教育とテクノロジー - コロナ対応で学校現場の遅れたICT 環境が浮き彫りに

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シリーズ
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コロナ禍で見えた学校現場の課題 
これからめざすICT活用とは?

コロナ対応で学校現場の遅れたICT 環境が浮き彫りに

  • 神谷 コロナ禍の休校期間中、一部のICT先進校ではオンライン授業などが行われていましたが、他の多くの学校ではオンライン授業どころか、子どもたちや保護者との連絡にさえ対応が遅れ、学校とのつながりが絶たれてしまった地域もありました。これまで学校に整備されてきたICT環境は、非常事態では機能しないことが明確になったと思います。
  • 豊福 そうですね。日本の学校教育はこれまで、対面や紙、電話でのやり取りに依存しすぎて、連絡手段にICTを活用してきませんでした。ICT活用といえば、あくまでも授業の中だけで使うもので、学校生活全般でICTを活用するという発想は持っていませんでしたからね。
  • 神谷 文部科学省が発表した調査によると、休校開始約1 ヶ月半の間に同時双方向型のオンライン指導ができた学校はわずか5%だったといいます。一方で海外の学校は、比較的スムーズに自宅でのオンライン学習に切り替わっていました。なぜ、日本の学校は早急に対応できなかったのでしょうか。
  • 豊福 休校中の学びを継続する手段として、オンライン授業ばかりに注目が集まるのですが、重視すべきは、そこではありません。日本の多くの学校では、オンライン授業以前に子どもに教材を配信する仕組みや、子どもと教師が普段からオンラインで連絡をとる手段すらないのが現状です。だから緊急事態になっても、すぐにオンライン授業に切り替えられないし、今の学校のICT 環境で対応できることは、意外に少ないのです。
  • 神谷 なるほど。アメリカやヨーロッパでは、普段から学校でも、家庭でも、学習にICTを使うのが当たり前だから、 すぐにオンライン授業に切り替えられたのですね。
  • 豊福 その通りです。日本の学校は長年、教師が教えるための道具としてICTを活用し、授業中も子どもたちがコンピューターを使う時間はごくわずか。家庭では、ほとんど学習にコンピューターを使うことはありません。これに対して海外の学校は、G SuiteやMicrosoft 365などクラウドIDを子どもたちに付与し、学校でも自宅でもシームレスに学べるクラウドの学習環境が築かれています。リサーチやレポートの作成など、子どもたちが授業や宿題でコンピューターを使う場面も多く、教師とオンラインで連絡が取れることも当たり前。日常的にICTを活用している経験があるからこそ、コロナ禍もスムーズに自宅でのオンライン学習に切り替えられたのです。
  • 神谷 コロナ禍の学校現場は、第2波、第3 波に備えて学びを継続するための環境を整備しなければなりません。今、学校が考えておきたいICT活用や整備はどのようなものでしょうか。
  • 豊福 まず抑えておきたいことは、非常事態で最優先される学校の役割は、学びを継続させるための教材提供ではなく、子ども、保護者、教師の三者が関係性を維持し、“いつでもつながっている”という安心感を与えられることが重要です。そのためには学校との接点が必要で、オンラインでコミュニケーションできる“ライフライン”としてのICT 環境が必要でしょう。日本の学校はこの環境が整備されていなかったため、緊急時にこれだけ普及したスマートフォンすら活かせませんでした。先が見えない今、子どもたちや保護者が、学校といつでも連絡を取り合い、安心できる日々を過ごせる環境づくりが学校に は求められています。

世界でも最下位レベル、日本の学校のICT活用

  • 神谷 授業の中でしか使われない日本の学校のICT活用は、世界的にも遅れています。その状況は、OECD(経済協力開発機構)が義務教育修了の15 歳生徒を対象に3 年おきに実施する「生徒の学習到達度調査(PISA) 2018年調査」でも明らかになりました。豊福先生はこちらのデータを毎回分析されていますが、今回の調査結果はいかがでしたか。
  • 豊福 私が独自で分析しているのは、この調査の中のひとつにある「生徒のデジタル機器の利用に関するICT活用調査」という部分になります。簡単にいうと、OECD加盟国の15 歳がどのようにコンピューターなどのデジタル機器を活用しているのか、国ごとに比較したものになります。
    たとえば「学習におけるデジタル機器の利用」についてみていきましょう。
    「コンピューターを使って宿題をする」、「関連資料を探すためにインターネットを利用する」といった活用項目に対して、「毎日使う」「ほぼ毎日使う」の回答が占める割合を国別で比較しました。その結果によると(図1)、日本の生徒たちは「学校の課題について他の生徒と連絡を取るためにSNSを使う」という項目は30%に達したものの、「学校の勉強ためにインターネット上のサイトを見る」「コンピューターを使って宿題をする」など、他の学習利用に関してはすべて10%以下という結果になりました。
    同様に、「学校でのデジタル機器の利用」についても用途を比較すると、「学校でネット上のチャットをする」「シミュレーションゲームで遊ぶ」以外の項目はすべて最下位に。要するに、日本の学校のICT活用はOECDの平均にも及ばないどころか、世界でも最下位レベル。学習用途としてICTはほとんど使われていないことが分かりますね。

図1 日本の教育情報化は世界最底辺 PISA2018 IC010「 学習におけるデジタル機器の利用」

「生徒の学習到達度調査2018年調査」より、豊福氏が独自に分析した学習のためのデジタル機器利用。各項目に対して「毎日使う」「ほぼ毎日使う」の回答が占める割合を国別に示したデータ。

  • 神谷 こうしてデータで見ると、日本の学校がいかにICTを活用していないか、よく分かりますね。
  • 豊福 さらに興味深いデータもお見せしましょうか。2009 年から2018年のICT活用調査を基に、学校内・学校外の学習におけるICT活用を示した経年データです(図2)。横軸が校内活用スコア、縦軸が校外活用スコアを示し、右上にいくほど活用頻度が高くなります。海外の国々は年々、学校の内外でICT活用の頻度が高まっている一方で、日本は2009年からほぼ横ばい。同じアジアの国々からも引き離され、その差は広がるばかりです。
  • 神谷 これは、すごいデータですね。日本はICT活用が世界でも最下位レベルということでしたが、その差もこれほど広がっているのですね。
  • 豊福 日本の生徒たちはデジタル機器を持っていないわけではありません。スマートフォンもタブレットにも生活で使って親しんでいますが、学校で使わないので“学習のために使う”という発想がないのです。また日本の教育は、紙の作文にこだわり、コンピューターを使って構造的な文章を書く学習を軽視しているのも課題です。海外の教育は、中高生たちが長い文章を書く知的活動を重視しており、ICTが活かせるメリットだと考えられています。つまり、海外では記述力やアウトプットの質を高める手段としてICTが有効だと捉えられているわけですね。

今はない職能につく子どもたち 時代に対応できる力を伸ばすには

  • 神谷 日本の学校はICT 環境も、その活用も世界から遅れていることは分かりました。しかし、Society 5.0時代を生きていく子どもたちにとってICTスキルを身につけることは重要で、学校教育もICTに対する考え方や取り組み方を変えていく必要があると思います。学校はこれから、ICTに対してどのように向き合い、どのような教育をめざすべきでしょうか。
  • 豊福 今までの学校教育は、工業化社会をモデルにしたカリキュラムで、教師から生徒へ知識を伝達し、それを教わった通りにアウトプットできることが重視されてきました。しかし今は、複雑化する世界に対応するために、答えのない問題や多様な社会課題に向き合いながら、自分で問題を発見し解決できる能力や、自分のアイデアをカタチに変える能力の育成が求められています。ただ一方では、社会の変化によって、子どもたちが習得する知識やスキルも増えて、カリキュラムの過剰化が世界的な課題になっています。膨大な知識を効率的に学び、自分の知識として蓄えていくためにはどうすればいいか。学びの生産性を高めたり、課題解決の手段としてICTを活用するという考え方が必要です。

図2 他国から引き離される日本
PISA2009~2018 IC010・011校内外学習活用スコアの推移

  • 神谷 そうですね。工業化社会から情報化社会へ時代が動くなかで、我々大人が向き合うべき問いも変わってきたと思います。学校教育もそれと同じで、今までは覚えた知識が正しいかどうかが重要でしたが、今は答えのない問題に向き合う力の方が求められています。そうした時に膨大な情報に触れられるICTは必要ですよね。
  • 豊福 もうひとつ考えておくべき大事なことがあります。それは、テクノロジーがさらに進化するSociety 5.0時代は、子どもたちが今はない職業につくかもしれない、ということです。
    AIが進化すれば人間の仕事は奪われるとか、新たなテクノロジーが登場して今はない職業が創出されるなど、いろいろな話がありますが、大事なことは予測不可能な時代に対応できるよう、ICTスキルを身につけておくということです。この考え方は世界の共通認識であり、多くの国が読み書きそろばんと同じレベルでICTスキルを考え、コンピュータサイエンスやプログラミング教育に力を入れているのも、こうした考えが背景にあります。
  • 神谷 日本でもAI 人材育成の一環として、2020年度から小学校でプログラミング教育が必修化されました。ICTスキルの育成についても、文部科学省はSociety 5.0時代を生き抜く人材に必要な資質・能力として重視しています。このような力を子どもたちが身につけていくためには、学校の教育はどのように変わるべきでしょうか。
  • 豊福 世界の教育機関の動きとしては、知識伝達型で教師が教える授業自体が減ってきており、学習者がICTを活用して主体的に学ぶ学習へとシフトしています。たとえば、PBLやSTEAM学習などが代表例ですが、日本の学校は未だに一斉授業が多く、ICTを活用するときも教師主導で、子どもたちが自由に使える場面は多くありません。このICT活用のスタイルを変えていかなければならず、教師主導から学習者中心へ、子どもたちの多様な学びを実現する手段として活用することが重要です。子どもたちが発想力を発揮し、自分のアイデアを組み立てる道具として自由に試行錯誤できる。
    教具ではなく、文具としてのコンピューターに変えていかなければなりません。