掲載日:2026/01/06

「2025年ウォルマートvsアマゾンをどう見るか」、「ピックルボールがイーターテイメントで拡大」他:進化を続けるアメリカ小売業界Vol.53

「ターゲット、ソーホー店改装に見るスタイルとデザインへの回帰」、「AI活用で中小農家から直接仕入れるハイパーソーシング」他:進化を続けるアメリカ小売業界Vol.64

ターゲット、ソーホー店改装に見るスタイルとデザインへの回帰

ターゲット、ソーホー店入口から店内の様子 出典:筆者撮影 ターゲット、ソーホー店入口から店内の様子 出典:筆者撮影

 

 約3年間売上成長の鈍化と減少が続き、さえないニュースが多かったターゲットだが、12月8日に改装オープンしたニューヨーク、ソーホー店は久々にWOW!の仕上がりだ。2010年に出店したソーホー店はブロードウェイ沿いでハウストンストリートに近く、都心の小型店でソーホーの観光客にとっては便利だろうが、せっかくの立地の割にはそれ以上の特別なものはなかった。しかし来年2月にCEO交代で経営再生を図る中、「ターゲットと言えばデザイン、チープシック」のDNAに立ち戻るべく、マーチャンダイジング活性化を進めているが、同店も今後の店舗フォーマットの指針となるべく開発されたものだ。

 2,415㎡の1Fのスペースは入口の真っ赤なトンネルのようにも見える、ターゲットのロゴを模した空間(上写真)で、この棚什器は「ザ・ドロップ」と呼ばれる戦略的マーチャンダイジングに使われている。その奥には真っ白なビューティ売場「ビューティバー」、ターゲット・エクスクルーシヴのギフト提案をする「ギフティング・ゴンドラ」、セルフチェックアウトのレジから構成される。目指しているのはディスカバリーで、顧客がスタイルにこだわるターゲットならではの商品やコーディネーションを発見し、楽しむことだ。

 「ザ・ドロップ」は期間限定の編集型売場で、初回は女優でコメディアンのメーガン・スターター氏が担当、衣料品、雑貨、コスメをコーディネートした。真っ赤な什器にはそれぞれテーマがあり、「私だけの時間」「移動中も快適」などZ世代やミレニアル世代の価値観やフィーリングに寄り添う内容だ。移動中とは旅を意味し、旅行を好むZ世代に向けた商品がコーディネートされている。カラーもZ世代が好むスモーキーピンクで、スウェット上下、ノンアルコールカクテル風ドリンク、フレグランス等。こういったテーマ別編集売場自体は今さら特に新しくはないが、この真っ赤なオリジナル棚什器の中を歩くという空間体験によってイマーシヴな世界に入り込める。

移動中も快適に過ごすためのスタイルを提案 出典:筆者撮影 移動中も快適に過ごすためのスタイルを提案 出典:筆者撮影

 

 そこを抜けるとビューティ売場の中央にギフティング・ゴンドラ、左手にスノードームのようなビューティ・パビリオンがある。ビューティ売場も同店限定の編集型で、初回は著名なメークアップアーティスト、ケイティ・ジェーン・ヒューズ氏が担当し今必須のマストハブ(must-have)アイテムが並ぶ。ここは化粧品を試し、自分の美を創造し、ソーシャルメディア上でシェアするビューティワールドのプレイグラウンド(遊び場)だ。また、反対側の壁には顔だけでなく上半身が映る化粧用のミラーもあり、化粧品が大好きな人々にとって使いやすい空間になっている。ターゲットはもともとビューティ部門が強いが、売場の顧客行動を研究し尽くしての空間設計だと感じる。

 ギフティング・ゴンドラはターゲットPBのみから構成されている。ホリディシーズンが終わったらここはどう使うのか広報リリースにも書かれていないが、バレンタインなどカレンダーに沿ってギフトや必需品アイテムで組むのかもしれない。

ビューティ・パビリオン 出典:筆者撮影 ビューティ・パビリオン 出典:筆者撮影
中央の鏡でメークアップを試した後の自分を顔だけでなく上半身全部をチェックできるミラー 出典:筆者撮影 中央の鏡でメークアップを試した後の自分を顔だけでなく上半身全部をチェックできるミラー 出典:筆者撮影
ギフティング・ゴンドラ 出典:筆者撮影 ギフティング・ゴンドラ 出典:筆者撮影

 

 同店は地下がメイン売場だが、来年はこちらも改装する。ターゲットはニューヨークオフィスも改編し、従来あった小規模なマーケティング部門オフィスを閉じ、マジソン街に従業員80名から構成されるマーケティングと商品開発部門の新本社に移管、リテールメディア部門ラウンデルもここで機能強化する。ソーホー店の躍動感が全2000店に波及し、久しぶりにターゲットらしさが戻ってくるのか、来年が楽しみだ。



AI活用で中小農家から直接仕入れるハイパーソーシング

シュヌックス青果売場 出典:Foodshed.io シュヌックス青果売場 出典:Foodshed.io

 

 1939年にミズーリ州セントルイスに創業し中西部に113店舗を営業するシュヌックスは大手リージョナルSMの中でもテクノロジーやAIへの積極的投資で知られている。9月にはロジール(Logile Inc.)社のAI生鮮食品管理ソリューションを実装し、データ活用、自動化によって全店舗で需要予測精度を高め、レシピ管理を標準化し、オペレーション上のコンプライアンスを自動管理できるようになり、毎日の業務精度・効率が向上したという。

 ロジール社のソリューションのキーポイントは以下の通りだ。

  •  AIと機械学習による予測:過去の実績、シーズン性、天候、関連するイベントや市場トレンドを考慮した生鮮食品の入荷予測を行い、リアルタイムなインサイトによってより効果的に意思決定しサプライチェーンを管理
  •  生産管理:総菜やPBなどの生産についてもより精度高く予測し、それに基づいて生産計画
  •  レシピ、栄養管理:米国農務省の規制や最新のアレルゲン情報に基づいて管理
  •  生産性管理:生鮮食材の廃棄部分を追跡し、廃棄率を最小化

 このような改革を土台に、12月には中小の農家と小売企業をつなぐプラットフォーム、フードシェッドio(Foodshed.io)と提携し、地元農家から直接店舗に生産物を納品するファーム・トゥ・ストア配送の拡大を発表した。同社とは2024年秋からマッシュルーム生産者1社とセントルイス都市部の13店舗でテストを行い、成果を得たため全社レベルで導入する。これによって、農場で取れた野菜類を数時間後に店頭に並べることも可能になる。

 フードシェッド社CEOダン・ベックマン氏は「小規模農家は食の安全コンプライアンスに準拠し質の高い青果を提供できるのに、大型ディストリビューションセンターに納品するだけの生産量を確保できない。当社プラットフォームでは彼らと店舗を直接つなぐことでこのギャップを埋め、小規模農家も店舗に必要な量を提供することができる」とコメントしている。

 シュヌックスは当面、インディアナ州エバンズヴィル商圏で同プログラムを開始し、スィートコーン、ブラックベリー、グリーンペッパーの地元生産者から店舗に仕入れを行う。当ブログでは過去に何度かハイパーローカルソーシングの事例をご紹介してきたが、当初はホールフーズマーケット等大手によるパイロットプログラムだった。しかし忍耐強い試行錯誤で中堅リテーラーの間にも広がってきていることは、心強いことだ。



ホールフーズマーケットは業界初の廃棄食品自動飼料化システムを導入

ミル・インダストリーズのAIを使った自動廃棄食品飼料化システムのイメージ画像 出典:ミル・インダストリーズ社提供 ミル・インダストリーズのAIを使った自動廃棄食品飼料化システムのイメージ画像 出典:ミル・インダストリーズ社提供

 

 アマゾンは12月16日、ミル・インダストリーズ社と提携し、ホールフーズマーケットの店内キッチンなどで出る青果の廃棄物を後方施設で自動的に鶏の飼料に転換するシステムを業界で初めて導入すると発表した。実際に稼働するのは2027年だ。

 同システムは正確かつ自動的に青果の廃棄物の内容と量を認識し、在庫を正確に把握、必要に応じて自動的に後方施設に必要な廃棄物をオーダーする。廃棄物を収集し脱水加工して重量を80%削減し、これによってホールフーズ側の加工作業を簡素化し、配送コスト削減、食品安全性を高める。この高品質で低コストな飼料はホールフーズのPB「365」の卵生産に利用される予定で、サプライヤーは原価を抑え、消費者に安定的な価格で商品供給することが可能になる、と広報リリースに書いてあるが、今年卵の品薄で価格高騰や供給制限が起こったのは、鳥インフルエンザが原因であり飼料不足ではなかったので、このコスト削減可能性については筆者は説得力が欠けると感じている。とは言え、良いアイデアを試すのは良いことだ。

 アマゾン・ワールドワイドグローサリーストアーズVPでホールフーズCEOのブーケル氏は「この取り組みによって食品廃棄を削減し、循環的サプライチェーンを構築し、消費者、コミュニティ、環境にベネフィットをもたらす」とコメントしている。ミル・インダストリーズ社は今後スーパーだけでなく飲食業界などに幅広く同技術を導入する計画だ。



インスタカートがAIによる小売価格変更を中止

 

 消費者の利益を守るため公平かつ詳細な調査を行うことで知られているコンシューマーレポートが12月9日、インスタカートがAIを使って消費者の価格志向の高低をもとに同一商品の小売価格を変えて販売していると報告した。場合によっては同一商品で20%も価格差があったという。同社の調べによると、インスタカートがオンラインストアで異なる価格を表示したのはアルバートソンズ、コストコ、クローガー、セーフウェイ、ターゲットで、購入者は自分と他者との間に同一商品なのに価格差があることを知らずに買い物をしていた、という。同報告書では「このような行為は消費者にとって価格が不透明であることを意味し、価格比較をできずに買い物をしなければならない、さらに価格がいくらなのか予測がつかず、計画的購入の機会を奪うことにもつながる」とインスタカートの行為を厳しく批判した。

 調査によると、インスタカートは消費者の「価格に対する敏感さ」、つまりいくら以上の価格だと購入しなくなるか、をテストしていたということだ。米国ではアルゴリズミックプライシング(アルゴリズムを使った価格設定)と呼ばれるが、これはダイナミックプライシングとは異なる。ダイナミックプライシングはアマゾン等で多くの人が体験していると思うが、需要と供給を基に価格が短期間に変わっていくものだ。

コンシューマーレポートはこれを実証するため、437人の調査員を雇いインスタカートで買い物させ、全員がアルゴリズムを使った価格の違いを経験したという。例えば卵はセーフウェイのワシントンDC商圏内の店舗のインスタカートが運営するオンラインストアで購入すると$3.99~$4.28、$4.59~$4.79だったという。

 同社が9月に実施した2240人の米国消費者へのアンケート調査によると、前年インスタカートを利用した人のうち72%はインスタカートがどのような理由であっても相手によって小売価格を変えるのは嫌だと回答している。またアルゴリズミックプライシングはAIと消費者の購買歴や購買行動などの個人データを使って価格を設定するため、「監視的プライシング」と見なされている。同報告書でコロンビア大学ビジネススクールのレン・ジャーマン准教授は「我々が知らないうちに、消費者は業界内の多くの企業が参加するこのようなテストに徴兵されている」と警鐘を鳴らした。

 この報告書の影響が大きく、12月22日にインスタカート社はテスト中止を発表した。広報リリースには消費者の経験をさらに向上させるためにテストをした、と読み取れるような弁解が長々と書かれていたが、同社のテストによって、小売業界では価格の公平性、透明性は絶対的に重要であり、消費者の基本的権利であることを広く認識できた点では意味があったかもしれない。ウォルマートは過去にダイナミックプライシング導入について「価格への信頼を失うので、当社は行わない」と発表したが、そういうことなのだろう。

 


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【在米リテールストラテジスト 平山幸江】


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