【中窪 悟 編】第7回:レガシーシステムは「遺産」となるか? ~AIとの共存戦略~

元自治体キーマンが描く、ICT活用の過去・現在・未来シリーズ

2026-08-03

中窪 悟氏
中窪 悟氏

日本のICT活用の進化を決定づけるのは地方自治体だ。国家レベルの施策を実際に運用し、国民へのサービスとして昇華させるのは各自治体の役目でもある。そんな自治体において、ICT活用の進化が著しいケースがいくつかある。そしてその共通項として必ず浮上するのが、特筆すべき人材、いわゆる「キーマン」の存在だ。ここでは各自治体においてキーマンとして活躍し、大事業を達成させてきた人物にそれぞれが思い描くICT活用について語ってもらっている。彼らの考えや軌跡をみることによって、同じ自治体はもちろん、企業、組織にも大きなヒントが得られるはずなので、ぜひ熟読していただきたい。

取材:中山 一弘

中窪 悟

中窪商店(ITコンサル) 店主
一般社団法人コード・フォー・ジャパン Govtech チーム
総務省 地域情報化アドバイザー
総務省 地方公共団体の経営・財務マネジメント強化事業アドバイザー

中窪 悟
  • 自治体職員として30年間勤務。うち15年をいわゆる情シス担当として自治体の情報通信インフラからネットワーク及びシステム全般の構築・運用に従事する。
    Googleのソリューションを全面的に導入し、自治体で初めてフルクラウドによるゼロトラストな環境を構築。2025年4月より現職。

以前からある基幹システムなどについては、今後も残すのかどうするのか、という議論も最近では多くなってきていると思います。これについては、現状では中窪さんはどのようにお考えでしょうか。

中窪

これは最近のクラウドネイティブなどもそうですが、ここから現在の情報システムを一段階アップデートしていこうとする際に、必ず出てくる課題だと思います。その意味で、官民問わずにみなさんの課題として存在していることではないでしょうか。その意味でも、これは重要なテーマだと思っています。

いわゆるレガシーシステムでは、内部だけでなく外部との有機的な連携まで考えて設計されているものは少なかったのではないかと思います。従来は内部の効率化を図るものが主流であったので、クラウドやインターネットが前提になってくると外部とつながることが大切になってきます。

レガシーシステムで作り込んでしまっている分、何かしらの環境に依存した状態になっていることが多く、それを丁寧に剥がしていく作業も必要になってきます。また、生成AIを活用することで、違う観点から課題解決をしていくことも必要になってくるでしょう。

特に生成AIに関しては、ここ数年間の日進月歩での成長を振り返っても、どのように使っていくのかという活用方法も日に日に変化してきました。使われ方や使い方も変わっていくので、レガシーシステムに入っている資産を、どうやってうまく活用していくのかが問われています。

例えばいまであれば、MCP(Model Context Protocol)サーバーのようなものを立てることで、そのアプリケーションに対して何かしらの処理を生成AIで行っていくようなこともできますし、これまでとは異なる視点でレガシーシステムを活用できるようになるのだろうと思います。

つまり、基幹システムをどのように再構築するか、あるいは既存の使われていない膨大なデータを、レガシーシステムだからといって「遺産」にしてはいけないのです。

現在、自治体が保有している各種データはすべて「資産」としてしっかり活用していくことが大切です。これまでであれば基幹システムの移行などでは、モダナイズみたいなものがありましたが、今後のクラウドネイティブやAI前提の社会において活用しようというときには違うやり方があるはずです。

いっぽうで現在ではFDE(Forward Deployed Engineer)と呼ばれる開発手法も流行りはじめているので、エンジニアが生成AIを使って現場レベルで開発を行うようなモダナイズも可能になってきたと思います。

やり方としてモダナイズするのか、いまあるものを残していくのかといったことはありますが、いずれにしてもAIを活用していくというのは、もう間違いないことだと思います。

AIを活用しようというときに、自治体では漠然としたイメージしかない場合もあると思います。もちろん、上手に使えれば多大なメリットが得られることは誰にでもわかると思いますが、実際に導入しようというときにネガティブな方向としてどのような障害が考えられますか?

中窪

AI活用を突き詰めると最終的には「データ主権」のようなものになると思います。

巨大なプラットフォーマーの生成AIサービスにどうしても依存することが多いので、それをどう利用していくかということがあります。もしくはローカルの生成AIの方に価値を見いだすということもあるでしょうし、そのあたりは利用するデータの内容や機密レベルなどから使い分けが発生してくると思います。

いずれの場合も、データ自体をどこに預けてどうやって守るのか、ということがこれからの課題になってきます。

私は実際にいろいろな自治体のAI活用について話を伺ったり、専門家が集まるコミュニティに参加したり、ニュース記事を見たりしながら情報収集をしていますが、現状ではクラウド型のAIサービスを利用した、チャットベースでの生成AIの利用・活用に留まっているところが多いように見受けられます。さらに進んだAIエージェントの活用やローカルでの生成AI利用をしているところは、まだまだ少ないというのが実感です。

ただ、うまく活用していきたい自治体やベンダーが一緒になって、ローカルで機密情報にアクセスさせる取り組みを始めているところはあるので、閉じたネットワーク内でのAI活用についてPoC(Proof of Concept)レベルで進めている自治体も確実に増えています。今後は国のサイバーセキュリティ対策の考え方なども整理されて入ってくると思いますので、それも併せて成熟していくものだと思います。

PoCレベルから先になかなか進まないということもありますが、各自治体だけで完結しようとしても、生成AIなどに関して理解・判断できる人材が不足している実情もあります。このあたりについては、国側から指針や方向性をきちんと打ち出さないと難しいところもあると考えています。

レガシーシステムや膨大なデータを整理する意味での生成AI活用が共存していく中で自治体における様々な業務の中で、最初に取り掛かるにはどういった部署から検討するのがよいのでしょうか。

中窪

やはり業務に多くの人手がかかっていたり、時間がかかっていたりするような部署に対して活用できればいちばんいいのですが、それよりも大切なことが最初にあると思っています。

そもそもの業務自体の見直しや、業務に関する本質的な問い直しのようなことから始めていかないと、「現状に対してツールを当てただけ」ということになってしまいがちです。それではもったいないので、業務そのものから考えることが大切ではないでしょうか。

地方分権改革が進むなかで、いまの業務を問い直すことは重要だと思います。もちろん、現状の業務に対して生成AIを活用することも順次進めていくことも大切ですが、行政の場合は法定事務などあらかじめ決まっている業務内容のものもたくさんあります。

そういった部分については、行政AIや地方自治AIのようなものを構築して、共通化できるものはみんなで使えるような状況にしてあげれば、いろいろと進んでいくようにも思います。

そこにそれぞれの自治体が加わって、カスタマイズしながら必要な機能を追加していけば、地域性のようなものも出てくるはずです。そういうところをエージェント化していけば、自治体による格差も抑えながら進めていくことができると思います。

標準化自体はけっこう進んできているので、それを活用する軸として地方自治AIのようなものがあれば、セットで使えるようになって人材育成にかかるコストや時間もかなり圧縮することができます。また、これまでベテラン職員のナレッジに頼っていたようなところも、そこに蓄えていくことで、公務員が本来やるべき役割に本質的なところで集中していくことができると思います。

例えば生成AIの導入を検討する際には、いきなり全庁的な展開を目指すのではなく、小規模な業務から段階的に取り組むことも重要です。議事録作成や問い合わせ対応、文書要約など比較的効果を測定しやすい業務で成果を積み上げることで、職員の理解や信頼も得やすくなります。また今後はチャットツールなど職場のナレッジがたまりやすい場所でAIが活躍することが多くなると思います。そのように現場の情報がどこに集まるのかを考えて活用範囲を広げていくことが、自治体における持続的なAI活用につながるのではないでしょうか。

業務を属人化することなく、標準化していくことは人材が不足することが確実な今後の日本にとってはとても大切です。これは行政に限らないことだと思いますが、これからは何か仕事をするときのフロントエンドはAIになっていくと思います。それに対していろいろな指示を与えて、情報を引き出したり作業したりしていくことになると思うので、その活用方法を皆が持っている必要があるはずです。

現状は段階的に移行している途中だと思いますが、レガシーシステムのデータを資産として活用できれば、住民の方の側にもさらに利便性が生まれてきます。例えば自動車を購入したときに必要な書類にしても、紙ベースを続ける必要がなくなり、販売店などとデータ連携するだけで済むかもしれません。

最近では Google のソリューションを選ぶ自治体が増えていますが、これは従来のローカルを主軸にしたOSではなかなかコスト削減ができないという実情があるためです。クラウドネイティブが前提になりますが、そうすると Chromebook を使うことがいちばんコスト面でも有利になるので、それを購入する自治体が多くなってきている実情があります。

ただそうなってくると、ほとんどのドキュメントが作られている Windows アプリケーションがレガシーシステムとして残ることになります。それを移行するのか、それとも何かしら違う形で作るのかなどといったことも、自治体の課題として間違いなく上がってくることだと思います。

その課題に対するアプローチとしてのAIというものが、いまいろいろと考えられているところだと思います。

レガシーシステムのものでも残しておいた方がいいものもありますし、そこは自治体の事情にもよるのですが、基本的にはすべてクラウドにしてモダン化していく方向性になることは間違いありません。コスト面で考えても、その方向性は変わらないと思います。

また日本固有の課題として極端な人口減少の局面に入っているので、その課題にもAIの活用などはフィットしやすいところだと思います。

本日はありがとうございました。

連載
  1. 第1回:肝付町を変えた光回線と行政DXの起点
  2. 第2回:オンプレミスからクラウドへの変革はなぜ必要だったのか?
  3. 第3回:すべては必然だった!クラウドが促進した“場所”からの解放
  4. 第4回:ICTの考え方を根本から見直す!構造の転換が自治体DXを促進する
  5. 第5回:ゼロトラストの先に見据える自治体セキュリティの未来
  6. 第6回:働き方を変え、地方の暮らしを豊かにするゼロトラストの実践
  7. 第7回:レガシーシステムは「遺産」となるか? ~AIとの共存戦略~

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