掲載日:2022/12/16

「非伝統的立地」へのチャレンジ。AIを活用した食品自動販売機が全米に拡大、他 - :ニューノーマル時代で変わる小売業Vol.28

AIを活用した食品自動販売機が全米に拡大

 

 アメリカでは20世紀初頭からホットドッグやサンドウィッチ等簡単なランチをマンションの郵便受けのようなロッカーに入れ、コインを入れて取り出すセルフサービスのレストラン「オートマット」を導入していた。その後1970年代までオートマット店は現役で利用され、ニューヨーク市内だけでも40箇所以上あったそうだ。今このような食品自動販売機がAIでパワーアップして拡がり始めている。

 

サブウェイのスマートフリッジ


サブウェイ・グラブ&ゴー用スマートフリッジ 写真:サブウェイ社提供 サブウェイ・グラブ&ゴー用スマートフリッジ 写真:サブウェイ社提供

 

 サンドウィッチチェーンのサブウェイは米国内のみでフランチャイズを含めて20,845店(2022年11月時点)展開しているが、カジノ、コンビニエンスストア、病院、空港、大学などの非伝統的立地への出店は約5,900件、これらの売上高既存比は13%(2022年度9ヶ月間実績)と標準フォーマット店より高い伸び率となっている。同社は非伝統的立地の成長力に目をつけ、2020年に迅速で利便性を追求する「サブウェイ・グラブ&ゴー」フォーマットを開発した。標準店ではサンドウィッチのパンから中身までカスタマイズでき、店内厨房で調理して提供するが、グラブ&ゴーは事前に別のキッチンで調理済の商品を販売する。非伝統的立地の店舗はコロナ禍の被害は被ったものの回復力が高く、同社はグラブ&ゴーフォーマットを拡大し現在400店舗以上がこの業態になっている。

 今年9月、サブウェイは完全無人の自動販売機スマートフリッジをカリフォルニア州立大学サンディエゴ校に設置し、近隣のサブウェイ店から毎日フレッシュな食品を補充している。スマートフリッジはAIと自然言語プロセスを採用し、顧客はスマートフリッジに話しかけて中に保管されている商品を購入することができる。内部の棚に設置されている重量センサーによって正確に課金を行う。この結果、完全に非接触でキャッシュレスに食品を購入できる。競合となり得る既存の食品自動販売機では一般的に商品は賞味期限が14日だが、サブウェイは毎日調理した食品を販売するため、新鮮で健康にも良いというのが売りだ。同社は11月に今後このような迅速性、利便性が求められる非伝統的立地での事業にフォーカスするという経営戦略の変更を発表した。この戦略変更は全世界100カ国以上37,000店舗以上のネットワーク全体を対象としている。


調理もするロボバーガー


ハンバーガーをグリル・トースト・調味・成形して提供するロボット 写真:ロボバーガー社提供 ハンバーガーをグリル・トースト・調味・成形して提供するロボット 写真:ロボバーガー社提供

 

 2019年にニュージャージー州ニューアークで創業したロボバーガー(RoboBurger)社はAIを使い完全自動でハンバーガーをグリル・トースト・調味・ハンバーガーに成形・提供、という5つのステップを行うロボットの実用化を始めた。高さ、幅共に約3.7メートル箱の中に冷蔵庫、自動グリル板、清掃システムが収まっていて、ロボットは通常の壁のコンセントに差し込むだけで稼働する。調理時間は約6分でバーガーは1個$6.99だ。今年3月にマンハッタンにも近いニュージャージーの金融街にあるサイモン社のショッピングモール、ニューポートセンターで営業を開始した。

 同社のパテは100%グラスフェッドのアンガス牛を使い、バンズは地元のベーカリーが作っている。同モデルは全米衛生財団(NSF)の高度な食品安全規制を満たし安全性を認証された、現時点では唯一の食品加工自動販売機だ。秋にはニューヨーク市内のセントジョンズ大学キャンパス内にも導入され、24時間営業している。

 本レポートでは過去にアマゾンゴー等のレジレス店舗がアリーナや空港、大学で急増していることを報告したが、この非伝統的立地での小売・飲食サービスの自動化は来年もますます加速しそうだ。





インフレ下のホリディ商戦:窮地の地元中小小売店の救世主とは

「スモールビジネスサタデー」キャンペーンの小売店用販促ツール 出典:アメリカンエクスプレス提供 「スモールビジネスサタデー」キャンペーンの小売店用販促ツール 出典:アメリカンエクスプレス提供

 

 せっかくコロナ禍が収束したのにインフレに見舞われた今年のホリディ商戦。大手企業も苦しいが、一般的に経営資源が限られ利益率の低い中小企業ではさらに厳しい経営を強いられている。アメリカでは2010年からアメリカンエクスプレスが「ブラックフライデーで大手企業の大バーゲンを楽しんだ翌日(今年は11月26日)は、地元の中小企業で買い物をしましょう」という「スモールビジネスサタデー」キャンペーンを行っている。

 しかし現実は厳しく、全米ネットワーク、CNBCが独自に毎年行なっているアンケート調査[1]によると、「スモールビジネスサタデーに参加して中小店舗で購入したい」という消費者は2018年の44%から年々下がり、今年は28%だった。逆に参加しない人は20%から24%に増加した。

 ただし「オンラインで中小企業から購入する」人は4年前の9%から18%に増加し、「店舗購入で中小企業を支援する」人は58%から48%に低下している。また同社の調査対象者の66%が現在アマゾンプライム会員で、会員のうちスモールビジネスサタデーで購入すると答えた人は33%、非プライム会員の18%と大きな差が出ている。同調査を担当したモメンティヴ社リサーチサイエンス部シニアマネジャーのローラ・ウロンスキー氏は「私達は常にアマゾンの脅威について聞かされてきたが、アマゾンで購入している人たちは同時に中小企業からも購入する比率が高い」とコメントしている[2]

 

[1] 2022年11月9日から13日の間に米国成人3,549人をオンライン調査サーベイモンキーにて調査

[2] https://www.cnbc.com/2022/11/25/inflation-recession-starting-black-friday-america-plans-to-spend.html


中小企業経営者に従業員福利厚生を低価格で提供するドアダッシュ

 

 言われてみれば地元の中小小売店やレストランも、最近はショッピファイ他のEコマースプラットフォームを利用して洗練されたオンラインストアを持ち、ウーバーイーツやドアダッシュ等の配送サービスで即日配送も行い、大手とあまり変わらない便利性を提供し始めている。もちろんサービス料や配送料などを抜かれ、利益が圧縮されているのは間違いない。

 このような中小の個人経営者に向けてドアダッシュは11月に「マーチャントベネフィッツ」プログラムを開始した。ヘルスケア、メンタルケア、成人教育などのサービスをパートナー企業6社と提携して、ドアダッシュと提携する小売店やレストラン企業に提供するものだ。具体的な内容は、

 

  •   健康保険に加入していない従業員が手頃な価格で対面またはヴァーチャルに医師に診療を受けられるヘルスケアマーケットプレースのセサミ(Sesame)に月額5ドルでアクセス可能
  •   呼吸を整えるエクササイズによってストレスを減らし、集中力を高める健康管理アプリ、ブレスワーク(Breathwrk)の会費ディスカウント
  • モバイルによるトレーニングプラットフォーム、セーフティカルチャー(SafetyCulture)社のエドアップ(EdApp)を40%以上ディスカウント。コース内容はレストラン業界、小売業界の業務に関するもの。
  • オンライン食品安全教育、ステートフードセーフティ(StateFoodSafety)を15%オフ。食品業務担当者、食品管理者、アレルギーに関する情報、アルコール飲料サーバー向けの内容で州が義務化しているオンライントレーニングを終了すると修了証をもらえる。

 

 その他、レストラン業務におけるチームワークの育成・管理、時給従業員の採用業務支援プラットフォームなど、独立した人事部、総務部を持てない中小企業にとっては今すぐ必要そうな内容を提供する[3]。大手と中小企業の格差が存在するのは現実だ。しかしアメリカではそのギャップを少しでも減らそうという具体的な努力が活発になっている。

 

[3] https://get.doordash.com/en-us/about/merchant-benefits?utm_source=PR&utm_medium=Direct&utm_campaign=MX_US_DIR_PRA_PRA_STO_RES_BOF_EXN_ENG_5_CUSXXX___Q422_Press-Announcement-Merchant-Benefits





H&Mがブルックリンにローカル化とリテールテックを組み合わせた実験店開業

写真:H&Mウィリアムズバーグ H&M社提供 写真:H&Mウィリアムズバーグ H&M社提供

 

 感謝祭の直前の11月18日にH&Mはブルックリン、ウィリアムズバーグに650 ㎡の4~12週間ごとに変わるテーマに沿って編集する新フォーマットの店舗、「H&Mウィリアムズバーグ」を開業した。同店はファッションやライフスタイルのスピードに合わせてアップデートなファッションを提供するだけでなく、イベント体験、地元近隣のビジネスパートナーとのコラボによる新たな発見を提供する店舗だ。同店は2024年1月までの期間限定だ。

 12月1日から30日までは「ブラッセリ―へネス」をテーマに冬のフランスのブラッセリ―からインスピレーションを得たH&Mのホリディコレクション、地元の店舗や業者が販売するホリディギフト用生活雑貨、アロマ商品、ヴィンテージ商品、グルメフード、アクセサリー、化粧品などをブラッセリ―的雰囲気の中で販売する。ブラッセリ―テーマだが飲食は提供していない。1月からはブルックリン出身ブランド3社が店内にスペースをもち、コーヒーステーション、マガジンラック、音楽を提供する。

 このような編集型、ローカライゼーションによる体験重視の店舗だが、もう1つのハイライトはリテールテクノロジーだ。RFIDを活用し、従業員はデバイスによって店内のどこでもモバイル決済を行い、サイズ情報を含めたフルレンジの在庫データにアクセスし、快適な顧客経験を提供する。さらに試着室にはスマートミラーがあり、顧客が持ち込んだ商品のサイズ、色などの情報を認識してパーソナライズした商品やスタイリングの推奨を行う。このスマートミラーもRFID技術を活用しているがスマートミラーが収集するのは商品データのみで個人情報保護に対応している。

 ウィリアムズバーグは既に観光拠点ともなってはいるものの、まだまだマンハッタンに比べると生活感にあふれ、マンハッタンに近いため若い世代が多く移住している。周辺にはD2Cやナショナルブランドが連なり、衣料品のエバーレーン、化粧品のグロシエ、ナイキ、パタゴニア、MUJI、そして3ブロック先にはD2Cブランドをショーケースする「世界で最もおもしろい店」ショーフィールズもある。期間限定でファッションのローカライゼーションについて研究するラボという位置づけだ。





アマゾンはマーケットプレースの安全強化に顔認証を導入

プライバシー保護上議論のある顔認証だが… プライバシー保護上議論のある顔認証だが…

 

 既に流通取引総額(GMV)ではウォルマートを抜いているアマゾン。同社は現在、利便性による売上拡大からマーケットプレースの安全管理に経営の焦点を移している。

 まず1つがマーケットプレース上の 偽造品の取締りだ。2019年春に機械学習を使って自動的に出店店舗をスキャンする防犯プログラム「プロジェクトゼロ」を立ち上げた。同プログラムはセラーがアマゾンに登録した製品ロゴ、トレードマーク等の重要なデータを基に製品の信憑性を確認するもので、毎日50億以上の製品を自動スキャンし、偽造品の可能性がないか探索する。まだ同プログラムに参加するブランドは偽造品が疑われる製品を自らリスティングから外すことができる。この導入によって偽造が怪しまれる製品のリスティング除外は導入前より100倍に増加した。他にはセラーが自分達のブランドとアマゾンストアでのIP権利を守り管理できる無料サービス「ブランドレジストリー」サービスを提供している。

 2020年6月には「偽造犯罪ユニット(CCU)」チームを立ち上げ、法律やアマゾンのポリシーに違反した偽造犯罪を刑事訴訟している。チームは元検察官、捜査官、データアナリストから構成され、世界中の拠点をカバーしている。その後毎年「アマゾンブランド保護レポート」を報告し、2021年度には年間12,000人以上、9億ドルを投資して不正なセラー口座開設250万件の阻止、偽造製品300万点以上の発見・販売停止・廃棄、米国内で170件の偽造品に対する民事訴訟、米国・英国・EU・中国内で計600件以上の犯罪捜査および訴訟を行った。直近11月には中国司法当局と協力し、偽造品24万点以上を販売およびリスティング停止にしたと発表した。内訳はBMW、ポルシェ、ジェネラルモーターズ等高級車のアクセサリーやエンブレム等が13万件、ラグジュアリー製品8万件、ヒューゴボス、プーマ、アンダーアーマー等の偽造ラベルや衣料品3万件だ[4]

 アマゾンは新たな偽造犯罪対策として11月15日から、今後新たにセラーとなるブランド・企業に対し顔認証データの登録プログラムのテストを開始した。同プログラムに参加するかどうかは自由で、偽造品検出、顔認証、生体活性検出の技術を使って政府発行身分証明書類の信ぴょう性を検証する。手続きはまずセラー申請者がデバイスカメラでインストラクションに沿って顔を写し、顔の生体認証データと身分証明書の写真がマッチするかどうかをリアルタイムに判定する。この手続終了後にアマゾン担当者がシステムの判断内容を再確認し、信ぴょう性が認められると口座を開設できる。この手続は数日かかるが将来的には全自動化し、即座に判断をくだすことを目標としている。

 顔認証についてはプライバシーやセキュリティの問題が関わってくるため、アマゾンは同技術の使用はあくまでも身分証明書とセラーが同一の生存する人物かどうかを判定するためのもの、としている。また同プロセスは生体認証情報プライバシー法(BIPA)とカリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA)に準じている。顔認証を避けたい申請者は、現状通り対面のビデオ会議で手続きを行うことができる。

 ポストコロナ時代が始まり、足元のホリディ商戦では人々の流れはまた店舗へと戻ってきている。オムニチャネル戦略でウォルマートを始め、大手チェーンストア組が勢いを取り戻している中、本格的な店舗網を持たないアマゾンにとって本業の足元を固めることが今やるべき最大の攻めということなのだろう。

 

[4] https://chainstoreage.com/amazon-disrupts-counterfeit-operations-china







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【在米リテールストラテジスト 平山幸江】


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