掲載日:2026/03/24

「2025年ウォルマートvsアマゾンをどう見るか」、「ピックルボールがイーターテイメントで拡大」他:進化を続けるアメリカ小売業界Vol.53

「エージェンティックコマースが始まる」、「小規模スーパーマーケットでもAIを使って経営革新」他:進化を続けるアメリカ小売業界Vol.66

エージェンティックコマースが始まる

NRFビッグショー2026より左、ウォルマートCEOジョン・ファーナー氏、右、グーグルCEOスンダー・ピチャイ氏 出典:NRF/Jason Dixson Photography NRFビッグショー2026より左、ウォルマートCEOジョン・ファーナー氏、右、グーグルCEOスンダー・ピチャイ氏 出典:NRF/Jason Dixson Photography

 

 1月に開催されたNRF(全米小売業協会)ビッグショー2026は120にも及ぶ講演会のほとんどがAI一色だったが、中でもエージェンティックコマースがいよいよ本格的に始まる、という認識が共有される会でもあった。

 

エージェンティックコマースとは何か

 

 エージェンティックコマースとはエージェンティックAIによって可能になるeコマースのことだ。ではエージェンティックAIとは何か。AIエージェントと呼ばれることもあるが、前世代のAI、生成AIが文章・画像・コードなどコンテンツに特化して自律的に生成するのに対し、エージェンティックAIは目標に対して自律的に分析・計画し、外部ツールを操作して目標を実行する、能動的に行動できるシステムだ。これを活用したECがエージェンティックコマース(以後Aコマース)で、2月にウォルマートCEOに就任したジョン・ファーナー氏はビッグショーでの講演で例をあげ「もしあなたが週末に釣り旅行に行く場合、Aコマースでは必要な餌や他の商品を自動的に推奨し、旅行先を告げるとその土地の天候状況を調べそれに応じて必要な商品も提案し、自動的にあなたに代わってそれらを購入し、予約してあるホテルに配送する」と説明した。

 

ウォルマートとグーグルが市場参入を共同表明

 

 ショーの初日キーノート講演では、ウォルマートのファーナーCEOとグーグルのスンダー・ピチャイCEOが一緒に登壇し、ショッピング経験を進化させるエージェンティックコマース開始を発表した。ウォルマートとサムズクラブはグーグルAIアシスタント、ジェミニを使ったAコマースで一層パーソナルで利便性高く、迅速な購買経験を提供する。

 ピチャイ氏はまた、Aコマースのために設計した「ユニバーサルコマースプロトコール(UCP)」の導入も発表した。エージェンティックAIが自律的に発見から購入まで行うために不可欠な機能で、消費者はグーグルの検索、AIモード、AIアシスタントのジェミニのどのプラットフォームからも「購入」ボタン1つで直接決済が可能になる。開発にはウォルマート、ターゲット、eコマースプラットフォームのショッピファイ、eコマース専門店のイッツィ(クラフトアート)、ウェイフェア(家具)他が協力した。米国ではまもなくUPCによって消費者がAIアシスタントで商品検索している時、ウォルマート等提携企業の店舗やECに在庫があるか類似の商品があれば、AIアシスタントが自動的にその商品をリストに加えて紹介し、それを選べば自動的にウォルマートEC上で購入できる。またユーザーがウォルマート顧客アカウントをリンクしておけば、顧客データをもとに他の商品を推奨したりパーソナライズされた経験を得られる。

 また企業が自社データや新規顧客インサイト等をもとに独自にAIエージェントを訓練できる「ビジネスエージェント」機能も開始し、ロウズ(ホームインプルーヴメント)、マイケルズ(クラフト専門店)、ポッシュマーク(中古品再販プラットフォーム)、リーボック等が現在開発に参加し数か月後に実用化の見通しだ。

 エージェンティックAIのアシスタントを得ながら行うショッピングは顧客経験が最良化され、一方で業務の最適化も実現できると期待されている。

 

エージェンティックコマースの現時点での懸念事項

 

 まず企業側には人事管理上の変革が求められるだろう。店舗の接客とエージェンティックコマースのサービスの差をどう扱うか、コールセンターの人員体制はどうなるか、何をどのように改革すべきかをこれから試行錯誤の中で構築していく必要がある。システムが複雑になるだけにセキュリティ、不正リスクは増加し、テクノロジー自体やデータインフラへの負担、限界などもリスク要因だ。法律やAIバイアスによる倫理の問題なども関わってくる。

 ただ差し当たっての課題として、アマゾンとスタートアップ企業パープレキシティAI社(Perplexity AI)の訴訟問題が挙げられる。パープレキシティが、アマゾンマーケットプレース上でアマゾン顧客の代わりにエージェンティックAI「コメット」を使って利用規則を破って違法かつ自動的に顧客の口座にログインし購入、これをアマゾンが昨年11月に起訴したというものだ。もっとも、アマゾンは昨年2月に「ショップダイレクト」機能を発表し、顧客がアマゾン上で他のブランドの直営ウェブサイトをブラウズし、そこに購入した商品を見つけた時、アマゾンの「バイフォーミー(Buy for Me)」ボタンを押せばエージェンティックAIが当該サイト上で代行購入する。しかし昨年末のホリディ商戦時期にインスタグラム他のSNS上で「アマゾンが当社の許可なく当社の商品を販売し、その中には在庫切れの商品や販売実績のない商品も含まれていた」というクレームが急増した。中小ブランドはシステムも人員も不足しているケースが多いので、直営eコマース上に掲載されている商品の在庫背景が必ずしも正確でないことも多い。それはアマゾン側ではわからないことなので自動的にエージェンティックAIが代理購入してしまった、というわけだ。

 被害にあったと主張するカリフォルニア州のボボデザインスタジオの独自の調べによると他にも少なくとも180ブランドが同じ経験をしたとCNBCは1月に報道している [1]。アマゾン側はまだテスト段階であること、同社顧客からは同機能についてポジティブな反応があると説明している。筆者も試してみたが、確かにアマゾン上では買えない商品を、当該ブランドのオンラインストアに自動的に移動して購入できるなら便利そうではある。

 ただ、筆者を含めて現在の消費者は物価高かつ社会情勢が不透明な中、ブランドのオンラインストアで商品が見つかったのは良いけれど「価格は同じ?配送費はどうなるの?アマゾンのポイントはつくんでしょうね!?」といった疑問が頭に湧き上がって、なかなかそのまま自動的に購買に進むかどうかというと、ここは何ともいえない。人間だから、迷うのは仕方ない。エージェンティックAIはこういう迷いの相談にも乗ってくれるのだろうか?


[1]CNBC, ‘Amazon’s AI shopping tool sparks backlash from online retailers that didn’t want websites scraped’, 2026年1月6日



小規模スーパーマーケットでもAIを使って経営革新

ヴァラルタ、アリゾナ州グレンデール店 出典:Vallarta Supermarkets/Phoenix Business Journal, 2025年12月30日掲載より ヴァラルタ、アリゾナ州グレンデール店 出典:Vallarta Supermarkets/Phoenix Business Journal, 2025年12月30日掲載より

 

 南カリフォルニアを拠点に70店以上を運営するヴァラルタ(Vallarta)は、1985年にロサンジェルスに中南米系コミュニティ向けのスーパーとして開業した。中南米系アメリカ人は人口増加だけでなく教育や所得水準も上昇したことから、中南米食品に軸足を置きながらも高品質な品揃えを徹底して店舗ロイヤルティを高め、リテールテックを活用して経営の効率化を進めながら成長を続けている。2026年1月には初めてアリゾナ州にも出店した。

 同社のリテールテック活用は、2022年の職場管理システム導入で業界に注目されるようになった。旧来のシステムからロジャイル(Logile)社の従業員のスケジューリング、勤怠管理、給与管理を統合した自動管理システムに転換し、当時保有していた本社2拠点、ディストリビューションセンター2拠点、店舗34店の管理を統合した。これによって従業員は自分の就業スケジュールをシステム上でセルフサービスで管理できるようになり、シフトの変更や出勤日・時間の設定、本社とのコミュニケーションなどを全てモバイル上で行うことができるようになった。また従業員が、就業規則と勤怠データをもとにした正確な有給休暇日数・時間数を自分で確認できるようになり、憶測で勝手に休むなどの勤務態度を改めることにも役立ったようだ。(筆者注:時間概念の文化的相違が影響している部分もある。)これによって当日の朝になって初めて人手不足だとわかる、といったような課題を減らしたようだ。

 2024年3月にはレレックスソリューションズ(Relex Solutions)社の売場と商品アソートメント計画テクノロジーを導入し、約3万SKUを管理して売場スペースや商品入手を最適化し、顧客サービスを向上させた。特に売場のレイアウトと棚割り計画はベストセラー商品の売上向上に貢献し、利益率を改善し、物流コストを下げることもできた。

 同年9月にはサステナビリティ戦略にも投資し、グリーンストラクショア(GreenStruxure)社と提携してカリフォルニア州ヴェンチュラの店舗に再生可能エネルギーマイクログリッドを設営し、店舗が消費するエネルギーの60%をクリーンエネルギー化した。これによって初年度から光熱費の上昇分を押さえることができたという。さらに同社のビヨンドザグリッド(BeyondtheGrid)AIプラットフォームによってゼロカーボンエネルギーを利用でき、最大光熱消費量を管理し、店舗内でのエネルギー利用を最適化し、データからのインサイトを活用できるようになった。

 2025年8月には前述のロジャイル社のAIと機械学習を利用したアイテムレベルの売上需要予測システムを導入し、予測精度は97%にまで向上した。このシステムは過去のデータ、季節性、天候、イベントや市場のトレンドを総合的に分析し、在庫管理を最適化して欠品や過剰在庫を最小化する。全てのインサイトはリアルタイムであるため、より効果的な意思決定をすることができる。

このシステムを活用して生鮮食品部門の店内調理・加工計画の精度を高め、栄養成分情報やレシピ情報の全データを管理することで食の安全を管理するための必要な書類や写真、動画、従業員向けトレーニングガイドを作成開始した。今年1月にはスマートウェイ(Smartway)社のAIを活用した食品廃棄管理システムを導入し、AIによってグローサリー、デリ、冷凍食品、乳製品売場の賞味期限切れが近づいている商品を自動的に探知し、食品廃棄削減と店舗従業員の業務軽減に役立てている。同システムもリアルタイムで本社とデータを共有し、毎日状況を把握できる。同システムは当初5店舗で4か月間のテスト展開を行い、その後6か月間に39店舗に実装し、5週間で残りの34店舗に拡大する予定だ。

 このようにまだ100店舗に満たない規模とは言え、経営革新、利益確保、従業員経験および顧客経験の向上のためにこれだけ投資ができるのは一重に経営者に明確な目標とリスクを取る価値への理解があるからだろう。前述のNRFビッグショーでも、登壇者の多くが共通して「テクノロジー導入による失敗を恐れずに、導入経験からの学びに投資をすること」というアドバイスで講演を締めくくっていたが、大企業でない地元のチェーンストアでも導入に積極的なのは、それだけテクノロジーへの理解と信頼、目的意識が明確だということだろう。



低所得者向けアパートメントにコストコ出店

ボールドウィンヴィレッジに開業予定のコストコの完成予想図 出典:スライブリビング社 ボールドウィンヴィレッジに開業予定のコストコの完成予想図 出典:スライブリビング社

 

 今全米の大都市では家賃の高騰が深刻化している。ビューリサーチセンターによると2023年の賃貸住宅世帯のうち家賃が収入の30%以上を占める世帯は52%、50%以上は26%もある。ニューヨーク市では昨年11月に「アフォーダブルハウジング(家賃の低い住宅)」を政策に掲げたゾーラン・マンダニ氏が選挙に勝ち市長の座を手に入れた。ロサンジェルス市では、地域再開発事業として会員制ディスカウントストア、コストコを核テナントとした低所得者優遇割り当てを含む集合住宅建設計画の2027年開業を発表し、業注目されている。開発者スライブリビング社は、低家賃アパートメントと高賃金の仕事を生み出す開発物件をスピーディに許可する州法AB2011を利用し、コストコ誘致によってその両方を提供できるとして資金調達がスムーズになり、全800戸のうち184戸は低所得世帯に低額家賃で賃借がすることになった。

 一見ウィンウィンだが未知数の部分はあり、出店地のボールドウィンヴィレッジは貧困率が全米平均の2倍で、一方コストコは年会費60ドル、商品は業務用サイズや大量パックなので商品単価は非常に低くても1回当りの購入金額が上がりやすい。このため顧客の36%は年収12万5000ドル以上とみられている 。物件内住民の大部分は低所得層では無いとは言え、周辺に拡がる高所得住宅街からも集客できるのか。さらに、国際SC審議会(ICSC)によるとこのようなミックストユースの開発物件に入居する家賃は伝統的なショッピングセンターより」10~20%高いとのことだ。

 しかしこのような低家賃の住宅開発物件にディスカウントストアを誘致するケースは増えており、小型のディスカウントスーパー、リドルも2025年8月にマンハッタン内の低家賃集合住宅が立ち並ぶローワーイーストサイドに出店、同地区にはターゲット小型店、トレーダージョーズも同時期に出店した。長引く物価高の上、足元では原油価格が急騰し消費者の節約モードは定着し、一般市民の可処分所得は低下の一方だ。ディスカウントスーパーの上に住めば食費は多少楽になりそうな気がするが、頻繁に来店できるため余分なものを買い過ぎるのでは、という別な心配も出ているそうだ。


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【在米リテールストラテジスト 平山幸江】


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