ニューヨークタイムズはコロナ禍前に、アマゾンは店舗の半分が売場、半分は倉庫やフルフィルメントセンター機能をもつ店舗フォーマットのアイデアを持ち、顧客が予めアプリで店内では販売していない日用品や加工食品を購入し、店内で生鮮食品を購入中に倉庫側でオーダーを収集、買い物終了時にはこれを受け取れる新フォーマット開発を検討しているかもしれない、と報道した。それがついに現実のものとなった。
10月にアマゾンは、フィラデルフィア市プリモスミーティングのホールフーズマーケット店に自動マイクロフルフィルメントセンター(FC)を併設したと発表した。同店では入店前、あるいは買い物中にホールフーズでは販売していないがアマゾンやアマゾンフレッシュで販売している商品、例えばコカコーラや洗濯洗剤のタイドなどをアプリで購入しておくと、自動FCのロボットが集荷しアプリでは何分後に受け取り可能かを知らせてくれる。店内で通常通り買い物を済ませた顧客はアプリでオーダーした商品もピックアップできる。アマゾンの広報用ビデオによると通常10分以内に受け渡し可能になるようだ。
マイクロFCはサンフランシスコに本社を持つ倉庫自動化テクノロジーのスタートアップ企業、フルフィルソリューションズ(Fulfil Solutions)社と提携し開発した。詳細についてはアマゾンもフルフィルもコメントしていないようだが、CNBC局によるとフルフィルは2023年2月にエクリプスベンチャーズ(Eclipse Ventures)がリードしたシリーズBラウンドで6,000万ドルを調達し、スーパーマーケットを中心とした自動マイクロFCを開発している。ホールフーズ以前にもカリフォルニア州のリージョナルスーパーマーケット、セイヴマート(Save Mart)の傘下にあるラッキー(Lucky)で同様の施設を接続しテストしている。セイヴマートはアマゾンのローカル配送サービスを利用する提携企業でもある。
さて話をホールフーズに戻し、同フォーマットは店舗として新業態なだけでなく、アマゾン、アマゾンフレッシュ、ホールフーズというアマゾンの3ブランドから同時に購入ができるという点でも革新的だ。ホールフーズは高級ナチュラルスーパーマーケットなので、全米でどの家庭でも常備しているようなナショナルブランド(NB)はほとんど取り扱っていない。しかし現実には健康志向であってもNBのコーラを飲み、スナックを食べたい人は大勢いて、こういう顧客は他のスーパーやアマゾンマーケットプレースとホールフーズを併用し、2度手間をかけなければいけなかった。これが1本化するわけだ。
食品小売販売ではアマゾンは現在ウォルマートの後塵を拝し、ネットスーパー市場シェアではインスタカートが取引総額でアマゾンに迫っている(2022年8月、グラフを参照)という情報もある中、アマゾンにとって店舗売上の拡大は必須である。しかし日本同様、スーパーマーケット業界は過当競争で、今から条件の良い立地に何千店舗も店舗網を持つことはいくらアマゾンでも至難の業だ。また既存のチェーンストアを買収したとしても、複雑で膨大なアマゾンのシステム統合は結構時間がかかることはホールフーズで経験済だ。本業の強みと既に持つ資産を活用したアマゾンならではの「未来の店舗」、消費者はどう反応するだろうか。
◆自動マイクロフルフィルメントセンター付ホールフーズマーケットの動画 https://youtu.be/8vwZ_CaITCk
出典:アマゾン社広報資料
アマゾンは10月に別の新フォーマットも開業した。シカゴ市内ゴールドコーストのホールフーズ既存店を改装し、カフェだった1Fを「アマゾングローサリー」に転換したのだ。同店は約350㎡と小型だが3,500以上のホールフーズでは販売していないアイテムを提供している。主にスナックや飲料などコンビニエンスストア的品揃えだが、オーガニックにこだわらず一般的なNBを販売している。2Fは通常のホールフーズで同社が両方のオペレーションを行っている。
アマゾングローサリーにはカフェ、アマゾンのオーダーの受け取り・返品カウンター、手のひら認証のアマゾンワン決済のサービスがあり、アマゾンのサービスとコンビニ的物販を集めた業態だ。開発の意図はオーガニックやナチュラル食品に限定せず食品の店舗売上を拡大するためのテストだ。
この秋、アマゾンは活発にスーパーマーケットの店舗業態をあらゆる角度からテストしている。9月には当レポートでも紹介したホールフーズ小型店1号店をマンハッタンに開業し、既に計5店舗の開業が決まっているし、8月には一時期出店を凍結したアマゾンフレッシュを新規に4店舗出店、フィラデルフィア市も初めて進出した。
さらにオンライン側でもアリゾナ州フェニックスではプライム会員限定でアマゾンのオーダーと、アマゾンフレッシュ、ホールフーズの生鮮食品オーダーを一緒に配送するサービスをテスト中だ。これによって鶏肉とテニスラケットを一緒に配送する、というようなことが可能になる。今年4月にはアマゾンフレッシュ、ホールフーズ、アマゾン上の食品を1回あたり合計35ドル以上購入すれば何度でも配送するサービスを月額$9.99で開始し、9月には同サービスを年会費$99.99と月額より年間$20安く提供し始めている。
アマゾンは他にもアマゾンファーマシーで処方薬のオンライン販売も行っており、どんどん商品カテゴリーやブランドの垣根無く配送し、店舗購入もできる体制を整えている。全社売上がウォルマートを超える日も射程距離に入ってきた中、アマゾンの進化は再び米国小売業界に揺さぶりをかけている。
M.M.ラフリューは2013年にサラ・ラフリュー氏がザック・ポーゼンのチーフデザイナーだったミヤコ・ナカムラ氏他と創業した女性用ワークウェア・ブランドだ。ワークウェアと言ってもオフィスウェアだが、いわゆる成功したキャリアウーマンが着用する高額なデザイナーブランドや、百貨店が大量販売している無難なデザインのスーツ類と異なり、シンプルだが洗練されたデザインと高質な素材感、隠しポケットや伸縮性のある生地を使った機能性を前面に出している。ジャケット295ドル~、パンツ235ドル~、ドレスは235ドル~、シャツやブラウスが200ドル前後で購入できる。
コロナ前はワービーパーカー、ボノボス等D2Cブランドブームの流れの中で紹介されることも多く、主要都市に店舗を構えたがコロナによって全店閉鎖、加えてハイブリッド勤務の定着で出社頻度の低下だけでなくオフィスファッション自体もカジュアル化し、結果的にオフィスウェアの需要が低下したことでブランドの存続が危ぶまれた時期もあった。しかし同社は「女性が成功すれば世の中が良くなる。私達の目標は女性たちが仕事に集中できるような服を用意してあげること」を信念とし、オンラインストアでは「ベントー(Bento®) 」と呼ぶ既に4,5点がコーディネートされているスタイリングサービス、店舗では予約制のコンサルティングサービスを提供しながらサバイバルし、再び成長モードに入っている。
4年かけて慎重に出店を再開し、現在8店舗体制で多くが今年開業している。今年夏に開業したワシントンDCのジョージタウン店は、ワービーパーカーやグロシエ他のメジャーなD2Cブランドが軒を連ね観光客が集まるMストリートから一歩入ったウィスコンシンストリートに出店した。同社の出店条件は「店前通行量よりオンラインの売上が一定以上に達した地域で、早期黒字化が読める拠点」だ。ジョージタウン店は店前通行量が少なくても近隣にオフィスが多い。ラフリュー氏はリテールダイブの取材に「(一般的にファッションブランドが出店する)ロサンジェルスやサンフランシスコは当社のオンライン顧客が少ないので今は出店を控えている」と答えている。数年以内に20~25店舗体制を想定しており、D2Cブランドとしては少ない。しかしラフリュー氏は同じD2Cブランドというカテゴリーに括られていても、例えばワービーパーカーはメガネという必需品の要素があり、同社のようなファッション分野と同じ視点で戦略を練ってはいけないとも指摘している[1]。
同社は昨年、①収益の10%を移民や難民を含めた女性たちの成功を支援する団体への継続的な寄付、②世界中でジェンダーの平等、長期にわたって着用できる製品の開発・生産、環境へのインパクトが少なくサプライチェーンが可視化されている素材の使用、を通じてサステナビリティを高める活動を開始した。また、女性全米バスケットボール協会(WNBA)のチーム、ニューヨークリバティと提携し、地元ニューヨークでの試合ではM.M.ラフリュー会員に特別割引の観戦チケットを提供したり、女性を啓発する内容の書籍著者を招いた店内イベント、地元書店と提携した書籍紹介、地元スキンケアブランドとのスキンケアイベントなど、地元の顧客と直接対話できるハイパーローカルなマーケティングを展開している。
来年も米国小売業界では店舗出店ブームが続く予定だが、店舗網を築くための出店ではなく、既存オンライン顧客の利便性の向上やブランドへの血の通ったロイヤルティの確立がM.M.ラフリューが目指すところだ。
[1] Retail Dive, ‘M.M.LaFleur’s CEO on the brand’s evolution and relaunching a store fleet’, 2024年7月2日
広告の内容がジェンダーの平等性を保っているかをAIを使って自動的に計測・分析するシステム「レプリゼンテーションインデックス(Representation Index)」が10月にデビューした。開発したのはグローバルテクノロジー企業のXRエクストリームリーチ(XR)と職場におけるジェンダーの平等を推進するメディア企業、ザ・フィーメールクオティエント(The Female Quotient, FQ)だ。
XRメトリックは、世界140か国以上に普及しているAIモデルとグローバルなスケールを使って、年齢、性別表現、身体のタイプ、肌の色などの多様性を示す条件をリアルタイムに分析する。これらを産業別、ブランド別、キャンペーン別などにスコア化し、マーケターが次のキャンペーン計画の際に改良点の発見に役立てることができる。
XRエクストリームリーチ社のグローバルプレジデント兼COO、ジョー・キンセラ氏は「目標は世界中の全ブランドが包含性を測定できることで、オーディエンスとより良くエンゲージできるようにすること」と述べている。FQの創業者兼CEOのシェリー・ザリス氏は「このインデックスはブランドが広告コンテンツの何が重要かを評価し、改善するためのわかりやすいソリューションです。業界基準を革新するXRとの提携は本当にすばらしいと考える」とコメントした。
日本では米国ほど人種の多様化が進んでいないから、あまり関係ないと考える人もいるかもしれない。しかし、他人とちょっとでも違うことで陰湿ないじめを受けている人々の数は実に多い。毎日見る広告だからこそ、じわじわと潜在的に多様性を受け入れていくメッセージを伝え、社会的マインドセットを変えていくことは、企業の社会的責任の1つではないだろうか。
【在米リテールストラテジスト 平山幸江】