掲載日:2026/02/13

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「アマゾンゴー、アマゾンフレッシュ全店撤退しシカゴ郊外に超大型店出店」、「自動店頭在庫管理ロボット、タリーがグレードアップ」他:進化を続けるアメリカ小売業界Vol.65

アマゾンゴー、アマゾンフレッシュ全店撤退しシカゴ郊外に超大型店出店

低価格を訴求するサイン(什器上、通路側デジタルモニター、床)があちこちに目につくアマゾンフレッシュ、ロサンジェルス・ノースハリウッド店 出典:平山撮影 低価格を訴求するサイン(什器上、通路側デジタルモニター、床)があちこちに目につくアマゾンフレッシュ、ロサンジェルス・ノースハリウッド店 出典:平山撮影

 

 1月20日、アマゾンはシカゴ郊外オーランドパークに2万1,300㎡の巨大なスーパーマーケットの開業、翌週にはレジレス店舗のアマゾンフレッシュ57店、アマゾンゴー15店の全店閉鎖を発表した。店舗の一部はホールフーズマーケットに転換し、今後店舗事業はホールフーズに集中して向こう数年間に100店舗以上出店する。

【店舗事業の推移】

 コンビニエンスストアのアマゾンゴーは既に徐々に店舗を削減していた。一方でホールフーズの小型店デイリーショップに力を入れ、現在ニューヨーク市、ヴァージニア州、ニュージャージー州に5店舗、2026年度中にさらに5店舗を追加する計画だ。スーパーマーケットのアマゾンフレッシュはホールフーズがコンセプト上の理由で販売できないが市民生活の定番品となっているナショナルブランドやマスマーケット食品市場に裾野を広げるため2023年以降レジレス技術を差別化の武器に使って出店を加速したが、業界でも営業成績を疑問視する声が高かった。筆者の観察でもニュージャージー州3店舗についてはいつ行っても客が非常に少なく、スマートカートを利用している客は10人に1,2人いるかどうかだった。ただ、ロサンジェルス、ノースハリウッド店は地元の若い客で賑わっていた。とは言えスマートカートの利用率は高くなさそうで、バスケットを手に持ち、必要最低限の買い物をサッと済ます客が多かった。

 アマゾンフレッシュ店舗が登場したのは2020年夏だったが当初から営業面で厳しかったらしく2023年に商品強化・改装を行ったものの、とても既存スーパーには勝てない、主要な商圏は飽和状態で食い入る余地も無い、と判断したのだろう。ただし店舗閉鎖を報告したアマゾンの広報ページでは「実店舗のイノベーションは継続」というサブタイトルでシカゴ郊外ホールフーズのプリモスミーティング店に横づけしたECオーダー向け自動マイクロフルフィルメントセンターを「店内店舗」として例に挙げ、ホールフーズ店で買い物中にアプリでアマゾンフレッシュの買い物もでき、退店時にそのオーダーをピックアップできること、これによって「当社の幅広い生鮮食品や日用品を低価格で簡単に迅速に購入できる」ことを再度強調している。

 年内にシカゴ郊外のオーランドパークに出店する大型店はウォールストリートジャーナル(WSJ)[1] が「ターゲットの平均的店舗サイズの約2倍」と表現しているが、WSJがアマゾンに取材したところによるとその半分はグローサリー、総菜、ペーパータオル、おむつなどの日用消耗品で、残り半分はオンラインや店内オーダーのフルフィルメントに使われる予定だ。

 同プロジェクトを代表する弁護士ケーティ・ジャンク・デール氏によると、顧客は店内キオスクでセーターをオーダーし、スーパーで買い物後それをピックアップしたり、ドッグフードなど重くてかさばる商品を直接駐車場の自家用車に運んでもらうことができるそうだ。しかしグローバルデータ社マネージングディレクターのニール・サンダース氏はWSJの取材に対して「正直なところ私達はアマゾンの大型店舗を必要としているか?答えはノーだ」「彼らが集客のために何をするのかに関心を持っている」とコメントしている。

【レジレス技術の推移】

 アマゾンゴーに使われているジャストウォークアウト(JWO)システムは本レポートでも何度か報告したようにスタジアム、大学、空港、病院の売店に実装され、アマゾン社の1月13日付広報ページによると既に360か所以上の小売店で利用され、過去1年間にレジ通過数1,770万、3,670万アイテムを販売した [2]。

 同ページではRFID技術をJWOシステムに組み合わせたポータブル式JWOシステム「ジャストウォークアウトRFIDレーン(Just Walk Out RFID lanes)」を新たに導入したと紹介している。同システムはエイブリィデニソン社との共同開発で既に2023年にスタジアム内の公式ショップ内に導入されているが、通常のJWOシステムがコンピュータヴィジョンで食品や飲料のパッケージを画像認識するのに対し、RFIDレーンでは衣類など非包装のため画像認識が困難だがRFIDタグをつけられる商品を対象としタグをゲートで瞬時に読み込む。人の動作はJWOシステムとほぼ同じで、入店時にクレジットカードをかざしてゲートを開き、購入後はゲートに近づきクレジットカードを再度かざすと課金しゲートが開く。

[1]Wall Street Journal, ‘Amazon joins the big-box league with its largest-ever store’, 2026年1月20日
[2]About Amazon, ‘Amazon’s new portable Just Walk Out lanes bring checkout-free shopping to pop-up venues’, 2026年1月13日

ジャストウォークアウトRFIDレーン 出典:アマゾン社広報ページ ジャストウォークアウトRFIDレーン 出典:アマゾン社広報ページ

 

 今回のシステムはポップアップショップの、数週間ではなく数時間の利用を想定しているそうだ。2025年にアマゾンミュージック主催のキャンプフロッグナウを始め17拠点でテストを実施した。このシステムへの需要がどこまで広がるのかはこれから現実の世界で実験、というところだろうが、先行している既存のJWOシステム売店は成果をあげていて、アマゾンの公表数値によるとシアトルのルーメンフィールド・スタジアムでは1ゲーム当りの売店売上が47%増、フロリダ州ベイケアのセントジョセフ病院では待ち時間が25分から5分に、カリフォルニア州立大学サンディエゴ校売店では学生の11%が利用し、万引きは83%減少したそうだ。

 なお、手のひら認証決済「アマゾンワン」は6月3日をもってサービスを中止することも発表した。この理由は明示されていないが、生体認証に対する個人情報問題が大きな理由のようだ。このリスクに対して同技術の汎用性が決済時間の短縮以外になく、ROIが課題になったのかもしれない。実は筆者はこの決済方法を使い、ヨガクラスの帰りに財布も携帯も持たずに手のひらだけでランチを購入、3秒もあればレジを終了できたので非常に便利だと思っていた。結局は利益貢献しない技術には投資はしない、ということなのだろう。

 アマゾンは1月28日、本社部門で約16,000人のレイオフを発表、昨年秋のレイオフを足すと3万人規模だ。ジャシーCEOの「発明志向の無駄な投資はしない」経営方針は確固たるもののようだ。

 

 同店は地下がメイン売場だが、来年はこちらも改装する。ターゲットはニューヨークオフィスも改編し、従来あった小規模なマーケティング部門オフィスを閉じ、マジソン街に従業員80名から構成されるマーケティングと商品開発部門の新本社に移管、リテールメディア部門ラウンデルもここで機能強化する。ソーホー店の躍動感が全2000店に波及し、久しぶりにターゲットらしさが戻ってくるのか、来年が楽しみだ。



自動店頭在庫管理ロボット、タリーがグレードアップ

タリー4.0 出典シンべ・ロボティクス社ウェブサイトよりスクリーンショット タリー4.0 出典シンべ・ロボティクス社ウェブサイトよりスクリーンショット

 

 シンべ・ロボティクス社は1月12日に自動店頭在庫管理ロボット「タリー(Tally)4.0」を発表した。以下がその特徴だ。

  • 稼働時間の延長:12時間まで延長
  • より鮮明なヴィジョン:新たに超高解像度のスペシャリティカメラを内蔵し、小さな棚札や今は使われていないSKU、複雑な什器から状況をより正確に読み取る
  • 拡大したカバレッジ:什器上段、クーラー、フリーザー、什器フックなどスキャンしにくい部分もカバーする
  • グレードアップしたエッジコンピューティング:フルスタックのNVIDIA AIインフラストラクチャープラットフォームで、NVIDIA CUDA、TensorRT、DOCA Argusがプロセスを加速し、レイテンシ(待ち時間)とインサイトを得る時間を短縮し、一方でRealSenseを使ったデプスカメラがリアルタイムな自立性をサポート
  • 360度キャプチャーの向上:2つの魚眼カメラによるパノラマ画像で店内の様子をより深くとらえ、デジタルツィンのようなヴァーチャルな店内視察を可能にする

 なお、顧客や従業員に親近感を与えてきた目の部分には「Hi, I’m Tally!(こんにちは、タリーです!)」というメッセージもつけ、人との接触が多いロボットにはヒューマンタッチ要素が重要と考える同社の信念が現れている。



米国ブランドの海外進出が活発に

パクサンが2025年秋に出店した最新のニューヨーク、ソーホー店 出典:パクサン広報資料 パクサンが2025年秋に出店した最新のニューヨーク、ソーホー店 出典:パクサン広報資料

 

 ドラッグストアのCVSヘルス、ウォルグリーンズ、百貨店のメーシーズ、JCペニー、サックス・オフ・フィフス、専門店チェーンのパーティシティ、ジョアン等、数十から数百店単位の閉店ラッシュの一方で、新たな成長戦略の柱として海外市場に進出する企業も増え、特にファッション領域で顕著だ。

 ヨガウェアのルルレモンは既に英国、アイルランド、ドイツ、フランス、スペイン、オランダ、ノルウェー、スウェーデン、スイスに店舗を持つが、昨年7月にミラノに出店、2026年にはギリシャ、オーストリア、ポーランド、ハンガリー、ルーマニア、インドの6か国に出店する。ヨーロッパではフランチャイズ、インドではTata CLiQ社とのパートナーシップで、EC事業はヨーロッパでeu.lululemon.comの直営オンラインストアだがインドではTata CLiQラグジュアリーとTata CLiQファッションのマーケットプレースに出店、進出国によって事業モデルを変えている。

 その競合ブランドで今勢いがあるアロ・ヨガは中南米、中近東、ヨーロッパ、東南アジア25か国に75出店済みでECでは世界100か国以上に出荷している。昨年7月には韓国ソウルにアジア地域初の旗艦店を開業した。

 アルファ世代とZ世代(16~24歳)をターゲットにするカジュアルウェアのパクサンは中近東に今年出店する。同社はアルファ世代とZ世代のアドバイスグループを持ち、そこでの議論を経営に取り入れているが、TikTok等のソーシャルメディア世代である彼らが実店舗での経験を非常に重視していることも判断材料になった。海外1号店はアラブ首長国連邦のドバイのモール・オヴ・エミレーツだ。現地パートナーであるMajid Al Futtaimとパクサンは向こう5年間で最大20店舗を共同出店する予定だ。また、26年1月にはフォーミュラ1®のアブダビグランプリに協賛する。

 ケネス・コールはヨーロッパを同社の戦略的成長を牽引する市場と位置付け、30か国に出店を計画している。1月21日ドイツ、デュッセルドルフに5,700sq.ft.の店舗を開業し、同時にkennethcole.eu, kennethcole.co.ukの直営オンラインストアも開業した。今後はプラハ、5月にオーストリア、その後ドイツ、スカンジナビア、バルティック地域に出店を拡げ、2030年までには100店舗体制とする。事業モデルはフランチャイズが中心で、路面店以外に地元の大手百貨店内のインショップも二桁規模で計画している。またオランダ、ヴェンロにセントラル倉庫を構えEU内小売店、フランチャイズ店、卸売先に商品を供給する。

 全米最大のビューティ専門店、アルタビューティも1月11日から開催された全米小売業協会の年次総会、NRFビッグショー2026にCEOが登壇し、昨年8月にメキシコに海外初出店し今後9店舗の開店が既に決まっていること、海外進出は同社の重要な成長戦略であることを語った。

 米国内の消費市場、特にファッション・衣料品市場は飽和市場であると同時にディスカウント業態や中古品再販市場の成長が著しく、成長の源泉を海外に求めるのは自然な流れだ。その上、昨年末のホリディ商戦も結果的に堅調に推移したが、今年は小売業者が関税導入前に手配した在庫も無くなりいよいよ米国消費市場に新関税体制の影響が現れると見られている。海外に重要な顧客を持つ企業、ブランドが顧客に近い場所に出店するのはEC事業にもプラスになり得る。



リーバイスが若い世代に衣料品補修技術を指導

「ウェア・ロンガ-・プロジェクト」で裁縫の仕方の指導を受けている様子。 出典:リーバイ&ストラウス社 「ウェア・ロンガ-・プロジェクト」で裁縫の仕方の指導を受けている様子。 出典:リーバイ&ストラウス社

 

 リーバイスは1月14日に「ウェア・ロンガ-(Wear Longer)プロジェクト」を開始した。若い人たちに服を長く着用してもらうことで廃棄を無くし、サステナブルであるだけでなく、自分で服をカスタマイズすることでクリエイティブなライフスタイルを楽しみ、自己表現を通じて自信を養うことも目的だ。オンライン教育大手のディスカバリーエデュケーション社と提携し、以下を提供する。

  • デジタルカリキュラム:無料でいつでも受講できるオンラインクラスの提供。https://wearlongerproject.discoveryeducation.com/
  • 教室での授業:訓練を受けた裁縫指導者とリーバイ&ストラウス社社員のボランティアが学校の授業として教室で裁縫技術を指導。
  • コミュニティワークショップ:従業員と地元のパートナーが協力して地域で補修、アップサイクル、カスタムメイドを指導

 同社調査によると、若い世代の35%はもし服の直し方がわかれば自分で直して長く着たい、と回答している。テキスタイル廃棄は全米廃棄で2番目に多く、ファッション業界では製品を売るだけでなく、長く着用する、素材のリサイクル、再販が重要なテーマになっているが、やはり廃棄そのものを減らすのが効果的である。Z世代は縫製や素材が粗悪な結果、長期間着られず服を捨てることにネガティブな意見を持ち始めていて、モノを大切に使うという昔の価値観がまた戻ってきているようだ。


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【在米リテールストラテジスト 平山幸江】


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