掲載日:2024/10/22

「ホールフーズマーケットの小型店第1号がオープン」、「アルディのレジレス店舗「アルディゴー」のその後」他:進化を続けるアメリカ小売業界Vol.50

「ホールフーズマーケットの小型店第1号がオープン」、「アルディのレジレス店舗「アルディゴー」のその後」他:進化を続けるアメリカ小売業界Vol.50

ホールフーズマーケットの小型店第1号がオープン

ホールフーズマーケットの小型店「デイリーショップ」第一号のレノックスヒルズ店 出典:平山撮影 ホールフーズマーケットの小型店「デイリーショップ」第一号のレノックスヒルズ店 出典:平山撮影

 

 マンハッタンの高級住宅地アッパーイーストサイドに、標準店の4分の1以下の小型店「デイリーショップ」が9月18日に開業した。ホールフーズは既にマンハッタン内に平均面積3700㎡の標準サイズの店舗を13店営業している。1号店のレノックスヒルズ店は840㎡で、今後出店予定の小型店の定義は650~1350㎡なので、さらに小さい店舗も視野に入れているようだ。

 

 店内は狭いが、生鮮食品、加工食品、総菜、サプリなどのウェルネス商品、若干の生活用品とカフェが付いていて盛りだくさんだ。入口を入ると目の前は青果売場で奥にベーカリー、右手に「ジュース&ジャヴァ」カフェがあり、狭いが立ち飲みスペースもある。ここではコーヒー、お茶、スムージー、サンドウィッチ、スープ、デザートを買える。店舗は奥行より歩道沿いに横幅の広い長方形で、右手に進むとシリアル、飲料に続いて精肉・鮮魚がある。と言っても標準店と異なり、対面販売サービスはカフェ以外は提供ない。

 

 さらに右手奥に進むとパントリー売場があり、売場面積の3分の1ほどを占めている。入口から歩道沿いの並び右手奥に出口があり、その手前にセルフレジが10台、顧客サービスも兼ねた対面レジが2台あるが、レジ全体は待ち列スペースもなく窮屈極まりない。初日は早速レジの待ち列ができ、パントリー売場の通路に人が並んだ。ただしレジに5,6人従業員がついていたので、見た目よりスムーズにレジを通過できた。とは言え、開店時の応援社員がいなくなったらピーク時は結構列管理が大変かもしれない。

 

 ただ、この店舗は狭いが驚くほど多くのものが揃っている。同社成長・革新部門シニアプリンシパルのステファニー・カーリー氏はメディア、グローサリーダイヴの取材[1]に「小型店では標準店の品揃えの75%を提供することを目指している」と答えていた。これを元に計算すると、なんとこの面積に25500SKUが並んでいることになる。ご参考までに、日本からの視察チームにも人気のトレーダージョーズは930~1400㎡で4000SKU、ディスカウンターのアルディは平均1670㎡で2000SKUだから、実際に2万以上も並んでいるとは考えづらいものの、アマゾン得意のAIを駆使して商品計画から棚割りまでを綿密に行っていることは感じられた。恐らくホールフーズでいつも買い物をしている人でも「だいたい揃う」と感じることだろう。足りないものはオンラインで購入すればよい。

 

 この店舗は現時点ではオンラインピックアップや返品サービスは提供していない。後方スペースをドアから覗き見したが、オンラインオーダー用のステージングや保管スペースは見当たらなかった。そもそも店内がこれだけ狭いので、ショッパーがオーダーをピックアップして歩くことは難しい。従って、この店舗はあくまでも、実店舗を利用したい客の利便性を高めるのが目的だろう。

 

 デイリーショップはマンハッタンのミッドタウン西側とイーストヴィレッジに計2か所、来年初旬に開業する。その他2店舗が既に確定で合計5店舗体制になる。レジで手のひら認証のアマゾンワンが使える以外は何のハイテク要素もなく、Eコマースの拠点でもない小型店。とは言え、郊外に出店する際には面積に余裕も出てEコマース対応はするに違いない。

 

 アマゾンブックストア等非食品店舗を全撤退し、アマゾンゴーも静かに数を減らして現在ピーク時の30近くから17店舗しかない。アマゾンフレッシュは52店舗に微増しているものの、どうやらアマゾンの店舗戦略はハイテクよりホールフーズとその小型店舗という実店舗の勝負にかけるようだ。

 

[1] Grocery Dive, ‘Whole Foods’ Daily Shop makes the most of a tight space’, 2024年9月17日

 

精肉売場はセルフのみ。独自のアニマルウェルフェアスタンダードも頭上の見えないような場所に無理やり説明をつけている。窓や天窓を増やして空間の狭さを補っている。 出典:平山撮影 精肉売場はセルフのみ。独自のアニマルウェルフェアスタンダードも頭上の見えないような場所に無理やり説明をつけている。窓や天窓を増やして空間の狭さを補っている。 出典:平山撮影




アルディのレジレス店舗「アルディゴー」のその後

アルディゴーの店内出入口に設置された、レジレス決済専用キオスク。他にゲート等はない。 出典:グラバンゴ社広報資料 アルディゴーの店内出入口に設置された、レジレス決済専用キオスク。他にゲート等はない。 出典:グラバンゴ社広報資料

 

 アルディは昨年11月、シカゴ郊外の既存のオーロラ店(2275 Galena Blvd.)にグラバンゴ(Grabango)社のレジレスシステムを導入し、「アルディゴー(ALDIgo)」として営業開始した。

 

 グラバンゴ社のレジレスシステムはアマゾンのジャストウォークアウト(JWO)システム同様、天井からカメラとコンピュータヴィジョン等で商品の動きを捉えるが、アマゾンゴーのようなゲートは無く、入店時または入店前にグラバンゴのモバイルアプリをダウンロードする必要がある。入口にはダウンロード用のQRコードがある。ここにeメールアドレスとクレジットカード情報を入力すればショッピングを始められる。買い物が終了したら、グラバンゴの従業員が管理するアルディゴー専用レジ(2台、上写真)に立ち寄り、デジタルスクリーン上のQRコードをグラバンゴアプリでスキャンすれば決済が完了する。このレジにはセンサーが頭上についていて顧客のショッピングカートの中身をざっくりと確認するそうだ。レシートはアプリに2時間以内に着信する。

 

 ただし以下の商品を購入する場合は追加の手続きが必要になる。

  • ばら売りの野菜、果物の購入:レジの自動秤に乗せるとアイテムを自動認識して課金。
  • アルコール飲料:レジ担当者にフォトIDを見せ、担当者が自分のIDをレジでスキャンすれば決済される。この手続きが無いと購入は不可。
  • ショッピングカートの利用費25セント:アルディでは伝統的にカートを使う時に25セントコインを入れないと利用できない仕組みになっているが、ここは変わらず、レジレスであってもコインが必要だ。

 

 今年4月に同店を視察したコンサルティング企業マクミランドゥリトル社[2]によると、アマゾンゴーとは以下の点が異なる。

  •  アマゾンゴーは一人のアカウントで複数の人間が入店でき、その複数の人の間で商品を受け渡ししても正確に商品移動を追跡できるが、アルディゴーでは店内サインで「決済アカウントを持つ人は、他者と商品の受け渡しをしてはいけない」と禁止している。
  • アマゾンゴーではレシートは通常数分以内にアプリやeメールに着信するが、アルディゴーでは約2時間かかる。
  • 間違って課金された場合の返金:アマゾンゴーはアプリで「返金」ボタンをクリックすると即座に受領メッセージを受け取るが、アルディゴーは2日かかる。

 

 さて、営業開始から約1年が経過した訳だが、食品販売専門メディア、プログレッシブグローサーは9月に再訪した様子を報告している[3]。まずシニアブランドアンバサダー、ショーニー・シュガーマン氏によると、同システムは最近新たな決済方法を導入し、専用レジではグラバンゴアプリ以外にクレジットカードでの決済も可能になった。ここはアプリ、クレジットカード、アマゾンワン(手のひら認証)を提供するアマゾンに一歩近づいた形だ。また、店内顧客はスムーズにレジレスシステムを利用しているとのこと。アマゾンフレッシュでもレジレスは慣れれば問題はなさそうだ。

 

 ただし本レポートでも過去に既報の通り、JWOシステムは、より店舗サイズが小さく商品展開数の少ないスタジアム等の売店へのシステム外販に移行している。AiFiやジッピンのその方向だ。アマゾンフレッシュでもJWOからスマートカートに転換しているが、アルディはもともと食品ディスカウンターなので店舗面積が小さく、取り扱い品目は2000SKU程度と少なく、レジレスシステムを導入しやすいフォーマットだ。ただし、アルディ米国は最近は都心部に近い場所にも出店しているが、多くは所得の低い郊外なので、レジ職が無くなると地元の雇用に多少影響するかもしれない。これについてはアルディに限らず米国小売企業は「レジ以外の業務に転換するので店舗従業員数は変わらない」と弁明を続けてはいるが…。アルディが今後レジレス店を増やすのかどうか、引き続き注目したい。

 

◆アルディゴー店内を見たい方はこちら https://www.instagram.com/mcmillandoolittleretail/reel/C3qE-zkrYEr/?utm_source=ig_web_copy_link&igsh=MzRlODBiNWFlZA%3D%3D

出典:McMillon Doolittle社のインスタグラム、2024年2月22日

 

[2] McMillan Doolittle, ‘Aldi tests first automated checkout store with Grabango tech’, 2024年2月22日

[3] Progressive Grocer, ‘Exclusive: An up-close look at ALDIgo checkout tech’, 2024年9月10日





ウォルマートがドリンク提供ロボット「アダム」を導入

ウォルマートの店内で、人気の冷たい泡たてヘーゼルナッツラテも作れる「アダム」  出典:リッチテックロボティクス社広報資料 ウォルマートの店内で、人気の冷たい泡たてヘーゼルナッツラテも作れる「アダム」  出典:リッチテックロボティクス社広報資料

 

 こんなロボットがカフェラテを作ってくれるなら、その姿を見るためだけにでも来店したくなりそうだ。ウォルマート店内にリッチテックロボティクス(Richtech Robotics Inc.)社のロボット「アダム(ADAM)」が登場した。現在はジョージア州ドーソンヴィル店内、イリノイ州ロックフォード店内のゴーストキッチン系飲食ゾーンで活躍中で、今後240店舗に拡大する計画だ。

 

 アダムはAI技術を使った人型ロボットで、2024年6月13日に誕生、通常のコーヒーだけでなく泡たてラテ等のスペシャルドリンクも作ることができる。リッチテック社社長マット・カセラ氏は「アダムは常に一定のクオリティ、生産性、忘れられない顧客経験を提供することができる。アダムによって人間の従業員はゲストにより意義の高いサービスを提供できるので、全体として顧客経験が向上する」とコメントしている。

 

 ウォルマートは既にロックフォード店にリッチテック社のサーバーロボット、マトラディL(Matradee L)と清掃ロボット、ダスト-E S(DUST-E S)を導入している。ロボットの管理・運営はリッチテック社と系列の商業マネジメント企業アルファマックスマネジメント社が行い、レストラン部分はオーダー管理や決済を含め、ゴーストキッチン系テナントが従来通り管理する。

 

 アダムはロックフォード店には8月16日付で勤務を開始したが、コーヒーやお茶を一日あたり100-200杯提供する。人件費や関連諸経費は公表されていないが、一般的にレストランロボットは人件費の低減に貢献しており、労働時間の制約やシフトの心配がなくなるので管理費も軽くなるに違いない。加えて物珍しいうちは集客にも役立つかもしれない。ウォルマートはコロナ中の2020年秋に食品加工システム企業、ブレンディド(Blendid)と提携して、スムージーを自動的に作るロボットをテスト導入したが比較的短時間で消えたようだ。ただしブレンディド自体はスムージーのファストフード、ジャンバ(Jamba)や、大学のキオスク、食品専門自動販売機企業ラヴズ(Love’s)と提携して拠点数を増やしている。

 

 ウォルマートに限らず、店内清掃ロボットや店内在庫管理ロボットの導入は大型小売店チェーンで徐々に進んでいる。コロナ前から在庫管理ロボット、シンべロボティクス社のタリーを導入しているストップ&ショップでは、従業員も客もすっかり馴染み、店舗視察時に観察しているとタリーが棚をスキャンしている時は仕事を邪魔しないように人の方が道を開けたりして微笑ましい。そう言えば、シンべロボティクス社の開発担当者は以前「成功の秘訣はタリーにつけた目玉」とコメントしていたが、ロボットも人を連想させるルックスかどうかで、業界での生き方が変わるようだ。

 





ロブロックスとショッピファイ提携で始まる本格的なメタバースコマース

ウォルマートの最新メタバース「ウォルマート・レルム」の西部開拓時代をテーマにしたショップ 出典:ウォルマート・レルムよりスクリーンショット ウォルマートの最新メタバース「ウォルマート・レルム」の西部開拓時代をテーマにしたショップ 出典:ウォルマート・レルムよりスクリーンショット

 

 何年も前からラグジュアリーブランドやナイキ、ウォルマート等、小売業界はメタバースをテストしてきたが、いよいよ本格的に小売販路として利用され始める。9月にEコマースプラットフォーム大手のショッピファイはメタバースプラットフォームのロブロックスとの提携を発表した。これによって2025年初頭には、ロブロックスのユーザーはゲームをしながら、そこを離れることなく買い物が可能となる。

 

 ロブロックスは世界のゲーム市場シェア10%を目指している。同社の推定ではロブロックスユーザーの80%はゲームをするために利用しているが、残りの20%はショッピングや情報収集、会話、ヴァーチャルエンターテイメントを楽しむために利用している。同社は数か月以内に価格最適化ツールを導入する予定で、これによってクリエイターはより適切な価格戦略を展開でき、地元の経済状況によって価格を地域ごとにカスタマイズできるようにもなる。

 

 既に高品質な製品を低価格で提供するビューティブランド、E.l.f.ビューティはロブロックス上のヴァーチャルキオスクでロブロックス限定版の実物のフーディを購入できるキャンペーンを行ったり、カジュアルウェアのヴァンスもオリジナルシューズを実店舗での販売より先にロブロックスで発売するなどの試みを行っている。

 

 ウォルマートも2021年冬以降、年に1,2回新しいメタバースキャンペーンを展開し、直近では今年5月に「ウォルマート・レルム(Walmart Realm)」を開始し、メタバース空間にさまざまなテーマ、ブランドのショップを持ち、実物の商品を購入できる。例えば冒頭の写真はアメリカの西部開拓時代を舞台にしたものだが、ここの男性のシャツをクリックするとラングラーのシャツがウォルマートのウェブサイトで買える(下写真)。

 

男性のシャツをクリックするとウォルマートでラングラーのシャツ$17.98を購入できる。 出典:ウォルマート・レルムよりスクリーンショット 男性のシャツをクリックするとウォルマートでラングラーのシャツ$17.98を購入できる。 出典:ウォルマート・レルムよりスクリーンショット

 

 筆者は仕事上、小売企業やブランドのメタバースが出ると一応試してみるが「今日はメタバースでもぶらついてみようかな」と日常的にメタバースショッピングを楽しむようになるには、もう少し距離があるような気がしている。距離とはテクノロジーではなく「自分が興味ある領域だったり、おもしろそうだと思えるメタバース体験ができるかどうかが、現段階では企業側から明確に提示されていない」ということだ。企業やブランドありきではなく、やはり「ストーリーテリング」、ストーリーありきなのではないだろうか。

 

◆ウォルマート・レルムの体験はこちら https://walmartrealm.com/#/viewer/royal/room







###

【在米リテールストラテジスト 平山幸江】


関連記事