掲載日:2025/11/12

「2025年ウォルマートvsアマゾンをどう見るか」、「ピックルボールがイーターテイメントで拡大」他:進化を続けるアメリカ小売業界Vol.53

「AIを活用するウォルマートの自動ディストリビューションセンター」、「アマゾンが自動販売機で処方薬を販売」他:進化を続けるアメリカ小売業界Vol.62

AIを活用するウォルマートの自動ディストリビューションセンター

自動化DC第一号のフロリダ州ブルックスヴィルDCで使用されている自動フォークリフト 出典:ウォルマート社広報資料 自動化DC第一号のフロリダ州ブルックスヴィルDCで使用されている自動フォークリフト 出典:ウォルマート社広報資料

 

 ウォルマートは2017年からAIを活用したサプライチェーン用ロボット技術企業、シンボティック(Symbotic)社と提携し、フロリダ州ブルックスヴィルのディストリビューションセンター(DC)での貨物の仕分け、保管、抜き出し、パレットに梱包という一連の作業の自動化を開始した。従来これらは全て手作業で、最終的には53フィートのトレーラーに人が詰め込み、店舗に配送して人が荷物を降ろす作業を行っていた。しかし自動DCでは可動式ロボットが各荷物を高速で作業し、業務のスピードアップ、在庫情報の精度向上だけでなく、従業員は場合によっては危険も伴う重労働から解放される。

 上の写真は2024年4月11日に同社広報記事に掲載されたもので、自動DC第一号であるフロリダ州ブルックスヴィルが導入した自動フォークリフトの様子だ。かつては従業員自身がフォークリフトを動かして作業していたが、現在は従業員はフォークリフトロボットを管理する業務を行い、生産性は過去のマニュアル作業の3倍になった。

 ウォルマートは2021年7月に全米42か所のリージョナルDCの自動化を発表し、このうち2024年6月時点で15か所[1] 、今年春には半分が自動化した。ジョン・ファーナー米国部門CEOは4月10日に開催された投資家ミーティングで、自動DCは既存DCに比べて20%コスト削減効果をもたらし、今度末での自動DCのコスト削減効果は30%を見込んでいる。さらに在庫情報の精度アップがEコマース事業拡大を促進することも指摘した。同社が10月にメディア、サプライチェーンダイヴに送ったeメールによると、今年度中に全米店舗の65%が自動DCでプロセスされた荷物を受け取るようになる。

さらに今年1月、シンボティック社はウォルマートのアドバンストシステムおよびロボティクス事業の買収を発表、同時にウォルマートが出資するオンラインピックアップ・配送フルフィルメントシステムの向上と将来の顧客需要を見据えた新システム設計のプログラムに参画し「アクセラレーテッド・ピックアップ・アンド・デリバリー(APD、店舗ピックアップ・店舗からの配送)」の自動化に取り組むことも報道した。同プログラムが一定以上の効率化を達成すれば、ウォルマートはシンボティック社から400APDシステムを購入して数年かけて既存店舗に実装する計画だ。同プログラムへのウォルマートの出資総額は5億2,000万ドルで、契約締結時に2億3,000万ドルがシンボティック側に支払われる。

 このAPD開発事業は前述の自動DCの延長上にあり、ウォルマートの店舗網を活用したEコマース事業のさらなる効率化と顧客サービスの向上を革新する。一方でシンボティック社は米国だけでも3,000億ドル以上とみられるマイクロフルフィルメントシステム市場向けのソリューション提供の可能性を拡げることになり、その額は50億ドル以上と推定されている。両社そして消費者にとってウィンウィンウィンを目指すという訳だが、この取り組みにはテクノロジーに対するウォルマートとアマゾンの明確な立ち位置の違いが見え、興味深い。ウォルマートは必要なテクノロジー開発はパートナー企業との共同開発に徹し、技術を所有はしない。一方アマゾンはどんな技術も自社開発し、それを外販し収益源の柱の1つとしている。

 現在アマゾンは猛烈な勢いでウォルマートの売上高に迫っているが、リテールテクノロジーについてはJWOシステムのアマゾンフレッシュからの撤去など、試行錯誤も多い。純粋に小売事業のDXを見ようとするなら、ウォルマートの方がわかりやすいかもしれない。 

 

[1] ジョン・デイヴィッド・レイニーCFOのコメントをメディア、ビジネスインサイダーが2024年6月13日に引用



ウォルマートが次々にショッピングセンターを買収

ウォルマートが買収したペンシルベニア州モンローヴィル、モンローヴィルモール 出典:Wikipedia.com, Creative Commons ウォルマートが買収したペンシルベニア州モンローヴィル、モンローヴィルモール 出典:Wikipedia.com, Creative Commons

 

 今年に入ってウォルマートは3か所のショッピングセンターを買収した(下図表)。最初の物件、ペンシルベニア州モンローヴィル買収時にはウォルマートの意図についてあれこれ憶測されたが、3件目が発表されるに至って、戦略が明らかになってきた。

 モンローヴィルはピッツバーグに近い人口3万人に満たない小さな町で、物件は50年以上前に建設され、約120のテナントが現在も営業しているが、人口減少に伴い治安も悪化、2020年、2022年に館内で銃刀事件が起こり、SCへの来館客数もじわじわ減っている。町の再活性化の必要性が問われる中、ウォルマートは州から750万ドルの補助金を獲得し、2029年開業に向けて同物件を取り壊してマルチユースのSCに再開発する。既に既存テナントには2027年4月までに撤去要請が出ていて早期退店にはインセンティブも与えられている。

 実はウォルマートは2005年にモンローヴィルに出店計画を提出していた。当時町民は出店による交通混雑、犯罪増加、環境への影響を理由に反対デモ活動も起こし、出店を諦めた経緯があったが、20年を経て町の救世主として受け入れられたことをどのメディアも小さなエピソードとして紹介している。同社は再開発計画の詳細を明らかにしていないが、ニューヨークタイムズの取材[2] によると、初期計画案には円形劇場や遊歩道などが含まれていたとのことだ。また同メディアは2018年10月31日付アーカンソー州の地元メディア、トーク・ビジネス&ポリティクスの記事を紹介し、ウォルマート社不動産担当役員がアトランタでの不動産開発会議で「タウンセンター構想」について話し、ウォルマートを核に駐車場の一部にさまざまなテナントや緑化ゾーンを含めたレイアウト計画を公開したことを明らかにしている。業界ではモンローヴィルもこの構想を下地に新たなフォーマット開発を進めているのではないかと推測している。

 2件目のベセルパーク、3件目のノーウォークでは既にウォルマート店舗がSC内にあるため、物件を所有することで店舗営業の安定的継続やEコマース事業など自社の他の事業施設敷設の可能性を拡げることができる。私見ではあるが、例えば本レポートでも以前ご紹介したが、アマゾンがホールフーズマーケットでテスト中の「既存店舗に自動マイクロフルフィルメントセンターを横付けする」といったような設備投資をしやすくなる。ベセルパークには現在スーパー大手のジャイアントイーグルも入居しているが、このような競合も排除しやすくもなる。

 ウォルマートのSC買収について、米国不動産業界では①長期的戦略である、②格安な投資で不動産確保することで店舗事業を始め新たな可能性を拡大、③SCは交通アクセスに優れ、リテールハブとしての集客力を持つ、④かつてのアンカーだった百貨店やカテゴリーキラーと呼ばれたビッグボックスが大量に閉店しているので、地元自治体も再開発を望んでいる、といったメリットを指摘している。

 コロナ前後にアマゾンもデッドモールに着目し、ディストリビューションセンターとして低価格で取得していることが大きく報道されていたが、全米への配送網がほぼ確立してきたところで、現在は地方の小商圏にも迅速配送できるラストマイル配送網に目を向けている。近い将来、ウォルマートが所有するSCにアマゾンのデリバリーセンターが間借りする日がくるかもしれない、と筆者は妄想している。

 

[2] New York Times, ‘Why did Walmart just buy a shopping mall?’, 2025年10月6日



セフォラでの初日売上記録を更新!ビューティブランド「ロード」の成長戦略

出典:ロード社広報資料 出典:ロード社広報資料


アマゾンが自動販売機で処方薬を販売

アマゾンファーマシーの処方薬を購入できるキオスク 出典:アマゾン社広報資料 アマゾンファーマシーの処方薬を購入できるキオスク 出典:アマゾン社広報資料

 

 ドラッグストア業界では今閉店ラッシュで、CVSは2024年までに900店を閉店、ウォルグリーンズは2024年10月に1,200店の閉店を発表、ライトエイドは2024年9月にチャプター11から回帰したものの2025年5月に再びチャプターを申請し10月に残っていた1,250店以上を全店閉鎖を決定した。ヘルスケア市場自体は成長しているが、ウォルマート、ターゲット、クローガー等総合ディスカウンターやスーパーのファーマシー部門がワンストップショッピングの強みでドラッグストアから売上を奪っているのが原因だ。

 アマゾンもオンラインのアマゾンファーマシーやヘルスケアサービスのワンメディカルで市場シェアを拡大しているが、10月にロサンジェルス市内のワンメディカルのクリニック内に処方薬を購入できるキオスク(自動販売機)を導入した。患者は医師の診断を受けた後、すぐに薬を購入・受け取ることができる。米国では病院で薬剤の販売は行わず、医師がオンラインで患者が指定するドラッグストアに電子処方箋を送り、患者がドラッグストアから用意ができたという通知をもらってから受け取りにいくのが主流で、アマゾンのキオスク導入はワンストップで診察と薬剤受け取りが可能という大きなメリットを生む。

 購入できるのはアマゾンファーマシーの口座を持っている人で、購入方法は①処方箋をアマゾンファーマシーに送るよう指定、②アマゾンのアプリで決済し、キオスクでのピックアップを選定、③QRコードを受け取ったらキオスクのQRコードリーダーに読み込ませ、受け取る、といった流れだ。必要に応じてキオスクに設置されているモニターで薬剤師と動画会話もできる。

 現在はまだ市内の5か所のクリニック内でテスト中だが、来年さらに拠点数を増やす計画。医薬品なのでキオスク設置にはさまざまな規制があるとは言え、アマゾンロッカーのノリであれよあれよという間にキオスク拠点が増えれば、ドラッグストアにとっては新たな脅威になることは間違いない。


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【在米リテールストラテジスト 平山幸江】


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