ザ・コンテナーストアで4月24日から始まった「店内在庫のほぼ全てが30%オフ」セール 出典:containerstore.comのスクリーンショット
かつてカテゴリーキラーと呼ばれアメリカ人の生活を支えたビッグボックス(大規模専門店)の間で、共同戦線を張ってサバイブする動きが始まっている。
◆ベッドバス&ビヨンドとザ・コンテナーストアの統合
ベッドバス&ビヨンド(BBB)はかつてはベビー用品専門店バイバイベイビー他を含め約1,500店の店舗網を誇っていたが、アマゾン効果やオーバーストア、コロナ禍などにより2023年4月にチャプター11入りし、同6月にオンライン企業オーバーストックドットコムが買収、BBBのブランド名は生き残り、オーバーストック自体もビヨンド・インク(その後再改称し現在ベッドバス&ビヨンド・インク)に社名を変更したが店舗は全店閉店となった。
この段階でBBBの歴史は閉じたかのように見えたが、同社は2025年にはテネシー州に300店以上を展開していた家具・ホームデコー店カークランド社を1000万ドルで買収し、そのうち5店舗をベッドバス&ビヨンドホームとして再開を果たした。また2024年10月には同様に業績が悪化していた空間オーガナイザー専門店ザ・コンテナーストアに4000万ドル出資し、12月にチャプター11入りさせて約100店の店舗網は残したまま財務処理とプライベート企業化を果たし、翌年1月に脱出した。
今年4月2日、BBB社は1億5000万ドルでコンテナーストアの買収を発表、コンテナーストアが保有するモデュール式収納家具システムのエルファとクローゼットワークス社も傘下に入る。コンテナーストアは全店「ザ・コンテナーストア/ベッドバス&ビヨンド」と名称を変更し、元カークランドのCEO、エイミー・サリヴァン氏を社長に登用、これら3ブランドを統合する「オムニチャネル・リテール・ピラー」戦略の総責任者となる。コンテナーストアは展開商品のSKU約30%を削減し、ベッドバス用の売場を作るため、4月24日から大バーゲンを開始した。BBB社CEOのマーティン・レモニス氏は今年1月に「エブリシング・ホーム・カンパニー」を目指す戦略を表明し、カークランド買収時にはBBB、オーバーストック、バイバイベビー、カークランドを合算して年商15億ドルの実現を目指すと発表したが今回のコンテナーストアでは年商5億ドルの追加に言及している。
◆ステープルズとパーティシティ
ステープルズのオンラインストアでは既にパーティシティ商品を販売している 出典:staples.comのスクリーンショット
オフィス用品専門店のステープルズも長年業績が振るわず、企業合併や経営再建を繰り返してきた。競合のオフィスデポとは数回にわたって買収合併を試みているがそのたび連邦公正取引委員会の差し止めなどにあい、2017年には投資企業シカモアパートナーズが69億ドルで同社を買収、B2B事業の拡大や「ステープルズコネクト」というコワーキングサービスを提供する店舗コンセプト等に挑戦してきたが、どれも経営革新の切り札にはならず、なんとなく現状維持を続けている。ただし現在900以上ある店舗網はピーク時より数が減ったとは言え存在価値は高く、2023年に集客効果を狙ってアマゾンの返品カウンターを設置したがあまりにも返品数が多くステープルズ従業員が人手不足に陥り、アマゾン返品受け付けサービスの中止を訴える5000人の署名活動によって提携を解消した。現在は返品回収プラットフォーム、ハッピーリターンズやオプトロと提携し、返品カウンターの場所貸しを提供している。
そのステープルズが4月、2024年末に倒産したパーティ用品専門店パーティシティのショップを700店舗およびオンラインストアに導入すると発表した。パーティシティは倒産後全700店舗、卸売事業全てを閉業するはずだったが、2025年2月に生活雑貨企業のアドポピュラム(Populum)社がそのIP(知的財産)と卸売事業を試算価値2000万ドルの約半額で買収した。
今回の展開計画ではパーティシティの代名詞でもあったバルーン、パーティ用品をステープルズの店内・オンラインで販売し、ステープルズの即日印刷サービスやマーケティングを利用できることになる。このため、パーティの招待状印刷やバナー等もワンストップで制作可能となる。ステープルズは今後パーティシティを全店舗に展開する計画だ。
この2つの事例が同時期に登場したことに米国小売業界の時代の大きな波を感じる。1つは過去に米国民から愛された小売ブランドが使い捨てにはならずに再生の波にのっていること、もう1つはデジタル時代にありながらも改めて店舗網の重要性が注目されていること、だ。ただしオンラインで買って店舗に取りに行く時代に過去のような広い店舗は不要で、余剰面積を活用するために最適なパートナーを選ぶ時代になった。IPが大切に受け継がれていくのも、ノスタルジーがマーケティングトレンドになっていることもあるが、魅力あるIP開発の難しさも背景にあるだろう。今後このような動きがトレンドになっていくのかもしれない。
ウォルマート店舗従業員がRFIDスキャナーを使って店頭在庫確認をしているところ 出典: Supermarket News ‘Walmart is deploying a high-tech fresh foods solution’ 2025年10月22日記事に掲載されたウォルマート提供写真スクリーンショット
ウォルマートEVPでチーフピープルオフィサーのドナ・モリス氏は4月22日にMITテクノロジーレビュー主催のEmTech CIサミットに登壇し、同社のAI導入戦略について語った。
同社は外部の大規模言語モデル(LLM)を使いながら自社開発した以下4種類のAIエージェントを担当スタッフが使えるよう教育に力を入れている。
同社テックチームには35,000人以上が従業し全社員がAIを何かしらの形で利用している。スクイグリーはオープンAIとグーグルジェミニと提携して職務別AI検定を開発し、米国・カナダ従業員170万人に受講機会を提供している。目的はエージェンティックAIを従業員の職務フローに導入し、業務上の課題を取り除くことだ。例えば店内スタッフがAIを使ってストックルームでより素早く商品を見つけられるようにしたり、他言語(スペイン語等)を話す従業員とのコミュニケーションをとれるようにトレーニングする。
ウォルマートにおいて、AI導入の目標は「店舗従業員が顧客とより対面で会話できる時間を生み出すこと」で、ROI評価基準でもある。バークリーリサーチグループの調査(2025年11月12日発行)によると、北米小売企業者のAI活用領域は図表の通り既に幅広い[1] 。同レポートによると、調査対象の小売企業のうち8割以上が顧客経験の向上とコスト削減を目標にAIを既存のシステムに統合しているという。
出典:Berkeley Research Group, AI in Retail: In Pursuit of Meaningful AI Adoption' 2025年11月12日
ただし同レポートでは、「AI活用は必ずしも(労働力削減など)目に見える事業へのインパクトを意味する訳ではなく、チャットGPTやコパイロットのような生成AIツールは業務書類作成やマーケティングのコピーライト作業に利用されるかもしれないが、小売業界において業務がAIにシフトしていくのかどうかについてはまだ不透明だ」と結論づけている。実際にAI活用する米国大手企業もまだテスト中の段階で、ROIが明確に見えている訳ではない。
フォーラムでモリス氏は、ウォルマートでは過去6年間、AI活用によって人員削減につなげた例は無く、一方で売上高が増加した点に言及した。またデジタル広告、データベンチャー、ヘルスケア事業の領域ではAI活用でビジネスモデルを調整していることにも触れた。AIはウォルマートの一部ではあるが、全てではない、というのがモリス氏のメッセージで、「私達の仕事の大部分は変化していくだろうが、ファンダメンタルな部分の再構築ではない。AIが本当に業務を変えていくのか、どの業務がその対象となるのか、実利的な観点から確認していかなくてはならない」と述べた[2]。
[1] CIO Dive, ‘Retailers turn to AI for marketing, merchandising’, 2025年12月3日
[2] CIO Dive, ‘Why Walmart is rolling out AI to 2M employees’, 2026年4月23日
ホールフーズマーケット、ニュージャージー州パラマス店のセルフレジ 出典:筆者撮影
ロードアイランド州議会は今年1月にスーパーマーケットが同時に8台以上のセルフレジを稼働させることを禁止する法案を成立した。さらにセルフレジ2台に対し対面レジ1台の設置が必要で、セルフレジ2台当たりに従業員1人がレジを監督しなければならない。その他、下の図表の通り、複数の州や市がセルフレジ運用に関する規制について議会で検討を始めている。
出典:USA Today, 'These states want to pass stricter self-checkout laws', 2026年4月23日 https://www.usatoday.com/story/money/shopping/2026/04/22/self-checkout-laws-states-list-shoplifting/89719949007/
全米小売店内での万引き被害は非常に大きく、ペンシルベニア大学ウォートン校の推定では対面レジでのロスが1%に対し、セルフレジでは3.5~4%だ[3]。調査会社レンディングツリーが2025年10月に米国消費者2,050名を対象に実施したアンケート調査[4] では「意図的に、あるいは意図せずにセルフレジでスキャンを怠った」と回答した人の割合は27%で、2023年の15%から急増している。また意図的にスキャンしなかった人の動機については「経済的事情で必要な食品なのに買うことができないから」47%、「関税のせいで値上げしたから」46%、「価格があまりにも高すぎると感じたから」39%で、経済・社会の先行きが不透明でインフレだけが加速する中、今後もセルフレジでの万引きが増えることは間違いない。
セルフレジは消費者側には人気で「すぐにレジ通過できること、利便性が好きだ」と回答した人は55%だ。一方で「お店のために自分がタダ働きをしている気分になる」は20%、「そういうこと(是非の議論)には興味はない」が11%で、やはりレジ待ち時間の短縮効果は大きいようだ。筆者自身も、アメリカの対面レジではただスキャンするだけなのに同一商品を複数買うとスキャン回数を間違えたり、バーコードが機能しない時に正しい商品コードを見つけるのに時間がかかるケースが多いので、やはり自分で正しくサクサクとスキャンする方が好ましい。
この利便性が法律によって規制されるのは非常に残念だが、万引き率が高いという小売企業側の事情も理解できる。最近、同社でも万引き率が高いことで知られているホールフーズマーケット、マンハッタン・コロンバスサークル店ではセルフレジ監督スタッフの数を増やし、以前は18台を時間帯にもよるが2、3人でカバーしていたのを現在は5,6人に増やし、同時に待ち列の先頭にスタッフをつけ、どのレジが空きかを即座に知らせるようになった。スタッフの立ち位置も死角ができにくいよう場所を設定し、以前より「見張っている」感の高い人材を配置するようになった。万引き率については残念ながら確認できていないが、待ち列時間は短縮しているように感じる。
ただし地域差もかなりあるようで、地方の店舗に視察に行くと対面レジの方が人気でセルフレジは購入点数が少ない若い世代が利用する程度、というのをよく見かける。やはり週1回大量に購入する昔ながらの購買行動が根付いているので、自分でスキャンしたくないのもよくわかる。セルフレジ導入についてはウォルマートやクローガーなど大手の間でまだ試行錯誤が続き、地域ごとに設定を変えているので各州の審議にも時間がかかるかもしれない。
[3] Knowledge at Wharton, ‘Is self-checkout a failed experiment?’, 2024年1月30日
[4] LendingTree, ‘More consumers stealing from self-checkout, with many blaming higher prices’, 2025年12月2日
2024年2月にミズーリ州レイモアにレンタル事業ヌーリィの専用フルフィルメントセンターを開業 出典:アーバンアウトフィッターズ社広報資料
米国では成人の肥満率は41.9%(米国疾病予防センター、2017-20年調査)、5人に2人は肥満だ。その社会的な影響は大きく、本来は血糖値管理に使われているGLP-1受容体作動薬に減量効果があるとして数年前から普及し、最近はその効果が一般消費者の間で広く認識されるようになり、小売業界では幅広いジャンルでビジネスチャンスとして対応を始めている。
衣料品業界では下着メーカーのブラのサイズが下がってきているとのこと。今後下着だけでなく一般アパレルで服の買い替えが増えると見られ、特に一度に複数の服を買う必要があるためTJマックスなどのオフプライス、中古品販売のスレッドアップ、アパレルレンタルのレントザランウェイ、アーバンアウトフィッターズ社のレンタル事業ヌーリィ、パーソナルスタイリングサービスのスティッチフィックスなどが注目されている。急に体形が変わることで「相談しながら買い物をする」パーソナルスタイリングは人気があるそうだ。
一般的な減量対策と異なり安定的な減量効果が期待できるため「減量途中の衣服」という新たなニーズが出てきていて、マタニティウェア同様、ある一定期間のみのサイズ対応という視点ではレンタル市場は予想以上に売上を伸ばす可能性もある。体形が多少変わっても伸縮性で対応できるアスレジャーファッションはますます市場拡大が期待できる。アロヨガ、ヴオリなどはデニムを取り入れたタウンウェア領域にも拡大し始めている。
せっかく痩せた体形を維持するために食品業界ではプロテインと植物性繊維を強化するトレンドがあり、スターバックスはフォームにプロテインを入れたラテを販売している。ジュースジェネレーションなどフレッシュジュース専門店もプロテイン入りの品揃えを強化している。健康にも良く、消費市場に新たなビジネスチャンスをもたらし、まさに魔法の薬のようにも聞こえるが今後どうなるだろうか。
【在米リテールストラテジスト 平山幸江】