掲載日:2024/07/25

「トイザらスがオープンAIとテキストから動画を制作」、「LAの超高級ナチュラルスーパーマーケット、エレワンの進化」他:進化を続けるアメリカ小売業界Vol.47

トイザらスがオープンAIとテキストから動画を制作

トイザらス・スタジオがオープンAI社のSORAを使用し制作したトイザらスの歴史の動画 出典:トイザらス社 トイザらス・スタジオがオープンAI社のSORAを使用し制作したトイザらスの歴史の動画 出典:トイザらス社

 

 トイザらスは2018年に小売業界史上最大とも言われる倒産で米国内735店舗を全て閉店し、子供たちの夢を叶えるビジネスだっただけにアメリカ市民生活に大きな衝撃を与えた。翌年トゥルーキッズ社が買収し再建努力したもののコロナ禍によって頓挫、2021年に現在のオーナーであるWHPグローバル社が買収し、メーシーズ百貨店との提携で同店舗内インシップとして復活した。同年クリスマス前にはニュージャージー州のアメリカンドリーム・ショッピングモールに初の旗艦店を出店し、今年以降24店舗を全米に出店すると発表した。一方で大手独立系玩具・ゲーム小売業者のゴー・リテール・グループ(Go Retail Group)社とも提携し、メーシーズ以外に空港やクルーズ船内での出店を進めている。メーシーズ・インショップは既に452店内(2023年10月時点)に達し、経営再建中のメーシーズにとって重要な成長戦略となっている。

 このように劇的な再生を進めているトイザらスだが、6月にチャットGPTを開発したオープンAI社の文章から動画を自動制作する技術「ソラ(Sora)」を使って、同社創業者チャールズ・ラザラス氏が子供の時にトイザらスの構想を思いついたという1分強のストーリーを動画にした。制作にはエミー賞にノミネートされたクリエイティブエージェンシーのネイティブ・フォーリン(Native Foreign)社の協力を得ている。

 トイザらス社グローバルチーフマーケティングオフィサーのキム・ミラー・オルコ氏は「トイザらスの目的は全世代の人々にノスタルジックな感情や夢を伝えることだ。夢とはマジックと無限の可能性であり、それこそがトイザらスである」とコメントしている。ネイティブ・フォーリン社のチーフクリエイティブオフィサー、ニック・クレヴァロフ氏は「ソラによってこの素晴らしいストーリーを特筆すべきスピードと効率で作り上げることができた」と述べた。具体的にはコンセプト作成から完成までたったの数週間でできたとのことだ。特に時間短縮に貢献したのは、数百にのぼる反復的な画像撮影をわずか二、三十に削減できたことだ。動画はほとんどソラだけで制作したが、若干の画像効果の修正は行い、音楽は著名なロックバンド、コープランドのアーロン・マーシュ氏がオリジナル曲を作曲した。

 生成AIを活用した広告動画制作は既にコカコーラ、スターバックスなどで始まっているが、トイザらスにおいては「倒産、全店撤退という危機のどん底から立ち上がり、今や最先端のデジタル技術を駆使するブランド」というエピソード自体も広告キャンペーンの重要なメッセージなのだろう。

 なおこの動画は6月にフランス、カンヌで開催されたカンヌ・リオン・クリエイティビティ・フェスティバルでも放映された。

◆トイザらスの動画 https://www.toysrus.com/pages/studios

同動画をカンヌ・リオン・クリエイティビティ・フェスティバルで上映した時の様子 出典:トイザらス社 同動画をカンヌ・リオン・クリエイティビティ・フェスティバルで上映した時の様子 出典:トイザらス社




LAの超高級ナチュラルスーパーマーケット、エレワンの進化

2023年3月に開業したエレフォン、カルヴァーシティ店 出典:エレフォン社広報資料 2023年3月に開業したエレフォン、カルヴァーシティ店 出典:エレフォン社広報資料

 

 最近、米国での小売店舗視察で「エレワンを視察したい」という希望が増えている。エレワン・マーケット(Erewhon Market)はロサンジェルスを中心に南カリフォルニアに10店舗を展開する、個人経営の高級ナチュラルスーパーマーケットだ。創業は1966年で、マクロビオティック食事療法を米国で提唱した久司(くし)道夫氏と妻のアヴェリーヌ氏がボストン、ニューベリー街の地下に小さな店を開き、自然食材とマクロビオティック書籍を販売したのが始まりだった。やがてカルト的なファンが顧客としてだけでなく、従業員として食材開発に携わるなどして事業が拡大し、ロサンジェルスに移転したが倒産、1979年に従業員の一人が買収し、2011年にトニー・アントチ夫妻がビバリーヒルズの店を購入して現在のビジネスモデルに変更した。創業時からの社名は19世紀の英国作家、サミュエル・バトラー氏の著作「エレワン」から取ったものでノーホェア(nowhereどこでもないの意味)をアナグラム(文字を入れ替える遊び)で作った造語に由来している。

 エレワンはロサンジェルスの文化を体現した店だ。店舗デザインも商品もナチュラルにも関わらず、価格はあの高級ナチュラルスーパー、ホールフーズマーケットよりさらに高い。例えば12個入りの卵が、通常のスーパーマーケットなら3ドル未満、ホールフーズマーケットでは4,5ドル、エレワンは10ドル以上、水も健康のためガラスボトルに入って4ドルする。その代わり、いかなる完璧主義なビーガンや健康オタクも満足する品揃えで、アマゾン買収前にはそのような商品を販売していたホールフーズマーケットでは現在、売れ筋や顧客評価などのデータ分析の結果かそのようなニッチ商品は取り扱わないので、現時点でエレワンには競合はないと言ってもよい状況だ。

 同社がこのような超高級路線でいられる背景には、商圏内でのセレブ顧客や高所得世帯の多さがある。女優、ヘイリー・ビーバーは店内スムージー売場で「ストロベリー・グレーズ・スキン・スムージー」を思い付き提案し、現在19ドルで販売、スムージーを試したいインフルセンサーで売場には常に長い列がある。また、米国スーパーマーケットの常識を覆す価格の高さだけでもインスタグラムやティックトックへの投稿の価値があるようで、メディア、ビジネスインサイダーの視察レポートによると顧客の半分は買い物客、残りはインフルエンサーだとのこと。

 エレワンは年会費100ドル(店内カフェでの優待)と200ドル(スーパー全体での購入金額10ドルごとに1ドルのポイント獲得)の会員制度を持ち、これが同社の強みでもある。200ドル会員はポイント以外に150ドル以上のオンライン購入の無料配送、会員限定セール、その他ユニークな特典があり、その一つが「デートアプリ、ブラッシュ(Blush)上でエレワン会員はプロフィール検索に浮上しやすくなる」サービスだ。具体的には登録時に「よく行く場所」にエレワン会員はエレワンの店舗名を入れることができ、検索結果で同じ店でつながっていることがわかれば「一度店内で一緒に買い物でもしてみる?」という機会が生まれる。ただ数十分一緒に買い物するだけなので、面と向き合って話をする必要もないし、なんとなくお互いの生活感がわかるし、違うなと思っても必要な買い物は済ませられるので「時間の無駄感」は避けられるし、初めてのデート場としては気軽で効率的かもしれない。ただし、同特典を報道した地元メディア、SFゲートの確認メールに対してブラッシュ側もエレワン側も返信はなかったそうだ。

 同社は昨年7月にアプリを開発し、会員制度のデジタルハブとして顧客サービスとデータ活用を向上させている。中でも、オーダー全体にかかる準備時間の計算システム(Dynamic Overall Order Prep Time Calculations)を使用しているのが特徴で、サンドウィッチやスムージーなどの店内調理時間がかかる場合、他の商品の収集作業時間にそれを加えて、より正確な店舗ピックアップまたは配送時間を顧客に知らせることができる。

 また購買歴や検索歴をもとにしたパーソナライズした推奨や、生成AIを活用した商品情報作成も行っている。現在オンライン購入の平均客単価は店舗平均より70%以上高いとのことだ。同社は将来カフェの店内キオスクのデータも取り込んでいくことを計画している。小さなマクロビオティック店からデジタル化した超高級ナチュラルスーパーマーケットへ転身した地元スーパー、日本から視察に行かれる方はぜひアプリも経験してはいかがだろうか。





個人情報をアプリで管理「パミッションスリップ・バイCR」

パミッションスリップ・アプリの画像 出典:コンシューマーリポーツ社 パミッションスリップ・アプリの画像 出典:コンシューマーリポーツ社

 

 全てがデジタル化のご時世、多くの人が個人情報保護の必要性は認識しているだろう。しかしどこまで実践できているかはまた別の話だ。企業に勤務している人なら社内教育も受けているだろうが、企業保有データの管理はきっちり行っていても、自身の個人情報管理にその知識を転用している人はどれだけいるだろう。オンラインショッピングでもサブスクリプションサービスでも、プライバシーポリシーを必ず読む人は多くはない。理由はめんどうだから、だ。それなのに「たぶん大丈夫だろう」という正常性バイアスが働き、自分の認識の範囲を超えてデータを渡していることが多い。

 自動車を含む様々な消費財の安全性や特徴を独自の調査で評価・比較し、アメリカ消費者から大きな信頼を得ている営利団体、コンシューマーレポーツ(Consumer Reports)は消費者がもっと簡単に個人情報を管理できるよう、昨年10月に「パミッションスリップ・バイCR」というアプリ(上の画像)を立ち上げた。このアプリは、ユーザーが過去に登録した自分の個人情報の削除や、第三者への転売を許可しない、というリクエストをリストに掲載されている企業に簡単に送ることができる。リストにはマクドナルド、アマゾン、ネットフリックスなどアメリカで誰もがよく知っていて利用する企業が並んでいる。

 ユーザーが個人で企業にリクエストを送ろうとすると、まず各社のウェブサイトのどこに当該ページがあるのかの検索から手間がかかり、手続きも複雑な場合が多く、かなりの時間がかかってしまう。CR社の調査では1社あたり平均2時間程度かかるという。しかも企業ごとにプロセスは異なる。しかし同アプリを使えば、選んだ企業の手続きページにリンクし、数クリックで続きが終わる。

 「自動手続き代行」というボタンもあり、CR社がデータ収集方法や過去のユーザー経験情報などをもとに個人情報保護上注意すべきデータブローカー企業がリストアップされていて代行ボタンをクリックすれば瞬時にリクエストを送ることができる。その上、アプリ上で今手続きがどの状況まで進んでいるか、アプリ使用によってユーザーが何時間節約できたかもわかる仕組みだ。CR社に取材したところ、このようなリクエストを受け取った企業は、45日間は手続きに必要な時間として法的に猶予を与えられている。ただ、リストした企業の100%が45日以内に個人データの削除や第三者転売対象から外すといった対応をするのかどうかについては、不明だ。実際には無視して対応しないケースもあるようだ。しかしアメリカでは訴訟になった場合「ユーザーは削除要請を送っていた」という事実は有効なので、CR社のアプリを通じて多くのユーザーがリクエストを送ったのにも関わらず、無視して対応しなかった場合、集団訴訟を起こすという可能性は生まれるので、少しでも事態の改善にはつながる。

このアプリを使ったからと言って完全に個人情報を漏洩から守ることはできないが、被害リスクの軽減はでき、消費者の個人情報管理の意識を高め、情報提供の時点で警戒心を高めるという助けにはなりそうだ。





アパレルのサステナビリティ戦略:ターゲット、ルルレモン、アンダーアーマー

  ファイバートレース社の素材追跡ツールとアプリ 出典:ファイバートレース社ウェブサイト  ファイバートレース社の素材追跡ツールとアプリ 出典:ファイバートレース社ウェブサイト

 

 ターゲットはテキスタイル素材証明プラットフォーム、ファイバートレース(FibreTrace)社と提携し、2025年から綿製造企業カーギル(Cargill)社の綿を使った製品をリアルタイムでトレース(追跡)する。この技術は、発光顔料をカーギル社の米国産およびブラジル産綿に含ませ、ファイバートレース技術でリアルタイムに追跡するもので、初年度は5万立方トンを対象にする。データはブロックチェーンにアップロードし、サプライチェーン全体で追跡を行う。

 商品のトレーサビリティ向上はサステナビリティ戦略でも重要で、ターゲットは直近のサステナビリティ戦略の中で、「パーム油、綿、森林資源を用いる製品、コーヒー、シーフードの調達について社会的責任を明確にする」ことを目標にしている。綿を対象とするのは、綿生産は世界中の生産地の労働環境や環境保全に関わるためだが、一方でソーシング上のトランスペアレンシーが低い領域でもある。ターゲットは今回の導入で綿素材のトレーサビリティを向上させる。ファイバートレース社は現在15ブランドと提携し、ターゲット以外にも大手ブランドとの提携を進めている。

 大手ブランドの間ではさまざまな社会的責任のあるソーシングが始まっている。ヨガウェア大手のルルレモンは環境技術企業サムサラ・エコ(Samsara Eco)と提携し、エンザイムでPET素材、ポリエステル、ナイロン6、6を効率的に再生する素材でスイフトリー・テック長袖トップスのサンプル作り、循環経済の拡張を目指している。同様に、アンダーアーマーと科学素材企業、セラニーズ(Celanese)社はスパンデックスの代替素材となるストレッチ素材「ネオラスト(Neolast)」を開発している。

 現在ファッション業界の廃棄の90%は再生されずそのまま廃棄されている。このため各社はリサイクル、リユースに力をいれている訳だが、アンダーアーマーの場合は長年の業績不振で経営建て直し中で24年3月期には前年売上高を3.4%下回った。それでもサステナビリティ戦略には優先的に投資を続けているのは、中長期的ヴィジョンが明確ということだろう。







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【在米リテールストラテジスト 平山幸江】


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