されたが、コロナ禍後に生鮮食品や生活必需品にシフトしたため、同社の売りである「宝探しの楽しさ」が薄れてしまい、一方で多店舗化を急いだために店舗運営企業の選定や教育への投資が不十分となり、店舗経験の質が下がった。23年度に旧システムからSAP転換したがデータ可視化が不十分でシステムスピードが遅れたり機能の一部にトラブルが生じ、発注と在庫管理に影響した。しかしCEOが交代し、後任のリンドバーグ氏はシステム改善を行う一方で、マーチャンダイジングの原点戻りに力を入れている。
6月に同社はAI技術企業アフレッシュ(Afresh)の店舗発注システムを540店以上の全店舗に導入し、生鮮売場、グローサリー、生活用品の各売場の発注をAIでインテリジェント管理し減耗・欠品の削減、労働生産性と利益率を向上させる。アフレッシュ社によるとグローサリーアウトレットは従業員の発注作業時間を半分に短縮し、売上を3%増、減耗25%削減が可能になる。
アフレッシュのシステムは既にアルバートソンズ、ウェイクファーン等大手スーパーマーケットが生鮮食品部門やディストリビューションセンター等に導入されて食品廃棄削減と粗利益率改善に貢献しているが、店舗の全部門への導入は同社が初めてとなる。食品の在庫品・廃盤商品を販売し安定的に商品調達できないだけでなく、破格値で販売しなければならない、というアウトレット業態の特性をAIで補っていく試みは業界で注目されている。
マイテレサがハンプトン内をトラベルトレーラーの店舗で期間限定営業 出典:マイテレサ、ウェブサイトページ
ロングアイランドのハンプトンと言えば、ニューヨークのアッパークラスやセレブがバケーションハウスを持つ海岸沿いのリゾート地だ。邸宅を持つほどの財力が無くても夏休みには家をレンタルするなどしてハンプトンで過ごすのはニューヨーカーの憧れの1つだ。
同地は大型商業施設が無くビーチや自然を楽しむ静かな環境であることが大きな魅力だが、夏場には滞在者が増えるため、さまざまなブランドが夏場限定でポップアップストアを出したり、イベントを行う。今年注目されているものの1つはラグジュアリーオンラインストア、マイテレサ(Mytheresa)で、高級トラベルトレーラー、エアストリームを店舗に改造し、7月1日から8月6日までハンプトン地区内をホテルやワイナリー等を回遊しながらミッソーニ、ドルチェ&ガッバーナ、クロエ等トップデザイナーの商品を販売する。
従業員は3~5名が待機し、毎日商品を入れ替える。午前中はコーヒー、午後はシャンパンやロゼワインを顧客に提供し、火曜日、水曜日には事前予約すればトレーラーを自宅まで呼ぶことができる。同社は過去2年、イーストハンプトンのヘッジズイン(ホテル)でポップアップストアを夏場限定営業していたが非常に反響が良く、今年はより多くの場所で休暇を楽しむ人々にショッピング機会を提供するためトレーラーに変更した。
イーストハンプトンにオープンしたゴルフウェアブランド、ウォルターハーゲンのポップアップストア 出典:ディックススポーティンググッズ社
一方、ディックススポーティンググッズ社は今回初めてイーストハンプトンに夏場限定のポップアップストアを営業する。初回は第126回USオープンにちなんでゴルフウェアブランド、ウォルターハーゲン(Walter Hagen)を営業、その後水着とリゾートウェアのカリア(Calia)、8月末から新学期のテーマでスポーツフーディのDSGを販売し10月18日に終了する。今回のテスト結果によっては同地に年間営業の店舗出店も視野に入れているという。
バケーションハウスなど持ち合わせていない筆者ではあるが、友人から招かれてこういう場所に逗留すると最初のうちは都会の喧騒を離れて天国の気分を味わうが、徐々に退屈になりスーパーマーケットで過ごす時間が長くなる。こういう自由時間がある時こそ、オンラインでなく実店舗で時間を過ごしたいもので、人の動きやライフスタイルに応じた出店機会はまだまだ創造できそうだ。
ベッドバス&ビヨンドとザ・コンテナーストアの両ブランドを導入したテキサス州フォートワースの改装店 出典:ベッドバス&ビヨンド社提供画像を掲載したRetail Dive, ‘Bed Bath & Beyond’s first co-branded store with The Container Storee will open Saturday’、2026年5月15日よりスクリーンショット
一方、ディックススポーティンググッズ社は今回初めてイーストハンプトンに夏場限定のポップアップストアを営業する。初回は第126回USオープンにちなんでゴルフウェアブランド、ウォルターハーゲン(Walter Hagen)を営業、その後水着とリゾートウェアのカリア(Calia)、8月末から新学期のテーマでスポーツフーディのDSGを販売し10月18日に終了する。今回のテスト結果によっては同地に年間営業の店舗出店も視野に入れているという。
バケーションハウスなど持ち合わせていない筆者ではあるが、友人から招かれてこういう場所に逗留すると最初のうちは都会の喧騒を離れて天国の気分を味わうが、徐々に退屈になりスーパーマーケットで過ごす時間が長くなる。こういう自由時間がある時こそ、オンラインでなく実店舗で時間を過ごしたいもので、人の動きやライフスタイルに応じた出店機会はまだまだ創造できそうだ。
4月号で既報のベッドバス&ビヨンド(BBB)が「エブリシング・ホーム」戦略の第三の柱としてホームサービス・プラットフォームを構築するため、個人および商業施設施工・改装企業インストールドライト(Installed Right)社とSFVサービシズ(SFV Services)社の買収を6月9日に発表した。両社はBBB社がザ・コンテナーストア買収を通じて獲得したエルファ・システム家具やクローゼットワークスの施工を行うなど、内装施工サービス「ビヨンド・ホーム・サービシズ」プラットフォームを提供する。
なおエブリシング・ホーム戦略の第一の柱はリテール、第二の柱は住宅売買、だ。第二の柱については6月17日にクラウドベースで不動産売買や住宅ローン取得、所有名義変更、住宅保険等の住宅売買に関するサービスを総合的に提供するプラットフォーム、ファソムホールディングズ(Fathom Holdings Inc.)の買収を発表した。同社はナスダックにの上場企業で買収は下期中に完了する見込みだ 。
BBB社CEOのマーカス・レモニス氏は「住宅所有という行為は非常に分断されている。購入、ローン申請や資金繰り、改装などがすべてバラバラでそれぞれ違う企業のサービスを受けなければならない。当社のエブリシング・ホーム戦略は住宅取得と保有、オムニチャネルコマース(小売)、ホームサービスの3本柱を統合する」とコメントしている。
確かに指摘通り、米国に限らないだろうが住宅取得は個人にとって苦労の多い作業だ。金額も大きいし財務、法務などあまりにも専門的な領域が関連してくる。ただ、これから住宅取得が始まるはずの米国の若い世代は現在就職難でそれどころではなく、結婚年齢すら上昇し、出産率も急速に低下している。エブリシング・ホーム戦略で同社の経営が効率化されるのなら良いが、消費者視点からはワンストップの利便性より不動産価格の適正化や金利引き下げ、雇用環境の改善などマクロでの環境整備の方が重要で、改装や家具の入れ替えなどはその先の話である。そもそもBBBはキッチン用品や収納小物の企業ではないか。せっかく経営再生が進み始めたのに、なんだか妙に話が大きくなり過ぎているように感じるのは筆者だけだろうか。
まあ、それはさておき、コンテナーストアとBBBの合体ストア22店が足元で開業し始めている。次号では改装店をレポートしたい。
【在米リテールストラテジスト 平山幸江】