※ 本ブログは、2024年2月15日にHP WOLF SECURITY BLOGにポストされた HP Wolf Security Threat Insights Report Q1 2024 の日本語訳です。
HP Wolf Security 脅威インサイトレポートの2024年第1四半期版へようこそ。四半期ごとに我々のセキュリティエキスパートが、HPWolf Securityで特定された注目すべきマルウェアキャンペーン、トレンド、テクニックを紹介します。検知ツールを回避してエンドポイントに到達した脅威を隔離することで、HP Wolf Securityは、サイバー犯罪者が使用している最新のテクニックを把握し、セキュリティチームに新たな脅威と戦うための知識を与え、セキュリティ体制を向上させます。[1]
第1四半期にHP Sure Clickが検知した脅威の11%はPDFドキュメントでした。WikiLoaderマルウェアを拡散するキャンペーンでは、攻撃者は、物流会社に対するものと思われる期限切れの偽のPDF請求書を含むEメールをターゲットに送信しました。 WikiLoaderマルウェアのルアーの特徴や 送付先の業種から、個人ではなく企業を標的としている可能性が高いです。
前四半期は、DarkGate MaaS(Malware as a Service)の顧客が、Webゲートウェイやプロキシをバイパスし、キャンペーンを制御および最適化するために、広告リンクを利用していることを紹介しました。[9 ][10] 今四半期は、広告リンクの代わりに、オープンリダイレクトの脆弱性(CWE-601)を利用して、標的を正規のWebサイトからマルウェアをホストする悪意のあるWebサイトに誘導する攻撃者を確認しました。[3]
PDFファイル内のリンクをクリックすると、オープンリダイレクトによりZIPアーカイブがダウンロードされます。(図2)このアーカイブには、難読化されたJavaScriptファイル (T1027.013)[4] が含まれています。このスクリプトは、別のJavaScriptファイルをダウンロードし、同じプロセスコンテキストで実行します。次に、オンラインインスタント メッセージングプラットフォームであるDiscord(T1102)[5] からZIPアーカイブをダウンロードします。それをユーザーのTempディレクトリに保存した後、ZIPアーカイブに含まれるすべてのファイルを展開します。
ディレクトリの中には、人気のテキスト編集プログラムであるNotepad++に関するインストールファイルがあります。スクリプトは、正規の署名付きNotepad++実行ファイルであるnotepad.exeを起動します。 WikiLoaderマルウェアは、プラグインディレクトリ内の ”mimeTools.dll” という名前のファイルに隠されています。Notepad++が起動すると、WikiLoaderを含む悪意のあるプラグインのロードを開始します。(図3)この手法、DLLサイドローディング (T1574.002)[6] は、アプリケーション制御を回避し、EDRやアンチウイルスツールに捕捉されるリスクを低減する効果的な方法です。
一度常駐すると、WikiLoaderは他のマルウェアや攻撃者が選択したポスト感染ツールを配信するために使用される可能性があります。WikiLoaderが有名なプリケーションのインストールフォルダ内に潜伏しているのを確認したのは、今回が初めてではありません。2023年第4四半期の脅威インサイトレポートでは、有名なシステムクリーンアップツールであるCCleanerを装ってこのマルウェアを拡散するキャンペーンを記録しています。[10]
第1四半期に攻撃者がEメールや Web フィルタを迂回するために頻繁に使用したテクニックの1つが、HTML スマグリング (T1027.006)[11] でした 。オープンソースのリモートアクセス型トロイの木馬(RAT)であるAsyncRAT[12]を配信するキャンペーンでは、攻撃者は、配送業者からの請求書を含むと見せかけたHTMLの添付ファイルをEメールで標的に送信しました。
HTML添付ファイルを分析すると、エンコードされたバイナリ文字列が見つかります。これを開くと、 JavaScript関数がこの文字列をデコードし、Windowsスクリプトファイル(WSF)がダウンロードされます。[13] 興味深いことに、攻撃者はルアー(図4)のデザインにはほとんど注意を払っておらず、既製のマルウェアキットを使用したものの、カスタマイズに失敗した可能性が示唆されます。
ダウンロードされたWSFファイルのほとんどは、スペースと改行で構成されています。実際にはスクリプトに重要な行が1行だけ含まれており、リモートWebサーバー上でホストされているVBScriptを実行します。このVBScriptは、マルウェア感染を制御するために使用されます。まず、BitsTransfer (T1197) を使用して同じサーバーからファイルをダウンロードし、ZIPアーカイブとしてローカルに保存します。[8]
次に、アーカイブから17個のファイルがフォルダに展開され、JavaScriptファイルが実行されます。これとは別に、2つ目のJavaScriptファイルが起動します。どちらのスクリプトも同じタスクを実行しますが、一方がブロックされた場合に備え、異なる方法で実行します。各スクリプトは、一連のPowerShellとバッチコマンド (T1059)[14] をトリガーし、最終的に "t.ps1" というPowerShellスクリプトを起動します。1つのパスは直接スクリプトを実行し、実行ポリシーが制限なしに設定されていることを想定しています。もう1つのパスは、スケジュールタスク (T1053.005) を作成し、2分後にPowerShellスクリプトを間接的に実行します。[15]
"t.ps1" は、マルウェアのペイロードを起動します。検知を回避するため、スクリプトは異なるテキスト ファイルから間接的にメソッドを読み取り、それらをコードとして利用し実行します。最後に、防御を回避するために使用されるプロセスハロウイング (T1055.012)である RunPE を使用して、AsyncRAT が起動されます。[16] AsyncRAT は高性能な RAT で、攻撃者は感染したエンドポイントを完全に制御することができます。
攻撃者はここで、BITSやスクリプト機能など、 Windowsに組み込まれている機能を利用するLiving off the landを選択しました。この戦術は、攻撃者が正当なシステム管理者の活動に紛れ込み、外部の攻撃ツールが検知される可能性を減らすのに有効です。
第1四半期、HP脅威リサーチチームは、Ursnifマルウェアを拡散するイタリア語圏をターゲットとした大規模な悪意のあるスパムキャンペーンを観測しました。[17] 2007年に初めて確認されたUrsnifは、当初、詐欺を容易にし、金融情報を盗むためのバンキング型トロイの木馬として設計されました。[18 ]今日、Ursnifはさまざまな悪意ある機能を有しています。攻撃者は、イタリアの期限切れ請求書を送りつけ、ユーザーを騙してリンクをクリックさせます(図7)。第1四半期の他の多くのキャンペーンと同様の攻撃パターンに従って、リンクをクリックすると、悪意のあるJavaScriptファイルを含むアーカイブがダウンロードされます。
このスクリプトを開くと、2つ目のJavaScriptファイルがダウンロードされ、バックグラウンドで実行されます。このファイルも難読化されており (T1027.013)、攻撃者が読みにくくするために挿入した膨大な数のコメントが含まれています。これらのコメントを削除すると、その機能が明らかになります(図8)。このスクリプトは、WebからDLLをダウンロードし、Windowsに組み込まれているrundll32ツールを利用して実行します (1218.011)。[19] このDLLがUrsnifのペイロードです。
GuLoaderは2019年末から活動しているマルウェアダウンローダーです。[20] キャンペーンで定期的に観測されています。このダウンローダーは小型で、多数のアンチ解析およびサンドボックス回避 (T1497) テクニックを実装しているため、検知は容易ではありません。[21] このキャンペーンでは、マルウェアはEメールで送信されたアーカイブ内のVBScriptファイルとしてターゲットに拡散されました(図9)。攻撃者は、サプライヤーの買掛金支払部門を模倣した延滞請求書のルアーを使用しました。
この最初のスクリプトはわずかに難読化されており、PowerShellスクリプトを実行します。2つ目のPowerShellスクリプトは高度に難読化され (T1027.013)、文字列を復号することで間接的にコマンドを実行し、攻撃者は静的ファイル検知を回避できます(図11)。
このPowerShellスクリプトは、2つのURLをデコードし、BitsTransfer (T1197) を利用してそこからファイルをダウンロードします(図10)。このPowerShellスクリプトは、substring関数を使用してファイル内の特定のテキストシーケンスにアクセスします。[22] このテキストは、同じコンテキストで実行される別PowerShellスクリプトです。このスクリプトも難読化されており、ほとんどのコマンドが間接的に実行されます。最終的に、このスクリプトがGuLoaderシェルコードの実行を担当します。
まず、プロセスの現在のウィンドウのタイトルを"Plage18" に変更します。次に、すべてのウィンドウを列挙し、そのタイトルを持つウィンドウを検索し、そのハンドルを返します。そして、マルウェアはShowWindow関数を使用して、ユーザーにウィンドウを表示します。なぜこのようなことが行われるのかはまったく不明です。その後、マルウェアはプロセス内に2つのメモリ領域を確保し、そこにシェルコードを書き込みます (T1055)。[23] 先ほどダウンロードしたファイルの、最初の部分がインジェクションされるシェルコードで、2番目の部分がPowerShellスクリプトです。
最後に、CallWindowProcAとそのコールバック関数を使用して、シェルコードが実行されます。[24] GuLoaderが実行されると、通常は別のマルウェアファミリをダウンロードして実行します。このケースでは、人気のある商用RATであるRemcosがダウンロードされ、実行されました。[25]
2021年後半に初めて確認されたRaspberry Robinは、当初はテクノロジー企業や製造業を標的としたWindowsワームでした。[26] その後、企業が最も頻繁に直面する脅威の 1 つに数えられるようになりました。[27] 3月、HPの脅威リサーチチームは、サイバー犯罪者によるRaspberry Robinの拡散方法の変化を確認しました。[28] このマルウェアは現在、Windows スクリプトファイルを介して配信されています。
スクリプトは高度に難読化されており、さまざまなア ンチ解析および仮想マシン検知 (T1497) 技術を使用しています。最終的なペイロードがダウンロードされ実行されるのは、これらすべてのチェックにより、マルウェアがサンドボックス内ではなく、実際のエンドポイント上で実行されていることが示された場合のみです。私たちの分析によると、新しいRaspberry RobinスクリプトはVirusTotal上のアンチウイ ルススキャナによる検知率が低く、一部のサンプルはどのスキャナでもフラグが立っておらず、このマルウェアの回避能力が実証されています(図12)。
感染後、Raspberry Robinは、Tor (T1090.003) 経由でコマンド&コントロールサーバーと通信します。[29] Raspberry Robinは、追加のペイロードをダウンロードして実行することができ、脅威アクターが他の悪意のあるファイルを配信するための足掛かりとなります。このマルウェアは、SocGholish [31]、Cobalt Strike [32] 、IcedID [33]、BumbleBee [34]、Truebot [35]、などのファミリーを配信するために使用されているだけでなく、ランサムウェアの前兆としても使用されています。
前四半期までの傾向とは異なり、第1四半期は実行ファイルのブラウザダウンロードが大幅に増加し、HP Sure Click が検知したファイルタイプのトップはスクリプトと実行ファイル(37%)となりました。 これらの実行ファイルの多くはグレーウェアで、厳密には悪意のないものの、ハッキングに使用される可能性のあるツール(ポートスキャナなど)、ソフトウェア違法コピーツール(ライセンスキージェネレータなど)、ビデオゲームなど、組織のITポリシーの許容範囲(AUP)に違反する可能性のあるアプリケーションでした。
脅威の28%は、ZIPやRARファイルなどのアーカイブ形式で配信されました。脅威の13%は、Microsoft Word形式(DOC、DOCXなど)などのドキュメント形式を使用しており、悪意のあるスプレッドシート(XLS、XLSXなど)は脅威の5%でした。脅威の11%はPDFファイルで、その多くに悪意のあるコードは含まれていませんでしたが、マルウェアへのリンクが含まれていたため、攻撃者はEメールスキャナをすり抜けることができました。残りの6%は、その他のアプリケーションを使用したものでした。
今四半期は、少なくとも65%のドキュメントの脅威が、マクロではなく、コードを実行するエクスプロイトに依存していました。
エンドポイントにマルウェアを送り込む経路のトップは依然としてEメールでした。第1四半期に、HP Wolf Securityが特定した脅威の53%はEメールで送信されたものでした。悪意のあるWebブラウザのダウンロードは、12%ポイント増加して25%に達しました。リムーバブルメディアなど、その他の経路による脅威は、 2023年第4四半期と比較して10%ポイント増加し、脅威の22%を占めました。
第1四半期にHP Wolf Securityが検知したEメールの脅威のうち、少なくとも12%( 前四半期比2%ポイント減)は1つ以上のEメールゲートウェイスキャナをバイパスしていました。
HP Wolf Security 脅威インサイトレポートは、ほとんどのお客様が脅威のテレメトリをHPと共有することを選択することによって実現されています。当社のセキュリティ専門家は、脅威の傾向や重要なマルウェアキャンペーンを分析し、洞察を注釈したアラートを顧客にフィードバックしています。
HP Wolf Security の導入を最大限に活用するために、お客様には以下のステップを踏むことをお勧めします。[a]
HP Threat Research チームは、セキュリティチームが脅威から身を守るために役立つ 侵害の痕跡 (IOC) やツールを定期的に公開しています。これらのリソースは、HP Threat Research GitHub リポジトリからアクセスできます。[39] 最新の脅威に関する調査については、HP WOLF SECURITY ブログ [40] にアクセスしてください。
企業は、ユーザーがEメールの添付ファイルを開いたり、Eメール内のハイパーリンクをクリックしたり、Webからファイルをダウンロードすることに対して最も脆弱です。HP Wolf Securityは、リスクの高いアクティビティをマイクロVMに隔離し、ホストコンピュータがマルウェアに感染したり、企業ネットワークに広がったりしないようにすることで企業を保護します。HP Wolf Securityは、イントロスペクションを使用して豊富なフォレンジックデータを収集し、お客様のネットワークが直面する脅威を理解し、インフラストラクチャを強化できるよう支援します。HP Wolf Security 脅威インサイトレポートは、当社の脅威研究チームが分析した注目すべきマルウェアキャンペーンを紹介し、お客様が新たな脅威を認識し、環境を保護するために行動を起こすことができるようにします。
HP Wolf Securityは、新しいタイプ[c]のエンドポイントセキュリティです。HPのハードウェアで強化されたセキュリ ティとエンドポイントに特化したセキュリティサービスのポートフォリオは、組織がPC、プリンター、そして人々を、取り囲むサイバー犯罪者から守るために設計されています。HP Wolf Security は、ハードウェア・レベル からソフトウェアやサービスに至るまで、包括的なエンドポイントの保護とレジリエンスを提供します。
[2] https://malpedia.caad.fkie.fraunhofer.de/details/win.wikiloader
[3] https://cwe.mitre.org/data/definitions/601.html
[4] https://attack.mitre.org/techniques/T1027/013/
[5] https://attack.mitre.org/techniques/T1102/
[6] https://attack.mitre.org/techniques/T1574/002/
[7] https://lolbas-project.github.io/
[8] https://attack.mitre.org/techniques/T1197/
[9] https://malpedia.caad.fkie.fraunhofer.de/details/win.darkgate
[10] https://jp.ext.hp.com/blog/security/product/hp-wolf-security-threat-insights-report-q4-2023/
[11] https://attack.mitre.org/techniques/T1027/006/
[12] https://malpedia.caad.fkie.fraunhofer.de/details/win.asyncrat
[13] https://en.wikipedia.org/wiki/Windows_Script_File
[14] https://attack.mitre.org/techniques/T1059/
[15] https://attack.mitre.org/techniques/T1053/005/
[16] https://attack.mitre.org/techniques/T1055/012/
[17] https://malpedia.caad.fkie.fraunhofer.de/details/win.gozi
[18] https://www.cisa.gov/news-events/cybersecurity-advisories/aa22-216a
[19] https://attack.mitre.org/techniques/T1218/011/
[20] https://malpedia.caad.fkie.fraunhofer.de/details/win.cloudeye
[21] https://attack.mitre.org/techniques/T1497/
[22] https://ss64.com/ps/substring.html
[23] https://attack.mitre.org/techniques/T1055/
[24] https://learn.microsoft.com/ja-jp/windows/win32/api/winuser/nf-winuser-callwindowproca
[25] https://malpedia.caad.fkie.fraunhofer.de/details/win.remcos
[26] https://redcanary.com/blog/raspberry-robin/
[27] ttps://redcanary.com/threat-detection-report/threats/raspberry-robin/
[29] https://attack.mitre.org/techniques/T1090/003/
[30] https://redcanary.com/threat-detection-report/threats/raspberry-robin/
[31] https://malpedia.caad.fkie.fraunhofer.de/details/js.fakeupdates
[32] https://malpedia.caad.fkie.fraunhofer.de/details/win.cobalt_strike
[33] https://malpedia.caad.fkie.fraunhofer.de/details/win.icedid
[34] https://malpedia.caad.fkie.fraunhofer.de/details/win.bumblebee
[35] https://malpedia.caad.fkie.fraunhofer.de/details/win.silence
[36] https://enterprisesecurity.hp.com/s/article/Threat-Forwarding
[37] https://enterprisesecurity.hp.com/s/article/HP-Threat-Intelligence
[38] https://enterprisesecurity.hp.com/s/
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Author : HP WOLF SECURITY