ウォルマートは商品部スタッフの業務生産性を向上するため、生成AIを使ったアプリケーション「ウォーリー(Wally)」を3月に導入した。ウォーリーは時間がかかる以下のような作業を自動的に行うことができる。
同社商品部スタッフのウォーリーへの反応は非常に良いとのこと。従業員を手間や時間がかかるタスク業務から解放し、より目の前の課題解決に向けた分析や議論に時間を使ってもらうことで、日々進化する顧客の期待に応えられると同社はコメントしている。生成AIを使った他にもコーディング作業のアシスタントも取り入れている。
また4月には「トレンド・トゥ・プロダクト(Trend-to-Product)」というアプリケーションを開発、生成AIが自動的にインターネット上の情報やインフルエンサーの発信情報を収集し、ファッションのグローバルトレンドを分析し、デザイナーがその情報を使って低価格なトレンド商品を開発するのを助ける。TTPの情報をベースにデザイナーと商品部スタッフはコンセプトボードを洗練させ、過去の消化率などの営業データとも照らし合わせて製品仕様書を最終化する。TTPはメーカーに対する仕様書を自動的に作成もする。通常は衣料品開発ではこのような初期の情報収集、分析からデザインをおこし、製造して店頭に並べるまで6週間かかるが、最初の情報収集、分析作業は数週間が1時間未満へと時短でき、全体のプロセスにかかる時間は4分の1に短縮される。
同社がこのようにアパレルのPB開発業務に生成AIを活用するのは、関税問題で今後シーインやティーム―テムが米国市場内で今までの勢いを保てなくなるからとの読みからだ。
一方、アルディは3月にデジタルウェイブテクノロジー(Digital Wave Technology)社と提携し、同社の生成AI技術を使ってネットスーパーの商品情報の自動編集による業務効率化しSEOの強化を開始した。また多国言語で自動的に最適な翻訳を行うこともできる。加えて商品やパッケージの画像から商品の重要な訴求点を見つけそのアトリビュートを使うことで消費者から商品を発見してもらいやすくするアプリケーションも導入した。後者は非常に時間がかかる作業であるため、この自動化はマーケティングの向上、収益力の向上にインパクトを与えることができる。
関税問題は消費意欲の低下につながるという懸念が大きいが、このように逆境をバネにDXで収益力を高めようとするところが米国企業らしい。
アメリカ人は「北米」という言葉でカナダも米国の一部であるかのように語ることが多いが、カナダ人は誇り高い。関税問題で報復関税をかけた米国産商品は値上げを余儀なくされ、カナダ最大手スーパーマーケット、ロブローは「関税」というページを立ち上げ、事の詳細を丁寧に解説した上で、カナダ消費者の理解を仰ぐというよりはカナダ人として立ち上がろう!と鼓舞する内容の声明を発表している。
そして売場では、冒頭の写真にあるように黒い三角形に白文字のTマークが関税品に、カナダ国旗のシンボルが国産製品で見分けるようになっている。別のページでは具体的に国産品の商品を紹介している。
米国小売企業はさすがに自分たちが選んだ大統領の政策だけに、このように消費者に向けて店頭やウェブサイトで関税品を避け国産品を購入しようとの呼びかけを売場やサイトで行う動きは見られていない。既に米国に限らず多くの国家の経済は世界のいたる所と結び合わさることで成り立っている。ウォルマートのダグ・マクミロンCEOは5月15日投資家説明会で関税導入の結果、商品値上げせざるを得ないと発言し、ウォルマートが数年前から国産性へ移行し、主要サプライヤーは米国企業であること、そのうち60%は中小企業であることなどを説明したうえで、このようなサプライヤーの開発・信頼できる関係作りには時間とコストがかかり、これ以上の国産化を進めるのは現実的には容易ではないことを暗に示した。また(食品など)カテゴリーによっては企業側がコストを吸収する努力をすることも言及した。これに対してトランプ大統領はTruth Socialに「ウォルマートは顧客に関税を回すのではなく『EAT THE TARIFFS』(関税を受け入れて飲み込め)」と書いて応戦した。この発言は多くの米系小売企業を刺激し、今まで関税については様子見の状況だったが、ウォルマートの動きに刺激されて声を上げ始めるかもしれない。
もっとも、ターゲット、ホームデポ等は現時点では大統領に真っ向から対決するような発言は避け、「関税を機会に経営改善ができるかもしれない」という発言にとどめている。もっとも業界が団結して政権に関税問題その他に関する意見を述べる動きが出ていないことについて、イェール大学のエグゼクティブリーダーシップ研究所のジェフリー・ソーネンフェルド氏、スティーヴン・タン氏は経済を損ねる可能性があるかもしれないと警告している[1]。
◇関連リンク
https://www.loblaw.ca/en/tariffs/
https://www.loblaw.ca/en/tariffs-your-dollar-your-choice/
[1] CNN, ‘Walmart got an angry message from Trump on tariffs. Then Home Depot and Target downplayed them’, 2025年5月23日
5月14日、アーバンアウトフィッターズ社はナイキと提携したコーナー「オン・ローテーション」をニューヨーク、ワシントンDC、アリゾナ州スコッツデール、カリフォルニア州サンディエゴおよびマンハッタンビーチにオープンした。同社はZ世代をターゲットとし「すばらしい商品の発見だけではなく、Z世代のカルチャーに即し、インスピレーションを生み出す小売環境」を目指している。オン・ローテーションはまさにZ世代に向けて没入感をもたらすような物語を提供する場であり、ナイキは理想的な最初のパートナーだと述べている。
オン・ローテーションではアパレルからシューズまでミックスしたアソートメントで、アーバン顧客向けに約150アイテムを編集している。また、同スペースの開業を祝って、ロサンジェルスでは夜間ランニングレース「ナイキ・アフターダーク・ツアー:ロサンジェルス13.1」を6月7日に開催、ナイキ・ヴォメロ18コレクションの同イベント限定カラーを全ロサンジェルス店舗とオン・ローテーション5店舗限定で販売する。レースでは20人以上のインフルエンサーと大学生たちが4か月前からトレーニングを開始し、イベントを盛り上げる。オン・ローテーションは今後他のブランドも招聘し、特別感のある商品やイベントなどの仕掛けを続けていく計画だ。
ナイキの第3四半期業績が5月20日に発表されたが、売上高9%減、当期利益も32%減、9か月通期でも同じく9%減、28%減と不調が続いている。D2C戦略を変更して再び百貨店等の卸売パートナーとの協力関係を強化したり、戦略の模索が続いているが、スニーカーを始め、同社の商品は海外生産に依存していることや、米国内でのスニーカー競合関係も激しくなっていることなどから、足元の国内市場でZ世代をターゲットにした今回の取り組みは、一見地味ではあるが案外重要な原点戻りかもしれない。
ニューヨーク市を商圏とするネットスーパーの先駆者、フレッシュダイレクトは2002年の創業以来初めて実店舗を運営する。場所はニューヨーカーの避暑地として有名なロングアイランドのサウスハンプトンで、5月末から12月末まで営業、ネットで展開する12,000アイテムを「伝統的なファーマーズマーケットの魅力」をテーマに少量生産のチーズ、オリーブオイルや旬の野菜、地元生産物・製造品に絞り込んだ品揃えだ。店内には「ジャックズ・スター・ブルー・コーヒー」のカウンターがあり、地元で焙煎したコーヒーやフレッシュダイレクトで人気のクロワッサン等を提供する。来店客には限定版のフレッシュダイレクト・トートバッグが進呈される。
また6月にはイーストハンプトンの一軒家を貸し切り、ピザ作りのクラスや試食イベントを開催し、同社が提携している地元農家や製造者と顧客が直接会話できる機会を設ける。ハンプトン商圏では店舗営業中は即日配送も提供する。
米国ではある程度の収入があるとセカンドハウスやカントリーハウスを持つケースが日本より圧倒的に多い。休日は自然に囲まれた環境で平日のストレスを忘れて静かに家族と時間を過ごすというライフスタイルが確立しているからだ。このお蔭で、コロナ禍が始まった時にカントリーハウスに避難した人も多く、これがきっかけで大規模な人口移動が起こり、現在のテキサス州やフロリダ州の郊外エリアでの住宅開発ブームとスーパーマーケットの出店ラッシュにつながっている。セカンドハウスは通常普段生活する家より不動産価格が安いため広く、そのため家具やアウトドア用品などの市場に貢献している。
フレッシュダイレクトは2020年にはニューヨークおよびニュージャージー州、コネチカット州の近郊にサービス地域を拡大し、その後フィラデルフィアやワシントンDCにまで拡大したが、2022年に両地区からは撤退し地元ニューヨーク近郊に集中する戦略に戻った。しかしハンプトン地区はセカンドハウス利用度が高い時期のみ期間限定で営業を続け、「ロゼサービス」と呼ぶアルコール類を2時間以内に配送するサービスを2021年から追加している。
日本でも都会一点集中から地方都市や農村に移住する人が徐々に増えていると聞く。新たなビジネスチャンスが増えることを願いたい。
【在米リテールストラテジスト 平山幸江】
ウォルマートは商品部スタッフの業務生産性を向上するため、生成AIを使ったアプリケーション「ウォーリー(Wally)」を3月に導入した。ウォーリーは時間がかかる以下のような作業を自動的に行うことができる。
同社商品部スタッフのウォーリーへの反応は非常に良いとのこと。従業員を手間や時間がかかるタスク業務から解放し、より目の前の課題解決に向けた分析や議論に時間を使ってもらうことで、日々進化する顧客の期待に応えられると同社はコメントしている。生成AIを使った他にもコーディング作業のアシスタントも取り入れている。
また4月には「トレンド・トゥ・プロダクト(Trend-to-Product)」というアプリケーションを開発、生成AIが自動的にインターネット上の情報やインフルエンサーの発信情報を収集し、ファッションのグローバルトレンドを分析し、デザイナーがその情報を使って低価格なトレンド商品を開発するのを助ける。TTPの情報をベースにデザイナーと商品部スタッフはコンセプトボードを洗練させ、過去の消化率などの営業データとも照らし合わせて製品仕様書を最終化する。TTPはメーカーに対する仕様書を自動的に作成もする。通常は衣料品開発ではこのような初期の情報収集、分析からデザインをおこし、製造して店頭に並べるまで6週間かかるが、最初の情報収集、分析作業は数週間が1時間未満へと時短でき、全体のプロセスにかかる時間は4分の1に短縮される。
同社がこのようにアパレルのPB開発業務に生成AIを活用するのは、関税問題で今後シーインやティーム―テムが米国市場内で今までの勢いを保てなくなるからとの読みからだ。
一方、アルディは3月にデジタルウェイブテクノロジー(Digital Wave Technology)社と提携し、同社の生成AI技術を使ってネットスーパーの商品情報の自動編集による業務効率化しSEOの強化を開始した。また多国言語で自動的に最適な翻訳を行うこともできる。加えて商品やパッケージの画像から商品の重要な訴求点を見つけそのアトリビュートを使うことで消費者から商品を発見してもらいやすくするアプリケーションも導入した。後者は非常に時間がかかる作業であるため、この自動化はマーケティングの向上、収益力の向上にインパクトを与えることができる。
関税問題は消費意欲の低下につながるという懸念が大きいが、このように逆境をバネにDXで収益力を高めようとするところが米国企業らしい。