4月2日にアマゾンはアマゾンフレッシュ41店舗中24店に設営したジャストウォークアウトシステム(JWO)の撤去を発表した。当該店舗ではスマートカートのダッシュカートとセルフレジに入れ替えを行う。ホールフーズマーケット2店舗にもJWO店があるが、同様の処置を行う。
JWOシステムは本レポートでも既報の通り、アマゾンゴーの一部不採算店舗閉鎖はあったものの、現在システム外販に力を入れていて、アマゾンによると[1]既にスタジアムや空港、大学など約130のクライアントが毎月新規に小型店舗にシステムを搭載している。店舗面積が小型で1回あたりの購入点数が少なければ、システムの誤認も減る、という説明だが、昨年メディア、ジ・インフォメーションはJWOシステムの背後にはインドで1,000人以上の従業員がビデオを見ながらデータ・ラベリング作業を行っていると報道した。このヒトによる作業がどの程度のコスト負担となるのか等の詳細は不明だが、22年にビジネスインサイダーがジ・インフォメーションの報告として伝えた内容によると、インドのチームはJWO売上1,000件中約700を手作業で点検し、アマゾンはこの作業を50に削減したいと考えている、とのことだった。USAトゥデイが今回この点を取材したところ、アマゾン広報担当者は「JWOシステムをインドにいる従業員が、店内買い物客をライブで観察しながらチェックしている、というのは誤った考えです。機械学習モデルは、合成データを作成し実際のビデオデータに情報を付加していくという作業によって継続的に向上させるものです」と回答し、「当社従業員は(ライブではなく)ショッピングの録画ビデオのごくわずかな部分を検証し、精度をあげています。これによってアルゴリズムとヒトによる手作業が改善していくのです。」と説明したそうだ。
JWOシステムチームは既に昨年AWS部門に移管となり、今回のアマゾンフレッシュからの撤退で関係従業員数百人がレイオフとなったが、アマゾンフレッシュは自体は当面ダッシュカートで営業を継続しながら、SMとしてより重要なマーチャンダイジング改革に継続して力を入れていくようだ。昨年8月にシカゴ2店舗のマーチャンダイジングを再編集し(23年8月号で既報)、11月にはアマゾンフレッシュ一号店に相当するロサンジェルスのウッドランドヒルズ店を改装リオープンした。精肉・鮮魚売場から対面販売のカウンターを撤去し、全てセルフ販売に転換、マーチャンダイジング面も見直し関連販売を強化した。近隣のアーヴィング、パサデナ店も同様の改装を行ったとアマゾン広報部はCNBCの取材に回答している[2]。
アマゾン広報部のジェシカ・マーティン氏はダッシュカートへの移行について、「ダッシュカートでは買い物しながら顧客が今、何をいくら買っているかがわかり、広告なども同時に見られるためJWO店舗より顧客の反応が良い」と紹介し、その上でシカゴの改装店舗ではよりバリューが上がり、便利で品揃え幅も広がり、顧客満足度も売上も向上したと報告した。現時点ではニュージャージー州イートンタウンに同州2号店が開業予定で、他にも近いうちに新規出店するようだ。
[1] USA Today, ‘Why Amazon id ditching Just Walk Out checkouts at grocery stores’, 2024年4月3日
[2] CBNC, ‘Amazon’s top Fresh exec says store reopenings are part of broader grocery revamp’, 2023年11月10日
ホールフーズマーケットが大部分を占めるアマゾンの全社売上における実店舗売上構成比は、過去4年間3%強で滞っている(図表1)。ホールフーズは23年1月に今後毎年30店舗の新規出店計画を発表したが、ここにホールフーズを毎年30店舗追加しても大きなインパクトは期待できない。しかも今年3月には標準店の平均面積3700㎡に対して650~1300㎡の小型店フォーマット拡大を発表、既存店を小型店に転換することはないとはコメントしているものの、もし新規出店の多くが小型店になるなら、追加の売上規模も小さくなる。ホールフーズより価格帯の低いアマゾンフレッシュの店舗数を増やすとしても、ウォルマートや伝統的スーパー、アルディのような小型ディスカウンターとの激戦に対してまだまだスーパーとしての勝ちのフォーマットが確立できているとは言えない中で、ダッシュカートだけで競合から顧客を奪い、店舗数を劇的に増やすのは難しそうだ。
ところで図表1に戻るが、棒グラフはマーケットプレース関連が黒・グレー、店舗がイエロー、AWSや広告など非物販系がグリーン系となっている。よく見ると過去4年間でオンラインストアは構成比が減少、セラーサービス、サブスクリプション、リテールメディアは増加、実店舗だけでなくAWSの売上構成比が思っていたほど伸びていないことに気がつく。こうして見ると、AWS事業も今までの急成長の時代は過ぎ新たな戦略が求められていることが推測される。JWOシステム、ダッシュカートは昨年AWSに移管し今後も外販の営業活動を拡げていくだろうが、仮に他社がこれらのレジレス技術を導入し始めればアマゾンフレッシュの差別性は低くなってしまう。アマゾンのレジレス店舗だけでなく、その主幹部門のAWSにもまだ続報がありそうだ。
米国小売業界では久々の出店ラッシュを迎えている。オムニチャネル戦略でオンラインショッピングが拡がったにも関わらず、店舗でのショッピング経験を人々が求めていることを再認識する。図表2に主な出店計画をまとめたが、これ以外にも例えばD2Cブランドは1年あたりの出店数は少なくても、着実に可視性の高い商業地区に出店を進めている。
例えばマンハッタン内高級住宅地のアッパーウェストサイドでは、コロナ前は地元の飲食店の間にクラブモナコやアスリータ、フランスのサンドロ、マジェ、ロクシタン、ロンドンのライス等ショッピングセンターや路面店で店舗拡大するブランドが出店していた。しかしコロナ禍で一気に撤退、しかし2年ほど前からワービーパーカー、オールバーズ、ロシーズ等D2Cブランドとルルレモン、ホカ等人気のアスレジャー系が次々と入居し、同時に飲食店も若い世代に人気があるヘルシー、ウェルネスを考慮したチェーン店のスィートグリーン、ディグなどや地元カフェに入れ替わり、活況を呈している。
郊外商圏でも、大手企業がオフィス勤務を強化してはいるもののハイブリッド勤務は定着し、自宅勤務時間も増えたため地元コミュニティ内で生活が完結するようなネイバーフッドモールが着実に増加、図表2のような企業は人気テナントとなっている。
状況がどんどん変わろうとも、その変化のスピードに歩調を合わせる米国企業の底力を感じる。
1852年に創業したチョコレートメーカーのギラデリは、スーパーマーケット、ドラッグストア等で販売しているが、D2C戦略にも力を入れアマゾン上にショップを構えている。このチャネル強化のため、同社はAIを活用したビジター購入率を最適化するアプリ(Visit Conversion Optimizer)を商品経験管理プラットフォーム、サルシファイ(Salsify)PXMアドバンスAIに適用し、アマゾンストアで販売する商品画像の効果を最大化することを試みている。
チェーンストアエイジは3月にギラデリチョコレートカンパニーのデジタルコンテントオペレーションおよび開発マネジャー、パム・ペリーノ氏に取材したが、マーケティングでのAI活用の取り組みとして業界紙では注目されているので、その内容を紹介したい[3]。
[3] Chain Store Age, ‘EXCLUSIVE: Ghiradelli optimizes visual e-commerce content with AI’, 2024年3月27日
Q:ギラデリがアマゾンストアで直面している課題とは?
A:ヴィジュアルコンテンツ自体が魅力的でエンゲージを促進するものでないと、商品情報を読んでもらったり購入につながらないが、その魅力度に関する分析が難しいことだ。
Q:ヴィジュアルコンテンツ管理のためにヴィジット/サルシファイのソリューションを採用した理由は?
A:同ソリューションはAIによって分析および最適化の質、スピード、スケールが優れている。例えば、どの画像がターゲット顧客をもっとも魅了するかについて、A/Bテストやアンケート調査、フォーカスグループ調査をしなくても分析が可能で、画像をマーチャンダイジングプラットフォームにアップロードするだけで、AIがオーディエンス数その他を、より高い精度、ローコスト、短時間に予測してくれる。
これによって、どの画像を入れ替えた方が良いか、あるいはどの画像を使う方が良いかのテストなどをリアルタイムに行うことができる。実際にベータテストで販売してみることによって購入率に関するデータも得られる。
Q:今後のAIに関する計画は?
A:現在、サルシファイ社が提携する別のAIソリューションプロバイダーと同様にマーケティングコピー制作を行っている。ここではどのようなコンテンツ構造が良いか、コピーに含まれる要素や文字数等を迅速・簡単に判断できる。また「季節化(seasonalization)」も研究中で、例えば母の日の場合、どのようにコアコンテンツを設定し季節化すればよいか、どのようにSEOを向上させ、商品ページ、そして購入につなげるかに取り組んでいる。
ギラデリは昨年9月、メディア、デジタルコマース360上で生成AI画像エディター機能を使って、商品ページの画像修正を行っていることを紹介した[4]。画像スコアリングソフトウェア、ヴィジット(Vizit)は画像のインパクトを分析し、アトリビュートの目録を作成、ソーシャルメディア上のライクやシェア等のメトリックスに基づき、画像をスコア化し、微調整の仕方をアドバイスする。例えば下の画像はパッケージに印刷されたチョコチップクッキーを3次元的に表現し、内容量「12オンス」のフォントを拡大している。この結果、修正前のスコア6に対し、修正後は95となったそうだ。もちろん、このような修正業務の作業時間やコストは劇的に削減できた。
[4] DigitalCommerce 360, ‘Ghirardelli taps generative AI to edit photos but not yet to generate iamges’, 2023年9月5日
このようにAI、生成AIはマーケティングのコンテンツ制作領域では実務に活用され、①制作コスト削減、②結果の可視化が進んでいる。
4月は世界自閉症啓発月間だ。今月2日に玩具ブロックのレゴグループ、レゴハウス、レゴ財団は、長期的に神経発散性の児童や成人を支援する政策を発表した。レゴハウスとレゴストアにおけるセンサリーインクルージョン(感覚の包括性)では、感覚に関するニーズや視覚障がいをもつ人々が公共の場でのアクセスを持てる支援活動する非営利団体カルチャーシティ(KultureCity)の認証を得て、障がいを持つ来店客全てが温かく向かい入れるよう従業員を指導し、サポート体制を整えている。具体的な内容は以下の通りだ。
他にも、世界中の自閉症のレゴアーティストの作品をユーチューブで紹介するプログラム「Love The Way You Build(あなたが作ったものが好き)」や、レゴ財団が資金を提供する「Play for All Accelerator(皆のためにプレイするアクセラレーター)」プログラムを提供する。後者は神経発散型自動とその家族を、レゴブロックを通じて支援し、現在25団体が総額2000万ドルのグラントを得て活動している。その中から5団体が今後2,3年レゴ財団の活動パートナーとして選択された。例えば神経発散型の若い人々がビデオゲームのプラットフォームをベースに社会的な感情表現などについて学び、社会になじめるよう支援する「Social Cipher(社会的暗号)」に190万ドル、幼児が遊びながら認知力や感情のスキルを発展させるための学習プラットフォーム「Kokoro Kids(こころキッズ)」に225万ドルのグラントが提供された。
ウォルマートは昨年11月から全米の全店で毎日朝8時から10時まで「センサリーフレンドリーアワー」として、BGMを消し店内照明も落として、静かに買い物ができる時間を提供している。これも自閉症や隠れた障がいを持つ人々が不要なストレス無く買い物できるための配慮だ。全米では自閉症の子供が増加しているが、高齢者にも老化による症状によってはこのようなサービスは必要に違いない。
【在米リテールストラテジスト 平山幸江】