ホリディ商戦が始まると心配なのがサイバー攻撃だ。近年は各社リテールメディア事業を拡大しているため、セキュリティ関連のインフラ整備も同時に進めているだろうが、ますますリスクが高くなっていることは否めない。また今話題の生成AIや他のAI技術によって、サイバー犯罪者はより簡単にフィッシング詐欺を仕掛けられるようになったという。
ITソリューション企業アークサーヴ社はディメンジョナルリサーチ社に委託し米国、日本、韓国、インド、英国、フランス、ドイツ等11か国の小売企業IT意思決定者1,121人を対象にデータ管理、データ保護、ストレージソリューション等について調査し9月に発表した[1]。これによると「過去12か月間にランサムウェアのターゲットになった」企業が54%、「データを犠牲にした」26%、「ランサムウェアに支払いをした」25%。66%の小売企業エグゼクティブは「攻撃を受けた場合のデータ復元には自信がない」、42%が「直近のデータ削除事故の際、データの一部しか回復できなかった」と答えている。さらに57%は「被害にあった場合の回復計画を持っていない」。
今年1月ウォルマートは、グローバルテック部門のサイバーセキュリティ体制をメディアに披露した[2]。同社は年間平均6兆のデータポイントをプロセスするが、社内に鑑識ラボを持ちクリーンルームで特別なX線技術や熱風によるはんだ付け技術を使ってデータを復元する。同社はサイバーセキュリティにかける人件費等を公表していないが、一企業としては最高レベルの体制を整えている。また、ホリディ商戦に急増する、人気商品を自動的・瞬間的に大量オーダーして買い占めるグリンチボット対策には専門チームを編成し、月間平均で85億の悪意あるボットを阻止している。
しかし社内でこのような体制を組める小売企業は数少ない。アカマイテクノロジーズ(Akamai Technologies)の調査[3]によるとハッキング被害のうち34%、140億件以上はウェブサイト攻撃で、小売事業はコマースセクターの中でも62%と最大のターゲットになっている。また中小企業は特に顧客データを狙われやすい。近年Eコマースの拡大に伴い、中小企業もさまざまな利便性の高いプラットフォームを利用でき、フルフィルメントやロジスティクス関連、CRM関連のアプリケーションを簡単にインストールして顧客サービスを向上できるようになったが、これによってサイバー攻撃にさらされるリスクも増えている。クラウドベースのセキュリティ企業、インダスフェース(Indusface)が今夏18業種、2,200社を対象に行った調査では、小売企業のうちサイバー攻撃に対する従業員訓練を行っているのは22%に過ぎなかった[4]。
全米小売業協会はまず大切なのは社内啓蒙という認識から、10月26日に小売企業向けに以下のメッセージをブログに掲載し、セキュリティ強化を促している。
[1] Arcserve, ‘Cybersecurity Awareness Month Arcserve Study reveals retailers underprepared for holiday cyber attacks’, 2023年9月26日
[2] Cybersecurity Dive, ‘A first-hand looki inside Walmart’s robust security operations’, 2023年1月30日
[3] Akamai Technologies, ‘Entering through the Gift Shop: attacks on commerce’, 2023年6月
[4] Retail Insight Network, ‘Retailers are failing to train employees in cybersecurity’, 2023年8月3日
ウェグマンズ(Wegmans)はニューヨーク州北部ロチェスターに1916年に創業した109店舗を展開するリージョナルスーパーマーケットだ。最大の特長は、ヨーロッパのフードホール形式の専門性・グルメ度の高い売場と自営レストランを売場入口に設置し、高質な食生活・食文化を提供する点だ。しかしホールフーズマーケットほど価格は高くない。もう1つの特長は従業員の満足度が極めて高いことで、1998年以降フォーチュン「100のベストな職場」に毎年ランクインし、2016年以降は毎年上位4位以内に食い込んでいる。この結果、ウェグマンズは業界で最高の接客サービスを提供している。
このウェグマンズが10月18日、マンハッタンに2層8,200㎡の店舗を開業した。場所はソーホーから徒歩10分ほど北上したアスタープレースにある、もともとは歴史的百貨店ワナメーカーが入居していたビルで、その後Kマートが2021年まで25年間営業していた場所だ。2021年にウェグマンズが出店計画を発表した時から、ニューヨーカーは開業を待ち望んでいたと言っても過言ではない。同社は基本的に郊外に出店し、都心店はワシントンDCに次いで今回が2店目だ。ディスカウンターから最高級食品専門店、そしてアマゾンやインスタカート等ネットスーパーも集中する超激戦地区で、決して価格志向ではない同社がどのように戦うのか、関心が寄せられていた。
1階入り口に入ると、目の前にはフードホールが拡がる。同社の定型である、古いヨーロッパの路面店のようなインテリアデザインにベーカリー、かまど焼ピザ、サラダ、寿司、メゼ(東地中海の小皿料理)が並び、忙しいニューヨーカーのグラブ&ゴー売場となっている。ただし、それぞれのセクションをよく観察すると寿司コーナーはホールフーズ等競合店の2倍の広さで、加えてポキ(刺身や肉類を米などに載せた丼料理)やその他アジアフードのコーナーも並び、品揃え幅が圧倒的に広い。メゼも同様に他と比較にならないほどメニューが多く、見ているだけで楽しい。
地下1階に下ると青果、精肉、鮮魚、チーズ、食肉加工品の売場とパッケージ食品や日用品の売場がある。前者の目玉は日本の豊洲から週3回空輸される鮮魚やそれをおろした刺身を販売するSAKANAYA(さかなや)だ。見るからに鮮度が良いだけでなく、カマ(頭)などアメリカのスーパーでは手に入らない部位も販売、毎日並ぶ魚の種類も異なる。ここでは日本人が日本のスーパーのように日本語で「いらっしゃい、いらっしゃい」と呼びかけを行っている。その横にあるシーフード売場でも鮭を原産地や部位の違いを紹介するサインがあり、他社より充実している。精肉では熟成肉の専用冷蔵庫が設置され、冷蔵ケースで販売する肉は個別真空パックしたものが4個、6個セットで販売されていて、必要な分だけ切り離して使用できるため、まとめ買いをしても鮮度が落ちない。
後者の通常のパッケージ食品等を販売する売場は、ウェグマンズのPB商品が多くNBより安い価格で品質が良い。ソースやドレッシング類では同社専任のレストランシェフが監修するオリジナルレシピも提供している。ただしトレーダージョーズに比べると価格が高い。このためか全館は大賑わいなのに、このゾーンだけいきなり客数が少ないのが印象的だった。
1階には来年春、寿司バー、シャンパン・オイスターバーのレストランが開業する。トレーダージョーズにカルト的ファンがいるように、ウェグマンズにもウェグマニアと呼ばれるファン集団がいる。マンハッタン内にはホールフーズマーケット12店、トレーダージョーズ9店を始め、高級グルメフード店、ネイバーフッド型スーパー、そしてディスカウンターのアルディ、リドル、コストコ等数多くの強力なスーパーマーケットがひしめきあっている。半年後、1年後ウェグマンズがどこまで市場に浸透しているか、楽しみだ。
SOSは生理用品やスキンケア、ボディケア等女性のウェルネスやヘルスケアを提供するブランドと提携し、スマート自動販売機で各ブランドの細かい商品情報やケアに関するアドバイスを提供しながら販売する企業だ。テクノロジーの導入により、女性の日々のウェルネスと健康管理の改革を目指している。2017年に投資グループで10年近く経験を積んだ女性2人がボストンで創業し、累積1,000万ドル以上、シリーズA資金調達を果たしている。
全米化粧品専門店チェーン最大手のアルタビューティは10月にSOSと提携し、ニューヨーク、マサチューセッツ、フロリダ、カリフォルニア、テキサス州内10店舗にSOSスマートキオスク(自販機)を設置し、リテールメディア部門のUBメディアと連動して、アルタメート・リワード会員に試供品の自動配布を開始した。
会員はスマートキオスクに電話番号かメールアドレスを入力して口座にアクセスし、毎週試供品を1個受け取ることができる。非会員でもキオスクで会員登録を行えば試供品をもらえる他、店内顧客は会員でなくても全員D2Cブランド、ラエル社の生理用品を無料でもらえる。またキオスクには双方向広告機能もあり、新製品告知やブランドメッセージを提供できる。
アルタビューティ社マーチャンダイジングSVPのマリア・サルシド氏は「SOSとのパイロットプログラムにより、顧客がどのように店内の自販機かつデジタルブランドタッチポイントにエンゲージするのかを学ぶことができる」とコメントしている。ビューティ業界は積極的にハイテクノロジーを導入しており、ARを活用したヴァーチャルメークアップは既に定着しているが、今回のスマートキオスクはそれ自体が販路ともなり得るリテールメディアであり、今後の展開が注目されている。
6月号でアプリのQRコードをかざすと無料サンプルをもらえる自動サンプルキオスク、フリーオスク(Freeosk)をご紹介したが、店内での無料サンプル支給が再び注目されている。ウォルマートは2024年1月末までに1,000店舗でサンプル提供を行うことを発表し、現在店舗数を増やしている。同プログラムはリテールメディア事業のウォルマートコネクトが主管となり、毎週金曜日から日曜日までサプライヤーにデモの機会を提供する。デモのステーションにはQRコードがあり、ウォルマートマーケットプレースにリンクして商品情報やここからの購入も可能となる。ウォルマートは以前から店内でサンプル提供を行っていたがコロナ時に一時中断し、現在はリテールメディア事業およびオムニチャネル経験の一環として強化している。また、ウォルマート+会員制度の拡販のために無料サンプルの提供も行っている。
スーパーマーケット大手のウェイクファーン社もサンプル提供を強化し、ショップライトとフレッシュグローサー計95店舗に前述のフリーオスクを設置した。フリーオスク社によるとキオスクでのキャンペーンでは当該製品売上が平均50%以上増加し、購入者の70%が新規購入で、キャンペーン後のリピート購入率は20%とのこと。
一方、長年無料試食提供で人気を得ていたコストコは、今年夏から徐々にヒトによる提供を減らし、写真のようにかなりローテクなセルフサービスのサンプルキオスクに置き換え始めている。食品メディア、オールレシピの分析[5]によると、労働力不足によってデモ用人員を確保できないことが原因のようだ。同社はこの変更を公表していないが、オンライン投稿サイト、レディット等で変更ニュースが拡散している。多くの顧客は「殺風景な倉庫のような店内でヒューマンタッチなサービスが良かったのに」とか「セルフサービスになるとその場で加熱した食品やチップスとディップのようなフレッシュな食品のサンプルが無くなる」といったコメントを寄せ、残念がっている様子だ。一方で「監視するヒトがいないので好きなだけ取れる」という前向きな(?)コメントも見受けられた。
[5] Allrecipes, ‘PSA: Costco is changing its free samples’, 2023年8月9日
同様に無料試食で人気の高いトレーダージョーズはコロナで提供を休止していたが、昨年10月にようやく再開、このニュースはCNN他大手メディアが大きく報道し、人々の歓迎を受けた。筆者もトレーダージョーズで、多くの顧客がまずサンプルキオスクでコーヒーやスナックを受け取ってから買い物を始める姿をよく見かける。同社の商品はほとんどプライベートブランドなので広告収入にはならず、製品紹介というよりは顧客サービス、ホスピタリティの一環だ。
電通傘下のマークル社「リテールメディア調査レポート2023」によると、リテールメディアへの投資領域はオンラインからオフラインに移行し始めている。昨年トップだったソーシャルメディアへの投資は72%から58%に下がり、インストアデジタルメディアが9%から33%、オフサイトメディアディスプレーが11%から22%へと急増している。2023年は実店舗復権の年だったが、このトレンドはしばらく続きそうだ。
●今年最も投資するリテールメディアのソリューションは
【在米リテールストラテジスト 平山幸江】
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