オリーヴヤング・パサデナ店内 出典:オリーヴヤング社
Kビューティとは韓国発スキンケアとメークアップを指す。「ガラスのような肌」を目標に洗顔から美容液、ローションなど科学的根拠に基づきながら皮膚の保湿力を高め、美しい素顔作りに励み、薄化粧に耐えられる真の美顔を目指すもので、米国市場では2010年代にBBクリームやCCクリームで韓国化粧品ブームが始まりKビューティの名称が一般化、15年に頂点を迎えた。Kビューティは従来の西洋ブランドより高機能の割には価格帯が低いためCVSのようなファーマシーチェーンの化粧品売場にも「Kビューティ」コーナーが設営され、急速に裾野が広がった。アジアでは普通に使用されていたフルーツや米ぬかなど食品を原料にした自然派の使い捨てフェイスパックなど、米国消費者には馴染みのないアイテムもパッケージの可愛さや単価の低さによって人気となり、ナチュラル系スーパーマーケットやドラッグストアのレジ待ち列にも置かれるようにもなった。2015年9月9日発行のニューヨークマガジンによると、2015年上半期のKビューティの対米輸出額は5200万ドルで対前年60%伸長し、輸出相手国としては中国、香港に次ぐ3位にまで上昇した [1]。
ブームの要因には、美顔づくりのアプローチの斬新さもあったがKポップやKドラマの人気急上昇も大いに貢献した。米国の若い世代にとっては日本のアニメやビデオゲーム同様にエキゾチックな文化コンテンツを持ち、エンターテイメントとして洗練された韓国スターたちの美顔を生み出しているのがKビューティということで、ソーシャルメディアで瞬く間に人気になった。韓国政府は輸出のみの企業に対して減税措置を行う貿易政策を取り、これが韓国起業家によるKビューティブランドの開発・輸出を後押しした。米国側ではKビューティのサブスクリプション事業「ミミボックス(Memebox)」がシリコンバレーのスタートアップ企業アクセラレーター、Yコンビネーターの支援を受けるなど、新たな事業機会として期待された。
その後、グローレシピ(Glow Recipe)やピーチ&リリー(Peach & Lily)などの人気Kビューティブランドは大手ビューティチェーンのセフォラやアルタビューティでも販売されるようになった。コロナ禍前にはいったんブームはピークを迎え、米国ビューティ業界のトレンドはサステナビリティの概念に基づき自然成分を多く活用し、動物実験を行わず、生産工程から職場環境までサステナブルな「クリーンビューティ」に移行したが、Kビューティはこの流れの中でビューティ業界の定番へと移行していった。
◆2度目のブームとオリーヴヤングの出店
コロナ禍によって防菌の観点からも、Kビューティのガラスの肌を作る「保湿力とモイスチャーによる皮膚のバリア作り」が再び注目され、特にZ世代、さらに10代のアルファ世代がKビューティブランドを購入し始めた。韓国で人気ブランドのサムバイミー(Some By Me)、ラウンドラブ(Round Lab)などがTikTokショップだけでなくアマゾンでも人気商品となり、ビューティオヴジョセオン(Beauty of Joseon)は一時期入手不可となりソーシャル上でいつ・どこで買えるかバズったという。
このような盛り上がりの中、韓国に1,380店以上を展開するビューティチェーンストア、オリーヴヤング(Olive Young)は今年1月、セフォラと提携し同店舗およびEC内にオリーヴヤングが編集したKビューティゾーンを構築、そして5月29日にはロサンジェルス市内パサデナに米国発の店舗を出店した。店舗面積は8,647sq.ft.で、Kビューティのスキンケアとメークアップ、ヘアケアコレクションに加えてウェルネス、世界的に人気のあるブランド、計400ブランド5,000SKUを取り揃えている。出店と同時にオンラインストアも開業した。
中でも「ザ・ビューティラボ」ゾーンでは専門家によるスキンケア・レッスンを提供し、サンスクリーン、トナーパッド、セラム(高機能美容液)の重ね方、ダブル洗顔などについて、個人の肌質に応じた指導を行う。またセフォラやアルタビューティ同様、累積購入金額による3段階の会員制度も設け、オンラインストアでは35ドル以上購入すれば無料配送を提供する。
同社は今後も米国市場に出店を拡大する計画で、美顔への独特なアプローチという差別性、手ごろな価格帯を考えるとラグジュアリービューティへのアンチテーゼともなり得るし、直接的にはドラッグストアやスーパーマーケット、さらにはビューティ専門店の脅威となり得る。セフォラやアルタビューティがKビューティを積極的に導入するのも、このあたりを読んだ動きと見られる。それにしても、日本のビューティブランドは海外市場でもラグジュアリーブランドとしての地位を早くから築いてきたが、西洋文化の文脈ではなくポップカルチャー、ソーシャルメディアを活かしてマスマーケットの領域で独自の価値、ストーリーを提供するKビューティの戦略には学ぶ点がありそうだ。
[1]The Cut, ‘What you don’t know about the rise of Korean Beauty’, 2015年9月9日
☆オリーヴヤング・パサデナ店:58 W Colorado Blvd, Pasadena, CA 91105
☆オンラインストア:https://us.oliveyoung.com/
ターゲット、ニュージャージー州ウェストオレンジ店内アパレル売場、出典:平山撮影
数年間業績不振だったターゲットだが、店舗をEC出荷拠点としても活用する「ストア・アズ・ハブズ」戦略はぶれることなく投資を続けている。2022年に店舗面積15万sq.ft.(13,935㎡)前後の新大型店フォーマットを発表し、昨年から活発にこのフォーマットを出店、秋に出店した7店舗中6店舗は大型店でそのうち5店舗は青果、精肉、乳製品の生鮮食品売場が13,000sq.ft.(1,210㎡、店舗面積の10%弱)を占めている。
同社は2035年までに300店舗を新規出店する計画で今年度は30店新規出店、130店改装の予定だ。そのうちの1店、3月29日に開業したニュージャージー州ウェストオレンジ店(150,000sq.ft.)を視察した。同店はネイバーフッドSCのウェストオレンジプラザ(298,000sq.ft.)の半分を占め、他にホールフーズマーケット、地元のフィットネスクラブや全米ファーストフードチェーン、チポレメキシカングリル等が入居している。アッパーミドル層をターゲットにしたSCだ。
新大型店フォーマットでは、入口は天井までガラス張りで明るい自然光や周囲の緑が目に飛び込む。店内はLED照明に白い床で明るく、食品、ビューティ、ホーム、ファッション売場にはそれぞれ天井に自然木でデザインに変化をつけ、単調になりがちな広い店内は殺風景ではなく変化に富んだ楽しい空間になっている。売場のサインは中に照明を入れ、遠くからでも何がどこにあるかわかりやすい。このサインおよび各什器には見えやすい位置に什器番号が振られているため、モバイルアプリの店内モードを使えば正確に商品位置情報が顧客にも、ECオーダーのピッカーにもわかる仕組みになっている。
同店舗にはスターバックスカフェ、眼鏡サロンもあり、ターゲットがもともと得意とするチープシックかつウェルネスなライフスタイルのワンストップショッピング店になっている。同社の都心商圏小型店の便利だがごみごみした様子に慣れている筆者には、昔のターゲットでのショッピングの楽しさを思い出すことができた。
同社の戦略は店舗経験の改善にとどまらない。4月にはヒューストンに初の「レシーヴセンター(receive center、荷受けセンター)を開業した。2億6500万ドルを投資した120万sq.ft.(111,485㎡)の同施設は、世界中のベンダーから直接商品を受け取り、リージョナルDC6か所が必要とするまで保管する。同センターはジョージア州とワシントン州にあるターゲットの重要な2大DCの中間にあり、輸入品を迅速かつ物流コスト最低限で供給できる。さらに、在庫が店舗後方スペースに眠ったり、スペースが混みあうことを予防しストア・アズ・ハブズとしての店舗オペレーションを効率化できる。
同センターはミネアポリス本社内のXRエクスペリエンスセンター社員がイマーシヴ3Dヴィジュアライゼーション&シミュレーション技術を使って設計した。建設開始前に3Dデジタルモデルを実用に使ったのは同施設が初めてという。これによってヴァーチャルな環境の中でレイアウトや作業プロセス、物流フローなどを事前に検証しながら設計することができた[2] 。
ターゲットはコロナ禍がまだ収束しない2021年4月に「ソーティングセンター(sorting center)」を開発し物流スピードを短縮、現在全米で12センターが稼働している。さらに2025年11月にはラストマイル配送シップトの翌日配送サービス業務を効率化するために、クリーヴランドのソーテーションセンターをテスト活用開始した。このような物流改革によって2026年度春時点では全米人口の60%がオンラインオーダーを翌日受け取ることができるようになり、全米トップ50のメトロエリアではほぼ確実にオーダーを翌日受け取れる体制ができたという。
同社は2026年度第一四半期の売上高が対前年6.7%増、既存比4.7%増、既存店客数も4.4%増、でアナリスト予測を大きく超えた。販促を減らして粗利益率も28.2%から29%に改善し、このインフレと消費意欲の後退の時期にも関わらず年度の業績予測を上方修正した。この理由についてチーフマーチャンダイジングオフィサーのカーラ・シルヴェスター氏は「とにかくコア顧客である子供がいて忙しい若いファミリーのニーズや購買行動をレーザーのごとく徹底的に解明して全てを変えた」とコメントしている。当ブログでは何度かターゲットの苦しい近況を取り上げてきたが、失敗があっても顧客の信頼を信じてやり直すのが重要かと改めて感じた。もしかしたら人の人生も同じかもしれない(苦笑)。
[2] Chain Store Age, ‘Target opens its first-ever ‘receive center’, 2026年4月29日
食品売場もガラス窓があり開放的な空間に 出典:平山撮影
ホーム売場には家を思わせるショールームスペースがある 出典:平山撮影
中に照明を入れ、カテゴリーや什器番号が見えやすくなったサイン 出典:平山撮影
2024年2月にミズーリ州レイモアにレンタル事業ヌーリィの専用フルフィルメントセンターを開業 出典:アーバンアウトフィッターズ社広報資料
30分以内で食品、生活必需品を宅配するゴーパフ(GoPuff)とイーロン・マスクのスペースXAIは6月3日に全く新たな購買経験を提供するアプリ「ゴー(Go)」のローンチを発表した。ユーザーはゴーを使ってテキストだけでなく「グロック(Grok)」で音声会話ができ、会話の内容とユーザーの購買歴や購買行動、時間帯、場所、天候、購買に影響しそうな地元の大きなイベント(サッカーの試合など)やソーシャルメディアX(前ツイッター)で今バズっている地元情報からユーザーの購入商品を推測し、状況にあった商品をリストアップする。
デモンストレーション動画によると、ユーザーが自動車で出勤途中、運転しながらグロックに「朝ごはんは何にしようかしら」と呼びかけるとゴーのアプリ画面に普段よく食べるプロテインバー、プロテイン飲料、バナナが出てくる。これで良ければ「それをオフィスに届けておいて」と話すだけで購入が終わりオフィスに着くまでに朝食が届いている。別の例では、地元で大規模なサッカーの試合がある夏の日曜日にはバーベキューパーティの画像を流し、これを見たユーザーが「そうだね、今夜はバーベキューだな」と話す、あるいはテキストで反応するとバーベキューパーティに必要な商品がリストアップされ、必要なものを選んだり、他の商品に入れ替えたりして購入できる。同様に寒い冬の夜にリビングルームに一人でいる時にアプリを立ち上げれば、ホットココアとスナックが画面に現れ、ワンクリックで購入できる。
同アプリはスペースXAIの最先端のリーズニング、ボイス、イメージ制作モデルと、ゴーパフの過去13年間のオーダー、数百万件から得たデータセットから開発した。一見TikTokなどソーシャルメディアのショッパブルアプリのようだが、ユーザーの購買行動データやプロフィールだけでなく、ユーザーを取り巻く環境、ソーシャルメディアX上のリアルタイムな文化的・社会的情報までをも加味して瞬時に分析し推奨できる点がすごい。
グロックとの会話も人間との会話同レベルだそうで、「100キロカロリー未満のスナックはない?」「今晩、何かヘルシーな夕食はない?」などと話しかけるとリストが出てくるそうだ。早速筆者も試してみたが、あいにくゴーパフでほとんど買い物したことが無いので、あまり突っ込んだご推奨を受けることができなかったが、テキストではなく会話で買い物できるのは便利だ。
(左)夕食に地中海料理を食べたいと音声で伝えるとサーモンやシーフード料理、ハマス(ひよこ豆のディップ)、野菜料理などが出てきた。アメリカで地中海料理というと、たいていヘルシー志向の人が好むのでそれをベースにしているのだろう。
(右)それに合わせたワインを教えて欲しいと音声で伝えると、ヘルシーでオーガニックなワインで、シーフードや野菜料理に合うものを選びました、と返信があった。
同社によるとネットスーパーを利用する米国人は年間に平均70時間以上何を食べるか考え、購買動作に時間をかけているそうで、ゴーを使えばこの時間を短縮できるそうだ。しかし「食べ物のことを考えるのは平和で楽しい」という考えの持ち主には無用の長物な気もする。ところでアマゾンゴーが消えた途端、新たな「ゴー」が登場した訳だが、スペースXAI支援のゴーはどこまでたどり着けるだろうか。
☆ゴーのデモ動画:https://www.businesswire.com/news/home/20260602953080/en/Gopuff-and-SpaceXAI-Launch-Go-an-AI-Powered-Personal-Shopping-Genius-That-Predicts-and-Delivers-Orders-in-Minutes
【在米リテールストラテジスト 平山幸江】