掲載日:2024/09/13

「ウォルマートがドローン配送都市を削減、ダラスで継続」、「ペットは自宅のインテリアデザインの一部に」他:進化を続けるアメリカ小売業界Vol.49

ウォルマートがドローン配送都市を削減、ダラスで継続

ウォルマートのドローン配送に参画したグーグル子会社ウィングのドローン 出典:ウォルマート社広報資料 ウォルマートのドローン配送に参画したグーグル子会社ウィングのドローン 出典:ウォルマート社広報資料

 

 ウォルマートは8月、アリゾナ州フェニックス、ユタ州ソルトレークシティ、フロリダ州タンパでのドローン配送サービスを終了し、テキサス州ダラスに集中すると発表した。終了する州では過去に約2年間営業を続けていた。

 

 今年1月、ウォルマートはドローン配送の成果と拡大計画を大きく発表し、また配送パートナーとしてドローンアップだけでなくグーグルの子会社ウィング、ジップラインの参画を公表した。これに応じて、従来ウォルマート顧客はドローン配送を指定する際ドローンアップのアプリを利用しなければならなかったが、同時点でドローン配送はウォルマートのアプリに統合されて配送手段を選ぶ際にドローンを選べるよう改良した。

 

 ドローン配送都市の縮小の目的は、いくつかの課題を解決するために安定的にサービスを提供できているダラスに集中するようだ。同社ドローン配送の最大の課題は運営コストの大きさだ。現在1オーダーあたり30ドルかかっているが、これを地上での配送コストに近い7ドルに削減するのが目標だと言う。顧客が支払うドローン配送料金はウォルマート+会員が$12.99、非会員は$19.99とかなり高額だがそれでも赤字ということだ。ドローンアップCEOのトム・ウォーカー氏は、コストがここまで下がればドローン配送は顧客にとって「使ってみたいもの」から「必要なサービス」に変化しているだろうと述べている[1]

 とは言え、ドローンが運べるサイズ・重量の商品でこの配送量を払ってでもすぐに手に入れたいものと言ったら何か?という素朴な疑問がわく。食品はすぐに欲しいが単価が低い割には重量やサイズが大きい。小型家電製品などは単価は高いが、スマートフォンを無くしてしまったなどの事故でもない限り衝動買いするものではないので、必然性が低いかもしれない。もっともスマートフォンは携帯電話プロバイダーとの契約が必要なのでやはりドローン配送は意味がない。薬品やベビー用品は良さそうだが、病人や幼児がいる家庭に限定される。このように規格サイズ内で緊急性の高い商品を見つけるのは案外難しい。そもそも1往復飛行で1オーダーしか運べないのだから、オペレーター側にとっては効率が悪い。

 

 これと同じくらい課題なのはやはり住民からのプライバシーに関する不安、不信感だろう。自宅の上をドローンが通過するのを好ましく思えない気持ちはよくわかる。実は7月に、フロリダでウォルマートのドローンが口径9ミリのピストルで撃たれたことが報道された。犯人はドローンが自宅を監視していると考えたそうだ。幸いドローンに穴は開いたがそのまま飛行を続けてウォルマートに戻ったという。ドローンへの攻撃は刑法上飛行機への攻撃と同じ扱いになるので、犯人は最高20年の懲役刑を受ける可能性もある。このようにドローンを狙った射撃事件はウォルマートとは無関係のものでも過去2年間にノースカロライナ、フロリダ、カリフォルニア州で何度か起こっていて、犯人の中には「射撃の練習の的にちょうどよい」という理由を述べた者もいた。ウォルマートが過去にカリフォルニア州、今回フロリダ州でのドローン配送を止めた背景には、こういう事件も影響したかもしれない。

 

 近年のウォルマートのドローン配送凱旋報道に対し、アマゾンはまだドローンのテスト配送は続けているものの、静かである。同社の複雑な物流システムに組み込むことは困難ということを暗示しているようだ。

 

[1] Axios, ‘Scoop: Walmart grounds delivery drones in three states to focus on Dallas’, 2024年8月16日





ペットは自宅のインテリアデザインの一部に

ペット用品大手ペトコはサイドテーブルとしても使える犬用クレートを販売 出典:ペトコ社ウェブサイトよりスクリーンショット、2024年9月3日 ペット用品大手ペトコはサイドテーブルとしても使える犬用クレートを販売 出典:ペトコ社ウェブサイトよりスクリーンショット、2024年9月3日

 

 世界800万人以上のユーザーを持つインテリアデザインゲーム「リデコール(Redecor)」が今年春に行った7,000人以上を対象としたアンケート調査によると、ペットを飼っている家庭では自宅のインテリアデザインを考える際にペットやペットのアクセサリー類を考慮して購入を判断していることがわかった。ペットオーナーの80%がペット用ベッド、トイ他を買う時に部屋のインテリアとの調和を考慮している。もっとも85%のオーナーはインテリアデコーの一部としてペット用アクセサリーを買うのは予算が100ドル以下の場合、と回答している。しかし12%は(見栄えが良くなるなら)500ドルまでなら使ってもよいと回答している。

 

 多くのオーナーはペット用の服、首輪、トイ、その他のアクセサリーを探す時、自分たちのライフスタイルに合ったデザインの製品を探すが、17%はペットを選ぶ時に既にある自宅のインテリアにペットのルックスが合うかどうかを考慮すると答えている。ペットの性格は二の次ということだろうか…。さらにオーナーの40%はペットの写真をフレームに入れて壁に飾り、自宅のインテリアの一部になっていると答えている。

 

 リデコールのデザインヘッド、アイン・ヘイナスオ氏は「当社では、子供部屋を作るような感覚でペット専用の部屋を作りたいというデザイン発注が増えている。ペット専用の部屋とはペットの生活・行動にフレンドリーで、ペットの友達がやってきても大丈夫な部屋だ」とコメントしている。また、ペットがオーナーの寝るベッドの上で一緒に寝たい場合を考慮して人間用ベッドのデザインを購入するケースも結構あるようだ。

 

 ペット業界では「ペットのヒューマニゼーション」がキーワードになっているが、業界大手のペトコ(Petco)のデザインVPジェニファー・コヴァックス氏はファッションメディア、WWDの取材に対し「人とペットが1つの生活空間の中で、見た目のデザイン上の統一感があり、美しさを求めるトレンドは拡がりつつある」と述べている[2]。その一例として、ペット用ベッドとクレートが居間に置くサイドテーブルと合体している製品(冒頭写真)や、居間のデザインにふさわしいペット用トイ収納家具などが人気だそうだ。昨年同社では、ペット用ファッション・ライフスタイルブランド「レディ(Reddy)」のラインアップとしてニュートラルカラーでさまざまなカラーバリエーションがあり、どの家、部屋にも合いやすいペットフード用コンテーナー「レディ・キッチン」を発売、ホリディシーズンには家のクリスマスデコレーションとコーディネートしたデザインのペット、ペットオーナー用の衣料品も販売した。

 

 愛犬家、愛猫家の友人たちはよく「うちの子(ペット)は人間より良いものを食べている」と愚痴をこぼしているが、そのうち「うちの子は私達より広い部屋に住んでいる」という愚痴を聞く日も来るのだろうか。

 

[2] WWD, ‘Pet influence hits home for consumers, according to report’, 2024年8月2日





サイクリングウェアの中古品市場が人気

サイクリングウェアブランド、ヴェロシオの再販サイト、ヴェロシオ・リニュード。右上から定価販売サイトに移動できる。  出典:ヴェロシオ・リニュードのウェブサイト(https://renewed.velocio.cc/)のスクリーンショット サイクリングウェアブランド、ヴェロシオの再販サイト、ヴェロシオ・リニュード。右上から定価販売サイトに移動できる。  出典:ヴェロシオ・リニュードのウェブサイト(https://renewed.velocio.cc/)のスクリーンショット

 

 アパレル中古品市場の拡大は周知の事実だが、米国ではその最新トレンドとしてサイクリング用ウェアが中古市場で人気になっている。サイクリングは誰でも楽しめ、健康にも環境にも良いことから参加者が増えている。スタティスタ社によると米国の2023年のサイクリング人口は前年より300万人増えて5470万人、ストラヴァ社の最新のインスポーツトレンドレポートによると、eバイク(電動自転車)乗車率は23%上昇したそうだ[3]

 

 サイクリングウェアは機能性、耐久性が求められる結果、高額になりやすいため中古品への需要は自然と大きくなる。サイクリング用品専門ブランドの1社、ヴェロシオ(Velocio)は自社製品の中古品を回収して再販する再販プラットフォーム企業、アーカイヴ(Archive)と提携し、今年7月に中古品再販サイト「ヴェロシオ・リニュード(renewed.velocio.cc)」を米国内に立ち上げた。そこではメンズのジャージシャツ小売価格$189を$104-113で、パンツ$269を$148-161で販売している(2024年9月3日現在)。スポーツ用品大手のREIやパタゴニアは既に再販プラットフォーム企業、トゥロヴ(Trove)と提携して中古品を再販しているが、同社パートナーシップVPのピート・スモール氏によるとそのうちサイクリングウェアの中古品売上も相当の規模に成長しているという[4]。他にもファブレティクス、スマートウール、アークテリックスなど高級アスレチックブランドが既に中古品再販に参入している。

 

 自社で再販すればブランドイメージや品質管理が厳重となり、特に特殊な機能性を訴求するブランドでは「中古品を回収し自社で検品」は避けられないプロセスだろう。その上、企業としてのサステナビリティ度も上がる。数年前に再販ビジネスを取り上げた時には、ポッシュマークやスレッドアップ、メルカリのようなピア・トゥ・ピア(直接セラーとバイヤーが製品を売買)事業モデル、あるいはプラットフォーム企業が製品を回収して委託で売買というマーケットプレースの事業モデルが注目されていたが、ここにきてブランド側による品質と価格のコントロールという観点から、「ブランド自身による再販」事業モデルは勢いを増している。さらに、新規顧客の獲得、顧客のロイヤルティ育成、という点でもプラスがあるとされている。

 

 ただし、当然ながらブランド側には回収その他のコストがかかる訳で、いかに再販販路を、新品を売る既存販路との間にシナジー効果を生むエコシステムに育てるかがポイントとなる。過去にフルプライス(定価)事業とアウトレット事業との矛盾をどうすべきかと議論したことを思い出す。いずれにしてもパリ・オリンピックも追い風となり、グーグル検索ではオリンピック開催時、「中古サイクリングギア」の検索が世界的に急増したそうで、再販トレンドが定着することは間違いなさそうだ。

 

[3] https://momentummag.com/states-most-cycling-interest-report/#:~:text=According%20to%20Statista%2C%20the%20number,of%2054.7%20million%20in%202023.

[4] Modern Retail, ‘Resale platforms are seeing more interest in secondhand cycling apparel’, 2024年8月8日





プラスチック不使用の使い捨てオムツ、クドースをターゲットが販売開始

クドース創業者のサイガル氏 出典:クドース広報写真をスクリーンショット クドース創業者のサイガル氏 出典:クドース広報写真をスクリーンショット

 

 使い捨て紙おむつが米国に普及し始めたのは1960年代と歴史が古い。昨今のナチュラルなライフスタイル志向やサステナビリティ運動の拡大で、プラスチック廃棄を増やしてしまう使い捨ておむつをやめて布おむつに戻す動きもなくはないが、夫婦共働きがデフォルトである米国で布おむつを使うのはなかなか現実的ではない。

 

 マサチューセッツ工科大学で起業家としての訓練を受けたアムリタ・サイガル氏はこの、大手ブランドが市場を寡占し改革が遅れている使い捨ておむつ市場に目をつけ、通常はプラスチックを使うライナー部分を100%綿やサトウキビ、木などのバイオデグレーダブル(生分解)素材に転換した紙おむつ「クドース(Kudos)」を2021年に開発した。彼女は、起業家たちがセレブかつ投資家のジャッジの前で事業計画をプレゼンし、資金を獲得できるかどうかを放映する人気のリアリティショー番組「シャークタンク」に出場し、見事にマーク・キューバンとグイネス・パルトローから25万ドルの資金を獲得した。

 

 クドースのおむつは環境に良いだけでなく、赤ちゃんにとっての安全制も重視している。ウェブサイトを見ると、ナチュラルコットン使用、塩素不使用、米国製など安全性を示すアイコンがずらずら並ぶ。また、通気性のあるコットンをライナーに使用するので、赤ちゃんにとっても蒸れずに快適だ。しかもプラスチックライナーを使わなくても保水量は十分に大きく、同社が第3者調査機関に委託したプラスチックライナーを使う既存競合ブランドと自社製品の保水量比較調査では、パンパース・ピュアが427g、ナチュラルブランド大手のオーネストが483gに対しクドースは712gとはるかに大きく尿漏れのリスクが低いと考えられる[5]。また「ダブルドライ(DoubleDry)」テクノロジーを開発し、通常の一層ではなく二層にすることで素早く水分を吸収してドライな肌触りを可能にした。

 

 同社は過去1年間で2000万点以上を販売し、今年7月にはプレカーソルベンチャーズ、Xファンド他から総額300万ドルの資金調達に成功、累積調達総額は620万ドルにのぼる。そして8月からターゲット375店舗での販売開始にこぎつけた。現時点ではオンライン販売も地域が限定されている。ただし価格が高い。大手ブランドは例えばP&Gのパンパースがウォルマートで1枚28セントから、ハギーズが35セントから販売されているのに対し、クドースはターゲットで1枚96セントだ。もっともクドースのオンラインストアではサブスクリプション販売を行っていて、これだと1枚46セントにまで下がる。もっともこの記事を執筆中の9月上旬、ターゲットには在庫があるがクドース・オンラインストアは完売となっていた。今後卸売販路を拡大しコストダウンしながら、安定的に製品供給していけるかどうかが企業成長上の大きな課題のようだ。

 

 ただ、このような新興のD2Cブランドとしての悩みはあるものの、いわゆるD2Cブランドバブルがコロナ禍前後ではじけた後、なかなか力強い新ブランドが育ってこなかったのも事実だ。そんな中、地球の未来を背負っていく赤ちゃんたちを少しでも地球環境に良いおむつで育てたい親は大勢いるのではないだろうか。

 

★クドースのウェブサイト https://mykudos.com/

 

[5] Kudos社の委託でDiaper Testing International社調査。調査ではサイズ4(体重8-12kg用)を使用。







###

【在米リテールストラテジスト 平山幸江】


関連記事