掲載日:2025/01/07

「アマゾンフレッシュの食品も買えるホールフーズマーケットが開業」、「M.M.ラフリューの出店戦略」他:進化を続けるアメリカ小売業界Vol.51

「移動スーパーの拡大~クローガー、アマゾン他」、「スマートカートがリージョナルスーパーマーケットで拡大」他:進化を続けるアメリカ小売業界Vol.52

移動スーパーの拡大~クローガー、アマゾン他

ケンタッキー州レキシントンの「ザモバイルマーケット」 出典:WUKY, Sayre Chrisitian Village ケンタッキー州レキシントンの「ザモバイルマーケット」 出典:WUKY, Sayre Chrisitian Village

 

 米国ではフードデザート(食の砂漠)問題が深刻となっている。栄養価が高く健康的だが手ごろな価格で食品を売る店が少ない地域を指すが、多くの場合貧困層が住む地域でもある。米国農務省の定義によると、貧困率が20%以上、住民の33%以上がスーパーマーケットから1マイル以上(都会の場合)または10マイル以上(農村の場合)離れている地域だ。フードデザートでは生鮮食品ではなく加工品を多く食べる結果、心臓疾患や肥満、糖尿病などの比率が高い。

 

 この問題解決のため、全米ではトラックやトレーラーの内部をスーパーマーケット化した移動スーパー、モバイルマーケット(一般名詞)の営業が増え始めている。スーパー最大手のクローガーはケンタッキー州レキシントンファイエット郡政府と地元のゴッドパントリー・フードバンクと提携し、60フィート(約18メートル)のトレーラーでフードデザート地区24か所を回り、食品・日用品を販売している。初年度は7200万人が購入し、年商は10万ドルを超えた。購入者の約半数はSNAPという低所得者向けの食費援助の政府給付金を受け取っている。クローガーはコロナ禍前から同州ルイスヴィスのフードデザート地区でも同サービスを提供している。

 

 ミルウォーキーではリージョナルスーパー大手のピグリーウィグリーが移動スーパーを提供、また中西部のフードデザート地区では地元非営利団体やフードバンクが運営するモバイルマーケットが数多く存在している。

 

 2017年にアトランタで創業しテクノロジーを活用して食の廃棄と飢餓問題に取り組むグッダー(Goodr)は、今年ヴァージニア州ペテルスバーグでアマゾン、健康保険企業アンセム、TV企業コムキャスト、地元非営利団体と提携して26フィート(8メートル)トラックに食品を積んで販売する「グッダーモバイルグローサリーストア」の営業を開始した。同トラックは冷蔵・冷凍什器を内蔵し食品だけでなく、健康管理やソーシャルサービスに関する情報も提供している。またトラックは車椅子もアクセスできる設計だ。

 

 移動スーパーを貧困層の救済という社会貢献だけではなく、次の成長戦略の市場調査として活用する企業もある。現在全米で店舗数拡大中のナチュラル系スーパー、スプラウツマーケットも昨年夏12週間限定でフロリダ州50か所にスプラウツモバイルトラックを営業した。同社は買い物だけでなくライブミュージック付きパーティやイベントも行い、ヘルス&ウェルネスに関するメッセージも発信し、店舗を持たない市場での事業機会について調査したという。大手小売企業が経営効率化を優先するあまり、フードデザートを見過ごしてきたわけだが、今後はSDGsの観点からも移動スーパーは重要となるかもしれない。





スマートカートがリージョナルスーパーマーケットで拡大

ギースラーズスーパーマーケットが採用したインスタカート社のケイパーカート 出典:インスタカート社 ギースラーズスーパーマーケットが採用したインスタカート社のケイパーカート 出典:インスタカート社

 

 マサチューセッツ州とコネチカット州に7店舗を運営するギースラーズスーパーマーケット(Geissler’s Supermarket)は11月、全店舗内のショッピングカートの多くをインスタカート社ケイパーカートに置き換えた。ケイパーカートのスクリーンは写真のようにギースラーのロイヤルティプログラム「LEF」と同期し、自動的にポイントを貯め、会員割引を適用し、デジタルクーポンを提供する。また顧客が店内のどの場所にいるかを認識して商品の推奨やセール品を紹介する。同社のボブ・リビックCEOは「ケイパーカートを全店に導入することで買い物経験が格段に豊かでパーソナライズなものになり、効率的にもなる。カートによって買い物がもっと楽しく、双方向的になり、平均客単価と顧客ロイヤルティの向上が期待できる」とコメントしている。

 

 インスタカート社はスマートカートの普及に力を入れ、現在ニュージャージー州を中心としたウェイクファーン(Wakefern)やミズーリ州のシュヌックスなどリージョナルスーパーマーケット大手を含めた1500社以上に計8万5000台のケイパーカート導入を果たしたが、一社が全店でケイパーカートに転換する事例は今回が初めてだ。

 

 スマートカートではアマゾンもダッシュカートをアマゾンフレッシュに拡大中だが、稼働台数ではインスタカートが多い。ただし実際に使ってみると、ダッシュカートは専用ゲートを通過すれば自動的に課金され完全にレジレスだが、ケイパーカートは専用レジに向かいスクリーン上のバーコードをスキャンしてPOSレジで決済する必要があり完全なレジレスではなく、技術的にはアマゾンの方が優れている。しかし数多くの導入実績によって、売上への影響、顧客行動への影響、リテールメディアとしての効果測定などスマートカートに関するデータ収集・分析が進んでいると考えられる。また、リージョナルスーパーのように単体ではこのような技術開発に投資できない企業にも平等な機会を与えることになり、スマートカート事業を契機にインスタカートが展開する「コネクテッドストアーズ」プログラム、すなわちモバイルネットスーパー事業、リテールメディア事業、データ分析を包括的にサービス提供する機会も拡大する。

 

 インスタカート社は昨年9月にナスダックに上場したが、今後米国小売業界における存在感はますます拡大しそうだ。





サステナブルファッションの近況:ネットゼロ化と再生ファブリックへの転換

リーバイスの「サーキュラー501」 出典:リーバイ&ストラウス社広報資料 リーバイスの「サーキュラー501」 出典:リーバイ&ストラウス社広報資料

 

 今年6月にニューヨークの国連本部で開催された「国連ファッション・ライフスタイルネットワーク」の年次会議では、ファッション業界のサステナブル化は喫緊の課題と指摘された。ファッション業界とそのサプライチェーンは環境汚染への影響の大きさでは第3番目[1]、世界中の温室効果ガスの年間排気量の10%を占め[2]、2050年までには世界温暖化を抑えるための二酸化炭素削減予算の26%を占めると試算されている[3]。しかしまもなく2025年を迎え、パリ協定の2050年までにネットゼロ化目標まであと25年、その達成のため企業が独自に目標を定める2030年まで5年となるため、動きが活発になり始めている。

 

【フューチャーサプライヤーイニシアティブ(Future Suppliers Initiative)】

 

 ギャップ、H&Mグループ、マンゴ(スペイン)、ベストセラー(デンマーク)の4社は今年6月同イニシアティブを立ち上げ、ネットゼロ化に向けてスコープ1(企業直営および契約工場)とスコープ2(エネルギー購入先)の温室効果ガス排気量削減に必要な財政面、その他のリスクを共有すると発表した。同じ提携工場を使用したり、同じ地域に直営工場を持つグローバル企業同士が協力し合う、というものだ。初年度はバングラデッシュの工場で電気や再生可能エネルギーへの転換に向けて技術および資金提供を行う。現状の調査、エネルギー源の転換とその成果を継続的にモニターし、その後はベトナム、インド、中国、イタリア、トルコの生産地に拡大し、2030年までにSBTs(科学に基づいた目標値)、すなわちパリ協定で合意した2050年までに地球温暖化を1.5℃以下に抑えネットゼロを達成するための排出量削減目標を達成する。

 

【リーバイ&ストラウス(リーバイス)】

 

 リーバイスも10月に「気候転換計画」を初めて発表し、2025年までにスコープ1と2の温室効果ガス排気量を2016年に対して90%削減し、2030年までにスコープ3(その他全サプライチェーンにおけるエネルギー購入先)排出を2022年に対して42%削減、2050年までにネットゼロ化を宣言した。この過程で全社施設は2025年までに100%再生可能電気に転換し、製造過程での水使用量も2018年に対して50%削減する。

 

 前述の国連会議ではファッション業界に欠かせないファブリックの再生またはリサイクルファブリックの使用が重要課題とされたが、素材の回収に始まり技術的にも難しい領域でもある。特にバイオデグレーダブル(生分解性)素材を使った衣料品や靴となると、まだまだテストマーケティングの段階だ。しかしリーバイスは2022年にスウェーデンのリニューセル(Renewcell)社と提携し、リーバイスの代表的モデル501に生分解性素材を使った「リーバイス・サーキュラー501」を開発した。リニューセル社は、中古衣料品の綿やヴィスコース等のセルローズ系素材を加工し、混合しているナイロン等の成分を除去して純粋なセルローズ素材に再生した「Circulose®(サーキュローズ)」の開発製造企業だ。リーバイス・サーキュラー501には木材パルプ24%、オーガニック綿60%にサーキュローズ16%を使用している。再生素材では強度が課題となることが多く、特にデニムでは耐久性は重要だが、同製品は十分な強度が立証されているとのこと。

 

 サーキュローズの利用は徐々に広がっており、ファストファッションのH&Mも自社が回収したデニム50%と木材50%からサーキュローズを生産し、これを使ってドレスを製造販売している。ただしまだテスト段階の企業が多いためリニューセル社は今年2月に倒産し、6月に投資会社Altorに買収されて事業を継続している。倒産理由は需要が予測より小さかったための過剰投資で、現在、企業ごとにサーキュローズのブレンド率のカスタマイゼーションをやめ、ヨーロッパのファストファッション、マンゴ、ザランド他とはサーキュローズ30%ブレンドと決め、この1アイテムに当面集中することで在庫管理、サプライチェーン管理を簡素化して経営再建中だ。

 

 このように再生ファブリックへの転換はその生産だけでも簡単ではないが、進まざるを得ない道であることは確かだ。

 

[1] 世界経済フォーラムレポート「ネットゼロへの挑戦:サプライチェーンでの機会」、2021年1月

[2] ヨーロッパ議会の研究、2024年3月21日

[3] エレンマッカーサー財団「ファッションと循環経済―ディープダイブ」、2019年9月15日





ボートデッキ付きのスーパーマーケットが登場~パブリックス

3100 Ocean Drive, Hollywood, FL 33019 出典:パブリックス社提供写真をClickOrlando.comが掲載 3100 Ocean Drive, Hollywood, FL 33019 出典:パブリックス社提供写真をClickOrlando.comが掲載

 

 全米最大の従業員所有スーパーマーケット、パブリックスはフロリダ州を基盤にジョージア、アラバマ、サウスカロライナ州など南東部8州にファーマシーや店内カフェ、イートインスペース、リカーショップを備えた大型店舗1391店舗(2024年12月時点)を展開するが、その6割以上はフロリダ州にあり、地元フロリダ州民から強力な支持を得ている。

 

 同社は現在店舗網を意欲的に拡大しているが、12月にマイアミ郊外の海岸沿いでボートデッキがついた店舗を開業した。同店舗は2780㎡と平均店舗面積4180㎡より小型で、地上3階建て、そのうち1F、2Fは駐車場、3Fが売場になっている。1Fのボートデッキには3,4艇が停泊でき、顧客はボートから直接店内に入ることができるが、このようなアクセスを持つスーパーマーケットは全米広しと言えども同店舗が初めてだろう。1Fには店内および屋外カフェがあり、ボート遊覧でお腹が空いた顧客が簡単に食事を取れる。3Fのスーパーマーケット売場は通常のパブリックス同様、対面式ベーカリーやデリ(総菜)、ファーマシーがあり、イートインコーナーで購入した食事を食べることもできる。

 

 ボート所有者が多いフロリダならではの店だが、ライフスタイルの多様化の中で、徒歩や自動車以外のアクセスに着目し、新たな事業機会を開拓しようという意気込みが感じられる。

3100 Ocean Drive, Hollywood, FL 33019 出典:パブリックス社提供写真をClickOrlando.comが掲載 3100 Ocean Drive, Hollywood, FL 33019 出典:パブリックス社提供写真をClickOrlando.comが掲載






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【在米リテールストラテジスト 平山幸江】


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