アマゾンゴーやアマゾンフレッシュに使用されてきたレジレス技術、ジャストウォークアウト(JWO)システムの最新情報を同技術担当VPのジョン・ジェンキンス氏がブログで報告した。最新モデルは、マルチモダルファンデーションに、従来同様数多くの生成AIアプリケーションからなるトランスフォーマー・ベースの機械学習モデルを使っているが、従来との違いは、店内のカメラや重量センサーからのデータ分析を「同時に」行う点だ。
JWOシステムのポイントは「誰が何を取ったか」を見つけることだが、従来はシステムは買い物客が棚から取ったり戻したりする商品を「リニアシーケンス(一連の事象)」として見ていた。しかし、店内の照明が暗かったり、近くにいた別の人の陰になる等、行動に何か異変が起こるとこの方法では誰が何を取ったかを正確に判断するのに時間がかかり、人がマニュアルでモデルを再トレーニングする必要性が出た。しかし新システムではカメラや照明、人の動きに通常と異なる状況が起こっても、カメラ、重量センサー、その他のデータを同時に分析し何を最優先すべきかを見つけることによって正確に何をいくつ取ったかを判断できる。また、継続的に自己学習を行い、ニューラルネットワーク(人間の脳の仕組みを模した機械学習)アーキテクチャーのトランスフォーマーテクノロジーを使用してセンサーデータ等のインプットをレジレス購入後のレシート発行というアウトプットに変換している。さらに新システムでは、店舗の3Dマップを使って什器や商品の配置が理解できるようにし、店内の商品画像カタログを使って商品を正しく認識できるように訓練した。
この結果、新JWOシステムは、小売企業にとってはより迅速、実装が簡単で、より効率的になり、買い物客にとっては世界中でより多くの店舗が安心して利用できるレジレス店になる、とジェンキンス氏はコメントしている。
JWOシステムは現在、米国、英国、オーストラリア、カナダで空港、スタジアム、大学、病院内のコンビニ型店舗170以上に導入されているが、2024年度内に提携先を現在の倍に増やす計画だ。アマゾンはブログには言及していないが、拡販に伴いJWOシステムのコストが下がることは間違いない。今回の発表もシステム外販活動の一環だろう。またRFIDとJWOシステムを統合して食品以外の衣料品やアクセサリー販売店への実装も始めている。
ただし、アマゾンがJWOシステムでスムーズに一人勝ちするかどうかはまだわからない。レジレス技術では他にジッピン、AiFiなどが同様に小型店舗での実装を拡げている。さらに、米国の大手スーパーはセルフレジへの投資を進めているが、万引きが多く対面レジに戻す動きも出ている。JWOのようなレジレスシステムは万引きは防げるが、やはり費用対効果が導入判断の決め手となるだろう。
いずれにせよ、JWOシステム型のレジレス技術はコンビニエンスストア業態が戦場、という流れが明確になっている。
米国食品医薬局の調査によると、米国内食品廃棄は食品サプライチェーン全体の30~40%を占め、世界でも最悪のレベルだ。スーパーマーケットでも廃棄対策を加速し始めている。ウォルマートは7月から有機物リサイクリング業者デナリ(Denali)社と提携し、ウォルマートおよびサムズクラブの合計1400店舗で廃棄処分対象となった食品のコンポスト化を開始した。ウォルマートが店頭で廃棄商品を回収し、デナリ社が開発した、パッケージと中身の食品を簡単に分けることができる機械「ゼロ・デパック(Zero Depack)」で廃棄食品だけをまとめ、デナリの回収トラックに引き渡し、同社が食品をコンポストにする。ゼロ・デパックの分別率は97%、トラックは1回の回収で18店舗から11トンの廃棄食品を回収できる。
一方、廃棄になる前に安く販売する動きは急速に拡がっており、賞味期限が近づいた食品を安い価格でオンライン販売するマーケットプレースのフラッシュフード(Flashfood)、アフレッシュ(Afresh)などを過去にも本レポートで紹介したが、同様のマーケットプレース、トゥグッドトゥゴー(Too Good To Go)が最近勢力を伸ばしていて、ホールフーズマーケットは7月に同社と提携し、450店舗に導入した。同社はただ安くするのではなく、日本の福袋同様、何が入っているかわからないが複数の商品を入れて値引き率高く提供する「サプライズバッグ」で遊び心をくすぐっている。ホールフーズでもスープやすぐに食べられる食事が入った「調理済食品サプライズバッグ」($30相当が$9.99)とパン、マフィン、クッキーなどが入った「ベーカリーサプライズバッグ」($21相当が$6.99)を提供している。トゥグッドトゥゴーはデンマークで創業し、ヨーロッパと北米18か国に1億人のユーザー、16万のアクティブユーザーがいる。他にはカルフール、アルディ、ユニリバー、スターバックスなどが提携しているが、マンハッタンを代表する個人経営のグルメストア、イーライズや4、5店舗を展開するグルメガラージ、ブルックリンフェアなど小規模企業も同社マーケットプレースを利用している。
こういう事例を見ると、日本のスーパーのように午後7時を過ぎたら半額セール、といったタイムサービスをすれば良いのにと思うが、なぜかそういう販促は見当たらない。米国では伝統的に食品は週に1回まとめ買いをすることが習慣になっており、今でも郊外や農村部ではそれが顕著なのでタイムサービスはそぐわないのかもしれない。マーケットプレース方式は、来店頻度が上がる、値下げした商品を売場からピックアップ場に移動させるので売場の定価商品を守れる、というメリットがあり、日本のように時間がきたら従業員が値札を貼る作業が不要なので合理的なアメリカらしいとも言える。
生成AIの活用が拡大しているが、さまざまな企業が活用事例を発表する中アマゾンは比較的静かだったので、そろそろかと思っていたらやはり来た。今年2月に生成AIを活用した新型ショッピングアシスタント、ルーファス(Rufus)のテスト導入を発表し、7月から米国アマゾン顧客全員がルーファスを利用できるようになった。
チャットGPTと同様、テキストで質問を入力すると返事がくるが、①商品情報の詳細、②顧客レビュー、③質問内容を基にして従来よりきめ細かくパーソナライズした商品推奨、④類似商品の比較情報、⑤探している商品領域の最新情報、⑥現在・過去のオーダーへのアクセス、⑦直接的に買い物とは関係ない質問への回答、と従来より格段に幅広く、深い会話ができる。
筆者も早速試してみた。まず、アマゾンのアプリを開いてみて右下にオレンジとブルーの葉っぱのようなアイコンが見当たらなければアプリを更新しなければならない。更新してアイコンが出てくれば、後はクリックして質問スペースにどんどん質問するだけだ。従来から米国消費者は、たとえ他社で購入するとしても商品の詳細情報や顧客レビュー、価格比較のためにアマゾンのウェブサイトを活用してきた。アマゾンには他社のオンラインストアに比べて圧倒的に商品に関する情報量が多く、レビューもネガティブコメントを含めて信頼性があり、商品推奨も妥当だという定評がある。今回の「口語体のテキストで自分の質問をそのままぶつけて回答を得る」を体験すると、これこそ本当にAIアシスタントだという説得力を感じる。
例えば筆者は「ヨガを初めてやる人にとってベストなヨガマットはどれ?」と質問した。すると5点推奨商品が出て、それぞれの特徴を簡単に紹介した文章が出てくる。ヨガの初心者には安くてお手軽なマットを推奨するのと思いきや、意外と「ノンスリップ」「耐久性」「クッションがきいている」本格的なマットが並び、自分がヨガを始めた当初、いつまで続くかわからないしと適当に購入した安いヨガマットにすぐ不満が出て買い替えたことを思い出した。この段階で価格が出てこないのも、従来のアマゾンのアプローチとは異なり、価格で判断させない戦略だ。
商品推奨の下にはルーファスが用意した次の質問のサンプルがいくつか並ぶ。上の例では「ヨガマットは持ち歩き用のストラップやバッグがついているか?」「ヨガのタイプ(ハタヨガ、ヴィンヤサヨガ等)によってマットは変わるのか?」など。このうち、ヨガの種類によってマットはそう変わらないだろうと思いながら2番目の質問をクリックすると、筆者が知らなかっただけで、それぞれのヨガのタイプに合わせてマットが存在することがわかった。「ダイナミックな動きが多いアシュタンガヨガ用に滑りにくいスティッキーな表面」「流れるような動作が多いヴィンヤサ用にグリップしやすくクッションが厚い」「汗をかきやすいホットヨガ用に吸湿性とノンスリップ性が高い」という情報が書かれていて、ミニ知識を得た気がした。
ここでいくら投資するか考えるために「ヨガマットはどれくらい持つか?」を尋ねると、使用頻度別、マットの素材別、マットの手入れなどによって何年くらいという目安と注意事項が出てくる。また、少し買い物から離れるために「ヨガは本当に健康によいのか?」という質問を投げたところ、心身の健康にどのように効果があるかが、ポイントを押さえて詳しく説明してくれた。その下のAI質問サンプルには「どのタイプのヨガが初心者にはよいのか?」「腰痛に効くって本当?」など、ヨガの初心者のクラスの後で会話しそうな話題が次々と出てくる。
念のため、ルーファスが不得意そうな会話を試すため「食品のナット-って何?」と尋ねたら、日本の伝統的な食品で、成分、栄養、味、利用法、健康メリットの説明の後、AI質問サンプルとして、ベイジタリアン向けか、グルテンやナッツ、牛乳アレルギーでも大丈夫か、など質問が5つ並んだ。また商品紹介として納豆パウダー、納豆用酵母入りキット、その他納豆入りスナック等が表示された。ちなみに傘下のスーパーマーケット、ホールフーズでは納豆は販売していないのでオンラインストアでも納豆関連の商品展開は非常に限られているが、説明や質問は立派に揃っている。
ビッグコマース社の調査によるとアマゾンは自社在庫だけでも1200万点、セラーを含めると3億5000万点を取り扱っているとのこと。現時点でこれら全ての商品にどこまで深い説明ができているのかは時間をかけて使わないとわからないが、ショッピング関連についてはアマゾンがチャットGPTからトラフィックを用意に奪うのではないかと実感できた。
この7月、米国のメディアでは「グローサリーストア・ツーリズム」と言う言葉を頻繁に見かけた。「地元のスーパーマーケット観光」という意味で、要するに旅行で観光するなら美術館などより地元のスーパーマーケットを訪問する方が良い、という意味だ。食を通じて文化を知ることができるし、お土産として持ち帰ることもできる。大手タウン情報メディアのタイムアウトによると、先月ご紹介したロサンジェルスの高級スーパーマーケット、エレワンもLAを代表する観光先になっているそうだ。他にテキサス州ならH-E-B、北東部ならウェグマンズ、ニュージャージー州ならミツワマーケットプレース等、リージョナルスーパーマーケットや地元の個人スーパーが王道だが、全米チェーンでもコストコなどは小売価格を抑えるために展開商品数が少ないため、州によって品揃えが違っていておもしろい、とコメントしている。
この流行の背景にはTikTokやYouTubeといったソーシャルメディアがある。旅先で見つけた地元オリジナルフレーバーのポテトチップス等をコメント付きで投稿する人が増え、これを見てなるほどと思った人が自分も旅先で同じことをする、といった好循環を生み出している。
この文脈で、7月にウォールストリートジャーナルが報道したセブンイレブン米国の新たな商品戦略が注目されている。米国内ではコンビニエンスストアの多くは幹線道路沿いにガソリンスタンド付きで営業しているが、主力商品のガソリン、タバコの売上減少により、中長期戦略の見直しが迫られている。同社は日本のビジネスモデルから学び、米国にもすぐに食べられる総菜、弁当類を増やす計画を発表し、これが米国側では好意的に受け止められている。セブンイレブンの広報資料によると、新たに導入する食品の中には、Teriyaki chicken onigiri(照り焼きチキンオニギリ)、egg sando(エッグサンド)等既にアメリカでも人気でそのまま英語にもなっているメニューが並んでいる。
昨今の円安でかつてないほどアメリカ人が日本に観光に訪れているが、彼らが長時間のフライトの後最初に訪れるのは、TikTokなどで散々見てきたKonbini(コンビニ)で、ここでスナックや軽食を買って初めての日本文化を堪能する。今回のセブンイレブン米国の戦略について、多くのメディアは「アメリカ人が待ち焦がれていた改革」と評している。
■7-Eleven Is Reinventing Its $17B Food Business to Be More Japanese | WSJ The Economics Of
https://youtu.be/RATHbP1bAhI?si=meCLXZwi9zsxLmBo
【在米リテールストラテジスト 平山幸江】